小池昌代のレビュー一覧
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コロナ後の孤立した人間の孤独の話かと読み始めたら、和歌がちりばめられた、さまざまなイメージの宝庫で、詩のような物語のような、でも読んでてふふふと笑うところもあり楽しかった。
主人公は空き家で働くことになるが空き家は河原院なのでわけのわからないものが跋扈し家は滅びてしまう。空き家の主の甥の融さんはだんだん光源氏みたいな軽薄な本性をあらわしてくる。
終章、老いと死の描写がこれでもかと繰り返されて最後にポンと恋の歌が提示されて暗転するところ、読む人によっていかようにも感じかたが変わりそう。帯に恋愛小説と書いてあったけどそうなのかな。。。
和歌は百人一首くらいしか知らない自分も和歌の部分を読み飛ばさず -
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岸本佐知子さんの編んだ書き下ろしアンソロジー、タイトルに惹かれてまず読んだ津島佑子の短編「ニューヨーク、ニューヨーク」が素晴らしかった。読みながら、読み終わってから、幾つものことを思った。
「ニューヨークのことなら、なんでもわたしに聞いて。それがトヨ子の口癖だった、という」冒頭のセンテンスを読んで、わたしも数年前の夏に数冊の本を読むことで行ったことのない「ニューヨークのことはもう分かった」と嘯いたことを思い出す。そこには彼女がニューヨークを思うのと同じように個人的で特別な理由があったのだけど。
その後に元夫と息子がこの世にいない彼女について語り合うことで明らかになり“発見”される、今まで知り得 -
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2024年の1冊目は、帰省時に駅の書店で衝動買いしたこちら。元歌、現代語訳、鑑賞文が一句一句にセットになっている。現代語訳の文章が美しいのに加え、鑑賞文では、なるほど、詩人というのは、この一言にこんな意味を見出すのかと感心するばかり。百人一首は、600年ころから1100年ころまでの和歌を、一歌人につき一首選んだもの。恋愛の歌が多い印象だが、新古今和歌集の時代になると、旅、孤独、自然を歌ったものも増える印象がある。新古今和歌集は現代に近いせいか、言葉もやや現代語に近い気もする。百人一種はこいうところも面白いのだな。
これからはこういう古典もたくさん読んでいきたい。 -
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ネタバレ12編のアンソロジー。
どの作品も変愛の名に相応しかった。この一冊に密度濃く詰め込まれたそれぞれの変愛。愛と一口に言っても当たり前ながら1つも同じものはない。
その中でも特に好みだった2つについて書きたい。
『藁の夫』
2人の間に嫌な空気が流れる、その始まりはいつも些細なことなのだと思い出させる自然な流れだった。あんなに幸福そうだったのに、藁に火をつけることを想像させる経緯、鮮やかな紅葉にその火を連想させるところがたまらなく良かった。
『逆毛のトメ』
シニカルでリズムのいい言葉選びが癖になる。小説ってこんなに自由でいいんだと解放して楽しませてくれた。躊躇なく脳天にぶっ刺す様が爽快だし、愚か -
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見返しにある代表作3篇のうち、「祝婚歌」、「I was born」は別格として、「夕焼け」に、じんときた。
娘への「奈々子に」がすごくよかった。
奈々子に
赤い林檎の頬をして
眠っている 奈々子。
お前のお母さんはの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところの愛するお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた
お父さんにも ちょっと
酸っぱい思いがふえた。
唐突だが
奈々子
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから。
お父さんが
お前にあげたいものは -
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学生のときに古文をかじっていたから楽しく読めた。勉強していて良かった。
古文を古文のままで理解できない自分としては、現代語訳に頼ったり自分なりに訳したりしながら読むわけだけれど、どうしても型にはまった蓄語訳は分かるのやら分からないやらはっきりとしないと言うことが起こる。そこが楽しむことを目的として古典を読む際の障りとなってしまうので、こういう訳者のカラーが表れている現代語訳は面白い。
古文って行間を読む楽しさが詰まっているのだと分かる。町田康はやりすぎの感もあったが。
自分は森見登美彦、妻は町田康が好きなので、両者の需要が一致した一冊だった。
両作家が現代語訳を手がけた作品の方はまだ買ってない -
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「恋愛」ではなく「変愛」…変わった形の愛が描かれたアンソロジーです。
面白かったです。
ディストピア文学が大好きなので、「形見」が好きでした。工場で作られる動物由来の子ども、も気になりますが、主人公の子どもがもう50人くらいいるのも気になりました。色々と考えてしまいます。
「藁の夫」「逆毛のトメ」「クエルボ」も良かったです。藁の夫を燃やす妄想をしたり。クエルボはラストは本当に名の通りにカラスになったのだろうか。。
多和田葉子、村田沙耶香、吉田篤弘は再読でしたがやっぱり良いです。
岸本佐知子さんのセンス好きです。単行本から、木下古栗さんの作品だけ再録されなかったようですが。
表紙の感じに既視感が -
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眠くなってきたので手短に。
去年、池澤夏樹さん個人編集の「日本文学全集08」を読みました。
ほかでもない、十数年追いかけている作家、町田康さんの「宇治拾遺物語」が読みたかったから。
いや、爆笑しました。
古典を読んでこんなに笑ったのは初めて。
中学、高校時代に出合っていたら、古典が好きになっていたに違いありません。
本当は古典って面白いものだと思うんです。
それを恐らく研究者や学者たちが、無用に格調高いものにしてきたんでしょうなぁ(恨み節)。
あ、で、本書はその日本文学全集で各作品の新訳を手がけた作家たちによる講義集。
もちろん、町田康さんの「宇治拾遺物語」の講義も含まれています。
私は、町田 -
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・池澤夏樹=個人編集「日本文学全集 02」(河出書房新社)は 池澤が「初学者に向けた和歌入門のつもりで編集した。」(池澤夏樹「解説」419頁)書である。折口信夫「口訳万葉集」、小池昌代訳「百人一首」、丸谷才 一「新々百人一首」の三作を収める。和歌入門といふだけあつて万葉集から勅撰集までといふ、正に和歌といふにふさはしい時代と作品を扱つてゐる。実際に歌 を詠まないのならば、これで十分である。折口のはいささかぶつきらぼうであるが、他は丁寧に解説し、小池はすべてをきちんと訳す。丸谷は必ずしも訳すこと をしないが、その内容は多岐にわたる。そこから自然にその歌の意味も見えてくる仕掛けである。ただし、折口
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突然元カレから生まれたばかりの赤ちゃんを預かるところから物語が始まるのですが、すごく心に響いて共感してしまった。
生まれたばかりの赤ちゃんを死なせてしまう事件とか最近のニュースで見ると本当に心が痛んでいたのですが
もっといろんな世代のいろんな大人が、それこそ「たまもの」として小さな命を守っていけたらいいなと思うのです。
母親になるという事、それは「産むこと」とイコールではないんですね。
子どもと暮らしていると、その時々でハッとさせられることがあります。子どもを育てるというより「育てさせてもらっている」という感覚が、まさに、その通り!と思えてこの若い(少なくとも私より)母親を応援したくなりま -
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四十歳になる私の前にある日突然、幼なじみであり元恋人でもある男が現れて一歳にも満たない自分の息子とまとまったお金を私に預けて消息を絶つ。そこから物語は始まる。
「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかもねむ」
柿本人麻呂が詠んだとされる一首。山鳥の夫婦は昼間はいっしょに過ごすのに、夜になると別々に寝るという。私も山鳥のようにこの長い夜をひとりで寝るのだろうか、という歌意だそうだ。
幼なじみの男はこの歌が好きだそうで、息子の名前を「山尾」と付けた。山鳥のようにひとりでいることに違和感を感じさせない雰囲気の山尾は手のかからない男の子に成長していく。一方、未婚かつ出産未経験で母親