Posted by ブクログ
2019年03月23日
現代ミステリの知的巨人が著した一人称探偵小説。「本格ミステリ+ハードボイルド+社会問題」という離れ業もベテラン笠井氏の手にかかれば一つの小説として成立しますね。
退屈な日々をやり過ごしていた探偵・飛鳥井史郎のもとに、17歳の可憐な少女・田之倉有美が父親探しの依頼に訪れる。飛鳥井は依頼をを請け負った...続きを読むが、その有美が失踪。期を同じくして、清里で猟奇的な連続少女殺人事件が発生。少女たちの両親には共通の過去があり因縁と確執が隠されていたが…。
強固に練られた論理性、二転三転するストーリー、見事に回収される伏線。本格ミステリの雛型のような作品でした。主人公の飛鳥井は妻ジュリアと死別して米国から帰国した、中年の探偵。矢吹駆が本質直観で事件を鮮やかに解決していくのとは異なり、飛鳥井の等身大の試行錯誤が描かれます。この人物造形は著者自身を反映しているのでしょうか。気になるところです。
また、家族の形骸化や少女売春といった社会問題にも切り込むのが笠井氏流。ずしりとのしかかるような読後感です。