柄谷行人のレビュー一覧
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読書会で取り上げた國分功一郎「暇と退屈の倫理学」で、キーワードだった「遊動生活」。その後に、本書を目にし、タイトルに惹かれたのと、昨年「哲学のノーベル賞」と言われるバーグルエン賞を日本人で初めて受賞した柄谷行人さんの本も読んでみたかったので読んでみることに。期待していたこととは全く違う内容だったが、やはり日本人としては知っておきたい柳田國男という人物についてよく知れた。昭和の動乱の最中に、民俗学という分野をなぜ立ち上げたのか。それは日本という一国を深く知ることによって、共同自助の精神を見つけたかったから。そして遊動的な生活では蓄財が困難であるから、おのずと贈与的な分配が行われるなど、今にも役立
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憲法九条は無意識の超自我である。アメリカに押し付けられたものでもなく、憲法九条は、天皇体制の護持を謳う一条とセットで検討されたが、マッカーサーにとっても重要なのは第一条であり、朝鮮戦争勃発時に九条の改定を迫ったほどだ。日本人にとっては、天皇自体が集合的無意識の象徴だとも言える。面白い切り口だ。
ー 総選挙は争点が曖昧で投票率も低く、投票者に偏りもあるから集合的無意識としての世論を表すものにはなり得ない。国民投票ならば、何らかの操作や策動が可能であっても争点がハッキリしているから、無意識が前面に出る。
九条がリアルな問題になったのは1989年の湾岸戦争。イラクによるクウェートの侵略に対する中 -
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2023年バーグルエン哲学文化賞を受賞した作品である。唯物史観では社会の発展要因を「生産様式」とするが、それに対して作者は「交換様式」の概念で人類の発展を理解するというもので、作者が数十年にわたって温めてきた思考を集大成する異色の人類発展史観である。
人間の共同性を贈与と返礼の互酬概念から考え始めるものであるが、哲学的で抽象度が高い文章が続き、理解しながら読み進めるのに相当の努力が必要である。
最初に、四つの交換様式の定義から始める。A 共同体における「互酬(贈与と返礼)」、B 国家権力にみられる垂直的な「服従と保護(略取と再分配)」、C 市場における「水平的な商品交換(貨幣と商品)」、 -
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カントとマルクスの思想を横断的に批判、すなわちトランスクリティークに読み込むことで、資本主義社会を乗り越える、言い換えれば、アソシエーションを実現するためにはどうすればいいのかを考察する。
『資本論』を宇野弘蔵の解釈をもとに、資本主義社会は、恐慌や革命が自壊することなく、あたかも永続するかのように続くと著者は見なす。そのため、現状の資本主義を変えるためには、流通過程に注目するべきだと説く。そこで、対抗ガンのような運動を作り出すことで、資本制経済を打破できると仮説する。
ちなみに、この運動は、消費者としての労働者が、非資本的な生産(消費協同組合、代替通貨)、労働力を売らない、資本制生産物を -
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柄谷によれば、マルクス革命論の欠陥は国家主義にではなく、むしろ「国家は資本主義の終焉によりおのずから揚棄されるだろう」という楽観的な“アナキズム”にこそある。マルクスは貨幣のみならず国家も共同体間に生まれることを看過していた。対他的に主権を確立する相対性が国家に自立性を与える。ゆえに一国内に完結する「下から」の革命は頓挫せざるをえない、と言う。そこで柄谷は、世界帝国から世界経済への移行過程において形成された(資本=)ネーション=ステートを超克しうる理念として、カントの言う「世界共和国」を持ち出す。それは諸国家を「上から」抑制する原理であり、その「統整的理念」は我々をして「自由」と「平等」を両立
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ある世代にとっての知識人の典型例が吉本隆明であるように、2000年代に人文社会科学を専攻した私のような世代にとってはの典型例は柄谷行人なのではないかと思っている。本書は2010年に出版された柄谷行人の大仕事であり、『日本近代文学の起源』に並ぶ氏の代表作であろう。
2006年に出版された『世界共和国へ』では、近代社会が、資本=ネーション=国家の三位一体により強固な構成体になっていることを指摘した。本書ではその理論をさらに推し進める。その理論の中心となるのは、マルクスの思想を”生産”ではなく、実際に価値が生まれる”交換”に着目(どんな生産物も、それが交換されなければそこに価値は生じず、むしろ廃棄