Posted by ブクログ
2017年06月12日
火曜日ごとに繰り返される猟奇殺人。<火曜日の謎><切断の謎><薔薇の謎><被害者の謎><アンドロギュヌスという署名の謎>から非業の死を遂げた女優ドミニクとの関連が浮上。事件の情報提供者とドミニクの妹ベアトリスがホテルで殺される事件が発生。15年前に起こった<ブレストの切り裂き魔>との関連。肉の両性具...続きを読む有人形の発見。
スピーディーな事件の展開と提示される謎は、読み応え十分。特に、ベアトリスが自宅とホテルの間を何度も移動した謎、「不在証明が不必要な人間がなぜ不在証明工作をやらなければならなかったのか」という謎が面白い。
しかし、矢吹駆が説明した真相は肩透かし気味。解答に切れや鮮やかさは感じられない。犯人の正体は二重に意外だし、矢吹駆が警察にある人物を監視するように依頼した本当の意味、肉の両性具有人形の現場で胸部が持ち去られていた理由などは面白いが、アリバイトリックで使われた方法がイマイチ。また、矢吹駆の語った内容は、事件の状況はうまく説明できてはいるが、必然性に乏しいと感じる。犯人が犯行に至った心理の説明も、難解で理解しがたい。
文庫本の解説を見ると、本書で取り扱っている思想は、バタイユという人物のものらしい。浅学の私は初めて聞く名前。バタイユを模したルノワールと矢吹駆との対話は難解だ。
この後の「哲学者の密室」と「オイディプス症候群」では重厚さが増して、ページ数も大幅に増えるが、不可解な事件の状況に対する論理的解釈の議論の比重が増す一方で、真相自体は地味で意外性に乏しいものに変貌していく。