ジャック・アタリのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ジャック・アタリさんは新しいウィルスによるパンデミックを警告し続けてきた。そこへ今年2020年のコロナ・パンデミックが到来し、未曾有の社会的混乱が引き起こされた。
本書は都市封鎖による自宅待機のあいだに書かれ、6月にフランスで出版されたものに、恐らく7月に加筆されたものを和訳し、10月にプレジデント社から出版されたものである。まさに風雲急を告げる渦中に執筆されたわけで、世界中でのパンデミックの事態はその後も刻々と変化してきているため、こんな早期にコロナ禍に関する著書を出してしまってよいものかどうか、アタリさんも迷ったようだが、すぐにでも公開したいメッセージがあったと思われる。
世界各国に研究センターのような拠点を持ち常時社会に関する最新の情報を収集して分析しているアタリさんが、本書前半で新型コロナウィルス感染症が出現してから様々な国で展開された態様をつぶさに記録する。この部分は手に汗を握りながら読んだ。氏は韓国による初期のコロナ対応を高く評価しており、諸国は韓国の手腕に学ぶべきだったのに、独裁国である中国の真似をして都市のロックダウンに踏み切ったことを「誤りだった」と指摘している。韓国はかつてMARSへの対応で一度失敗しており、その経験を教訓として、感染症対策を着々と進めてきたのである。1月のまだ韓国国内に感染者が1人も出ていない頃から、韓国は素速くマスクや検査キットの大量生産に取りかかっていた。これにより、感染者が出始めると迅速に大量の検査を行い、マスクを国民に配布することができた(もちろん、アベノマスクのようなしょぼいものではない)。
中国にならって欧米諸国が都市のロックダウンを行ったことにより、一時的にせよ経済活動が世界的にストップするという、前代未聞の状態が現出したのだが、これによる影響はまだ全貌が明らかになっていない。そして、本書の刊行後、初冬になってヨーロッパは大きな「第3波」に見舞われ、再度ロックダウンする事態となった。
この社会的異変による経済上の結果はまだ全てが見えて来ていないが、失業者が溢れ各国は厄介な対応を急がせられるはずである。それ以外にも、このパンデミックは、最近の世界的な情勢を更に急速に推進させた。貧富の差は一層大きくなり、中産階級の没落は早まった。権力による人権の抑制、強制力をより高めようという世論が高まり、民は自ら民主主義を捨てるような方向へと向かう。
本書後半にはこれからはこうあらねばならない、という論が展開されているが、このような予言的なことをアタリ氏が書く時いつもそうであるように、ちょっと抽象的すぎて、なんとなくパッとしないように感じる。
アタリ氏は「コロナ禍が終わったら、元の世界に戻れる」というような期待は幻想に過ぎないと批判する。そうではなくて、社会はここから大きく変容していくだろうというのだ。医療・保健衛生などの分野が最重要のものとして見直され、大きく発展して行く。これは「予想」なのかアタリさんの「期待」なのか判然としないが、氏はこれを「命の経済」と名付ける。
観光業や航空業など、多くの業種はやり方を徹底的に再考し、持続可能な形態に再編しなければならない。
教育はオンライン化をより進めていくだろう。ただし、オンライン授業だけでは得られないような体験を、生徒たちが得られるような余地を残さなければならない。
都市に集中しすぎた人びとは、感染症を教訓とし、一極集中から離脱する方向に向かう。
アタリ氏は危機に直面する今こそ、「闘う民主主義」が必要だと言う。
特に、日本の自民党の政治家に叩きつけたいような言葉が最後の方に載っている。
「あらゆる危機は最貧層に最大の影響を及ぼす。そして政府は、現状と今後訪れる状況を耐え得るものにするために、社会正義の必要性をまずもって認めなければならない。まずは税負担の公平性だ。とくに、超富裕層に重税を課すことを拒否するようでは、民主主義は生き残れないだろう。超富裕層のなかには、今回の危機で資産を増やす者さえいるだろう。」(P287)
アタリ氏はこの新型コロナ・パンデミックが終息した後も、また別の新たなパンデミックが何度でも襲ってくるだろうという前提に立っている。それはやはり、人類の文明が「自然」の秩序を破壊してきたことによるツケだと言う。
新型コロナウィルスによる世界の大転換をめぐり、本書の続編や続々編を、アタリさんには是非出して欲しいと思っている。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ海を思わせる鮮やかなブルーの装丁に惹かれて、書店で思わず手に取った一冊。しかも、著者はジャック・アタリ。で、これならと即買い。(アタリでなくても多分買ったと思うけれど)
宇宙と水の誕生から、大航海時代を経て、コンテナの出現と現在の漁業に至るまで、海のこれまでを総括して、その上で問題提起と提言。正直、宇宙の誕生からヒトの誕生まで取り上げた最初の二章は、ワタシの装丁買いは“アタリ”ではなくて、ハズレだったかと思ったのだけれど、人類が船を作り出して海に進出し始めた第三章から、ワタシの読書航海も無事軌道に。そこから第六章まで、視点を海に置いて世界史を眺めてみると、これまでと少し違う風景が見えてきた。
そして、著者の問題提起や提言については…と進むのが多分まっとうなブックレビュー。でも、それは何だか嘘っぽいので、提起や提言より印象に残った2点を。
一つ目は、「デジタル経済の大企業や起業家は海よりも宇宙に夢中になっている」という著者の指摘。ワタシもどちらかと言うと宇宙好きなので、この指摘にはプラスチックバットで後頭部をコツンとやられた気分。「持続的な利益が将来も海で生じることに、彼らはまだ気づいていないのだ」という指摘を、お年玉で話題のあの人はどう受け止めるのだろう、などと若干ミーハーな思いが頭をよぎった。
二つ目は、これまでの歴史の中で、フランスは海洋大国になるチャンスを7度も逃したという指摘。いや、指摘というか、これは完全にdisっているとしか言いようのないレベル。海洋大国として覇者になった英国やオランダと比較して、いかにフランスがイケていなかったかという話を実に7回も。自分の国だから言えるということももちろんあるのだろうけれど、もう笑ってしまうくらいしつこくdisっているところが本書の読みどころ…と思えるくらいでないと、本書の面白さは2割減ではないかと。 -
Posted by ブクログ
歴史部分は年表を読んでいるようで長く感じた。後半の章を先に読んで、遡るように前半を読めば良かったか。
SNSの登場により、情報の流通場所が限られるのみならず経済的・社会的資本の分断につながっているという点を再認識。情報の価値は計りにくいけれど、情報が正しく流通しない場合の損失の大きさをもってしてジャーナリズムを発揮する場の担保は必要だなとおもった。
じゃあ、どうやってジャーナリズムを守る?と考えると、プラダを着た悪魔2と同じく価値観に共感してくれた人からの多額な寄付、となるのかなあとおもう。
もしくは、SNSのレコメンドシステムを見直していく、情報にランクをつけていく、のようなSNS主軸の見直しになるのかな。
まだ考えがまとまりません。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ難しいテーマは丸々1冊だと読み切れないけど、インタビュー形式で読みやすい。
人口動態が変わっていわゆる白人中心・優位な時代が終わりつつあり、多極化やトランプ政権など国際政治の状況も様変わりで、価値観や政治が不安定化している、という現状分析が多かったかと。世界がどこにどう向かうのか、帯の「「常識」の時代は終わった。「力が正義」の時代が始まる」は暗澹とするけど、ある程度ニューノーマルとして現実を認識する必要はあるのだろうな。
興味深かったのは、ジョセフ・ヘンリック(人類学者)のパート。
・WEIRD(西洋の、教育水準の高い、工業化された、裕福な、民主主義の)な特性(個人主義、他人への信頼、傾向性主義、分析的思考)は世界的には少数派。
・日本人や韓国人は欧米化著しいかと思いきや、相手との関係性によって態度を変える。
・宗教の中でも西方教会がいとこ婚を禁じたことで、氏族社会が解体。親族ベース制度から一夫一婦制の核家族→人が移動しやすくなったり、血縁以外の共同体が生まれたりして、ヨーロッパの発展・産業革命の基礎となった。
・「子ども時代に引っ越しを繰り返した若者は、友人と初対面の相手をあまり分け隔てしなくなるという」←個人的に思い当たる。
量子コンピュータ(ミチオ・カク)の話は異色、そして難しい…
水が基礎インフラ(ジェレミー・リフキン)、これ最近よく聞くな。 -
Posted by ブクログ
フランスで要職を歴任し、思想家としても有名なジャック•アタリ氏による歴史解釈と未来予測を綴った本です。
年末は今年起きたことを整理し、未来はどうなるか考える良い機会なので、その一助になればと本書を手に取りました。2050年の世界の状況に関する予測とその基となる考え(「心臓」と「形態」)について説明しています。著者は、今から30年前でも現在起こっている多くのことを予測できたため、今から25年後の世界を予測することも十分に可能としていますが、この点は個人的には疑問です。例をあげると、人口動態から中国が発展し、アメリカとある程度摩擦が生じることは予測できたかもしれませんが、自身が覚えている範囲では、二十年ほど前まで、多くの専門家の間では資本主義と一党独裁は相いれず、中国は西側寄りの国になると予測されており、米中の衝突が先鋭化することについては、意見が割れていたと思います。そのため「当たるも八卦」の予測部分より、その予測の根拠となる考え方に注目しながら、本書を読みました。
著者は、各時代の商業秩序を「形態」、その中心となる都市を「心臓」として捉え、それらの歴史的な変遷や将来の展望について論じています。「心臓」については、13世紀のブルッヘから現在のカリフォルニアまで9つの都市があげられていますが、次の「心臓」は分からない(若しくは、ないかもしれない)と書かれています。著者が定義する「心臓」は必ずしも、物理的な都市に限らなくても良いと思うので、ネット上の一部の空間が「心臓」になる可能性も論じて良かったのではと思いました。
結局、次の「心臓」も「形態」もわからないということなので、この考え方は過去の歴史を整理するには興味深い視点を与えてくれるものの、未来を予測する際に著者自身が十分に活用できていないように感じました。ただ、著者が警鐘を鳴らす3つの脅威(気候、紛争、人工化)が高い確率で顕在化するのは、その通りだと思うので、これに対して学び、予見し、行動するべきと言う著者の意見には同意します。 -
Posted by ブクログ
海外の有識者2人への個別インタビューに対して、国内の有識者2人が討論するという面白い構成。
各国のコロナ対策の是非、ロシアのウクライナ侵攻に対するスタンスなど、インタビューを掘り下げていくと、有識者によって意見の食い違いがあることが分かり、国籍や立場によって複雑な事情があることを理解した。
SNSやデジタル技術によって、人々が「単純化」された理論への志向が強くなり、少しでも異質なモノを見つけ次第排除しようとする傾向は、私自身も含め危惧している。リアルの交流が減ると、ついつい異質な他者を排除できるからだ。ただし、同じ価値観を共有できるほど、社会が単純ではない。
人間は不確実で不完全な生き物。理解できない行動は誰にもある前提のもと、「agree to dissagree」のマインドを意識したいと思う。
例えば、これまで読んだことの無いようなジャンルの本やニュース記事を読むとか、賛成出来ない意見に少しだけ耳を傾けるとか。そこまでやるのが苦痛であれば、価値観の合う人(仲の良い友人や家族など)と、自分の間にあるビミョーな違いを探して見るのも良いかもしれない。もちろん、アラ探しではなく、良い関係を維持したままが望ましいが。 -
Posted by ブクログ
ウクライナ危機後の世界
以前読んだウクライナ紛争とは別の論考で非常に興味深い論考でした。
特に印象深いのはこのウクライナ紛争が民主主義の衰退を表している、コロナとウクライナ紛争による脱グローバリゼーション
、世界的インフレなど今問題になっていることが取り上げれている。また国際政治情勢も非常に理解できます。
ただ、一つ驚きが結構日本を美化しているのはちょっと驚いてます。
ここにかかれている今後起きる問題を日本の政治家や日本人がどれだけ理解しているかが心配です。
ここにあげられている方はかなり有名なので、興味ある方は読むことを薦めます。
私はジャックアタリの本は結構すきです。