上田早夕里のレビュー一覧
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『交渉というのは価値観の異なる他者との対話だ。だから、ときにはまったく解決がつかない場合もある。どこまでいっても平行線にしか見えないことも……。
けれども、それに対して知恵を絞り、言葉を絞り、体力を絞って、両者が進むべき道を模索しなさい。その行為は、人間が最も知的である瞬間なんだよ。
たとえその場で、どれほど乱暴な、どれほど感情的な言葉が飛び交ったとしても、最後まで決してあきらめるな。間接的な効かせ方とはいえ、言葉は暴力を止められることもある。それを忘れてはいけない。』
人類滅亡が迫る中、言葉の力だけで平等で人々が安心できる社会を築こうとする青澄の行動原理に共感はできないけれども、共感できないからこそ物語が面白くなっているのですごく良かった。
人間の複雑な感情が織りなす物語をAIの視点で描いているところが秀逸。そのAIにこそ感情移入してしまう不思議な作品。
人類滅亡が始まるまでの40年間を描いた続編も読みたい!
久しぶりのSFだったけど、素敵な作品だったなぁ。 -
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「獣舟・魚舟」『華竜の宮』「リリエンタールの末裔」そしてこの『深紅の碑文』と続いてきたオーシャン・クロニクルシリーズですが、そこにはSFの面白味が詰まっているといっても過言ではない気がします。
アンドロイドや遺伝子改変といったテーマは、どこまでが人間なのか、どこからが人間ではないのか、といった古くからあるテーマを、より深く追求しているように思われます。
技術が進んだ上での戦闘兵器の発達、地球の陸地の多くが海に沈んだことによる海上民と陸上民との紛争は、人間の業の深さを考えさせられます。
SFとしての壮大な世界観をバックに、そうしたテーマをしっかりと浮かび上がらせていくのです。
そして、世界観の面白さや、倫理面だけにとどまらないのがこの作品のすごいところ!そこに住む人の生き様も、世界観に負けず劣らず濃密に描かれています。シリーズを通して、濃密に世界観が構築されただけあって、そこに生きる人々の生き様もより濃く描けるようになったのだと思えます。
救援活動を続ける青澄。海上民としての誇りを胸に突き進むザフィール。そして宇宙という夢に希望をつなげようとするユイ。それぞれが全く違う道を突き進んでいるのに、いずれの生き様にも説得力があり、そしていずれも、長編一作品くらいのドラマがある。これもまた、すごいことだと思います! そして、それを通して、過酷な世界に負けない人間の熱意や夢の部分にも光を当ててくれるのです!
設定負けもせず、世界観を丹念に描き切り、そしてそれぞれの人間ドラマも熱い!
本当にSF史に残るシリーズだってといっても、過言ではないと思いました! -
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『華竜の宮』以降、外交官を辞め、救援団体”パンディオン”を設立した青澄誠司。パンディオンの活動領域は広がりつつあるものの、後の大災害への不安から物資不足気味となり、それに端を発した陸上民と、陸の政治に不信感を持つ海上民との軋轢は、ますます広がりつつあった。青澄はそうした事態の改善のため、様々な人物や組織に働きかけるが……
上巻までを読んだ感想を端的に表すなら、圧倒されっぱなし!
世界のほとんどが水没し、陸地で暮らす人々と、海上で暮らす人々とに分かれた未来の世界。それにさらに、遺伝子操作やAI、兵器、そして、来たるべき大異変など様々なSF要素を盛り込んだ「魚舟・獣舟」『華竜の宮』でしたが、その世界観がさらに深く掘り下げられていきます。これだけ読み応えのある作品は、なかなかないと思います!
陸上民と海上民の文化の壁や、歴史の壁、様々な政治的陰謀が渦巻き、様々な個人の正義や哲学が作中でぶつかり合います。
しかし、そんな壮大で複雑な世界を、個人の視点からも、そして、全体の視点からも、ものの見事に描き切っているのです。構成力や設定の細やかさもあると思うのですが、それをアイディアで終わらせずに、文章で表現しきるその筆力たるや!
そして、この作品で描かれる世界は、現代の世界ととてもシンクロしている気がします。物資がなく貧困のため、権力や物資を持つ陸上民への不信感のため、海賊や暴徒化してしまう、海上民たちの反社会勢力”ラブカ”の姿は、ISのようなテロ組織の姿とシンクロします。
そして、彼らの活動のために、陸上民は海上民たちを信頼できなくなり、新たな断絶が生まれるというのも、テロ以降の、イスラム教徒への差別とつながるものがあるように思えます。
そして、そうした動きに便乗し、私腹を肥やそうとする人間たちもいれば、少しでも争いを収めようとする人たちもいます。彼らの行動も非常にリアルです。
読めば読むほどに、紛争を無くそうと活動する青澄の思想にも、そして、ラブカとならざるを得なかった、ザフィールたちの姿にも、共感を覚えてしまいます。異なる二つの立場をしっかりと描き切るあたりもさすがです。そして彼らの物語を読み込むほど、世界の複雑さが見えてくるあたりもすごい!
地球を滅亡させるほどの大変異が迫っている中でも、紛争をやめることができない人間たち。逆にそうした変異が迫っているからこそ、自分だけは助かりたい、と人々は利己的になり、結果紛争が生まれるのかもしれません。
そんな世界で何が正義となり、どう行動するのが正解なのか。作中の登場人物たちの行動力の源にあるのは、ひたすらに正解を追い求めるが故の力のような気がします。
登場人物たちがどのような結末をたどるのか、とても楽しみです。 -
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ネタバレ文句なしに、読書の快楽を味わわせてくれた中編集でした!感想長いぞ!
表題作「リリエンタールの末裔」は、至福の長編「華竜の宮」の前日譚。半生をかけて、翼を手に入れることを望んだ青年は、いつか宇宙へゆく技術の一端を担うことになるのか。彼の人生の先には大きな災厄が待っているのだけれど、まだその予兆は遠く、希望の予感を残す好編。
「マグネフィオ」。なんだか梶尾真治のクロノスを思い出した。SFと恋愛って、なかなか相性が難しいと思うんだけど、クロノスも本作も成功例のひとつだと思う(最高傑作は当然「夏への扉」) 。
恋した女性は自分の親友を選び、決して自分を選びなおすことはなかった…。まあそれだけの話なんだけど、ここに副脳と感覚データのデバイス化を突っ込んでくるのが、上田早夕里の凄いところ。で、この世界の延長には「華竜の宮」が…?
「ナイト•ブルーの記憶」。ダイバーの自分には、うらやましい限りの共感覚現象。ギンガメアジとバラクーダのトルネードが、その無数の鰭が水を掻く音を、肌で聴く快感…うおー、味わってみたい‼︎ …で、海の粘着物被害が広がりつつあるこの世界も、やがては「華竜の宮」へと…?
「幻のクロノメーター」。ひとりの英国人女性が、自分の半生を航海用時計の開発秘話にからめて語る、魅力的な中編。ところどころに挟みこまれる未来的な描写が、私たちの生きる時代より先の物語だと思わせるのに、読み終えてみればなんと19世紀!というパラレルワールドストーリー。
「自分たちが作りあげたものが、まるで命を持った生き物のように動き出すーあの瞬間の感動を知る生物である限り、私たちはいろんなものを作り続けることをやめないでしょう。安全なものも危険なものも、見境なしに作り続ける。それは人間の罪であり、同時に素晴らしさでもあると思うわ」
「いつの時代だって技術自体に罪はない。悪い使い方しかできないのだとすれば、それは人間が愚かだというだけのことよ。圧倒的な技術力を誇りながら、それを社会の幸せのために使えず、自分たちが滅びる方向にしか使えないのならー大勢の人間を苦しめ、不幸にし、ただのひとつも解決法を見出せないならばーそれは、ただただ、人間がそれまでの存在だというだけのことでしょう」
いちエンジニアとして、エリーの述懐も、理学と工学の相入れなさもよくわかるわー。ものを作り出すことって、ヒトにとって快楽なんだよね。知識欲って底なしで、個人としても種としても、求めずにはいられない。いつかそれが人類を滅ぼしちゃう日が来るんだろうか…もう来てたりして。 -
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ネタバレ短篇集。
* リリエンタールの末裔
空を飛ぶことを夢見て、たくさん働いてお金を貯めてグライダーを買うお話。裏のテーマは差別とかそういう感じのもの。リリエンタールとはハンググライダーの考案者。
* マグネフィオ
事故でなくなった人の心の動きを可視化したいという話。恋愛もの。ちょっと純粋すぎるかも。別に磁性化流体を使わなくてもディスプレイでも良いじゃんと思わないこともない。
* ナイト・ブルーの記録
海洋無人探査機を脳インタフェースで操縦しますよ。探査機を使っていたら、自分の手足のように感じてきましたよ。という話。
* 幻のクロノメーター
天文学と時計職人の話。途中から宇宙生物?らしきものが現れる。 -
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ネタバレ頭の中にサッと青いイメージが広がるSF短編集。
1本目は、差別が黙認される窮屈な社会の中まっすぐに空を目指し、力強く未来の希望を見つめる表題作。最初はファンタジー色が強いのかな?と思い、取っつきづらく感じたけれど、世界観に明確なビジョンがあってすんなりと話に入り込めた。
2本目は、人工感覚データの取引も目前となった時代、主観的感覚の価値が揺らぎ始めることが予感されるからこそ、苦しみも悲しみも全て手放すまいとする話。登場人物はみんな、自分の思うとおりに生きて、十分に欲張って…それなのに全然満たされていないように見えるのが、辛かった。
そんな感覚でさえも、かけがえのない大切なものとして抱きしめる姿は切ない。
3本目は、拡張した感覚で受け取る「海の手触り」の美しさと、感覚に付随する意識の変容、そして“人間性に縛られる人間”の姿がもどかしくも愛おしく描かれる話。これがすごく好き。
感覚の増幅って、こわいけど、すごく魅力的だ。人間はどこまで行けるんだろうと、ワクワクする。
4本目は、航海用の精密な時計づくりに人生をかけた男…を、見守り続けてきた観測者のお話。
実際の話に、ちょっと突飛にさえ感じるファンタジー要素を組み入れた不思議な話だった。
技術を磨き続ける人間の格好良さが、じわじわと胸に迫ってくる。
全編通して、「技術と共に生きる人間」が、確かなディテールで感じられて、読み応えがあった。こういうSF読みたいなあ、と思っていたんだ。 -
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前からずっと作者の作品を読んでみたくてやっと手に入れた作品でした。
すっーと流れ込んでくる流麗な文章でさらさらとページを捲れます。一作一作の物語の世界観がとても独創的で全てを映画化出来るんじゃ無いかな…って思っちゃいました。
作品を通して「人間とは…」と何やら哲学的な想いが底流にあり、ディストピア的であったり片やオカルティックであったりとありきたりの設定に酔うだけでなく、
そこからもう一歩踏み込んだような結末が面白くて色んな想像が頭の中を渦巻いて作者の世界に没頭出来た…最高にいい読書体験ですね。他の作品も読んでみたいと思います。稀有な才能の素晴らしい作品でした。お勧めです。 -
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テーマは可視化、ないしは具現化かな、と、読みしなにはおもっていた。
民族の誇りを内包した背中の鉤腕をフルに利用した飛翔。脳の機能障害を補完するためにうみだされた、水盤上に脳波で描かれる磁石の花を見せる装置。無人探査機の触覚と感覚を超えて身体的にシンクロした科学者。天体と同レベルの精度でときを刻む時計を世に送り出す職人の生涯。
繊細で美しい機械を媒介に、感情や思い、願いを増幅させる人間たち。その具現化がここで追い求められたテーマであり、その中心を担うのが人間の叡智たる科学でありマシンであろう、そんなふうに読み進めていた。
すべてを読み終えて振り返ると、それら、物語のど真ん中に据えられたはずのマシンたちは実は一様に脇役であることに気づく。実際にマシンで実現したいものは、対人間であればいともたやすく日々のなかに埋没される感覚だったり、人間が創り出した虚栄心や競争だったり。マシンで補強してまで希求する人間の欠乏感が、すべての根っこなのかもしれないと。
喪うから、求める。
喪うことができるのはそもそも存在していたからであるが、関係や感情、思いを元に戻し得るかの問いは物理と違って常に質量保存の法則が及ぶべくもない。しいていえば可塑性・可逆性の問題であるはずなのだ。だがここにでてくる登場人物たちはみな一様に、とにかく足りないパーツを埋めればなんとかなる、と、単純な足し算を律儀に繰り返す。あるものはひたすらに時計を作り、あるものは死にゆくものを触り、という具合に。
科学をベースにしながらも上田作品が繊細でしなやかなのはおそらくは、そのせいであろう。優美に詳細に生み出された科学の粋を尽くしたマシンたちは、あえて人への随意性を要件とされずに、人に柔らかにおもねる。
さいごの短編は、ことさらに丁寧に読んでいただきたい。実際の人知と科学に、人とのつながりとファンタジーを詰め込んだ、まさに白眉。
硬質な骨組みにしなやかな肉をまとった、優しいマシンたち。
そうか科学はこんなにも、甘やかでいとおしい、あたしたちの隣人、だったんだ。 -
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―――彼は空への憧れを決して忘れなかった。
長篇『華竜の宮』の世界の片隅で夢を叶えようとした少年の信念と勇気を描く表題作ほか
18世紀ロンドンにて航海用時計の開発に挑むジョン・ハリソンの周囲に起きた不思議を描く書き下ろし中篇「幻のクロノメーター」など
人間と技術の関係を問い直す傑作SF4篇。
長編SF「華龍の宮」を書いた上田 早夕里の短編集
表題作の爽やかな雰囲気好きやなー読んでて澄みきった空気吸ってるような感じやった。
人の心を「見る」装置にまつわる「マグネフィオ」は一転切ない雰囲気やったな。
白乙一が好きな人にはいい感じやと思う。話の構成とかアイデアが似てる。
人と機械が深くつながる未来を描いた「ナイト・ブルーの記録」は描写が詩的で非常に鮮やかやった。
伝記のようなSFのような「幻のクロノメーター」もなかなか素敵。
実在の人物を取り入れつつ、仕掛けもうまく機能してる
世界全体が降ってくるんです。私の上に。 -
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今まで、読む機会を逸していた作者の作品で、華竜の宮の評判が良いのは分かっていたが、読めていなかったので、こちらが初読になった。同じ世界観で描かれた表題作は、長編を読んでいなくても素直に読むことができ、良くある、分かっている人にしか分からないという狭隘な世界でなく、単独作品として十分に楽しめる。その他の作品もSFの体裁を取りながら、人間が主役で、そのために世界観を構築しているので、実に読みやすい。テーマは技術と人間との関係で、近い将来、人と機械の在り方が融合に近づいていくであろう世界で、それでも人間は人間なのだという話が良い。他の作品も読みたくなったのは久しぶりである。