北村薫のレビュー一覧
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始めて読み始めるシリーズだが、楽しかった。
『小説文宝』の編集者、田川美希が、日々出会う謎。
それを鮮やかに解き明かすのは、定年間際の国語教師である彼女のお父さん。
そんな設定の短編集だ。
仕掛けられる謎も、文学好きには堪えられないもの。
例えば、「謎の献本」。
尾崎一雄から志賀直哉への献辞が入った志賀直哉の『留女』。
著者のサインではなく、なぜ尾崎なのか?
不思議ないきさつが語られる。
八島和歌子という、美希の先輩編集者の、次の言葉がとてもいい。
「事実で説明出来るものって、すっきりするけど、可能性の翼をたたませるところがある。解釈の冒険って、いかにも人間らしいじゃない。」
其角の -
Posted by ブクログ
ネタバレ大手出版社勤務の田川美希、新人賞の担当作でトラブルが発生する。さて誰に相談したものか…と思いついたのは国語教師の父親。お父さんは鮮やかに事件を解決できるのか。
短編8篇、美希の周辺のトラブルをお父さんに相談して…というスタイル。些細なことからなんと殺人!?まで、幅広い題材が軽やかにするりと解き明かされる。
美希もお父さんもカラリとした良いキャラクターで、短篇なのですこしあっさり気味ですがちょっと1つだけ、と読み返すにはいい作品。「その後どうなったの?」という作品もありますが顛末まで書かない、というのもアリなのでしょう。
推理も面白いですし、なんといっても北村さんが描かれる探偵が国語教師で -
Posted by ブクログ
日常よりも日常らしいけれど、嘘くささがない。何気なくて、家族と過ごす幸せや温もりを感じる瞬間を丁寧に書き起こしていて、疲れた時に読んで癒される本。
お母さんとさきちゃんのほのぼのして温かい日常には、ごく稀に、スウっと風が吹き込むように、父の不在(離婚と思われる)が現れます。無理だと言われてもさきちゃんが野良猫を連れ帰ろうとする話がありますが、お母さんは猫だけでない色々なものを重ねていたのかも。
猫を飼うのは無理だけど、お母さんはいつだってさきちゃんを想っていて、一瞬一瞬、一緒に過ごす時間を大切にしていて、それが端々に描かれています。文章であの空気感をこんなに表現できるんだ……と、びっくりする -
Posted by ブクログ
本屋をのぞいていたら、本シリーズの最新刊が単行本で、2作目が文庫化していた。これはいかんと、積読の山から本書を救い出した次第。
北村薫さんの小説の舞台は出版社となることが多い。そして主人公は若い女性が多い。本書の主人公は若い文芸編集者の美希。まさに北村薫の世界ど真ん中である。この美希が、仕事で疑問に思ったことや辻褄の合わない謎を持ち込むのが、中野にある実家。そして、謎をはらりと見事に解きほぐすのは、定年間近の国語教師の父である。
北村薫のファンならば、北村さんが元国語教師であること、娘さんがおられることは周知の事実。お住まいこそ中野ではないが、多くの読者は、中野のお父さんを北村さんと重ねて -
Posted by ブクログ
「時間3部作」という思わず惹かれるフレーズが気になり、まとめ読みして大正解。同作は「スキップ」というタイトルの通り、時間が「スキップ」してしまった女性(少女)が主人公の物語。
単純なタイムリープでなく、肉体と精神の年齢がチグハグになってしまった主人公のひたむきさと前向きさは読んでいて応援したくなる。
(恐らく)作者はタイムリープを経験したことがないはずなのだが、実際に人が未来に飛ばされた際、どんな変化に心を痛めるのだろうか、という描写が妙にリアルで、思わず納得させられる。
特に印象深いのが、主人公が生まれ育った家の付近に赴き、変わり果てた様子を見て「とんでもない詐欺にかかっている感じだ。