誉田龍一のレビュー一覧
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長崎に帰る猪三郎、鹿之丞、お蝶
筒井和泉守が長崎奉行から江戸南町奉行に赴任した時、村雨卯之介と彼に養育された猪三郎、鹿之丞、お蝶が一緒に江戸に来た。村雨は南町奉行所で与力として筒井の働きを助けていた。
猪三郎と鹿之丞、お蝶は深川に住処を得て、町人としての生業、すなわち猪三郎は使の者として、鹿之丞は団扇の張替、そしてお蝶は楊枝屋の店者として、稼ぎながら暮らし始めた。しかし彼らの実態は、筒井の指示を受けて表立って処罰できぬ悪人たちを葬る為に人殺しの仕事人である。これまで深川で沢山の悪人を退治してきた。死人はその数を数えることが出来ない程、山のように積み上がってしまった。
その為、深川界隈では町は破壊され、その賑わいは影を落として訪れる人も少なくなっていた。
ただ、相変わらず武士道をわきまえぬ無法な侍が多数出没した。
将軍はこの事態を憂い、町の賑わいを取り戻すべく安心安全な町にすべき、小十人組を取り締まりに従事させた。
南町奉行の筒井が村雨等に指示をして仕事をさせたことと、この小十人組の仕事が被ることになる。
鹿之丞とお蝶は、早々にその正体を暴かれ、身の危険を感じて江戸を離れる決断をする。
しかし、何も知らない猪三郎は、深川の飲み屋で辰巳芸者と遊び人の喧嘩に巻き込まれた。この喧嘩は小十人組が仕掛けた芝居であって、猪三郎は騙されたのである。村雨と猪三郎はそれにも気付かず、小十人組と対決したのだが、村雨は瀕死の重傷を負って奉行所内で療養をすることになってしまう。猪三郎は一人なった。
結局、鹿之丞とお蝶も奉行所内に匿われていて元気だった。村雨の傷も何とか癒えた。
猪三郎と鹿之丞、お蝶は品川から船で生まれ故郷の長崎へと旅立っていった。
最後に、話しは、将軍が直接命令して取り締まりに乗り出したことで、筒井の計画とかち合うことになってしまう。少し物語がややこしいが・・・
物語の時代は江戸後期だ。長く太平の世が続いて、武士道精神を守らない無法な武士が多くなる。また、生活の糧を稼ぐべく役職にも就けない武士も出る。深川では、抜け荷や密輸などの悪事に手を染める大名がいる。更に、公儀に謀反を企てる脱藩藩士がいる。
幕府の威信は衰えて、全国各地の勢力の構図が変わり始める。その上、外国の船が日本の周辺に頻繁に現れる。
そんな事情を考えて読んでいた。ちょっと難しいと感じたが、面白い物語だった。
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出世競争
この物語の4件の事件は、京都から来た謎多き公家、穂波将監とその手下が実行したものである。穂波将監の姿形、すなわち何者なのかがなかなか浮かび上がらない。
江戸の寺を舞台に、忽然と消える8人の江戸小町の拐かし事件や、化猫で市中を恐怖に陥れ、不正な賭博が開催される事件など、穂波将監が企んだ悪事であった。
そして馴染みの大目付朽木光三郎は、穂波と連んで城中の奉行や老中たちの犯罪を暴いて成敗する。
江戸の街の安全と平穏を願う光三郎は、第三話で幼馴染みの東雲又一郎と一緒に穂波の探索を続ける中、忍びの一団に弓矢で襲われて足に深手を負った。大目付、長尾清之進が代わって穂波の行方を追及していたが、長尾自らの援護者である、城中で奏者番を務める大名に殺害された。光三郎は、奏者番たちに言葉巧みにカマを掛けて犯人を突き止め、長尾清之進殺害の咎で三輪丹後守を召し捕り、見事に清之進の仇を討った。
光三郎の活躍は見事であり、物語は快調に進んで読み易い。そして物語の核心は「出世」だといえる。
最後、第四話「側室」。
この一連の物語は、宮家の姫の嫁取りの話しが光三郎に寄せられた事が始まりである。しばらくすると、相手が変わり京都西奉行、新垣新三がその相手に変わる話になり、その話が変わったことに何か不信感を感じたる光三郎だった。
更に、将軍家治に、五摂家の一つ鷹司家の姫を側室にという話しが来る。家治には正妻との間に娘ばかり二人がいるが、世継ぎの男子がいないからだった。京都より旅して来て、姫君が城中大奥に入ったところを、光三郎はその時も依然と真偽を疑い、将軍に代わって大奥に入り確認をしようとした。姫が光三郎に短刀で向かってきたが、光三郎は姫を成敗し将軍を救ったのである。その姫君こそが穂波将監であり、当の穂波はすでに老人だという。ただ、穂波には二人の子供がいてそれも双子の姉妹、一人は先に述べた三輪丹後守の妻女であり、もう一人は男女不明の者になっていて、物語を読んで非常に惑わせるところである。
物語を読んで意外や意外、どんでん返しを喰らったが、非常に面白い物語で家治治世がどんな時代だったのか、リアルに考えるきっかけになった。
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人殺しが頻発する深川界隈
この物語の内容を私はどうしても掴めない。ここに描かれている世界は、俗に言い方をすれば、普通の人つまり堅気の人の世界とは全く別の世界だ。理解の及ばぬ遠い世界の出来事であると感じて、リアル感を持てない。港町深川で人殺し事件が山のように発生している。死人が積もって山になっている。
深川一帯を縄張りとする地廻り一味を全滅させる南町の町廻り同心の話し。
そして平和の象徴ともいえる美人コンテストの催事の後、コンテストで2位と3位になった小町娘の殺し。
更に、高利貸し業と深川芸者の殺し・・・など
いずれの事件に共通しているのが、南町奉行所の町廻り同心の存在である。
町廻り同心は、普段、街中を歩いて治安を護る。町人や商人と接する機会が多く、困りごとや警備の相談などを受ける。そしてその際には礼としてお金を受ける事も多いだろう。これが慣習になっている。不浄役人とも言われる所以だ。
今回の事件では、奉行所同心が街中に資金源となる場所を増やそうとして、殺人を犯してしまう。
南町与力村雨と猪三郎、鹿の丞、お蝶の家来三人がそうした同心を殺し、事件を決着するやり方が良いか悪いか、私にはよく判らない。
誰かを殺して事件が起き、犯人を殺して事件を終わらせるというやり方は、ただ死人を増やすだけで、私にはどうしてもなじめない。犯人の同心を捕縛して、裁きを受けさせるのが筋だだろう。法に従って裁きを受けさせるべきだ・・・
いずれにせよ、南町奉行所内が殺伐とした状態になり、まるでヤクザような乱暴な集団に見える。奉行所の内部が乱れに乱れる。
物語の終盤では村雨一同の殺しの仕方をまねた事件まで発生する。更に、将軍家の親類筋にあたる殿様を探索しようする。明らかに奉行所の仕事ではなく、将軍直属の目付の仕事であろう。
村雨の上司、奉行の筒井憲政が物語に一度も顔を出さないのもおかしな事だ。奉行筒井にこの始末が出来るのかヒヤヒヤ心配しながら読んでいた。 -
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事件に係わる異色の仕事人
長崎奉行だった筒井和泉守が江戸、南町奉行に着任する際、混血の3人若者を連れてきた。名前は猪三郎と鹿之丞で深川一色町で湯屋の裏長屋に住んでいる。そして同じ深川黒江町楊枝屋の看板娘として働くお蝶。この3人組が外国渡りの武器を使い、地元の悪者を退治するという痛快な物語だ。南町奉行内与力の村雨卯之介は和泉守の配下にいて、これら3人を家来にして町の治安と安全を守る物語だ。
第一話は、美人の深川一番の売れっ子芸者、大吉姐さんを追いかける二人の男。大店の息子の福助と旗本侍の平川市之進が起こした事件だ。
とにかく、女を巡っての争い事は執念深いものである。慕いが深くなればなるほど危険を孕む。福助が殺されたが、向島の岡っ引き、米六が嘘の証拠をでっち上げ、猪三郎を福助殺しの罪で捕まえる。南町同心の守本が彼を救い出す。村雨も推理を働かせて探索すると、米六を裏で操る男の存在が…それが旗本の平川市之進だった。平川は、自らがばれないようにと手口が込んだ犯行を企てるが、目当ての大吉までも殺してしまう。
第二話では、前述の守本が萩の湯で殺される事件が発生する。米六の弟、岡っ引き沢七が兄が殺されたのを恨んでの犯行だった。そしてこの事件にも裏があった。
北町奉行所の本所方町回り同心、前田数馬が沢七の守本殺しにかこつけて、町廻りで自ら犯した数々の不正、汚職を守本に被せるのである。
面白い物語が第三話、第四話と次々と続いていく。
とかくこの世にあって美しい女性に無我夢中になったり、また湯屋で男女を仕切る壁板に覗き穴を見つければ、好奇心からついつい覗きたくなるのが当たり前かもしれない。酒や金に溺れる奴もいる。この世は誘惑と好奇心を煽るものにあふれている。危なっかしい浮世で、人は右左とやじろべえのように揺れながらも、転けることなく何とかバランスを取って生きている存在だと…
もう一つ別の主題が浮かぶ。それは、犯罪は当然法によって罰せられるべきだが、この物語では犯人をその場で斬り捨てている。この時代では、重い犯罪は打首獄門、又武士においては切腹の沙汰やお家取り潰しの処分が出る。村雨がそうした罪人をその場で始末して事件を葬るやり方は、多分、重罪人が法に従って裁けば、その本人だけを処分することに留まらず家や家族、あるいはその親類まで累が及ぶからだ。罪の範囲を極力小さくしようと配慮したのだろう。
とにかく面白い物語だ。 -
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御庭番の行方は?
将軍家治は、前田加賀藩に不審な動きがあり、御庭番(隠密)3人を送り加賀藩の内偵に当たらせたが、いずれの者も行方不明になった。大目付朽木光三郎はこれら3名を見つけ出すように家治から命じられた。
3人の御庭番は岸田半左衛門と山中寛次郎、馬原三蔵という者である。
その内一人、岸田は本所の川で体中傷やあざだらけの土左衛門で発見された。死体から大量の浮き草が出てきたことで、光三郎は奉行所と共に犯行現場を特定しようとした。そして加賀藩の支藩で上野七日市藩江戸下屋敷が怪しいと考えた。
光三郎と相棒の東雲又一郎は、その屋敷に夜回り中間として忍び込み、蔵に監禁された山中寛次郎を発見し救出したが、屋敷から出て間もなく弓矢を放つ一味に遭遇して、山中は矢に打たれ殺された。
更に、光三郎の相棒、又一郎が毒薬で殺されそうになるという事件が発生した。馴染みの禹湯で酒に石見銀山が仕込まれていた。禹湯には最近、富山の薬売りが顔を出していたのを光三郎は疑った。
富山藩江戸屋敷留守居役の江畑孫助は、嘗て本家加賀藩の財政の立て直しに手腕を振るい藩の危機を救った大槻伝蔵の一派である。もう15年も前の話だ。大槻は、藩主が代わった時、家老職を追放され五箇山に蟄居、更に藩主の側室と不義密通をしたという廉󠄃で切腹して果てた。江畑はその大槻派を本家に復権させようと目論んでいた。
これまでに、光三郎は一連の事件の詳細を掴んだ。
すなわち、加賀藩の過去の騒動が未だにくすぶり続けていること、この先加賀藩を探索する光三郎たちの命を狙う加賀藩とその支藩がいることが判った。
但し、弓矢を使う一味は偸(ぬすみ)組と呼ばれる忍びの集団で富山藩との関係は無いことも判った。そしてこの一味は第3の行方不明の御庭番、馬原三蔵に通じていた。
馬原は、前田藩江戸屋敷に侵入し、いたずらに藩の家臣を刺激した。加賀藩では長安という名の藩医となり藩内の大槻派を煽り、江戸にいては加賀藩に何の問題も無いと幕府の田沼意次に報告するのである。
江戸家老下役の刈谷玄蕃と本家の家老前田直躬は、いずれは前田加賀藩を乗っ取るつもりで、馬原の援助を歓待したのである。
馬原の母は、加賀藩主、吉徳の側室で真如院と呼ばれた人だが、江戸で既婚者あった時の子供が馬原である。馬原の母に対する加賀藩が下した罰を恨んで今回の混乱や事件を起こしたのであった。
難しい筋書きの時代劇だが、味わって楽しく読んだ。 -
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西国大名の数々の悪事
長崎近在を領地にする大名たちが、江戸で起こした悪事の数々を描いた物語である。
南蛮人のことを鬼と勘違いした武家娘が、大川から助けられた。武家娘を掠い、南蛮人に売り飛ばすという第一話の「人身御供」事件を起こしたのは、矢場藩の江戸留守居が首領の事件だ。
大目付、朽木光三郎は、仲間のお幹とお蘭、芸者市松と近松を囮に仕立てて悪者の根城に乗り込み、犯人一味を捕らえた。しかし、主犯格の矢場藩、江戸留守居役服部は、その時服毒自殺を図り、犯行の動機は不明のままとなった。
その後しばらくして、両国で阿蘭陀芝居の一座が興行を始めた。この芝居を演じる役者は、混血の若者5人でその顔立ちや姿の美しさで、江戸娘を虜にしたのである。なかでも、武家娘は別の場所に連れて行かれ、アヘン中毒にさせられて淫らなあそびに呆けるという貞操観念を失わせたばかりでなく公序良俗にも反する行為に発展するのである。
そして、この5人の若者を育てたのが藤代藩であり、犯行現場は藩の寮であった。
光三郎と相棒の又一郎は、中間になりすまして藤代藩の寮に入り込み無事事件を収めた。
第三話「謀反」は、鉄砲500丁を江戸に運び込んで将軍家治のお膝元、江戸の街で暴動を起こすという物語で海戸藩が起こした事件。
第四話は、命中精度の高いヘーゲル銃で将軍を射殺しようとする矢場藩の企てで、光三郎とその仲間の活躍と、長崎奉行になったばかりの新垣新三、そして江戸老中たちの加勢もあり、事件は未然に防げたのである。
ここに出てきた藩に共通するのは、徳川が全国を平定した際に、家臣たちの褒美の分け方に不満を持つ大名たちが起こした事件ということだ。邪魔者扱いされて、遠ざけられた大名の根深い恨みが引き起こした事件だった。