柳広司のレビュー一覧
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ネタバレワルキューレとアジア・エクスプレスの二つの物語はメディアの本質を語ってくれる。まず前者では、ナチスドイツが実際に用いたプロパガンダを取り上げている。具体的な手法を知りたい人は『わが闘争』(角川文庫)や『ヒトラー演説』(中公新書)などを読むといいが、この話を読むと、人は無意識のうちに報道側の思想に染まること、人が音楽と映像によって理性を失ってしまう恐ろしさがわかる。
後者の話に関して、本編のp296とp299で情報の扱いに対する苦労が描写されている。この話で鍵となる伝書鳩は、諜報活動が盛んであった当時、欧州において意外な活躍をしたとある。電信通信による傍受を防ぐために、あえて古典的なやり方で -
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ネタバレ『ジョーカー・ゲーム』シリーズ第三弾。「誤算」と「暗号ケルベロス」は既にアニメ化されているが、小説版のほうが心情描写が細かく、はっとすることが多かった。今回も諜報活動に勤しむスパイたちの行動にハラハラしたが、それと同時に日本陸軍の言動が目に余り、とりわけp251〜253の描写が象徴的だ。ドイツが発明した暗号機エニグマの誕生によって世界情勢に衝撃をもたらした。しかし、それを受けた陸軍は日本語の言語的特徴や構造を過剰に特別視したせいか、エニグマが誕生して間もないころは何とも思わなかった。その後日中戦争の泥沼化から日本独自の暗号を開発するように至ったが、それでも「絶対に」不可能と、根拠なき謎の信条
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ネタバレ今回読んだ物語の多くがアニメ化されていないが、どの話も常に緊張感がある展開で面白く読めた。本作最初の話である『ダブル・ジョーカー』p12は、岡崎久彦『戦略的思考とは何か』(中公新書)で指摘された内容が如実に反映されている。それは日本が日清戦争と日露戦争で勝利した経験から根拠なき自信をつけてしまい、反省を怠ったことである。それが今回の話のように、諜報活動が重視される現状の世界情勢を無視して、組織が膠着状態に陥る。
スパイとは周囲から関心を寄せないように工夫を凝らさなければならないと前作でも再三言われてきたが、本作の後半に収録される「ブラック・バード」を読むと、スパイとは平時だからこそ役目を -
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何年ぶりかの読書。息子が2歳になったしそろそろ自分時間を作ろうと積読してた一冊。
ジョーカーゲーム、昔読んだような気がするけど結構忘れてて、それでも興奮して読めた。
スパイものは回収がきもちいいな。
結城中佐の生い立ちに触れたところなんかも見どころ。短編ってもともと苦手だったけど、最後の二篇は前編後編になっているし、結城率いるD機関が関わる短編だからギュッと人間模様が詰まっていた感じだった。
軍国時代背景がすごく緻密で丁寧だから読書慣れしていない自分がざっくり手を出しても一読で楽しかった。子育て中につきなかなか一気読みは難しいからとびとびになりがちだけどもう2、3回集中して楽しみたいところ -
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ネタバレ「メリークリスマス、ミスターローレンス!メリークリスマス!」
上記のセリフは映画「戦場のメリークリスマス」のラストシーンですが、本小説は明らかに戦メリを意識していますね(笑)
本小説のラストは戦争が終わって20年が経っており、社会情勢としては「戦後」がようやく一段落して次のステージに歩みかけてる時期なのだとおもいます。
その象徴がキョウコなのであり、キョウコに「メリークリスマス!ミスターフェアフィールド」と言わせるあたりは作者(というより兄イツオが述べていた)の「自由と責任」を体現させているようで心地よかったです。
小説の中の謎解きである、連続自死案件、キジマの戦犯容疑それに伴う記憶喪失案