【感想・ネタバレ】新版 サイキック戦争1 紅蓮の海のレビュー

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Posted by ブクログ

『ヴァンパイヤー戦争』とおなじく、「コムレ・サーガ」シリーズの一つです。

本作の主人公の竜王翔(りゅうおう・かける)は、レジュー・ドールという黄金の目の怪人にうながされて、留学先のフランスに恋人のカンボジア人ソリダをのこして日本に帰国します。竜神村の山奥に引きこもった彼は奇妙な夢に悩まされ、山森老人から自分が古牟礼民の血を引く者であることを教えられます。山を下りた彼は、失踪した姉の小百合のゆくえを追って、戦争のさなかのヴェトナムへと向かいます。

濃密なエロスとヴァイオレンスでいろどられた『ヴァンパイヤー戦争』と似た作風ですが、本作の主人公の翔は『ヴァンパイヤー戦争』の九鬼鴻三郎のようなヒーローではなく、線の細い青年です。そんな彼が自分でももてあましてしまうほどの強い力を身につけてしまい、ときに自分の力によって引き起こされた運命に対する自責の念に苦しみながら戦うすがたがえがかれています。

そうした主人公の内省的なキャラクター造形を反映して、『ヴァンパイヤー戦争』よりエロス成分は控えめとなっており、「セカイ系」作品であつかわれる問題に通じる側面もあります。他方、ヴァイオレンス成分にかんしては、ヴェトナム戦争やカンボジア内戦が本作の舞台になっていることもあり、著者が『テロルの現象学――観念批判論序説』新版(2013年、作品社)で提起した政治と暴力をめぐる問題とからめつつ、伝奇小説的なヴァイオレンスの描写が展開されていて、そうした観点からも興味深く読めました。

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2020年09月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 笠井潔の作品には学生運動の影響が色濃く出ている。
 特に顕著なのは矢吹駆シリーズで、第一作『バイバイ、エンジェル』では連合赤軍事件の主犯永田洋子をモデルにした登場人物が現れる。
 また本作の主人公竜王翔の設定は『熾天使の夏』で明かされる駆の過去と似通っている。
 翔は山岳ベース事件の当事者であることが物語が進むにつれ明かされる。連合赤軍事件に関して言えば深い関わりのある主人公となっている。山篭りをしている点も矢吹駆と同じである。夢枕獏の『キマイラ』シリーズでも主人公は山篭りをしていた。山篭りで修業は一昔前の主人公のテンプレなのかも知れない。
 物語は主に日本とベトナムで展開される。主題となっているのはベトナム戦争であり、枯れ葉作戦が重要なキーワードとなっている。全てはアメリカの陰謀であり、超能力者を生み出すことが目的だったのだ。
 話の流れはスパイ小説的。面白かったが、『ヴァンパイヤー戦争』ほどではなかった。

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2013年07月10日

Posted by ブクログ

伝記ものといえばそうなのだけど、個人的には平井和正のウルフガイ・シリーズ、それもアダルトの方を思い出した。一種の無力感のようなものが似ているのである。ただし、色合いがずいぶん違うけれど。

タイトルのわりには、超能力のようなものはあまり前面に出てこない。どちらかといえば、無力な主人公の彷徨を追いかけているような雰囲気だ。逆襲に転じるのがあまりにも遅すぎて、おどろおどろしくも神がかった主人公だが、やはり無力感は否めない。

もちろん、作者はそんなことは承知の上でわざと書いているに違いなく、よく終わって感じるのは、超能力があろうとなかろうと、小さな個人を押しのけてうごめき回る、人類の悪意の総和の大きさである。

そのあたりのむなしさが、アダルト・ウルフガイの気分に似ているのかもしれない。

しかし、女子共に堂関を働く小説は、あまり後味がよいものではない。

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2012年04月27日

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