伊藤亜紗のレビュー一覧
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『感性でよむ西洋美術』
とあるが、この本を読んだからといって、すぐに作品が伝えたいメッセージを読み取れるようになるわけではない。
ただ、この本では古代から続く美術史を概説するとともに、各時代の作品の特徴を社会的背景をもとに読み解いていくもので、学生時代まったく世界史に興味がない人間でも、明日から美術館に行きたくなる本だった。
第1章の冒頭、美術史は「神々の時代」→「キリスト教の時代」→「人間の時代」と変遷していった旨の話があるが、果たしてピカソの様な抽象画が人間の時代の芸術なのか、もはや人間でも解釈できないような時代に来ているのではないかと思った。
しかし、読み進めていくうちに、この本の締め -
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体が動くとき、脳がその命令を出し、力の入れ方や動き方をコントロールしている。――大筋ではそうなのだけど、実際に身体に起きていることを細かく見ると、事はそう単純ではない。頭で指の先まで考えてコントロールしているわけではないし、どころか、頭で理解できている動きと実際の体の動きが全然違っているなんてこともある。
本書は、身体運動の技能獲得にまつわる不思議さと、それに関連したテクノロジーを、著者(自身も研究者)が様々な研究者と対談した内容をまとめたもの。「頭が体をコントロールする」という常識から、「体が頭を置いていく」という考えに誘うものとなっている。
もっとも印象的だったのは、プロローグとエピローグ -
Posted by ブクログ
1章が最も分かりづらいという珍しい本だった。
全体:テクノロジー、主にAI技術を用いて、ヒトが何か出来るようになることの方法、意味、段階を考察する。テクノロジーを、ひいては、自分の感覚を自分に取り戻す、研ぎ澄ますことに通じている。
1章:ピアニストの手を自動で動かす機械。
頭でイメージを掴む前に、カラダを先に動かし、感覚を掴む。動きを可視化する。
2章:桑田のピッチングフォーム解析。
毎回リリースポイントはブレブレ。意識とは違う動きをしていたカラダ。土地勘があるように、揺らいだ動きに対応出来る、カラダの動作の暗黙知が鍛えられている。
カラダは、アタマの意識よりも、多くを知ることが出来る。 -
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何かが「できる」ようになるには、頭で理解できるより先に身体が理解している。さまざまな動きの試行錯誤から偶然に正しい動きができて、そこでようやく意識は「あ、こうするのか」ってなる。この発見をいかに早くできるかが鍵となっていると。誰かに教えてもらうことは、この気づきに早く近づくための方法。
この本ではテクノロジーを使って、この習得時間をいかに短時間にできるか、いろいろなアイデアが出てきて面白い。
個人的に特に気になったことは、脳の可塑性には自由度があるから習得できるけれど、間違った習得をした場合、それをキャンセルさせることが難しいこと。つまり一度ついてしまった悪い癖をを正しい動きに戻すには相当努 -
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倫理と道徳を区別して、倫理とは一般の存在しない、個人が線引きを行うことで作られる、ある種の創造性を含んだものであることが提示される。「多様性」のような、ビッグワードやスローガン的なものに吸収されていく、あわいのある存在を見落とさないようにしたいと考えようになったのは、本書の指摘が大きかったかもと思う。
具体的な状況と普遍的な価値のあいだを行き来することで、倫理的な行為を深化させることや、他者性についても言及があり、一章だけでもパンチライン多数。ってかまえがきの時点でめっちゃおもしろい。
ふれるという行為の相互性、また介入性が、いかにさわるという一方向的なものと異なるか。
伊藤さんは利他という -
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そうそうたる顔ぶれがそれぞれに「利他」について説いているんだけど、何となく見えてくるものがある。特に、伊藤亜紗と中島岳志の利他論に学ぶところが大きい。すなわち……。
利他とは、人のためになることのようなとらえ方が一般的だと思うけど、それを意識的にするのは「利他」ではない。何らかの気持ちのメカニズムが働くにせよ、本人的には説明がつかないうちに、自分のためでなく動いてしまうことが利他なのだ。
一生懸命に利他的なよき人物であろうなどと努めてしまうが、そんなことを考えているうちはまだまだということだろう。考えてみれば、利己的な言動だってわざとそうしているのではなく、自然とそうしてしまうからこそ利己的な -
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とても面白い読書体験だった!!
工学、テクノロジーは機械や技術という側面から見ると「近未来的」「すごい」「難しい」と、自分ごとの延長として捉えにくいのだが、誰もが共通して持っている「肉体」というレンズを通して見るととても身近なものに思えてくる。
障害や様々な面から日々人間の肉体について研究されている伊藤亜沙さんにしか書けなかった本だと思うし、伊藤さんが研究の過程で繋がりができた方々の研究を1冊の本としてテーマに沿ってまとめてくれているから事例紹介としても、読みものとしてもとても面白かった。
これこそ理系と文系の理想的な融合を実現している事例だと思う。
これから私たちはどこへ行くのか。
肉体 -
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(今のところ)今年一番面白かった一冊。
体がある技能を習得するとき、何が起こっているか。
技術がそれにどう関与できるか。
美学者である著者が、五人の工学系の研究者の試みを通して体の持つ可能性を探索する。
最新の技術を、伊藤さんのナビゲートでその研究室に行って見学するような気分で読める。
最初に登場する古屋普一さんの「エクソスケルトン」。
一見ピアニスト養成ギプス。
つけると、勝手に指が動き、弾ける人はこう体を使っていると疑似体験できる装置。
テレビで少しこの話を聞いた気がする。
学習者が誤った体の使い方をして弾けなくならないようにという意図で作られたものらしい。
つけた人は「あっ、こうなの -
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装丁を見る限り、表題等もやわらかい表現でイラストも緩いといった印象だったが
各々の理工学系の専門家の研究領域は、単体でも一冊の紙幅を埋めるに足るほどの示唆に富んでおり
それを人文学系の著者がうまく導入し引き出すことに成功している。
AI等の人工的な超知性の進展がメディアでも取り沙汰されることが昨今多いが、ビジネス的な進捗が確立されていないせいかこれほど興味深い研究実践について専門知を積極的に訪ねることをしなければ触れられない部分が大きかった。
身体における未知の淵源はなお一層探求の魅力を増しており、研究者は多様なやり方でそこに至ろうとする科学立国の矜持を感じられる。 -
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ネタバレ1人で美術館に行くのも好きだし、他者と行くのも好き。けれど「当時の人の感じ方を解凍する練習」「玉入れみたいにみんなでいろんな言葉を作品にぶつけていく」をやりやすいのは、見た作品を他者と共有することだと思う。
わたしはこう思うけれど、貴方はこう思うんだね、同じものを見ても感じ方がそれぞれ違って素敵だね、という「I am OK. You are OK.」の実践。それをどんな視点で感じたらよいのかのヒントが描かれている著作だった。
「『考えつつ、感じる力』は、贅沢な余剰品ではなく、自分を大切にし、よく生きるための力です。本書が、そんな時間のお供になることができたら幸いです。」 -