笠井潔のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ1945年のドイツと1974年のフランス、30年の時を経て起きた2種類の「三重密室」事件。現象学を駆使する哲学者が読み解く、事件解決に必要な、関係者達が抱えるそれぞれの「死の哲学」とは。
「死」とは、「生」とは何かを考えさせられる、哲学的推理小説。
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残酷で悲劇的な死の描写で溢れているが、映像化されたほど人気がある作品がある。なぜこのような絶望的なサバイバルを描いた作品に一定の人気があるのか。そう考えたことはないだろうか。この『哲学者の密室』は、その回答となりえるかもしれない。
この作品は三部に分かれている。前篇の舞台は1974年のフランス。匿名の通報で資産家の家に駆けつけた警察が発見したのは、胸部に刃が突き刺された老人の死体。しかも発見場所は、簡単に言うと「三重の密室」で閉ざされており、解決の困難さが容易に想起できる複雑怪奇な様相を見せていた。この事件の謎に、現場に駆けつけた警視、警視の娘、娘の友人である哲学者の三者が挑む。
中篇では舞台は一転、1945年のドイツとなる。場所はユダヤ人の強制収容所、悪名高い絶滅収容所、殺人工場である。そこの所長に囲われていたユダヤ人女性が、監禁場所で死体となって発見された。発見者は敵の進軍を考慮し、収容所の撤収作業を命ぜられた武装親衛隊少佐に同行した部下の軍曹。現場には所長がいて自殺を主張するが、死体には他殺の疑いも残っていた。しかも現場は、所長以外の人間の出入りが不可能な「三重の密室」の体を成していた。
後篇ではフランスに戻り、過去のドイツと現在のフランス、双方の密室事件の解明が試みられる。ここで哲学者・矢吹駆が考察するのは、関係者それぞれが抱える「死の哲学」だった。
彼は言う。
「(前略)長いこと僕は、死とはたんなる生の不在であると感じていた。あるいは死は、瞬間的に到来するものだと。
暖かい室内から、凍えるような戸外に出る。生と死は、そのように直線で分割された、対照的な二つの領域であると。だから、できることなら自分に納得できるような形で、生と死を分けている絶対的な線を越えたいとも願った。
しかし、そのような画然とした死は、たぶん青年が想像する死なんだね。そのような死もありうるだろう、たとえば戦場の死のように。しかし、それは例外的なんだ。死とは、本質的に惨めなものではないだろうか、あの老婆のように。惨めで、だらしなくて、無様に弛んで、直視できないほどに醜いもの。我慢できないほどの嫌悪感をもたらすもの、不気味なもの、おぞましいもの。(後略)」【690頁】
「そのおぞましい死を隠蔽するために、勇敢な死、決意された死、美しい死の観念が生じる。」――と若き哲学者は続ける。
絶望的なサバイバルの中で、キャラクターは惨たらしい最期を迎える。喰われたり、裂かれたり、潰されたり。だが、あくまでそれらは虚構であり、例外的だ。何事も起きない限り、我々が迎える死は、苦痛に満ちた、永遠に続くかにも感じられる、だらだらとしたモラトリアム(猶予期間)のような死期である。
人は、自覚・無自覚に関わらずその事実から目を背けたいがために、躍動感や未来に対する希望などに溢れた生と、理不尽な突然死が描かれた作品に目を向けるのではないだろうか。
そして、だからこそ、山田雄介に代表されるホラーやヒロイックな物語、怪談等が周期的に売れるのではないだろうか。 -
Posted by ブクログ
矢吹駆シリーズ二作目。本格的な探偵小説とそれへのメタ的視点、思想や哲学を一緒にやったのがこのシリーズの特徴だが、今回はカタリ派の財宝やらナチズムの影やらヨーロッパの魔術史やら歴史、伝奇オカルトまで一緒にやろうとした感じすらある。ものすごいペダントリーと蘊蓄である
事件も二回殺された死体や密室の首吊りと本格的で、しかも黙示録に見立ててあるから怪しげな雰囲気は満点。好きな人は一気にはまる大作だろう
今回は矢吹駆があんまり探偵してなくて(ただし、詳しく言えないが後半どんでん返しあり)、純粋にシモーヌ・ヴェイユ神学との対決をしてる印象。しかし今回の矢吹はウザい(笑)!オレが哲学の教師だったらこういう考え方の生徒はぶん殴りたくなる。だけに今回の結末はなんか納得
矢吹のナルシシズムが軽く揺さぶられるのもオレ的にポイント高いが、今回は事件の流れと思想的対決を、ちゃんと小説として密接に絡ませたのがポイント高いなあ。初期の矢吹駆じゃ一番面白いかもしれん。そして浮かび上がる真の悪役、ニコライ・イリイチ。彼との対決は、いよいよ初期三部作のラスト、薔薇の女へ持ち越しか?次回はバタイユ思想と対決するようだ -
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凶弾に襲われたカケルを気遣い、南仏へ同行したナディアだったが、二人の目の前でヨハネ黙示録に見立てた殺人事件が発生する。中世異端カタリ派の聖地を舞台にした事件は、連続殺人の様相を呈するが・・・。
二度殺された死体、見立て殺人、古城の密室、秘宝伝説、意匠溢れる本格推理小説の傑作。
とにかく重厚。濃密な思想世界。前作は矢吹駆のペダンチックなキャラクタとか哲学思想に頭がひたすらクラクラしましたが、今作はそれに加えてキリスト教と本格推理小説と相変わらずの現象学と・・・おなかいっぱいというか頭がいっぱいすぐる(^q^)
また哲学や宗教の蘊蓄を延々語るんじゃないだろうな・・・と身構えていたら、上記の紹介文のようにしっかり本格しててビックリ。このページ数にこれだけの内容を凝縮した笠井潔・・・脱帽。
相変わらず矢吹駆は主人公らしからぬニヒルなヤツ^^ですが、どこか惹きつけられてしまう危うい魅力がありますね〜。ナディアの気持ちが分らなくもない^^
哲学・思想・宗教に興味のある読書好きな方は楽しめるはず。 -
Posted by ブクログ
矢吹駆シリーズ
謎の組織に銃撃された駆。ナディアと共に南仏を訪れた駆。アルヴィジョア十字軍の財宝、カタリア派の謎。原子力発電所の建設問題に揺れるロシフォール家。ナディアの友人ジゼールの母・ジュヌヴィエーヌ・ロシュフォールの死の真相。犯人として逮捕されたジャン・ノディエ。遺跡の研究の為に訪れたドイツ人ワルター・フェスト殺害事件。2回殺された死体。黙示録に見立てらた連続殺人。ジャン・ノディエの絞殺事件。ニコル・ロシュフォールの墜落死。ジゼールの婚約者・ジュリアン・リュミエールの推理。ジュリアンの姉・シモーヌに突き付けられた真実。ニコライ・イリイチの影。 -
Posted by ブクログ
カケル&ナディアシリーズの第4作目。
この分厚さ(文庫本で1160ページ)は、30年前の事件を間に挟んでいたためだったのですね。
カケルやナディアたちが存在している「現在」で起きた密室殺人と、30年前、第二次世界大戦中にコフカ収容所で起きた密室殺人。
いままでのシリーズ作品同様、事件を解決してゆく推理小説というよりも、それを取り巻く人たちの人生、密室の謎を解いていく際に吐露される、それぞれの生死の捕らえ方、哲学論がこの作品の中心にあるように思います。
間に挟まれている30年前の収容所での出来事。
戦時中の、しかもユダヤ人虐殺に関する描写であるため、読んでいてツライ部分も多く、一体どこで「現在」の密室につながってくるのかと、その部分を読み始めた頃は斜め読みしていたのですが、次第にその雰囲気に心を捕らえられてしまいました。
吹雪の中、重々しい影を背負ったコフカ収容所、コンプレックスばかりでその身を包んだ、御山の大将・フーデンブルグ所長の哀しい虚勢。
彼とは対照的な、美しい外見と名誉を持ったヴェルナー少佐が訪ねてきて・・・。
ユダヤ人虐殺や、収容所で過ごした過去を持つ人たちの苦悩について、読み進めながら私もいろいろ考えさせられました。
人の生死に関する哲学的な議論も興味深かった。
そして事件の舞台となる30年前のコフカ収容所にせよ、現在のダッソー邸にせよ、そこの寒さや匂いを感じさせて、まるでその場所にいるように感じさせる筆者の描写力に、改めて圧倒されました。
次はついに、シリーズ最後の作品(現時点では。)。期待大です。 -
Posted by ブクログ
このミス2位とかいうから読んでみようかと思ったら、京極真っ青な極アツ凶器本!!しかも矢吹駆シリーズというのの8作品目だったらしい。なんてこと!!
まっさらのを読みたいんだよ!!こちとら!!読めたけど。フランス人でおフランス舞台だしさぁ…筋は面白かったけど、ちょっとクドかったです。少し胸焼けがします。
ナディア・モガールと矢吹駆はダッソー邸に招待されて訪れる。四阿に老婦人のハンナカウフマンさんに会う。ボリヴィアからフランスに移送されるナチ幹部のクラウス・ヴォルフに会いたいとのこと。ふたりはダッソーの夕食に招待される。
一度フランソワダッソーと顔を合わせるが、夕食まで1時間、一度外出するという。ほぼ晩餐のメンバーが揃ったところで屋敷の電話が鳴った。娘を誘拐したという。娘のソフィーは家にいたが運転手の娘のサラがいない。犯人に伝えたが、要求は変わらないと。現金と37カラットのブルーダイヤ通称ニコレの涙を渡せという。
モガール嬢が身代金受け渡し役を犯人に任命される。警察に連絡。午前中にも別の誘拐事件が起きているらしい。9時に電話があり、9:45にオデオン広場のダントン像前で焼き栗を買うよう言われる。
一方聖ジュヌヴィエーヴ学院では学院長が殺されていた。デスク横の床に拳銃が落ちていた。がこれは発射された形跡はない。凶器は持ち去られたようだ。どうやら引出しも荒らされている。家の鍵がなくなっている。学院長は夫のルドリュと離婚協議中だった。
焼き栗屋から封筒を渡される。サン・ミッシェル河岸通りに入って橋から4つ目の古本屋台の右下とかいてある。行ってみると、鞄の鍵を川に捨て、プティ・ポン街の珈琲店ラタンでカルディナールを注文しろとある。次はホテルオルレアンのフロント前。電話がかかってきて、左3件目の通路奥のダストシュートにカバンを入れる。
警察は鞄を持った男を捕まえるが、捕まったメルレも息子を誘拐されたという。そしてダッソーへの電話を指示された。鞄はすり替えられていた。メルレの息子とサラは無事保護されて、傍に殺されたルドリュの死体があった。サラが撃ったのだ。身代金とダイヤは無事。
夜遅かったので、ダッソー邸に泊まった。ドレスはクリーニングに出して新しい衣服が置いてある。ソフィーは級友のアンドレに午後四時にドレス姿を見せる約束をしていたのだそうだ。だがサラが着て出て行ってしまった。
聖ジュヌヴィエーヴ学院では入学して三ヶ月もたたないうちに姿を消した生徒がいた。アデル・リジュー。2年前のことだ。
カケルがルドリュとカウフマンが学院長が殺された時間に会っていたはずだと言い出す。ルドリュが殺した線がなくなって迷走するかに見えたが… -
Posted by ブクログ
矢吹駆とナディアが、ダッソー家の晩餐会に招待されたその日に一人娘のソフィーを誘拐したとの電話がある。
だが、ソフィーは家に居て、間違えられて誘拐されたのは、運転手の娘・サラだった。
それでも身代金要求をし、運搬役をナディアにと指名される。
次々と指示を受けて走り回るナディア。
そして…。
同日の午前中にも誘拐があり、午後にはカトリック系私立学院で殺人事件が。
間違われた誘拐と最初の誘拐という二重誘拐そして殺人に繋がりがあった。
誘拐と殺人は、交換犯罪ということなのか。
次々と覆っていくことに一体何が真実なのかと思い、この二人の少女を操っていたのは…という驚き。
何より矢吹駆は、全てにおいて少しも動じず事件については言葉少なく、イリイチのことがわかっていたかのよう。
哲学者・ハンナとは長く語っていたが、それが必要なことだと思えた。