柳広司のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ前巻が不穏な〆だったので今巻が「誤算」という章題で始まっていてドキーッとしちゃった。パラダイスもロストしてるし。
しかし不意のアクシデントまで対応してこそプロのスパイである…とのことで、戦争が激化していくなかでも変わらずスパイとして生き続ける者と人間として死ぬ者の差があらわになっていく。
いったいどちらが幸せなんだろうな…みたいなことを考えたりした。幸せを求めるような者はスパイではないのか…己の能力の限界を試す者は人間ではないのか…
すっかりお決まりの口上のように語られるD機関の入試問題は、もはや歌舞伎の見栄のようでヨッ待ってました!という気分になるし、本当にみんなあの試験をクリアしたんだな -
Posted by ブクログ
推理小説としてより反戦小説として満足しました。
殺人事件の犯人やトリックはかなりわかりやすくて少し物足りなかったですが、第二次世界大戦直後の日本における天皇制、原爆投下、戦争の責任の所在に対する様々な立場の人の考えは読み応えがありました。
主人公がニュージーランド人の探偵であることで、日本人たちともアメリカの軍人たちとも違う(無論西洋よりではあるけれど)一歩引いたところから見ているのが独特で良かったと思います。
しかし彼も相棒と同じく戦争で精神的ダメージを負った元軍人であるため、幻想的な悪夢を見ていて、結局この話のどこまでが真実なのかはよくわからないところが面白かったです。
探偵と囚人のバディ -
Posted by ブクログ
時は大正、天皇を弑する計画が立てられたとして社会主義者ら12名が処刑される「幸徳事件」が起き、社会主義者が極悪人扱いされていた頃、主人公かやくざ者に襲われて死にかけていたところを巷で話題の社会主義者が助けるところから物語は始まる。
未だに腫れ物扱いされる社会主義・社会主義者だが、主人公を助けた売文社の社長・堺利彦が掲げる社会主義は、現在の私たちのイメージとは異なっている。
当初は怪訝な態度を取っていた主人公も、彼らと一緒に過ごしていくうちに「彼らがやろうとしている事の方が正しいのではないか」と心を変えていく
私も、社会情勢に応じて本気で社会の変革を目指していた当時の社会主義は悪くないのではない -
Posted by ブクログ
労働環境の改善を工場主に訴えようと、従業員たちの代表に祭り上げられたぼくは、工場主が雇ったヤクザ者たちに半殺しにされて路地に放り込まれた。
倒れていたぼくを発見し、助けてくれたのが堺利彦(さかい としひこ)を代表とする「売文社(ばいぶんしゃ)」の面々だった。
堺は、うちで働けばいいと、二階に住み込みの部屋も与えてくれた。
「売文社」は文章に関することなら一枚五十銭で何でも引き受ける。今度「人生相談、探偵調査」も引き受けたいと堺。
ぼくはそこで、戦争成金と政治家の癒着を暴く場面を見たり、暗号を解いたり、女装させられたり、そして生まれて初めて裁判の傍聴もした。
堺利彦(さかい としひこ)をはじめ -
Posted by ブクログ
柳広司さん著「ダブルジョーカー」
「ジョーカーゲーム」シリーズの第二弾になる。今回の作品も5篇からなる「D機関」に纏わる連作短編集になるのだが各編が各々独立している為とても読みやすい。
前回読んだ「ジョーカーゲーム」と展開とスタイルは変わらず特に目立った変化を感じる事はなかった。
また5篇分の物語が追加されたという感じでもう少し変化を期待してしまった。
しかし舞台が帝国陸軍内の話であるが為に前作同様、薄暗い影が作品全体にかかっており非常に不穏感漂う作風。諜報という影の部分とその薄暗い作風が絶妙にマッチしていると感じた。
短編集の為、前作でも抱いた感想だが読み応えという点では薄く感じてしま