柳広司のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ3.8くらい。
「合言葉は“パンとペン”」
売文社にどう流れ着いて、売文社がどう問題を解決するか、その手口を見せる話。
オーディブルに先行した作品のせいか、音で聞くと良さそうな構成となっている。
「へちまの花は皮となるか実となるか」
暗号解読の話。荒畑寒村と大杉栄の紹介がメインでもある。
「乙女主義呼ぶ時なり世なり怪人大作戦」
堺の娘の真柄も史実では活躍した人らしく、なるほどなという感じ。青踏とも関わりがあったのが面白い。
事件とその解決も簡単なものだけど、当時の女性が置かれた状況を端的に示していて良いエピソードだった。
「小さき旗上げ、来たれデモクラシー」
山崎今朝弥という弁護士の紹介。立て板に水でさらさらと弁論を駆使するのが心地よくて面白かった。
前に読んだ「アンブレイカブル」よりも話は軽くて、けれど思想はたっぷり入ってる感じ。
ジョカゲを期待するとがっかりすると思う。ジョカゲよりめちゃくちゃ軽い。視点が10代の何もわからない青年のせいもあると思う。
明治時代の社会主義とはどんな思想でどんな人間がいて、どんな世相だったか知る入門としては良かった。
ちょっと気になったのが、大逆事件で粛清され、大っぴらに活動出来ない雰囲気がありながら、仕事をしつつ、けれど司法の公平性や警察の横暴さが控えめであることを信用している感じに違和感。
第一次世界大戦中であり、大逆事件の処刑が1911年1月で、それから4年後だから、1915年の話か。
治安維持法と普通選挙法の1925年までこんな雰囲気だったのかな、と想像。
-
Posted by ブクログ
テーマは微妙に重いが柳さん特有のエスプリの効いた軽快な語り口は非常に読みやすかった。この物語の登場人物達は一部、思想的に尖った人もいるが政治形態に拘ること無く、人間が人間らしく生きる事を求めており、好感が持てる。ひるがえって、現代の様相を考えてみると体制側も改善を求める側も社会の複雑化に伴い、背後に広がる複雑な利害関係を勘ぐってしまう有様だ。社会の複雑化とそれが可視化されてしまった事で優柔不断な私はモノゴトの白黒を付けることが出来なくなった。
まあ、自分でも何を言っているか分からなくなったが柳さんの世の中に対するスタンスは、年を取って保守的になった老人でも受け入れられるバランスが取れたものだと思う。 -
Posted by ブクログ
新聞でいちおしミステリーとして紹介されていたので、柳広司作品を初読み。
時は大正時代。新聞雑誌の原稿に、翻訳、暗号文の解読……。『文章に関する依頼であれば、何でも引き受けます』という変わった看板を掲げる会社『売文社』を舞台に、数々の難事件を解決する4編からなる連作短編集。
登場人物に堺利彦、大杉栄、荒畑寒村など実在の社会主義者が出てくるが、その辺の知識は無くてもキャラクターとして魅力的に描かれているので十分楽しめた。
2話目に暗号解読の話があって普通に読み進めてしまったんだけど、もう少しじっくり解読に取り組めば良かったと後悔。ちゃんと考えれば解読できたかもな〜 -
Posted by ブクログ
ネタバレ前巻が不穏な〆だったので今巻が「誤算」という章題で始まっていてドキーッとしちゃった。パラダイスもロストしてるし。
しかし不意のアクシデントまで対応してこそプロのスパイである…とのことで、戦争が激化していくなかでも変わらずスパイとして生き続ける者と人間として死ぬ者の差があらわになっていく。
いったいどちらが幸せなんだろうな…みたいなことを考えたりした。幸せを求めるような者はスパイではないのか…己の能力の限界を試す者は人間ではないのか…
すっかりお決まりの口上のように語られるD機関の入試問題は、もはや歌舞伎の見栄のようでヨッ待ってました!という気分になるし、本当にみんなあの試験をクリアしたんだなとわかるから彼らの匿名性の高さにゾクゾクする。