カート・ヴォネガットのレビュー一覧
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人間は自然界の頂点に君臨する。一応、そう考えられている。その根拠はいろいろあるが、ひとつには脳の大きさが挙げられるだろう。生物は進化するにつれて、しだいに脳が大きくなっていった。脳が大きければ大きいほど賢いことは、観察からある程度わかる。たとえば、犬はお手や伏せを覚えるので、ウサギよりも賢そうだ。チンパンジーは簡単な記号も扱えるので、犬よりももっと賢い。脳の大きさと知能に一定の関係があるとすると、脳の大きさが最大であるヒトは、生物の中でもっとも賢いことになる。
だが、もっとよく観察してみると、小さな脳の持ち主たちもなかなか凄いことをやっている。ファーブル昆虫記で有名なスカラベは、ヒツジや馬 -
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カート・ヴォネガットによる「書くことについて」の本。冒頭の7つのアドバイスだけでも十分読む価値があるが、570ページ相当の本文は校正から、生活、稼ぐことについてまで、小説家としての人生への示唆は多岐にわたって網羅されている。がんばったら3日で読めた。
個人的な関心事は「この本で語られるアドバイスが、近代以降の日本の私小説にも当てはまるだろうか」という部分なのだが、私小説を書くことのコアに「目的を持つこと」「誰か他者にも伝えるべき情報であること」という要素があるのであれば、日本のシーンにも十分援用が可能であると判断する。
座右の書として置いておくにはちとぶ厚すぎると思うが、いちど、自分 -
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ネタバレ甚だ奇っ怪な小説。
まえがき
「本書には真実はいっさいない。」「〈フォーマ〉を生きるよるべとしなさい。それはあなたを (略) 幸福な人間にする。」(p4)
※フォーマ=無害な非真実
これがこの物語を端的に表している。
ジョークやユーモアが私たちを豊かにしてくれる。
中身は荒唐無稽の極み。
「世界が終末をむかえた日」について、謎の宗教・ボコノン教徒の男、自称ジョーナが語る。その述懐が人を食ったような、あまりにもヘン。
原爆研究者、フォーニクス・ハニカー博士が開発した究極兵器‘アイス・ナイン’を巡り、カリブの小国サン・ロレンゾ共和国を舞台に破茶滅茶が巻き起こる。
世の中に意味が無い -
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ヴォネガット のユーモアとウイット、引用文についつい笑いを誘われるが、テーマは人類の進化である。 そこに着くまでに設定した百万年という時の流れは、大きな不安を孕んでいる。巨大化した脳は残酷さに寛容であり、心の痛みを転嫁し、過ちを進化と勘違いした。
西暦1986年、ヴォネガットの描く巨大脳を持つようになった人類の性が、本能に導かれて到達した環境といえば、反抗する隙もない、人間性という言葉の影もない、独自に進化を遂げた世界だった。どこか今に通じる現代世界の姿がかいま見える。煉りに煉られた物語で、その緻密さ巧みさは面白い、登場人物の狂気までも気の利いたジョーク交じりで進行していく。人々の狂ってい -
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2018年47冊目。
これまでで一番好きな短編集になった。毎晩一つお話を読むのが楽しみだった。
特に「セルマに捧げる歌」は至福の23ページ。ユーモア溢れる展開から、音まで聴こえてきそうなクライマックスの盛り上がり、そして「...ジャンッ!!」という感じの完璧な終え方。にやけが止まらなかった。
ブラックな作品も少なくはないけど、基本的に終え方が本当に優しい。長編『タイタンの幼女』でもそうだったけど、終盤の一言にすっと救われる。
ヴォネガットの魅力にすっかりはまってしまった。来週から、全4巻の短編全集が発売するということで、絶対に買って読もうと思っている。長編作品も全部読みたい。
村上春