北村薫のレビュー一覧

  • ターン(新潮文庫)

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    『スキップ』に続いて、時と人シリーズの第二弾。

    29歳の版画家の真希はある夏の午後、
    運転中に事故に遭いダンプと衝突してしまう。
    気がつくと、自宅の座椅子で微睡から目覚める自分がいた。
    15時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。
    だが、この世界には真希以外誰もいなかった。
    そしてどんな一日を過ごしても、定刻が来ると一日前の座椅子に戻ってしまう。
    いつかは帰れるのか?それともこのまま?
    だが150日を過ぎた午後、突然電話が鳴り……

    スキップ同様、秀逸な設定である。
    前半は謎の二人称で進み困惑するが、
    この二人称にもちゃんと意味があり、これには驚かされた。
    そう、電話が鳴ってからの展開はかなり読み応えがあった。
    スキップ同様、時間を移動するという夢の行為に潜む絶望感。
    この絶望感をしっかり味わわせてくれる物語であった。

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    2025年11月07日
  • スキップ(新潮文庫)

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    物語は昭和40年代の初め、1960年代後半から始まる。
    一ノ瀬真理子、17歳。千葉の九十九里方面の高校二年生。
    それは9月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、
    真理子は家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。
    次に目を覚ました時、見知らぬ場所にいる。
    そして自分が桜木真理子、42歳。夫と17歳の娘がいる高校教師だと知る。
    25年の時を超え、42歳の自分になってしまった真理子。
    果たして、彼女はどうなってしまうのか。

    まず設定が秀逸。いわゆるタイムトラベルものと言えば
    過去へ戻るのが多々あるのだが、これはその逆。
    自分が未来へ行ってしまうのだ。
    冷静に考えれば、何も嬉しくない。地獄でしかないだろう。
    だが、この主人公の真理子は違う。強い、強過ぎる。
    圧倒的ポテンシャルで日々をこなしていくのである。

    もっと生臭いドロドロとした展開が待っているかと思いきや、
    高校を舞台にした爽やかな青春ものであった。

    今は美しい。真理子の紡ぎ出す言葉がやけに胸に突き刺さった。

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    2025年11月06日
  • 月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)

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    ほっこり……のようでほっこりだけではない。
    はじめにに読んだときは、学生だった。いつのまにかもう20年も経っていて、とっくにさきちゃんのお母さんの歳も超えてしまっただろうが、意外なほど読後感は変わらなかったと思う。
    自分が来た道をやってくる子どもへのまなざし、というのは、今思えば、自分もまだ子供だったのだろうけど、若い時から持っていたような気がする(たぶん)。

    おーなり由子の絵がかわいい。単行本だともっと絵が多いかな?こちらも読み返してみたい。
    そして、『ひとがた流し』もまた読み返したい。

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    2025年10月26日
  • 中野のお父さんの快刀乱麻

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    ネタバレ

    「大岡昇平の真相告白」「古今亭志ん生の天衣無縫」
    「小津安二郎の義理人情」「瀬戸川猛資の空中庭園」
    「菊池寛の将棋小説」「古今亭志ん朝の一期一会」

    毎回面白い。今回は落語のお話が多かった。落語も好きだけど、小説の話が好み。毎度、色んな本が読みたくなる。『動く標的』を見たことが無いから見てみたいな〜。

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    2025年10月04日
  • スキップ(新潮文庫)

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    体は歳をとるけど、心というか中身は自分では変わってないように思っていたから、それが実は変わってるということが感じられるというところ、がこの本を読んでいて印象的だった。
    学生の視点で先生という立場から見える視点を体験できるのがおもしろいと感じた。
    この本出たのが1999年で今2025年に読んで、スキップ前はもちろん後もさすがに昔だなと思うところは多々あった。それでも学校生活は同じようなことをどの世代でもやってるんだなというところもあり、そういう発見もあった。

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    2025年09月28日
  • 中野のお父さんの快刀乱麻

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    自分の中では、このシリーズは「鉄板」である。
    今月はとにかく忙しいので、新しい知り合いを作るというより、知り合いに会いに行くような気持ちで本書を手にする。

    文芸編集者の美希とそのお父さんはもちろん、先輩の百合原さん、書籍編集部の筏、後輩で文庫部の大村亜由美などの文宝出版の面々も健在。
    百合原はとうとう編集長に出世する。
    筏と美希は、もしかするとその後つきあっちゃったりするのかな、という雰囲気を感じなくもない。
    この巻では、時代小説家、村山先生の存在感が大きい。
    余計なことだが、今時各社の編集者が集まってソフトボール(や野球)をするようなことってあるんだろうか?
    作品の中にもコロナ禍はやってきていて、文芸編集部での仕事にも影響が出たりする。
    もちろん、こういった草野球も、作家先生を慰労する会食にも。

    それはともかく、今回の文芸の中の「謎」も多彩。

    天衣無縫に見える志ん朝が、意外と緻密に自己イメージを演出していたことを、ルーブル紙幣で蚊帳を買ったエピソードから迫っていく「志ん朝の天衣無縫」がよかった。

    菊池寛の「石本検校」の話(「菊池寛の将棋小説」)も面白かった。
    作中で主人公が将棋を指すのだが、駒の動きをひたすら書いているだけの小説、とも言えるそうで…
    「文芸文宝」の将棋特集で、先崎学・室谷由紀両棋士に作中の対局を読み解いてもらうことになり、なんとこれが「凡戦」であると判定されてしまう。
    しかも、このことが判明するまでに、ストーリーはあちらこちらに寄り道し、他の面白いエピソードも披露される。

    最後の「古今亭志ん朝の一期一会」はしみじみした味わいの一篇。
    一冊を通し、たっぷり楽しませてもらった。

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    2025年09月07日
  • 中野のお父さんの快刀乱麻

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    いろんな情報がたっぷりなので、脳をフル稼働して読む。おもしろかったけど、2度3度と読むと、もっと理解が深まって、おもしろいだろうなと思った。

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    2025年09月07日
  • 月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)

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    ネタバレ

    旅行の帰りに読む本として購入。9歳のさきちゃんと作家のお母さんの暮らしの中で起きる12の物語。さきちゃんは感性が豊か。また、物語の中から仲の良さやお母さんの優しさも伝わってくる。教わり方は違うだろうけど、自分の両親も試行錯誤しながら色々教えてくれていたのかなと思うとほっこりしたし、何気ない親の言動が忘れられないことが自分にもあって、親子の関係を見つめ直すきっかけになった。何より場面場面に添えられているイラストが素敵で、ページ数的にも読みやすかった。

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    2025年09月05日
  • リセット(新潮文庫)

    「リセット」について

    この「リセット」は、北村薫さんの「時と人の三部作」の第3弾で、これで完結ですね。

    「スキップ」では未来へのタイムスリップ、「ターン」では同じ時の繰り返しが描かれたのですが、この「リセット」はどうなるのだろうと、とても楽しみにしていた作品です。

    しかし、開いてみると、戦前のお嬢様の生活描写がつらつらと続き、さらに時代は戦争に突入。
    北村薫さんの文章なので読みづらいということはなかったのですが、正直この手の話は苦手なので、最初はどうなることかと思いました。

    ごく普通の淡々とした日常が描かれ、恋の予感などはあるものの、特に何も起こりません。
    さらに第2部に入ってみると、私だけかもしれないのですが、今度は一体誰の話をしているのかもよく分からないのです。

    しかし、第2部の終わり間際からは、いきなり話が進み始めます。
    それまでの淡々とした描写は、すべてその必要があってのことだったんですね。

    それらの細かい描写が伏線として後半に生かされて、じわりじわりと効いてきます。
    そして読んでいる側は、何時の間にか自分のことのようにすっかり感情移入してしまう。

    北村薫さんの筆力をまざまざと感じさせられてしまいます。中でもホットケーキのシーンは凄いですね。
    小道具の使い方もさすがです。上手すぎます。

    「想いは時を越える、希いはきっと、かなえられる-----」ラストはお見事ですね。
    切なさが一転して幸福感に包まれます。

    読みながら途中ずっと、「リセット」という題名は、一体何を意味するんだろうと思っていたのですが、全てが腑に落ちた時、これ以上の題名はないと分かります。

    とても素敵な物語でした。

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    2025年09月04日
  • リセット(新潮文庫)

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    時代の空気感が滲み出てきて、文字を追っているあいだ周りの空間から切り離されるような本だった。
    先の展開は若干読めたものの、割にめっちゃ泣きながら読んでた。

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    2025年07月31日
  • 中野のお父さんの快刀乱麻

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    今回もお父さんはすごい。
    雑誌編集者の田川美希にとって、実家の父はめっちゃ頼りになるドラえもんみたい。
    作家の先生とソフトボールで接待したり、古い本の話をしたり、日常の中からポロっと出てくる謎をそのままにしないで探っていく。
    古今亭志ん朝の話や、菊池寛の将棋の話、小津安二郎の映画の話は、名前だけしか知らない人たちですけど、知りたくなっちゃうんです。
    小津安二郎映画はあの時代、映画館で観た人にしかわからない感情があるんだ、と。
    古今亭志ん朝のあの時、あの場所の口演の拍手にしかない盛り上がりを、詳しく調べたお父さんは解き明かしてくれる。

    今作は途中からコロナ禍でのミートや、イベントが無くなった様など、最近の話もあってリアルにいる人たちだと勝手に親近感わきました。

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    2025年07月20日
  • 月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)

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    シングルマザーで作家のお母さんと小学生のさきちゃんの日常を切り取ったお話。
    おーなり由子さんの挿絵が可愛らしくてお話にピッタリです。

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    2025年05月29日
  • 猫が見ていた

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    柚月裕子さんが入っているのと、表紙に惹かれて。

    柚月さん、北村さん、井上さん、加納さんの作品が良かったのと、最後の「オールタイム猫小説傑作選」もよく、猫好きの方におすすめ。

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    2025年05月15日
  • 中野のお父さんと五つの謎

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    ネタバレ

    シリーズ4作目。今のところ最新作。実にシンプルなタイトルだよなぁ。多分続くんだと思うけど。珍しく5編しか入ってなかった。その分、一つ一つは長めなのかな。前作で美希の恋愛が始まるのかと思ったけど、今作は全然出てこなかった。コロナ禍のせいか?もう美希もベテランの域なんだなぁ。今回は割と続けて集中して読めたせいか、一つ一つも繋がりが見えて面白かった。落語の話が多かったな。まぁそれはいつもか。松本清張の『点と線』の話も面白かった。トリック云々の話ではない、というのも、なるほどなぁと思う。確かに、ミステリとか推理小説と言われるものが私は好きだけど、大事なのはトリックではないからなぁ。いわゆる本格物は苦手だし。

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    2025年04月28日
  • 月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)

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    又吉直樹さんのお勧めの本だったので興味を持って読み進めました。9歳のさきちゃんと作家のお母さんの、ほのぼのとしたハートフルな短編が12篇。おーなり由子さんのメルヘンティックな挿絵が心を癒します。

    読書心を刺激したのは、母と子の二人の会話や、さきちゃんの想像力が、なぜかサン=テグジュペリの星の王子さまを想起したからです。内容は全然違いますが、星屑のように言葉にきらめきやウィットがあるところです。
    二人の日常はありふれた何気ない日常であるにもかかわらず、お母さんや さきちゃんの想像力によって、まるで魔法をかけたように新鮮で好奇心に溢れた楽しい世界へと誘う。それは時に怖かったり、哀しかったりすることもあるけど、それさえも宝物に思える瞬間が散りばめられています。

    読み手一人ひとりの心に眠っていた幼い頃の家族との幸せな時間を、ふと思い出すのではないでしょうか。こんな本があってもいい。 これは人に勧められます。 特に心がささくれた時に‥。
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    蛇足ですが‥
    巻末で解説をされた梨木香歩さんの解釈の仕方は酷でした。この本をエロスと結びつけたり(エロス的なことはぜんぜん出てきません!ご安心ください)、的はずれな難しい解釈をされていて、せっかくの優しい読後感に水を差すような解説でした。人に勧める時は、梨木さんの解説のない単行本の方をお勧めします。

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    2025年03月14日
  • 月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)

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    北村さんの作品は好きだから全て読んでるけど、これはなんかジャンルが違う気がした。こういうのもいいなぁ。和む。

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    2025年03月08日
  • スキップ(新潮文庫)

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    うーん、高校生の女の子が気づいたら25年後の自分になっていて娘も夫も職業もあった、って展開はめちゃくちゃ面白いんだけどな。内容はなんというか中身だけ新米教師の奮闘記、という感じ。タイムスリップ的な進歩した文明に驚く描写などは面白い。テーマとしては人生讃歌なのだろうけど、不条理な上に答え合わせもはっきりした救いもないまま終わるのは残念。それに時間を吹き飛ばされてしまい忘れられてしまった周囲の人間の困惑や苦悩の描写が欠けてると思う。いなくなってしまった25年分の人格についても消えてしまったなら救いがなさすぎる。それにどうしてもケン・グリムウッドのリプレイを思い出して読んでしまったな。長編なのに中盤盛り上がらなくて読むのがだるかった。元々は気づいたら子供がいたってはてな匿名ダイアリーを読んでそんな小説聞いた事あるな?と読んでみた。まあまあだね。

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    2025年03月01日
  • 中野のお父さんの快刀乱麻

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    「中野のお父さん」シリーズ第3弾
    今回はこれまで以上に読み応えがあり、随分頭を使ったが、私の好きな太宰や落語の話(謎)が特に興味をひかれ、面白かった。
    知識量に舌を巻く。

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    2025年02月15日
  • 月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)

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    人に贈りたくなる本だった。
    絵も文章もやさしい。
    温かいお風呂に入ったような気持ちにさせてくれる一冊。

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    2025年02月06日
  • 中野のお父さんの快刀乱麻

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    ペダンティックになっていくのは年取るとしょうがないのかなあ。アシモフもそうだったし。
    持っている資料を全部使いたい感がある。
    話自体は面白いんだけれど、どうもシリーズ3巻目の北村薫は鼻につくようになってくるのは円紫師匠シリーズでもそうだったなあ。
    論文みたいになりがち。

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    2025年02月03日