田口俊樹のレビュー一覧
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ダーティーな刑事が、裏切者の枠の中でもがき踏み止まろうとするストーリー。ミステリ要素はほとんどない。彼らは汚職で手にした金で贅沢するのではなく、子供たちをいい大学に通わせるための資金にしようとするなど、あくまで目的は現実的。少し前に見た海外ドラマ『シェイズ・オブ・ブルー』を連想してしまう。下巻に入った辺りから徐々に歯車が動き出す。
そこで描かれるのは、腐敗の底なし沼と圧倒的なリアリズム。マローンが目指すところは、ニューヨークの犯罪組織を根こそぎ撲滅することではなく、犯罪組織を管理し現状を維持すること。このスタンスに現場の警察官のハードさがよく表れているように、作者の刑事に対する共感や敬意が本作品の根底にある。巻頭に列挙された殉職警察官のリストは印象的。
帯には”犬の力 ザ・カルテル すべてはこの作品のプロローグに過ぎなかった!”とあるが、それは過大評価。スケール、熱量、どれをとっても二作品の方が上回っている。マローンのキャラにしても途中から「刑事の王」に見えなくなってきたし、ツッコミたくなるシーンもちらほらあったかな。
ジャンルとしてはノワールでしょう。これを「警察小説」とすると、汚職刑事を肯定するようでイヤなので、個人的には犯罪小説として読んでほしいです。 -
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こういうのを力業って言うんだろうなあ。主人公は、賄賂を贈り受け取り、押収薬物をかすめ取り、私刑をためらわずに殺人まで犯す悪徳警官。おまけにこいつは街の「キング」を自認する、ヒーロー気取りが鼻について仕方がないヤツなのだ。まあウインズロウなので、お話は面白く、上巻は我慢してつきあってやるかという気持ちだったのだが、あーら不思議、下巻の途中からはいつのまにか、このマローンに肩入れしてハラハラしながら読んでいるではないか。
およそ共感を呼ぶタイプとは言えないこういう主人公を造型し、最終的には感動的なラストへ持って行くというこの離れ業。ウインズロウの凄さをあらためて見せつけられた気がした。むせかえるような熱気がページから立ちのぼり、特に終盤の迫力は圧倒的だ。「本の雑誌」の新刊ガイドで「あまりのかっこよさに身もだえ必至の血みどろ外道ポリス・アクション・ノワールの傑作」と紹介されているが、確かにそうだろうと思う。
しかし、これを「かっこいい」と言い切るのは、私は抵抗がある。読みながらまるでヤクザやマフィアものみたいだなあと思ったが、それらと決定的に違うのは、マローンが権力の側にいることだ。現場はもとより、警察上層部や行政幹部、果ては司法に携わる者にまで深く腐敗ははびこり、何が正義かわからない混沌とした状況の中、自分の体を張って少しでも害悪を取り除こうとしたマローンの生き方には心を揺さぶられるものがある。それでも、悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。
もちろんウインズロウは単純な暴力礼賛を書いているのではなくて(当然だけど)、どうしようもなくそこに向かって一歩一歩進んで行ってしまう、人間の苦悩を描いている。そこに人を惹きつける力があると思う。それでもやはり私は、同じ米国警察小説で言えば、コナリーの書くボッシュが好きだ。1対1の状況でシリアルキラーを追い詰めながら、ボッシュは引き金をひけなかった。そいつが当然償うべき罪から逃れるかもしれないとわかっていたのに。そのことで苦しみつつ、「自分が戦う相手と同じものになる」ことを拒む姿を断固支持するのだ。 -
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犬のギヴが主人公の物語。ギヴの最初の飼い主はモーテルを経営する女性のアンナ。モーテルに止まった兄弟のうち、兄がギヴを盗む。そして、弟と知り合った女性のルーシーの手にギヴが渡る。しかし、ルーシーはハリケーンのカトリーナの被害に遭い死亡する。ギヴは様々な困難を乗り越えながら、物語の語り手のディーン・ヒコックに出会う。そして最後は、・・・。読んでいて悲しくもなり、微笑ましくもなり、様々な感情を味わえる。犬好きであれば、ギヴの一挙手一投足に共感を覚えるだろう。ギヴが主人公であるが、犬の視点で語られることはなく、あくまでも人間が物語を綴る。小説として面白い試みであるし、それが成功している。本屋大賞の翻訳部門に入賞したのも頷ける。
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犬より猫派なのに、去年は本も映画も犬にとことん泣かされ、その勢いで本作にも手を出しました。各節の冒頭にある太字の部分がとっつきにくく、読むのに難儀しそうな気配。訳者のあとがきから読めば、それも払拭されます。
ギヴと名付けられた一匹の犬をめぐる物語。飼い主のもとから盗み出され、それでも次の優しい飼い主に出会うことができたのに、降りかかる不幸。
訳者が言うように、著者はギヴをまったく擬人化しません。ギヴの気持ちを推し量ったりしなくても、ギヴの行動をそのまま記せば、それだけで何もかもわかるのだというように。
やはり犬ものの『容疑者』に比べると、私には没頭しにくい文体ではありましたが、それでも涙が出そうになったところがいくつも。犬好きにはたまらないだろうと言うけれど、猫好きでもたまらん。 -
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ネタバレオリバー・ストーン監督の映画「スノーデン」を補完しようと読んでみた。
本書の前半は、映画の香港でのシーンそのままだ。本書を読んで、スノーデンの決意、その貴重な情報をいかに効果的に世に問うかに煩悶とする<ガーディアン>陣営の苦悩が良く理解できた。本書を読んで、映画を再度見直したくなった。
映画ではジョセフ・ゴードン=レヴィットが実に人間味のあるスノーデン像を演じきっていて、実物以上の好人物と思って観ていたが、本物のスノーデンも実に知的で思慮深く、なにより覚悟が素晴らしい。
言葉のひと言ひと言が、実に深い!
「マスメディアの自由闊達な精神の保持とインターネットの自由のために戦ってください。私は政府の最も暗い一画で働いてきました。彼らが恐れるのは光です。」
「われわれは原則を強化すべきなのです。権力を持つ者がプライヴァシーを享受できるのは、一般人も同じように享受できる場合に限られるという原則を。人間の方策としてというより、自然の摂理として働く原則を。」
そして逃げ隠れせず、自ら名乗った思いも素晴らしい。
“自分が何者なのかを合衆国政府に定義させるのではなく、世界が見つめる中で自ら定義する”
情報ソースが秘匿されることで回りに及ぼす被害にも配慮したという(自分が情報を抜き出したという証拠すら残してきたというのだから恐るべしだ)。
さらに、身元を明かした上で、必要以上に、その身を晒すことはしない。それは自分がリークした情報、“真実”の中身から世間の注目を逸らしたくないからだと。 お金にもなる、保身にも、身の安全にもなる各種のメディアからの取材要請を一切拒否し、”名声を求めるナルシスト”という、合衆国政府寄りの罵倒を封じ込める。
そんな毅然とした行動を、僅か29歳のエンジニアが取れるものだろうか。余程、己が接してきた「政府の最も暗い一面」の闇が深かったと思わされる。恐るべきことだ。
本書の中盤からは、持ち出された情報の一部が紹介されるが、そこは斜め読み。その情報の重要性が正直イマイチ理解できなかった。
そして後半は、スノーデンの話題から離れて、記者として著者の身に及ぶ影響、こうした反政府的な情報を取り扱うことの危険などが語られて、それはそれで面白い
“ジャーナリストの肩書がなくなると、報道の正当性が疑われる”、
“さらに、”活動家”にされると、法的な面にも影響が出てくる“、
“いったん”活動家”の烙印を押され“、”活動自体が犯罪と見做される“
そういったことを、著者グレンは、身をもって学んだという。ジャーナリストが政府の秘密を発表するのは一般的に合法とされるが、それが重要な秘密ともなると、法ですら守ってくれないということか・・・
そんな、世界の真実に迫ろうとする記者たちの闘いの話も実に興味深いが、やはり、香港を離れてからのスノーデンのその後も、もう少し知りたかった(が、それをスノーデンが望んでいないことも理解できる)。
<ガーディアン>がスノーデンの情報を発表した時に、そのサイトの冒頭にこう記した;
“ダニエル・エルスバーグやブラッドリー・マニングと並び、スノーデンは合衆国史上最も影響力を持つ内部告発者としてその名を歴史に残すだろう”
そのスノーデンに、著者グレンが“何度も繰り返し質問した結果”、最後にたどり着いた、“本物と思える回答”、 スノーデンの本心を備忘として記しておこう。
「人間のほんとうの価値は、その人が言ったことや信じるものによって測られるべきではありません。ほんとうの尺度になるのは行動です。自らの信念を守るために何をするか。もし自分の信念のために行動しないなら、その信念はおそらく本物ではありません」