長谷敏司のレビュー一覧
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ネタバレ人間の人格や脳に触れ、それを改変することができるというのは、人間の神聖さを犯すことであり、その価値を著しく下げるだろう。今、実際にこのような技術が開発されているのかどうかわからないが、もしやするとこの世界はすぐそこまで迫っているかもしれない。
人工知能的な「wanna be」に小説を書かせる。現在のAIに人間がやらせていることとほぼ同じだが、「wanna be」が違うのは人工ではあるものの、知能だけではないことだ。体は立体映像で実態はないが、感覚センサーで見たり触れたりすることができる。サマンサのために役立てることはないか常に尋ね、あくまでも道具としてしか接しない彼女にいつのまにか愛情を持つようにもなる。そして、彼女ですら想像のつかない自死を選び、その目的もまた彼女であるという。簡単に愛とはいうものの、そこには人間の真理を追求するかのような思いが込められていた。
あなたのための物語。サマンサのために彼が書き上げる物語であり、彼自身のための物語でもある。 -
Posted by ブクログ
サマンサ・ウォーカーは死んだ。
サマンサ・ウォーカーがひとり、病気療養中の自宅でこの世を去ったのは、35歳の誕生日まぢかの寒い朝だった。
それが、彼女という物語の結末だった。
という書き出しで始まる、長谷敏司の近未来SF。
序章で7ページに渡って死の瞬間を描写し、本編はそこに至るまでの、長い、死への物語です。
人間の脳の状態を再現できる、つまり人間の感情や、人間の人格そのものを再現できる、
ITPという言語がメインのSFガジェットです。
感情を人工的に操作したり、コンピュータ上に1から作り出した人間と区別のつかない人格が出てきたり、
イーガン的というか、昨今のSFの最先端テーマと言える1冊。
内容も描写も濃い、重い。
長谷敏司の独特の文体もどうにも読んでて疲れるのですが、それでもぐいぐいと引っ張っていく力はさすが。 -
Posted by ブクログ
生まれた国の文化を捨てて生きてきたデラシネの話。
小児性愛者を矯正しようとする技術と、その試験台になる終身刑囚の話。
急激に進化するナノマシンを前に、科学者としての自分と父としての自分の相克に悩む男の話。
冷徹で淡々とした筆致で描き出されるのは、SFの文体による個人の魂の話です。SFとしてのアイディアの尖り具合もなかなか面白く、そのアイディアに立脚した世界観を存分に活かしつつエモーショナルな視点を貫くスタイルは、グレッグ・イーガンの短編に近いものを感じます。
・・・が、エモーショナルな作風であることは認めるんですが、その「エモーション〈情動〉」の描き方が、理に走っているのが鴨的にはちょっとアレかなー、と。
言いたいこと、表現したいことはものすごく伝わって来るんですけど、「あれがこうなってこのようになりました、だから私は云々」というト書きの描写が延々と続いて、いまひとつ登場人物に感情移入できないもどかしさがあります。理屈抜きでうわーーーっと魂を鷲掴みにする、そんな荒々しい表現もあって良いんじゃないかなと思うんですよね、「個人」をテーマに据えるからには。
SFの枠に閉じ込めておくには、勿体ないタイプの作家さんなのかもしれませんね。一皮むけることを期待したいと思います。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ設定や世界観にの細かさには素直に脱帽するしかない。特にアナログハックという設定は唸らされた。
ただし、文章力やストーリーにはやや疑問符がつく。
特に文章力は、比喩表現がいったい何を指しているのか分かりにくかったり、情景がうまく想像できなかったりする。まぁ、僕の読解力が足りてないだけかもしれないが。
ストーリーに関しては盛り上がるべき箇所で個人的には盛り上がりきらないかなと感じてしまった。もちろんしっかりとしているしどこが悪いかと聞かれると困るのだが、途中で読む期間を開けてしまったりしたので話がわかりづらくなってしまったところもあるかもしれないが、めちゃくちゃすごい!とまでは思わなかった。
エンディングが「アンドロイドにも心はあるんだ!」という安易なものではなく、「魂がなかったとしても君を信じるよ」という結末なのはよかった。時間があれば是非もう一度読み返し、理解を深めたい。