笠井潔のレビュー一覧
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ネタバレ 購入済み
勿体ない
文章も構成も良くスラスラ読めるがオチが勿体なく感じた。梟が理恵から卓也に鞍替えした意味がよく伝わらない。タイトルが決まれば8割完成とは作者自身の考え方だろうか。4章は投げやりな雰囲気を感じる。
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ネタバレ言い訳(誰に対しての?)のようだが、仕事が忙しく、読んでいた別の本がなかなか進められなかった。そこで、やはり何かミステリが読みたくなった。かつ、講談社文庫が読みたかった。講談社文庫は文字が大きく、読みやすい。そういう気分になることは誰しも、定期的にあることと思う。
本書は書店で講談社文庫の本棚を見て、その場で決めて購入した。最近はそういう状態のものをみることがあるが、文庫に透明のカバーがかかっていて、いつものように内容をパラパラめくってみることができない。それでも、著者の作品はこれまでにも読んだことがあり、あえて中身を見ないままに購入した。
読み進めてしばらくして、主人公飛鳥井が、すでに老人と言っていいほどの年齢に達していることがわかった。意外ではあったが、私立探偵ときいて若くて生活能力のない、けれど事件となると天才的に活躍する…ような、よくあるイメージに収まらない主人公であり、新鮮だった。飛鳥井はむしろ文字通り仕事としての探偵業をストイックにこなすことのできる老練な男であって、現実の探偵とはこういうものかと感じた。
本作は、2015年か2016年ごろのSEALDsの活動があったころが舞台にされており、その他、地下鉄サリン事件などの現実の事件や社会問題等の要素も含まれている。ただ、最も大きな謎となる事件は40年前に起きていて、この謎には、現代の社会問題というよりも1960年代?の学生闘争や左翼運動などが大きく絡んでくる。自分の生まれていないその時代については、かつて大学生の中には安田講堂を占拠した人たちもいたのだという、今では考えられないような時代があったのだと、漠然とした感覚・知識しかなかった。そこにどういう思想的背景があったのかとか、その後の日本での民衆の政治的行為にどういう影響を与えたのかなど、そうした内容は、これも読み始める前は予想していなかったにせよ、興味深く、知ることができて良かったと思う。
謎解きの物語としても、飛鳥井が当時の関係者に相対し、うまく立ち回って次第に真相が明らかになる過程はテンポが良く、楽しめた。ただ、上述したように数十年前の社会情勢や左翼活動の複雑な経緯が、謎を解き、また、登場人物たちの行動を理解する大きな鍵になると思われたので、そうした内容にピンとこない読者もいるかもしれないと感じた。また、主要な登場人物たちのほとんどは高齢で、それ自体は本来作品の良しあしに影響はないはずだが、ただどうしても全体に地味な印象を与えてしまっているように思うのと、探偵の飛鳥井自身が、有能ではあるけれどあまりにも泰然としすぎているというか、老成しているといった印象を持った。
奇抜なトリックや、探偵たちを独特のキャラクターにすることで人気を得ているミステリーも多いと思われる中、異なる方向性の作品だと感じた。個人的には、昭和の時代にさかのぼって、謎を解いていく物語は好みだったし、その時代独特の雰囲気も読んで知ることもできたので、とても満足だった。 -
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現代ミステリの知的巨人が著した一人称探偵小説。「本格ミステリ+ハードボイルド+社会問題」という離れ業もベテラン笠井氏の手にかかれば一つの小説として成立しますね。
退屈な日々をやり過ごしていた探偵・飛鳥井史郎のもとに、17歳の可憐な少女・田之倉有美が父親探しの依頼に訪れる。飛鳥井は依頼をを請け負ったが、その有美が失踪。期を同じくして、清里で猟奇的な連続少女殺人事件が発生。少女たちの両親には共通の過去があり因縁と確執が隠されていたが…。
強固に練られた論理性、二転三転するストーリー、見事に回収される伏線。本格ミステリの雛型のような作品でした。主人公の飛鳥井は妻ジュリアと死別して米国から帰国した、中年の探偵。矢吹駆が本質直観で事件を鮮やかに解決していくのとは異なり、飛鳥井の等身大の試行錯誤が描かれます。この人物造形は著者自身を反映しているのでしょうか。気になるところです。
また、家族の形骸化や少女売春といった社会問題にも切り込むのが笠井氏流。ずしりとのしかかるような読後感です。 -
Posted by ブクログ
火曜日ごとに繰り返される猟奇殺人。<火曜日の謎><切断の謎><薔薇の謎><被害者の謎><アンドロギュヌスという署名の謎>から非業の死を遂げた女優ドミニクとの関連が浮上。事件の情報提供者とドミニクの妹ベアトリスがホテルで殺される事件が発生。15年前に起こった<ブレストの切り裂き魔>との関連。肉の両性具有人形の発見。
スピーディーな事件の展開と提示される謎は、読み応え十分。特に、ベアトリスが自宅とホテルの間を何度も移動した謎、「不在証明が不必要な人間がなぜ不在証明工作をやらなければならなかったのか」という謎が面白い。
しかし、矢吹駆が説明した真相は肩透かし気味。解答に切れや鮮やかさは感じられない。犯人の正体は二重に意外だし、矢吹駆が警察にある人物を監視するように依頼した本当の意味、肉の両性具有人形の現場で胸部が持ち去られていた理由などは面白いが、アリバイトリックで使われた方法がイマイチ。また、矢吹駆の語った内容は、事件の状況はうまく説明できてはいるが、必然性に乏しいと感じる。犯人が犯行に至った心理の説明も、難解で理解しがたい。
文庫本の解説を見ると、本書で取り扱っている思想は、バタイユという人物のものらしい。浅学の私は初めて聞く名前。バタイユを模したルノワールと矢吹駆との対話は難解だ。
この後の「哲学者の密室」と「オイディプス症候群」では重厚さが増して、ページ数も大幅に増えるが、不可解な事件の状況に対する論理的解釈の議論の比重が増す一方で、真相自体は地味で意外性に乏しいものに変貌していく。 -
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メディアが撒き散らす殺意を書いた作品であるが
この2年前に出版された鈴木光司「リング」ほどの
キャッチーさを持ち得てはいない
しかし「父性への失望」が引き金となって
人類を破滅へと導くラストは
後年、実際に持ち上がる衰退の兆し…すなわち
セックスレス/少子化問題について
予見的だったと言えないこともあるまい
そしてその「父性への失望」こそが
現代において私小説というジャンルを成立困難にしたものといえる
「ダメ」と「ダメじゃない」の区別がつきにくくなってきたというかね
しかし
「死の可能性」を踏破することで、これを乗り越えた者は
ひょっとしたらいたのかもしれない
それを考えると
この物語の結末にも、多少の希望があるように思えるのだった -
Posted by ブクログ
ネタバレ笠井潔の作品には学生運動の影響が色濃く出ている。
特に顕著なのは矢吹駆シリーズで、第一作『バイバイ、エンジェル』では連合赤軍事件の主犯永田洋子をモデルにした登場人物が現れる。
また本作の主人公竜王翔の設定は『熾天使の夏』で明かされる駆の過去と似通っている。
翔は山岳ベース事件の当事者であることが物語が進むにつれ明かされる。連合赤軍事件に関して言えば深い関わりのある主人公となっている。山篭りをしている点も矢吹駆と同じである。夢枕獏の『キマイラ』シリーズでも主人公は山篭りをしていた。山篭りで修業は一昔前の主人公のテンプレなのかも知れない。
物語は主に日本とベトナムで展開される。主題となっているのはベトナム戦争であり、枯れ葉作戦が重要なキーワードとなっている。全てはアメリカの陰謀であり、超能力者を生み出すことが目的だったのだ。
話の流れはスパイ小説的。面白かったが、『ヴァンパイヤー戦争』ほどではなかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ時代は全学共闘会議(全共闘)の終結から五年後。世界同時革命を目指し、リンチ事件の首謀者として逮捕され、刑期を終えて出所し、ひっそりと暮らしていた男に、かつての恋人から声がかかる。求めに応じ、かつての同志と再会した男は、同志から新たな革命運動への参加を求められ、男は、同志の革命思想を粉砕するために、あえて計画に乗ることにする。
これは、矢吹駆がナディア・モガールと出会う前、「革命」という高みを目指し、「革命」に目が眩み身を焼かれ、地に堕ちた熾天使(イーカロス)の、再生の物語――。
はっきり言って、これは推理小説ではなくハードボイルド小説、厳密には「革命」という名の観念に憑かれたテロリストを描いた小説である。だが、誰にでも現在があり、過去がある。推理小説ではなく、「矢吹駆」という「人間」に興味があるのであれば読んでほしい。これを読めば、今までとは違った観点から過去作品、特に『バイバイ、エンジェル』を捉えることになるだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレロシュフォール家殺人事件から数ヶ月を経た晩秋。奇怪な連続猟奇殺人事件が起きる。犯人は、①火曜日の深更に、②独り暮らしの娘を襲い、③絹紐で絞殺した後、④屍体の一部を切断のうえ持ち去る。現場に⑤赤い薔薇を撒き、⑥<アンドロギュヌス>と血の署名を残す……。被害者間の共通点を見出せず苦悩する捜査陣を尻目に、現象学を以って易々とミッシングリンクを拾い上げる日本人、矢吹駆。捜査が進むうち、事件は十数年前に起きた連続猟奇殺人事件とも関係していることも判明し……。
現象学を以って、「性犯罪には、二種類の特徴が挙げられる。性的な過剰エネルギーの爆発的な解放としてのものと、希少性の観念的充填を根拠とするもの」と説く日本人哲学者は、この事件に何を見出すのか。
今巻では、哲学×物語的な面は抑えられ、推理小説としての面が際立っている。だからだろうか、前二作と比べると、どうしても物語の密度が淡く感じられた。これはあとがき・解説にも触れられている通り、作者の心境の変化によるものだろう。
だが単体として、推理小説として読むなら、散りばめられた謎とその解読にいたる過程は楽しめた。推理小説が好きな人ならば、読まないよりは読んだ方が、悪くない。