上田真而子のレビュー一覧
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兵士となって前線へ赴いた「ぼく」が悪化し、崩壊していく戦況の中で見たもの。
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リヒター三部作の最後。こちらも「ぼくたちもそこにいた」のように、回顧録的な位置付けのように思えました。志願してから下士官となって戦線が崩壊するまで、淡々と描いています。負傷しつつも尉官として下にも置かぬ扱いを受ける中、戦線が崩壊すると軍や民衆とともに敗走しますが、次第に民衆の目線が厳しくなっていって、軍の特権を受ける自分に迷いが生じ、最後には民衆から向けられる目線に耐えがたくなってしまう有様は一個人としては読むに耐えないものでした。国家の嘘に乗せられて、結局酷い目に遭うのは一兵卒だったり巻き込まれた民衆だったりします。ナチ政権下で戦争に加担し、裏切られた人々が、こうした「ぼく」の集まりだったのだな、と、なんともやるせない読後感になります。最後に兵士を抱きしめた老婆の心情はいかばかりだったのでしょう。 -
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ドイツ少年団、ヒトラーユーゲント、そして志願兵として前線に赴く「ぼく」と友人ハインツ、ギュンターの3人。
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「あのころはフリードリヒがいた」で衝撃を受けてしまって読まざるを得なくなった続編です。ここではドイツ少年団に入ってからヒトラーユーゲントを経て前線で戦闘に放り込まれるまでを描いています。続編ということもあるのですが、前作とは少し異なって友人二人や親の間で揺らぎつつも「ドイツの少年」としてナチ政権下のドイツ国民を内側から見た様子を淡々と描写しています。フリードリヒも一瞬出てきますし、空襲でアパートを焼け出されたりするなど、前作とだいたい同じ経過を辿りますが、社会の変化よりも個人的・内相的な回顧録という感じでした。
読んで印象的だったのは、やはり冒頭で民衆が敵を見出し、それを排斥しようとする動きが鳴動しはじめた部分が今の日本・世界と重なって一番恐ろしく感じるということでした。 -
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とても可愛らしい、ドイツの童話である。バレエの「くるみ割り人形」の原作と言われている。
本書が書かれたのは、1816年だそう。
ある(おそらく裕福な)家庭には、男の子と女の子と両親、そして時々訪れる叔父がいる。時はクリスマスで、子どもたちはプレゼントをもらう。
その中にくるみ割り人形があった。女の子が主人公でくるみ割り人形と会話をする。
童話にありがちな、結構残酷な部分もあり、でも子ども、特に女の子が読んだらそれはもうワクワクするであろう描写や展開がある。さすが。
大人が読んだ場合、当時のドイツのクリスマスはこんな感じだったのかな、と楽しめるだろう。 -
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戦争をほとんど描かない、日常の悲劇です。
第二次世界大戦、とりわけユダヤ人の迫害をテーマにした本と聞くと、読まずにはいられません。特に今回は大学時代の先輩のおすすめの一冊とのこと。すぐに手に入れて読んでしまいました。
歴史的に言えば、ある民族の迫害は枚挙に暇がありません。チェコスロバキア、フィリピン、インド。世界中で似たような出来事が起こっています。
その中でもドイツ、ユダヤ人差別に目が向いてしまう理由は、その悪行がポピュリズムに直接起因するのではなく、ひとりの独裁者による扇動だったこと。また、その恐るべき用意周到さに驚かされるからです。
悪意とはここまで人を不幸にできるのです。
今回の本は、そういったテーマの中でも少し異色かもしれません。
戦争中でありながら、戦争自体の描写は少ない。遠くに聞こえる軍靴の足音を聞きながら、まだ残る日常生活のモラルが少しずつ崩れていく。人間関係が直線的ではなく、うねるようにおかしくなっていく描写に、思わず唸ります。
題名の通り、この作品にはフリードリヒという少年、ユダヤ人が登場します。ですが、彼は主人公ではありません。彼のドイツ人の親友の目線で、彼と、その家族が巻き込まれる迫害の嵐が描写されます。
ユダヤ人とドイツ人の友達関係、これだけ聞くと手塚治虫の「アドルフに告ぐ」を思い出します。あの作品も子供時代の親友関係が、ユダヤ人迫害を通じて崩れていく物語でした。
最後に、この話を読んでみて印象的だった部分をお伝えします。それは、登場人物の発言から垣間見える動機、時にはダブルスタンダードと呼ばれるものです。
ユダヤ人迫害という表の行為に対して、当事者であるドイツ人達が、どんな背後関係でもっていたのか。
その表現が素晴らしい作品でした。
国が決めたことだから、盲目的に信じる。昨日までの隣人はもはや唾棄すべき劣等民族と足早に考えを変える人々。
隣人としてユダヤ人と関係を保ちたいが、家族を養うため、仕事を得るために仕方なくナチスに入党する父。
そして、フリードリヒを面前で鼓舞し、励ましながら、同じ口で学校を退学させ「ハイル、ヒトラー!」と敬礼する教師。
作中に描かれる人々がどんな思いをもってユダヤ人を傷つけたのか。
いわゆる戦記ものでは語られない心の機敏に触れられる作品でした。
最後、フリードリヒに起きる出来事も考えさせられます。
同じ場所にもし居合わせたら何を言えるのか?
同じ場所で、妻子の隣から、彼らを蛮行を非難する勇気はあるのか?
答えは想像出来ますが、、、
ここでは書かないことにします。
きっと後悔する事になる、恥ずかしい判断をするでしょうから。
あの日のフリードリヒは、私たちの弱さをさらけ出す悲劇の主人公に違いありません。