カート・ヴォネガットのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
後期ヴォネガットの代表作のひとつといっていい。
ヴォネガットらしさに満ちて、構成もうまい。
「ローズウォーターさん」同様に、ここでのテーマは「金」。
ヴォネガットは、金や富をファンタジーとして扱う。
金持ちは、金を用いて富を分配することで世の中をよくしたり、
人々を救うことができると真剣に考えている。
違うのは、エリオット・ローズウォーターは幸せだったが、
「ジェイルバード」のメアリー・キャスリーンはそうとは言い切れなかった、
といった差だけ。彼らは資本主義社会のファンタジーであり、魔法使いなんだな。
「ジェイルバード」では、本人の意向や思惑を大きくそれて、誤解の上に待ち受ける、
思いがけない展開に流されてしまう人々の物語とも取れる。
人生は、勘違いと思い込みで彩られているのかもしれない。
読後感の後味は、わたしは「ローズウォーターさん」よりも
「ジェイルバード」のほうが好きだ。
限りなく、ヴォネガットらしい。 -
Posted by ブクログ
「デッドアイ・ディック」の主役は銃であり、ドラッグであり、中性子爆弾であり、人々の偏見だ。
これらがたくみに物語の中で影響を及ぼしてくる。その主役たちの周りで、
へんてこなダンスを踊らされているのがルディ・ウォールツであり、
ルディの父であり、母であり、兄であり、ドウェイン・フーヴァーとその妻だ。
途中途中にさし挟まれるレシピ、これがまたいい。
そして、人生は演劇だ、ときどき台本までもが登場する。
「デッドアイ・ディック」は「ジェイルバード」のあと、1982年に書かれた小説で、
名前から「ジュニア」が取れた『近年の作品』の範疇に入るのではないかと思うが、
「デッドアイ・ディック」のヴォネガットはとにかく調子がいい。
油が乗っている。職人芸だ。上手い。翻訳もすこぶる調子がいい。
コトバが血肉になっている印象すらある。
あとがきを読めば、どのくらい調子がいいかがさらに伺える。いいタイミングで訳されたと思う。
どの世界にも原理主義者って言うひとたちがいて、
Genesisならピーガブが脱退する前までしか認めないとか、そんな類の主義なんだけど、
ヴォネガットもご多分に漏れず、「猫のゆりかご」や「タイタンの妖女」の評価がめっぽう高い。
しかし、わたしは職人の熟練した腕で生み出された作品がものすごく好きだ。
わたしにとっての最初のヴォネガットは「スローターハウス5」で、何度も読んだ本だし、
おそらく一番好きな本は?と問われれば、これを指すだろう。
けれど、ほんとうにそうだろうか、とふと思う。
ヴォネガットのよさは、熟練の妙味だ。
これがなければ、すべてのヴォネガットを読み続けることなんてなかった。
その妙味のある作品といえば、70年代後期〜80年代に生まれた作品群にあたるのではなかろうか。
それにしても、「チャンピオンたちの朝食」は、もしかしたら「猫のゆりかご」以上にヴォネガットにとって
重要な1冊なのではないかと思った。「チャンピオン」と「青ひげ」、「デッドアイ・ディック」は
三兄弟のような作品だ。こんな本が読めて嬉しい。
もっと読まれていい一冊だと改めて思う。 -
Posted by ブクログ
エッセイ?小説?よく分からない作品。
本の中心になるストーリーは、時間が突然10年前に逆戻りし、人々はまったく同じ10年間をデジャブの中でリプレイする。それが突然終わった時の混乱で、おなじみのキルゴア・トラウトが活躍する、というものなのだが……。
冒頭で作者は、「老人と海」を引き合いに出してこう説明する。「老人と海」で釣り上げたカジキはヘミングウェイが書いた長編小説のことで、それが鮫に喰われてしまうのは、批評家たちにボロクソにけなされたことの象徴なのだと。
釣り上げた魚は食われる前にバラしてしまえばよかったのだ。
今回、作者は自分の作品が気に入らないので、自分でバラバラにして、いろいろぶち込んでシチューを作ったのだという。
出来上がったのは、なんとも不思議だが味わいのある作品だ。作者の、シニカルだが暖かい人間愛はけっして衰えていない。
これで、最後の作品だと、作者は宣言しているけれど、まだまだこれからもすばらしい作品を作り続けてほしい。 -
Posted by ブクログ
円城塔さんの翻訳かあ!あんまりなめらかってわけじゃないけど、「これで駄目なら、どうしろって?」という訳はとてもかっこいい。決まってるな。
これはアメリカの大学の卒業式によばれたカート・ヴォネガットの講演録である。
年代もバラバラなんだけど、同じネタ入ってたりするなあと思いながら。まあ人間、本当に伝えたいことなんてそんなにいっぱいあるもんじゃない。生きていたらいくつかのことに収斂されていくのかもしれない。大学を卒業して社会に出ていく人たちへのエールである。
構えないで聞き流すくらいがちょうどいい軽妙さと毒、ウイットに溢れている。
まあ、日本人が参考にするスタイルではないだろうな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ
●死圏
○あらすじ
成層圏の外側に霊界があって死者がたむろしているとしたら、の世界。
アメリカが核をソ連に命中させるため、命中したことを確認するために成層圏の外側にUFOを飛ばしたことで、その霊界は発見される。
○キャラは何を欲しているか。
UFOに載った人は、死んだ妻を欲している。打ち上げ計画の最高責任者は、核をソ連に打ち込むことを欲している。計画に参加した科学者は、計画に対して自分が完璧な技術力を発揮したという事実を欲していて(つまり計画の成功)、途中からは霊界の存在の解明を欲している。
○感想
霊界の存在をどうやって博士たちに信じさせるか、のところが面白かった。傍にいる死者が誰で住所がどこ、って情報だけだと事前に調べたんだろで疑えるけど、博士とその親しい人にしか知り得ない事実を博士と親しい死者から聞き出し伝えるというのは、確かに綺麗な暴露だった。
●ジョリーロジャー号の航海
めちゃくちゃいい。俺の置かれてる状況と似てて、自分を重ねてみてた。
20歳くらいから35歳くらいまで戦争に従軍してた人が主人公で、戦闘が大好きだった。で、一般人の友達もいないし、日常に戻った時にやりたいこともなかった。で、いざ戦争が終わってみると、自分は価値のない人間だと自覚してしまう。若い男女の会食にお邪魔することになった時は、自分が芸術とかの話に混ざれなくて、それを気の毒に思った人から戦争の経験談の話を振られるけど、要領の得ない話を延々としてしまい場を盛り下げてしまう、これで俺はもう無理だ...価値のない人間だ...となる。まあでも最終的には、親友のジョージがホームタウンで聖者として尊敬されてるのをみて、自信を取り戻す。自分には価値があるんだと。
やっぱり僕も人と上手く話せなくて、会食やら何やらが終わった後に「もう無理だ...」という経験を幾度となくしてきたから、あるあるとして面白く読めた。最後自信を取り戻すまで描いてハッピーエンドにしてくれてありがとう。俺は果たして自信を取り戻せるのか。人との間で何かの承認を受けるしかない、と思ってる。 -
Posted by ブクログ
カート・ヴォネガットの元教え子で作家のスザンヌ・マッコーネルさんがまとめた、ヴォネガットが考える作家論、創作論。
とても良くまとめてられていて、あらゆる角度からヴォネガットの発言を読み解いている。
時代に合わない部分や、マッコーネルさんの考えに合わないところは、はっきりと著者の考えを述べているし、カートのダメな部分も敬意を持って正直に書かれていると感じた。
また、カートに近い人なだけに偏りがないよう少し離れた目線でまとめられている。方法論についても教科書的な部分も多いので、カート・ヴォネガットのあの語り口を期待してしまうと、少し物足りないかもしれない。
しかしカートはジョークが上手いので、本人の真意はいつも煙に巻かれてしまうところがあるが、本書の淡々とした文章で読むと、カートが一人の苦悩を抱えた人間として見えてくる。
本書を読んでからカートの小説を読み返すと、作品世界がよりクリアに見えて良いと思います。
個人的には、戦争とジョーク(笑い)が人にもたらすものについては非常に興味深かった。 -
Posted by ブクログ
8月上旬に読んだ。
原爆の父であるとされるハニカー博士の投下当日の様子、こども達からの証言や関係者をめぐる旅から始まる前半
“本書に真実はいっさいない”と目次の前に明言されていることを忘れて、この時期に「たまたまー”定められたとおり”とボコノンならいうだろう」手元にやってきたこの本を読み、
原爆開発側の国の視点にも触れるつもりになりページをめくっていった。
「もしあなたの人生が、それほど筋のとおった理由もないのに、どこかの誰かの人生とからみあってきたら、その人はおそらくあなたの〈カラース〉の一因だろう」などと、最もらしい教義を散りばめてボコノン教の世界、謎の島サン・ロレンゾに読みながら連れ去られて行く。
「真っ赤な嘘」とされるボコノンなりの真実にまんまと目が離せなくなっていく。
私は日本人で、英語圏の人がゲラゲラ笑うような部分は全くわからない。どちらかといえば、”壮大なズシーン”という展開をついにきたなと受け止めたり、真っ赤な嘘だ、笑ってくれといいたげなストーリーにも根底に流れる真実に考え込んだりする。
真剣に読んでいるこちらからすると、
猫なんていないし、ゆりかごもないんだ
うそっぱちだー
といわれ
なんだか色々複雑なことを考えて心に留めておきたいんだけど、結局なんでもなかったのか?ただ奇天烈な展開におもしろかったなぁ!とスッキリしておけばいいのか、感想がまとまらない。
ひとつ、シニカルとかユーモアって自分にはまだまだ掴みにくく理解しにくいものなんだと痛感した。 -
Posted by ブクログ
「猫のゆりかご」ってなんだろう。
マザー・グースの詩に
「風が吹くと、ゆりかご揺れる、ゆりかご揺れて赤ちゃん落ちる、落ちると...」(思い出したまま)
という恐いのがある。
読み始めてすぐに謎はとける、がその後の展開に怖ろしい予感。
世界が終末をむかえるのか。
短い文章の章立て。勿論シニカル。さびが効いている。
たたみかけて大団円に。まるでSFXの画面を観ているよう。
「専制」「大統領」「とりまき」「兵士」「科学者」「金持」「多くの貧困者」「カルト宗教」「カリスマ教主」「アメリカ」「ジャーナリズム」
と、キーワードを上げるだけで現代と酷似している。1960年代に書かれたSFだのに。
ちなみにあの頃は映画「渚にて」とか小松左京の「日本沈没」があってはやったけど。
これは普遍性があると思う。「ソ連」が出てくるのは時代性。
あーあ、相も変わらずの変らない世界よ!
『フォーマ=無害な真実を生きるよるべとしなさい。…』と作者はフィクションの宗教『ボコノン教』の聖書に語らせる。
つまり、「うそからまことがでる」と。
でも、そんな哲学よりもユーモアと展開の面白さを愛でよう。
カリブ海に浮かぶ孤島の断崖絶壁に建つお城にいざなわれて。