笠井潔のレビュー一覧
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舞台はパリのヴィクトル・ユゴー街。発生した連続殺人事件の謎を、現象学を駆使する日本人探偵・矢吹駆(以下カケル)が解き明かすというもの。この探偵、他の推理小説に登場する名探偵たちとはその推理手法が大きく異なっている。
カケルは「観察と推論と実験」を通じて真実へたどりつくという、一般的に用いられる推理手法に対し疑問を投げかける。「推論」は唯一の論理的筋道をたどっているというわけではない。なぜならその推論と論理的には同等の権利を持つ、他の無数の解釈が存在しうるからだ。そして仮に仮説に基づく推論の正しさを、実験的に証明できたとしても、なぜ探偵は無数の解釈の中から、その正しい推論に達することができたのだ -
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殺人に手を染めるほどの思想的根拠を持たない一般市民に
それを行わせるのは何だろうか
軽薄な実存主義ではけして言い表せないほどの正義の重みだろうか
いや違う
正義によって糾弾される罪の意識が肝要なのだ
みんな戦ってる
おまえは戦わないのか?
そういう類のやつだ
しかしそんなものを真に受けたのだとしても
いまここにある平和を偽りと断じ、ぶち壊しにかかる権利は誰にもない
それはエゴである
平和の裏には虐げられてる人がいて
自分にはそういう権利があると考えてしまいがちだが
それもエゴである
まあエゴはエゴでいいんだけどね
そんなものと革命の理想を一緒にするのは冒涜的でゆるせん
矢吹駆はそういうやつ -
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前作「バイバイ、エンジェル」は薀蓄が哲学的で非常に難解でしたが、本作は前作ほどではなく、且つ情景描写が多くなっているので、若干取っ付き易くなっていると思います。確かにカケルと女教師シモーヌの思想対決は骨が折れますが、物語の本筋と密接に絡んでいるので不思議と引き込まれます。
ストーリーは、ヨハネ黙示録の見立て殺人、二度殺される死体、密室殺人、アリバイ崩し、キリスト教異端カタリ派の秘宝伝説など、これでもかと言うくらい本格ガジェットのが詰め込まれています。トリックはそれほど凝ったものではありませんが巧さを感じますし、見立てた理由も納得のいくものになっています。途中で語り手のナディアとバルベス警部の推 -
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『家庭内離婚という奇妙な言葉が、日本を離れているあいだに流行しはじめたようだ。夫婦関係も親子関係も空洞化の極点に達しているのに、なぜか物理的には崩壊することがない。夫と妻、親と子を、なにが、それほどまで執拗に結びつけているのか。
日本人の誰もが、こうした不可解さに胸を逆撫でされ、事件関係の報道に目を通してきたに違いない。アメリカ社会は歴然として病んでいるが、日本社会は見えない部分で、さらにグロテスクに病んでいる。平穏な家庭風景の背後に隠された、異様きわまりない人間関係の病理。』
20年前の作品だけど、素晴らしい。
お得意の社会派推理小説。それにしても、笠井さんは全共闘にこだわるなぁ〜。 -
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ネタバレパリで起こる首切り死体から始まった連続殺人事件の謎を解明する話。
謎解きの肝は最後に記すとして、ラストの犯人と探偵役矢吹駆のやりとりが圧巻!
するとこなんだが何を言ってるのかついていけない。人間の死に関する自論展開になっている。
犯人たちが最後死ぬことになったのはやるせない。矢吹駆は犯人たちをそこまで追い込むやり方をとるのは賛同できないが、彼ならやってもおかしくないと思わせるだけの説明は作中されている。そこらへんは上手い。
以下メモ代わり
謎解きの肝となった何故死体の首が切られたか。死体が化粧をしていなかったことをばれないようにするため。
アリバイ作りのために犯人は被害者が化粧をし終わった -
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ネタバレ矢吹駆の凄まじいイケメン描写に圧倒され、しばらく読まないだろうと思っていたが、思いきって読むことにした。
やけに小難しく、かなり衒学的な小説だが、読んでみると意外と納得できる部分もある。
追記:犯人やあの人物の正体は、はじめからかなりヒントが出ていたので予想通りだった(特に黒幕はタイトルだけでわかるかも…)。動機はほとんど推理不可能なものだったが。
最後の黒幕との舌戦?や、たまに入る蘊蓄がいかにも文系という感じで笑えるくらいだったが、舞台が外国であることや、矢吹駆が日本語ではない言葉を話しているということでまぁ納得できる。
ナディアが推理を披露して玉砕する点や、殺人の動機が思いもよらな -
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再読。
ミステリとして矢吹駆シリーズは別格レベル。本作を再読してもその思いは変わらず。
しかし今回は、以前気づけなかった重大なシーンを発見した。
『くしゃくしゃの髪を片手の指で整えながら狭い階段を家の戸口まで駆け降りたわたしに、自転車を横に立てたカケルがおもむろにこういう。
「僕も行こう。シモーヌ・リュミエールに話があるんだ」
ゆっくりと走り出した自転車の後ろに、わたしは駆け寄りざま跳び乗った。
「速くね、カケル」』
カケルゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!!!!!!!!
何してんのカケル!と思わず悶えるこの場面。
本質直感も吹っ飛ぶこの衝撃。
カケルが自転車に乗ってる!!! しかもなぜか -
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よくできたフィギュアをおまけにした本やら菓子やらが大人を対象にして売れているという記事を最近新聞で目にした。「付加価値」というやつだろう。ただの本や菓子には食傷気味の消費者であっても目先を変えることで、もう一度購買意欲を喚起することができる。笠井潔の「矢吹駆」シリーズには、おまけ付き菓子を思い出させるところがあると言ったら作者は気を悪くするだろうか。
新作『オイディプス症候群』が出たのに合わせたのかどうか、十年前に出た旧作の『哲学者の密室』が文庫版で再版された。まず新作を、その後旧作を読んだのだが、読後の印象としては、旧作『哲学者の密室』の方が印象が深い。おまけについているのは、新作の方が、 -
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ネタバレ1945年のドイツと1974年のフランス、30年の時を経て起きた2種類の「三重密室」事件。現象学を駆使する哲学者が読み解く、事件解決に必要な、関係者達が抱えるそれぞれの「死の哲学」とは。
「死」とは、「生」とは何かを考えさせられる、哲学的推理小説。
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残酷で悲劇的な死の描写で溢れているが、映像化されたほど人気がある作品がある。なぜこのような絶望的なサバイバルを描いた作品に一定の人気があるのか。そう考えたことはないだろ -
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矢吹駆シリーズ二作目。本格的な探偵小説とそれへのメタ的視点、思想や哲学を一緒にやったのがこのシリーズの特徴だが、今回はカタリ派の財宝やらナチズムの影やらヨーロッパの魔術史やら歴史、伝奇オカルトまで一緒にやろうとした感じすらある。ものすごいペダントリーと蘊蓄である
事件も二回殺された死体や密室の首吊りと本格的で、しかも黙示録に見立ててあるから怪しげな雰囲気は満点。好きな人は一気にはまる大作だろう
今回は矢吹駆があんまり探偵してなくて(ただし、詳しく言えないが後半どんでん返しあり)、純粋にシモーヌ・ヴェイユ神学との対決をしてる印象。しかし今回の矢吹はウザい(笑)!オレが哲学の教師だったらこ -
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凶弾に襲われたカケルを気遣い、南仏へ同行したナディアだったが、二人の目の前でヨハネ黙示録に見立てた殺人事件が発生する。中世異端カタリ派の聖地を舞台にした事件は、連続殺人の様相を呈するが・・・。
二度殺された死体、見立て殺人、古城の密室、秘宝伝説、意匠溢れる本格推理小説の傑作。
とにかく重厚。濃密な思想世界。前作は矢吹駆のペダンチックなキャラクタとか哲学思想に頭がひたすらクラクラしましたが、今作はそれに加えてキリスト教と本格推理小説と相変わらずの現象学と・・・おなかいっぱいというか頭がいっぱいすぐる(^q^)
また哲学や宗教の蘊蓄を延々語るんじゃないだろうな・・・と身構えていたら、上記の紹介