古沢嘉通のレビュー一覧
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現代ミステリ界のナンバーワン作家の一人である作者は主要なところでもロサンゼルス市警の刑事ハリー・ボッシュ、弁護士ミッキー・ハラー、FBIのテリー・マッケイレブ、新聞記者ジャック・マカヴォイといずれもヒットしたシリーズ作品を持っていて更に単発ものも出したりしている。それがここに来て更に新たなシリーズものの主人公を産み出したというのでさっそく手に取ってみた。これまでも単発ものや重要な役割に出てきた女性達、レイチェル・ウォリング、キャシー・ブラック、ルシア・ソトがいたのだけれど今回新たに生み出された女性主人公については新たなシリーズ展開をする、と作者も宣言しているようだ。彼女レネイ・バラードはボッシュと同じくロス市警の刑事でハワイ出身、原住民とのミックスで元々は新聞記者だったのだがより被害者に寄り添いたいという気持ちから刑事になったという設定。市警エリート部門の強盗殺人課にいたのだが上司と揉めていわゆる所轄のハリウッド署の夜勤専門に左遷されている。作品のタイトルは深夜放送という意味で夜中だけ勤務して事件の初動対応だけに対応する役割をそう呼ぶのだそうだ。基本的には初動だけで本格的な捜査は昼間の刑事に渡す、という役回りなのだがそれ故にありとあらゆる事件にタッチできる、という役割上のメリットがある。本作では拷問されて道端に放置されたトランスジェンダーとナイトクラブでの銃乱射による複数殺人の大きく二つの事件を中心に物語が進んでいく。この新たなシリーズも主人公の設定が興味深く謎解きも面白くてやはり当代一流の作家と改めて感心した。次作が楽しみなシリーズがまた一つできてしまった。面白かった。
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出れば必ず読むボッシュシリーズ。ボッシュは60歳をこえ、ロス市警を離れてほとんどボランティアみたいな形で小さな市の警察業務に関わっている。思えばずいぶん長いことボッシュを見てきたんだなあと、ちょっと感慨深い。いつ頃からか作品の雰囲気が初期とは違ってきたけれど、それもまた良し、と思う。
ロスのような大きな舞台ではなくても、事件はやっぱり結構派手だ。ボッシュが直面する難題は二つあり、一つは薬物絡みの犯罪への潜入捜査、もう一つは思いがけず自身にかけられた汚名をそそぐこと。この二件が同時進行していくが、ややこしく錯綜したりはせず、とても読みやすい。長篇をだれることなく読ませるところが、さすがコナリー。
このシリーズでは、犯人が捕まり(あるいは死に)正義が行われて万々歳!という終わり方にはほぼならない。犯罪を追う過程で、真相をつかみ犯人と対峙する場で、またその後の法廷で、ボッシュは常に「正義」というものについて考え、苦悩する。力をふりしぼり犯罪を追う努力をいくら重ねても、闇から湧き出てくるように非道な犯罪は絶えることがない。その多くは社会の構造に深く根ざしていて、読んでいる側もボッシュと共に徒労感にとらえられてしまう。それでも、時に深く傷つきながら、目の前の名もない被害者に正義をもたらしたいと奮闘する姿が、好きだ。
ボッシュの異母兄弟ハラーが本作でも登場して、重要な役割を果たす。駆け引きに長けた辣腕弁護士であるハラーと対比することで、ボッシュの不器用とも言える生き方がよりくっきりと浮かび上がってくる。今回は、ボッシュを理解し信頼を寄せる脇役陣がちょっぴり多めで、結構嬉しかったです。 -
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レネイ・バラード。新しいヒーローの誕生です。
これだけの能力がありながらも、女性である事に起因するある事が理由で、深夜勤務のシフトに入れられてしまっている。でも、自分自身の実力で、事件を解決に導くのは素晴らしいです。
受け売りですが、女性が男性社会で認められるには、男性の何十倍も努力して、何十倍も大きい成果を上げる必要があると聞いたことがあります。レネイは、その何十倍もの努力で、何十倍もの成果を上げたと言って良いと思います。
女性の年齢と容姿を言うのは野暮で、今の世ではセクハラですが、架空の人物なので許してください。レネイは、警官になる前に一度社会人経験をしていて、且つ、警官になってから15年ほど経過していると言う事はアラフォーの設定の模様です。それでも、変な意味ではなく色んな男から誘いを受けると言うのは、かなり魅力的な女性の様ですね。これを映像化する時は、誰がその役を演じるのか気になります。 -
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『紙の動物園』は選りすぐりの短編集で、ベストセラーになったため、残った作品でこの本を編んだようだ。
前と同じくらい読みやすく、情緒的だったり、ストーリーが追いやすかったりというのを期待すると、読みにくい、分かりにくいと感じる人が多くなるのは当然だと思うが、だからこちらが劣っているとは思わない。むしろ、よりケン・リュウという作家の上手さを堪能できる作品集となっている。前作は「紙の動物園」「もののあはれ」がSFに興味のない層にも訴えかけるものがあった(そこまでしか読んでない人もいるようだ)が、こちらはテイストは似ていても、情緒性は押さえられている。
最初の「烏蘓里羆」は前作の「良い狩りを」に似たスチームパンクもの。「良い狩りを」は美女(妖狐)と幼なじみの恋愛小説っぽい面が感情移入しやすかったが、こちらは親子の因縁話で、正直言って「良い狩りを」程ではないなあと思った。確かに『ゴールデンカムイ』のイメージ。
次の「草を結びて環を銜えん」は、これこそ娼婦ではあるが気高い美女が出てくる歴史もので、なかなか良かった。但しSFではない。
個人的には次の「重荷は常に汝とともに」は大変面白かった。確かに未知の文明の文章を解き明かすとき、神話だったり法律だったりするだろうという希望的思い込みってあるよなあ。それに解読する学者の専門に左右されるよなあ、と。
「レギュラー」はSF要素はあるものの、どちらかというとサスペンスミステリ。映画になりそうな話。
『ライラの冒険』にヒントを得た「状態変化」、AIに支配される近未来を描いた「パーフェクト・マッチ」、シンギュラリティ後のディストピアもの「残されし者」、「文字占い師」に近い「訴訟師と猿の王」「万味調和」、そして「紙の動物園」「太平洋横断トンネル小史」に近い「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」」が良かった。
「訴訟師と猿の王」は、天安門事件のことを念頭に書いたのではないかと思った。支配者に不利な情報であるため、公的な歴史から消された事件でも、少数の意思のある人が外国の助けを得て必ず歴史に残す。そのために犠牲になった人、力を尽くした人を忘れてはいけない、というメッセージではないか。
また、「万味調和」で犬を食べた中国人をアメリカ人が非難すると、「わしらも犬をペットとして飼っている。ペットだったら、その犬は食わない。だが、この犬は野犬だった。阿彦(アーイェン)は自分の身を守るため殺さざるをえなかった。とても美味いのにどうして野犬の肉を無駄にしなければならんのだね?」(P426)という言葉は、捕鯨について日本人が考えていることと変わらない。まあ、調査捕鯨や浜に打ち上げられたクジラ、イルカに関しては、日本人はこう考えている人が多いのでは。商業捕鯨となると、食べるために野犬を狩るみたいなもので、この言い分は通らないが。
また、ここで描かれるアメリカに移住した中国人達の姿は日系人と変わらない。人種差別をされ、白人より安い賃金でよりハードな仕事をこなし、狭い家に住んで、裏庭で野菜を作り、粗食に耐える。数少ない楽しみは仲間と歌ったり、飲み食いすることくらいだが、音楽、食事など様々な文化が野卑なものと否定される。仕事に様々な工夫を凝らし、より効率よくなるよう、また製品がより上質なものとなるよう細心の注意を払い、価値を上げる努力を怠らない。
日本人で中国人を差別する人いるけど、どこに違いがあるというのか。
この本で、読者が随分篩にかけられただろう。次を読む人は、これが楽しめた人で、売上は落ちるであろう。
でも、本当に素晴らしい作家だと思う。まだ若いのでこれからも傑作を期待できる。