笠井潔のレビュー一覧
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ネタバレ時代は全学共闘会議(全共闘)の終結から五年後。世界同時革命を目指し、リンチ事件の首謀者として逮捕され、刑期を終えて出所し、ひっそりと暮らしていた男に、かつての恋人から声がかかる。求めに応じ、かつての同志と再会した男は、同志から新たな革命運動への参加を求められ、男は、同志の革命思想を粉砕するために、あえて計画に乗ることにする。
これは、矢吹駆がナディア・モガールと出会う前、「革命」という高みを目指し、「革命」に目が眩み身を焼かれ、地に堕ちた熾天使(イーカロス)の、再生の物語――。
はっきり言って、これは推理小説ではなくハードボイルド小説、厳密には「革命」という名の観念に憑かれたテロリス -
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ネタバレロシュフォール家殺人事件から数ヶ月を経た晩秋。奇怪な連続猟奇殺人事件が起きる。犯人は、①火曜日の深更に、②独り暮らしの娘を襲い、③絹紐で絞殺した後、④屍体の一部を切断のうえ持ち去る。現場に⑤赤い薔薇を撒き、⑥<アンドロギュヌス>と血の署名を残す……。被害者間の共通点を見出せず苦悩する捜査陣を尻目に、現象学を以って易々とミッシングリンクを拾い上げる日本人、矢吹駆。捜査が進むうち、事件は十数年前に起きた連続猟奇殺人事件とも関係していることも判明し……。
現象学を以って、「性犯罪には、二種類の特徴が挙げられる。性的な過剰エネルギーの爆発的な解放としてのものと、希少性の観念的充填を根拠とするもの -
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ネタバレ①事件に関しては、ただ自分の関心に沿って考察し判断する。場合によっては捜査関係者を欺くことも厭わない。
②犯罪を現象学的に考察するために、ひとつの犯罪が現象としてどのようにして生成していくのかを、始めから終わりまではっきりと見届ける必要がある。そのため、事件を未然に防ぐことになる干渉行為は極力行わない。
③事件が終わるまでは、①②を理由に、社会的な責任や人間的な反応といったものは極力表に出さない。
これは、ラルース家事件の時に、矢吹がナディアに語った、自身が事件に関わるときに決めたルールの要約である。今回も矢吹は、そのルールに従い、最初の事件が起きた時、成り行きを喝破していたにも -
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ネタバレ矢吹が作中で語られるとおり、様々な事件は大きく2つに分けられる。「自らの欲を満たすための事件」と「憑かれた観念を正当化するための事件」だ。そして事件の真相は後者である。
思想、政治、宗教。あらゆる「観念による犯罪」は、古今東西、いつでも、どこでも、更に虚実も差別することなく起きている。しかし、「観念」には罪もあれば功もある。観念による「犯罪」をこの世から一掃することは、その観念による「芸術」も一掃することになり、ゆえに、「人間」である限りは観念による犯罪は無くならないと矢吹は言っている。
犯罪者に憑いた観念を、矢吹は「悪魔」と称した。ミステリ好きを公言する者なら、「悪魔」を「憑き物」 -
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伝記ものといえばそうなのだけど、個人的には平井和正のウルフガイ・シリーズ、それもアダルトの方を思い出した。一種の無力感のようなものが似ているのである。ただし、色合いがずいぶん違うけれど。
タイトルのわりには、超能力のようなものはあまり前面に出てこない。どちらかといえば、無力な主人公の彷徨を追いかけているような雰囲気だ。逆襲に転じるのがあまりにも遅すぎて、おどろおどろしくも神がかった主人公だが、やはり無力感は否めない。
もちろん、作者はそんなことは承知の上でわざと書いているに違いなく、よく終わって感じるのは、超能力があろうとなかろうと、小さな個人を押しのけてうごめき回る、人類の悪意の総和の大