【感想・ネタバレ】薔薇の女のレビュー

あらすじ

フィリップ・モリスをひとつ――紙幣と共に差し出された名刺が、映画女優を夢みるシルヴィーに運命の訪れを告げていた。ささやかな贅沢で祝したその夜更け、自室の扉を叩く音に応じた彼女に賦与された未来は、あろうことか首なし屍体となって薔薇の散り敷く血の海に横たわることだった……。そして翌週には両腕を失った第二の、翌々週には両脚を奪われた第三の犠牲者が。明らかに同一犯人と見做される状況にも拘らず、生前の被害者たちに殺害されるに足る共通項を探しあぐね混乱するパリ警視庁。事件を統べる糸〈ドミニク・フランス〉を紡ぎ出してみせる矢吹駆の、鮮やぐ現象学的推理が織り成す、真相という名の意匠とは?/解説=山路龍天

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Posted by ブクログ

 『バイバイエンジェル』を読み、続けて『薔薇の女』を読む。
 矢吹駆は、現象学的手法によって本質直観で犯罪の真理に迫る。本書を読み終わって、なぜ矢吹駆の物語が、フランスでなければならないのか?が理解できたように思える。フランス哲学をベースにして、フランスの文学を要素にして、物語を紡ごうとする。笠井潔の言いたいことを本書の中で主張する。実に、巧妙で、綿密に練られた作品だ。そして、五人を殺し、ばらばら死体として、繋ぎ合わせて結合肉体をつくるという猟奇事件の解明が物語となる。よくぞ詰め込んだと思う。

 今回の事件の犯人は、「アンドロギュヌス(androgynous)、両性具有」である。
 著者は、両性具有説を説明する。プラトンの『饗宴(シュンポシオン)』という対話篇の中で、喜劇詩人アリストパネスが語る「アンドロギュノス神話」は、人間の愛の起源を説明する。男女だけでなく、アンドロギュノスという第三の性別が存在した。手足は4本ずつ、顔も2つ、性器も2つあり、身体の各パーツは現在の2倍あった。ゼウスは真っ二つに引き裂きさいた。これ以来、人間は失われた「もう半分」を求めて探し続けるようになった。この「失われた半身への渇望」こそが、人間が互いに愛し合う恋心(エロス)の起源である、とアリストパネスは語る。
 バルザック(著)『セラフィタ』は、両性具有が主人公。スウェーデンボルグの神秘主義思想が色濃く反映されている。
 そして、名門ハンガリー貴族の史上最大の残虐な大量虐殺者バートリ・エルジェベト伯爵夫人の事件から、残虐性を強調する。その残虐性はどこからきたのか?

 また、その物語の作中作家のジョルジュ・ルノワールが、ジョルジュバタイユの「全般経済学」という概念を使い、社会における「過剰なエネルギー」と「消費(蕩尽)」の原理について語る。
 第一に、彼は、近代社会がひたすら生産と蓄積を善とする経済合理性の原理に支配されていると指摘する。しかしながら、これは人間が持つ過剰なエネルギーを解放するものではないため、最終的には破綻をきたすと考える。
 第二に、消費(蕩尽)の必要性について述べる。ルノワールは、この過剰なエネルギーは「非生産的な消費」、すなわち蕩尽によってのみ解放されるべきものであり、その結果として人間は真の生の充実を得ることができると主張する。この「蕩尽」は、浪費や享楽、さらには性的な逸脱や暴力といった形で現れることがある。エジプトのピラミッドは、まさに過剰剰余の消費だとする。
 第三に、これらを性犯罪との関連性に結びつける。彼は、この蕩尽の原理を連続猟奇殺人の動機と結びつけている。すなわち、犯人は社会の経済合理性から逸脱し、過剰な性的エネルギーを「消費」するために犯行に及んでいるとするのである。この行為は社会秩序の外側にある「聖なる領域」に足を踏み入れる試みであり、その中に犯人のアイデンティティが隠されていると推理している。
 それに対して、矢吹駆は、悪を行う悪と、宗教儀礼としての悪を対置する。このルノワールと矢吹駆の論議が、なんとも異質の世界を作り出す。

 太陽の過剰なエネルギーが、破壊を生み出す。なぜか、カミュの『異邦人』の太陽がママンを殺したという言葉に通底する。

 また、ここで出てくる双子がプルーストの『失われた時を求めて』の女性アルべルチーヌとジルベルト。それは男の子の呼び名になるとアルベールとジルベールとなり、それが重要な役割を果たす双子となる。
 
 ドミニクフランスという映画女優は、ナチス登場までは大スターだった。そして、ナチスに協力したとして追放され、双子を産んで、その後自殺する。そして、ドミニク・フランスの出演した映画が毎週火曜日に上演され、その女の主人公の名前の女が殺され、ばらばら死体となる事件。そして、五作目の『アルベルチーヌ』が、殺されるという緊迫感の中で、アルベルチーヌは、誰かとなり、そこから矢吹駆は謎解きをしていくのだ。
 物語としては、哲学的対話とばらばら殺人事件の世界が分裂しているが、笠井潔が何を思想的な格闘をしているかがよく見える作品だ。
 

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

笠井潔さんの矢吹駆シリーズ、第3作。
火曜日の夜に起こる、若い女性の連続殺人事件におなじみの矢吹駆とナディアが挑みます。

笠井さんの作品の特徴には、哲学やら現代思想について、登場人物同士て対話したり議論したりするのが多いんだけど、難しくってついていけてない部分がある。
ちょっと残念。頑張って勉強しなきゃなぁ。

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2013年04月27日

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矢吹駆シリーズ

女を殺害し身体の一部をうばう猟奇殺人。「アンドロギュヌス」の謎。ニコライ・イリイチを追う矢吹駆。「アンドオロギュヌス」の犯行が行われる夜に上映されるドミニク・フランスの映画との関係。ドミニクの双子の息子たちとアルジェリアの動乱。ベアトリス・ベランジュとポール・ブルレーの殺害死体。アルベール・べランジュと弟・ジルベールの関係。

 2010年7月30日再読

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2010年07月30日

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ネタバレ

首を切られた女性の死体。壁に残された〈アンドロギュヌス〉の文字。更に次々に美女の肢体が切断される連続殺人事件と伝説的女優ドミニクの関係者の死。

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2025年11月08日

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バラバラ屍体のパーツを組み合わせて造られる究極の人体…

島田荘司「占星術殺人事件」の2年後に発表された今作は、驚天動地のトリック一発から逆算して書かれたような「占星術」とはまた違った、丁寧に組み上げられた論理仕掛けの摩天楼の屋上に着陸する。

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2019年06月29日

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ネタバレ

かなりひどい評判だったがなかなか面白かった。わりと分かりやすい内容だったということもあるが、誰が、なぜやったのかをきっちりと説明されていて、個人的にはかなりすっきりした。まぁ登場人物紹介に出ていた人物が、はじめからほとんど死んでいて、最後にはさらに減ったことには笑ったが。

ルノワールが、経済と性犯罪の関係を説明している部分が特に面白かった。

ところで、ヤン=ジルベールで合っているのだろうか?唐突すぎてわからなかった。

思想モデル:ジョルジュ・バタイユ

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2015年03月20日

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異常性欲と社会的理性が交錯するとき
両性具有者を模した人肉人形が企画制作される
ビューティフルドリーマーがその子宮より産み落とした悪夢である

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2012年05月31日

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前2作と比べたら格段に読みやすい。
けれど楽しみも面白さもキチンと保っていられる作者に脱帽。
以降の作品が楽しみになりました。

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2009年10月04日

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毎回ながら・・・読むのに時間が掛りました!でも事件事態が面白いデティールがいっぱいあり、私はワクワクしながら読みました。伝説的な女優の映画をテレビで放送する度に起きる猟奇殺人。血で署名されるアンドロギュヌスのサイン。アンドロギュヌス自体、なんだか血生臭いじゃないですか。そして切断されて持ち去られる体の一部。まさにまさに私好み!おまけにカケルのことが少しだが過去を含めでてくる。少しずつ影をみせてきた悪霊のことももちろん出てくるし。相変わらず、カケルの話は哲学的すぎて理解するのに大変ですけどね〜。

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2009年10月04日

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10数年ぶりの再読です。
吸血鬼と精神分析を再読していたら、なぜか無性に読みたくなりました。

作品中の性倒錯の考察などは、先日に読んだ、酒鬼薔薇聖斗のご両親の手記を自然と想起してしまいました。

この矢吹駆シリーズは実際の哲学者や思想家をモデルにした人物を登場させて、その思想を物語のモチーフにして、敷衍・展開していきます。
なので、このシリーズの小説のエッセンスは普遍的で古臭さを感じません。
ただ、難解なので読み進めるのはくろうしますが。

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2023年12月03日

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ネタバレ

やっと読んだーーー!

出だしは凄惨な場面から始まって戦慄モノでしたが
進むにつれて、ペダンティックな部分あり、
いかにも推理小説風あり、歯がゆい恋愛あり、
道化役みたいなオジさんありで
鍋料理みたいな1冊でした。

薔薇、双子、異国で活躍する日本人、猟奇殺人、親子関係の崩壊、…ってコレ、
浦沢直樹のMONSTERに似てるな…と、最後の最後で思いました。
あの漫画のテイストが好きなら、この「薔薇の女」もかなり好みなんじゃないかと思われます。

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2019年07月20日

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火曜日ごとに繰り返される猟奇殺人。<火曜日の謎><切断の謎><薔薇の謎><被害者の謎><アンドロギュヌスという署名の謎>から非業の死を遂げた女優ドミニクとの関連が浮上。事件の情報提供者とドミニクの妹ベアトリスがホテルで殺される事件が発生。15年前に起こった<ブレストの切り裂き魔>との関連。肉の両性具有人形の発見。

スピーディーな事件の展開と提示される謎は、読み応え十分。特に、ベアトリスが自宅とホテルの間を何度も移動した謎、「不在証明が不必要な人間がなぜ不在証明工作をやらなければならなかったのか」という謎が面白い。
しかし、矢吹駆が説明した真相は肩透かし気味。解答に切れや鮮やかさは感じられない。犯人の正体は二重に意外だし、矢吹駆が警察にある人物を監視するように依頼した本当の意味、肉の両性具有人形の現場で胸部が持ち去られていた理由などは面白いが、アリバイトリックで使われた方法がイマイチ。また、矢吹駆の語った内容は、事件の状況はうまく説明できてはいるが、必然性に乏しいと感じる。犯人が犯行に至った心理の説明も、難解で理解しがたい。
文庫本の解説を見ると、本書で取り扱っている思想は、バタイユという人物のものらしい。浅学の私は初めて聞く名前。バタイユを模したルノワールと矢吹駆との対話は難解だ。
この後の「哲学者の密室」と「オイディプス症候群」では重厚さが増して、ページ数も大幅に増えるが、不可解な事件の状況に対する論理的解釈の議論の比重が増す一方で、真相自体は地味で意外性に乏しいものに変貌していく。

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2017年06月12日

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ネタバレ

 ロシュフォール家殺人事件から数ヶ月を経た晩秋。奇怪な連続猟奇殺人事件が起きる。犯人は、①火曜日の深更に、②独り暮らしの娘を襲い、③絹紐で絞殺した後、④屍体の一部を切断のうえ持ち去る。現場に⑤赤い薔薇を撒き、⑥<アンドロギュヌス>と血の署名を残す……。被害者間の共通点を見出せず苦悩する捜査陣を尻目に、現象学を以って易々とミッシングリンクを拾い上げる日本人、矢吹駆。捜査が進むうち、事件は十数年前に起きた連続猟奇殺人事件とも関係していることも判明し……。

 現象学を以って、「性犯罪には、二種類の特徴が挙げられる。性的な過剰エネルギーの爆発的な解放としてのものと、希少性の観念的充填を根拠とするもの」と説く日本人哲学者は、この事件に何を見出すのか。


 今巻では、哲学×物語的な面は抑えられ、推理小説としての面が際立っている。だからだろうか、前二作と比べると、どうしても物語の密度が淡く感じられた。これはあとがき・解説にも触れられている通り、作者の心境の変化によるものだろう。
 だが単体として、推理小説として読むなら、散りばめられた謎とその解読にいたる過程は楽しめた。推理小説が好きな人ならば、読まないよりは読んだ方が、悪くない。

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2012年11月13日

Posted by ブクログ

過去二作は難しいながらも、そこが面白いと感じていました。
本作でも、思想に関することが盛り込まれていますが
どうも事件と思想のやり取りが噛み合わなくて…
事件自体はかなり平易で、推理の苦手な私にもほぼわかりました。
この人の作品は、謎解きと言うより、思想を伝えたい?ようなので
大きな問題では無いのかもしれませんが…
ちょっと拍子抜けしました。

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2011年11月27日

Posted by ブクログ

■天使的なるものの耐えられない重さ

火曜日の深更、独り暮らしの娘を絞殺し屍体の一部を持ち去る。現場には赤い薔薇と血の署名―映画女優を夢見るシルヴィーを皮切りに、連続切断魔の蛮行がパリ市街を席捲する。酷似した犯行状況にひきかえ、被害者間に接点を見出しかねて行き詰まる捜査当局……。事件のキーワードを提示する矢吹駆の現象学的推理が冴える、シリーズ第3弾!

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2012年11月07日

Posted by ブクログ

矢吹駆シリーズ3作目。初期三部作のラストを飾るこの小説。ナルシストがうんたらかんたらっていうくだりがおもしろかった。

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2009年10月04日

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