【感想・ネタバレ】体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉のレビュー

あらすじ

「できなかったことができる」って何だろう?

技能習得のメカニズムからリハビリへの応用まで――

・「あ、こういうことか」意識の外で演奏ができてしまう領域とは
・なぜ桑田真澄選手は投球フォームが違っても結果は同じなのか
・環境に介入して体を「だます」“農業的”テクノロジーの面白さ
・脳波でしっぽを動かす――未知の学習に必要な体性感覚
・「セルフとアザーのグレーゾーン」で生まれるもの ……etc.

古屋晋一(ソニーコンピュータサイエンス研究所)、
柏野牧夫(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、
小池英樹(東京工業大学)、牛場潤一(慶應義塾大学)、
暦本純一(東京大学大学院)ら、5人の科学者/エンジニアの先端研究を通して
、「できる」をめぐる体の“奔放な”可能性を追う。

日々、未知へとジャンプする“体の冒険”がここに!

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Posted by ブクログ

すごく良かった!令和6年今年読んだ本の中で一番良かった!今のところ。

知識や発見だけでなく、よくこれだけのものを分かりやすく、まとめて表出できるなんて本当にすごい。勉強になった!

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2024年06月20日

Posted by ブクログ

体が動くとき、脳がその命令を出し、力の入れ方や動き方をコントロールしている。――大筋ではそうなのだけど、実際に身体に起きていることを細かく見ると、事はそう単純ではない。頭で指の先まで考えてコントロールしているわけではないし、どころか、頭で理解できている動きと実際の体の動きが全然違っているなんてこともある。
本書は、身体運動の技能獲得にまつわる不思議さと、それに関連したテクノロジーを、著者(自身も研究者)が様々な研究者と対談した内容をまとめたもの。「頭が体をコントロールする」という常識から、「体が頭を置いていく」という考えに誘うものとなっている。
もっとも印象的だったのは、プロローグとエピローグで語られている、著者の「できるようになる」ことへの考え方。技能獲得に関する本なのに、著者は当初、「できる」ことに興味があまりなかったとのこと。その理由の一つが、できるイコール優れているというような、優劣の価値判断と結びつきやすいこと。
エピローグで著者は、「能力主義から「できる」を取り戻す」と書いている。優れているからできるようになる、というところから脱して、単純にできるようになることの面白さを味わえるようになれると良い。

第1章はピアノトレーニングのための外骨格。第2章は元投手・桑田氏のピッチングフォームの解析。第3章は画像処理技術を用いた技能習得について。第4章は脳波で機械を動かすシステム。第5章は音声や「しゃべり」をもちいた技術について。

印象的だったこと:
・身体の透明化と可視化という話。ピアニストの世界では、出すべき音に”正解”があって、身体の方はその音に近づけていくような演奏法が求められがち。その中で、身体の固有性は無視される、すなわち身体が透明化してしまう。ただ、それでは身体に無理がかかり、サステナブルではない。身体を可視化する、すなわち各個人の身体特性に合わせた演奏法を修得されるようにしなければならない。そして、それはテクノロジーが支援できる。
・n=1の科学。科学は多くのデータを取って統計的に処理するのがふつうだが、そうやって得られた平均的な情報は、個人に適用してもうまくいかない。でれば、従来の科学のやり方を越えて、n=1を対象とした科学を進めていく。
(個人的には、平均の情報を、各個人に適用するための修正項のようなものを見出すべしとの立場なのですが。)
・テクノロジーは教師ではない。テクノロジーを使って数値的に身体の動きを解析したとして、「この数字に近づけていくとよい」などという”正解”を示すべきではない。テクノロジーはあくまで学習者だけでは見えないような部分を可視化するためにあるべきで、”正解”は学習者それぞれ、あるいは同じ人の中でも場面ごとに変わるのだから、テクノロジーは教師の座からは降りなければならない。

次に読みたい本
『暗黙知の次元』マイケル・ポランニー

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2023年11月26日

Posted by ブクログ

1章が最も分かりづらいという珍しい本だった。

全体:テクノロジー、主にAI技術を用いて、ヒトが何か出来るようになることの方法、意味、段階を考察する。テクノロジーを、ひいては、自分の感覚を自分に取り戻す、研ぎ澄ますことに通じている。

1章:ピアニストの手を自動で動かす機械。
頭でイメージを掴む前に、カラダを先に動かし、感覚を掴む。動きを可視化する。

2章:桑田のピッチングフォーム解析。
毎回リリースポイントはブレブレ。意識とは違う動きをしていたカラダ。土地勘があるように、揺らいだ動きに対応出来る、カラダの動作の暗黙知が鍛えられている。
カラダは、アタマの意識よりも、多くを知ることが出来る。

3章:ボールカメラのような、オンサイトの撮影、計測。これを活用した、リアルタイムコーチング。
プラス、手の甲の動きで指全体の動きが分かる、バレーのサーブモーションで落下点が分かる。
運動の結果が上手く予測出来ると、スローモーションやスピードアップが自在に練習出来る。また、シャドウとの練習が出来る。

4章:ブレインマシンインターフェース。

5章:音声ガイドのようなウェアラブルデバイス。それに意識をハックされる身体。身体だけを貸す人。
声を出さずに喉で喋る。囁き声でコンピュータをコントロールする。


様々な方法で身に付ける「できる」。

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2023年11月22日

Posted by ブクログ

何かが「できる」ようになるには、頭で理解できるより先に身体が理解している。さまざまな動きの試行錯誤から偶然に正しい動きができて、そこでようやく意識は「あ、こうするのか」ってなる。この発見をいかに早くできるかが鍵となっていると。誰かに教えてもらうことは、この気づきに早く近づくための方法。

この本ではテクノロジーを使って、この習得時間をいかに短時間にできるか、いろいろなアイデアが出てきて面白い。
個人的に特に気になったことは、脳の可塑性には自由度があるから習得できるけれど、間違った習得をした場合、それをキャンセルさせることが難しいこと。つまり一度ついてしまった悪い癖をを正しい動きに戻すには相当努力して悪い癖を打ち消す必要があること。

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2023年09月24日

Posted by ブクログ

とても面白い読書体験だった!!
工学、テクノロジーは機械や技術という側面から見ると「近未来的」「すごい」「難しい」と、自分ごとの延長として捉えにくいのだが、誰もが共通して持っている「肉体」というレンズを通して見るととても身近なものに思えてくる。

障害や様々な面から日々人間の肉体について研究されている伊藤亜沙さんにしか書けなかった本だと思うし、伊藤さんが研究の過程で繋がりができた方々の研究を1冊の本としてテーマに沿ってまとめてくれているから事例紹介としても、読みものとしてもとても面白かった。
これこそ理系と文系の理想的な融合を実現している事例だと思う。

これから私たちはどこへ行くのか。
肉体のあり方は?
意思とは何なのか?
人間性とは?
こんなSFに通じる哲学的な問いと知的欲求をかき立てられる本であった。

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2023年07月29日

Posted by ブクログ

(今のところ)今年一番面白かった一冊。

体がある技能を習得するとき、何が起こっているか。
技術がそれにどう関与できるか。
美学者である著者が、五人の工学系の研究者の試みを通して体の持つ可能性を探索する。
最新の技術を、伊藤さんのナビゲートでその研究室に行って見学するような気分で読める。

最初に登場する古屋普一さんの「エクソスケルトン」。
一見ピアニスト養成ギプス。
つけると、勝手に指が動き、弾ける人はこう体を使っていると疑似体験できる装置。
テレビで少しこの話を聞いた気がする。
学習者が誤った体の使い方をして弾けなくならないようにという意図で作られたものらしい。
つけた人は「あっ、こうなのか」と思うという。
何かそれが不思議な感じがする。
ある程度練習をしてきた人に効果があるものなのかな、とも思う。

実は古屋さんの部分だけ読んでおしまいにしようかと思っていた。
失礼ながら期待せずに読み始めた続きが面白くて、やめられなくなってしまった。

柏野牧夫さんによる、桑田真澄元投手の運動解析。
リリースポイントや、カーブを投げる指の使い方など、本人の意識と全く違う結果がでてきたというのが面白い。
トップアスリートたちの「変動の中の再現性」がどうやって達成されるのだろう。

小池秀樹さんの研究は、情報技術(画像処理)を利用して技術習得を援助するというもの。
ボールや体の一部分につけたカメラで撮った映像をもとに、リアルタイムのコーチングを可能にする…?
ピンポン球がスローモーションで飛んでくるVR環境の中で、ボールの回転に応じたラケットの向け方を学習する「スピンポン」。
ゴルファーが自分の影と、その状況で望ましい姿勢でできる「お手本の影」を重ね合わせてフォームを修正する「バーチャルシャドウ」。
技術を身につけるとき、自分の感覚をだましていくことになるのだが、身につけた後どうなっていくのかも気になる。

牛場潤一さんの研究するブレイン・マシーン・インターフェイスは、脳波でデバイスを操作するシステム。
医療や介護で期待される技術だ。
ただ、この章の中で出てくる「脳の可塑性」の話が自分にとっては衝撃的だった。
何かの事故で脳の一部分が損傷を受けたとき、他の部分の機能で補っていくこと―と思っていた。
が、それは事の半面だったようだ。
そのように脳の回路が出来上がってしまうと、今度はそこで固定されてしまう。
もし誤学習によってできた回路であれば、その後重荷になってしまう恐れもある、ということだ。
こうした知見が積み重なって、将来的にはより効果的なリハビリができるようになっていくのかどうか。

最後の暦本純一さんの章が自分にとってはエキサイティングな章だった。
この人、スマホをピンチして拡大する「スマートスキン」という技術の開発者だそうだ。
インターフェイスは、自分にも切実な問題なので、読むにも気合が入ってしまう。
ここで紹介されていたのは、超音波プローブで音声認識をすることだったが、ささやき声でもきちんと認識する。
これを利用して、デバイスを操作するいわばシフトキーの役割を割り振ると、完全にハンズフリーで音声入寮ができる―ということ。
指を痛めて入力が日々厳しくなっている自分には、一日も早く実用化してほしい技術だ。

あまりにも面白くて、隣の席の同僚に力いっぱいすすめてしまった一冊だった。

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2023年07月16日

Posted by ブクログ

「できるようになる」ことをテーマに身体とテクノロジーのこれからの関係を論ずる一冊。読み進めるに連れて自分がどう身体使ってきたか、使ってきてないかについて思いを巡らすことができる。

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2023年07月05日

Posted by ブクログ

ゲームには疎くて「バーチャル」の世界を体験したのはテーマパークや映画館くらいなものだから
「ないしっぽをふる」訓練がどんなものか、想像するだけで気のせいか頭のてっぺんがむずむずするけど、面白そう!意識と体、運動の関係など
5人それぞれの研究対象と経歴もとてもとても興味深い。ふだん音声入力をほとんどしないけれど、テクノロジーはこんなに進んでるのかとびっくり仰天しつつ、片耳の聴力低下がじわじわ進行中の私は音声入力の世界を使いこなせるか不安も感じ『サイボーグになる テクノロジーと障害私たちの不完全さについて』のことも思い出した。

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2023年06月14日

Posted by ブクログ

装丁を見る限り、表題等もやわらかい表現でイラストも緩いといった印象だったが
各々の理工学系の専門家の研究領域は、単体でも一冊の紙幅を埋めるに足るほどの示唆に富んでおり
それを人文学系の著者がうまく導入し引き出すことに成功している。

AI等の人工的な超知性の進展がメディアでも取り沙汰されることが昨今多いが、ビジネス的な進捗が確立されていないせいかこれほど興味深い研究実践について専門知を積極的に訪ねることをしなければ触れられない部分が大きかった。
身体における未知の淵源はなお一層探求の魅力を増しており、研究者は多様なやり方でそこに至ろうとする科学立国の矜持を感じられる。

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2023年05月20日

Posted by ブクログ

面白い。興味深い。こんな研究してるところがあるんだ!ワクワクする。そんな一冊。
エクソスケルトンで弾き方を体験すると、その後外したあとも複雑な弾き方ができるようになっているのは、凄い。意識が体を縛っていると、体は意識以上のことができない。しかし、目的を意識しないと、体はそれを目指して動けない。そのジレンマを、エクソスケルトンをつけることによって、自分自身が意識している以上のことを体に体験させる。すごいなぁ…
桑田選手の投球フォームを調べると毎回ブレがある。たけど、回転とか投げる方向とかの目的は的確に達成している。選手自身は全く同じフォームで投げているつもりでも、そういう事が起こる。

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2025年12月02日

Posted by ブクログ

体の無限の可能性×テクノロジー。人間は自分の体を使いこなせてないっていうけど、科学や機械と通じるとこんなにもできることが増えるんだな
と驚いた。きっとこれからもどんどんテクノロジーが発展していって、人の活動を豊かにしていくんだろうなと思いました。とりあえず介護や看護の場面で何か職者も患者も楽に生活できる物ができたら嬉しいね…。

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2025年09月13日

Posted by ブクログ

「できない→できる」のためには未知のやり方で体を動かす→意識が正しいやり方を体に指示する→しかし未知なので意識は正しくイメージできない→体はそれを実行できない

と言うジレンマを超えるジャンプ。これを可能にしているのが、体の「ユルさ」。体は、意識を超えて「ゆく」のです。

これがこの本の趣旨。この実践方法として色んな具体的な例、研究者を紹介している。

例えば、元ジャイアンツピッチャーの桑田のピッチングフォーム、バーチャルしっぽを振る実験、など医療に応用したり、アスリートや演奏家の技術向上に使ったり、新たな科学技術のヒントになったり、面白い実験ばかりだ。とても書ききれない。

読んでいて、ひとつ思い出した。
小学生くらいの頃、親にスケートリンクへ連れて行ってもらった。もちろん初めてだし、どうやれば滑れるのか分からずずっとリンクの縁を手すりを伝っているだけだった。

そこで親がとった行動だが、、。スイスイと上手く滑っている大人、当時の私からみた大人だから、20代前半くらいだったかもしれない、そんな男性に声をかけ、「この子連れて一周だけ回ってもらえない?」と頼んだのだ。今の時代なら多分やらないだろうが、私はそのお兄さんに連れられてへっぴり腰で一周した。

そしたら、驚くことに後は1人で楽々スイスイ滑ることができたのだ!お兄さんに連れられて滑る間に完全に体が覚えてしまった。ほんの一周だけの練習で!私の親、エラい!

インドアでこもりがちな私と違い、体を動かすのが好きな親は、習得の秘訣を自然体で知っていたのだろう。まさにこの本の趣旨に沿う体験だった訳だ。

いや違う。また思い出した。この本の紹介文を読んだ時に、自分のスケート体験を思い出した。だからこの本を読みたいと思ったのだった。

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2025年06月22日

Posted by ブクログ

脳に作用して体の「できる」を研究した例を挙げている。「脳を操る」の領域であり、悪用される危険性に少し言及しつつも、スポーツや学習、リハビリなどに非常に有効な方法を示している。

非常に読みやすい。VR技術を使っての練習で効率よく「わざ」を習得できる話など、根性論だけで間違った方法で練習して身体を壊してしまうことを防げるという話が出てくる。脳は「学習することはできても、身につけてしまったことを忘れられない」習性もあるというのが印象に残った。勉強にしても、ここで紹介されている学者の一人は小学生の頃、「効率よく学習効果を出すために、先生の教えることを感動して聞くように自己暗示をかけていた」とか。
技術以外にも、学習は記憶だけでなくその時の環境や状況とセットでインプットされるなど、自分の普段の行動にもあてはまる話があった。

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2025年03月02日

Posted by ブクログ

中々難しい本でした。。
時間はかかったのですがやっと読み終わりました。
技術の習得に関してあらゆる角度から議論されています。

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2024年12月24日

Posted by ブクログ

これでいい、と自己肯定すると
安心するけど成長はしない
これじゃだめだ、と自己否定すると
努力や工夫によって成長するけど不安なまま

この二項対立のその先を考える

 これじゃだめだ、と努力する自分そのものを
 これでいい、と肯定できたら

10本の指が独立して動くように、ハノンを繰り返す
音楽をさまたげないように

手癖、指癖で、いびつなドレミを並べる
体をさまたげないように

この二項対立のその先を考える

 癖になるほど好きな音に出会って
 その音に近づこうとするなら

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2024年09月30日

Posted by ブクログ

「できるようになる」とはどういうことなのか。様々なテクノロジーを駆使して「できる」という身体感覚の解明に取組む5人の研究者、エンジニアへの取材を通して考察していく。身体が意識の完全なコントロール下にない「からこそ」技能習得ができるというのは言われてみれば納得だし非常に面白い。身体がテーマということで身体的な技能習得が基本軸だけれども身体的なものだけでない幅広い技能やスキルの習得、習熟にも広がりうる話で、職業面での教育・育成という自身の関心テーマとも非常に重な刺激をたくさん受けることができた。

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2024年07月27日

Posted by ブクログ

読みやすかったし面白かった。
できないことができるようになる瞬間の「あ、こういうことか」をサポートするテクノロジーが書かれていた。
ニューラリンクのように脳にインプラントを埋め込んで考えるだけで色々できる、みたいなのは正直言って少し怖い。
でも、装着することでプロと同じ指の動きでピアノが弾ける器具だったら面白い。試してみたいと思う。

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2024年04月07日

Posted by ブクログ

複数の理系研究者を現代アートの研究者がインタビューし、気づきを横展開しつつ「できるようになる」意義や醍醐味を取り戻す文脈に整理する

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2024年02月17日

Posted by ブクログ

目の見えない人は~を書いた人だったと読み終わって気づきました

できる、とはどういうことなのか?
できるようになる、とは?
といったことが科学的視点から考えられていてとても面白いです
たしかに、意識しなくてもできるようになっていることは沢山あるよなぁと思いながら読みました

エレクトーンを習っていたことがあるので、一番最初のピアノから書かれている章は興味深かったです

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2023年10月28日

Posted by ブクログ

これまでの筆者の本とは少し様子の違う内容となっています。主に体の学習やできるようになることについて、最近のテクノロジーを通して見えてきたことについて書いている印象です。
紹介されているテクノロジーが興味深いことはもちろん、それを通して身体がどのように学習をしており、できるがどのように作られていくのかを見る視点となっている気がしています。
特に技能向上の行き詰まりに対して自分のこれまでの運動の枠から出た運動の仕方を示すことで枠から出ることなどは興味深かったです。自分だけの理論では自分の枠から出れず、言葉だけだと枠から出難いが、即時性を持ったテクノロジーによる学習がそれを可能にするなどは可能性を大いに感じるものでした。
できないことに注目してきた筆者が、できることについてまとめた本と理解していますが、序盤で出てきたできることの選択肢が今後も増えてくる中で、何をすべきで何がすべきでないのかは多方面から検討されるべきという点はとても共感をしました。

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2023年10月14日

Posted by ブクログ

5人の理工学者の体を使った研究がどれも面白く役に立つ様子も素晴らしい。特に脳との関連が強く障害者や機能を失ってのリハビリなどへの貢献など、期待が高まる。
お猿のしっぽを動かす実験は特に面白かったです。
体が「できるようになる」ということの不思議さに魅せられました。

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2023年06月08日

Posted by ブクログ

「できる」ということはどういうことなのか、科学的な視点から論じている本。

五人の科学者へのインタビューをもとに、著者が考える「できる」論が書かれていて、興味深い話が盛りだくさんでした。

ピアニストの脳と指と「できる」ということ、桑田真澄の投球コントロールから得られること、リアルタイムにコーチングする技術、(ついていないはずの)尻尾をコントロールできるようになる不思議、声を出さなくてもアレクサに指示を出せる?…。

昔なら、ドラえもんがポケットから出してくれたようなテクノロジーが、今は現実のものとなっていて、脳と体の関係が少しずつわかっていく。そして、その技術が、障害のある人への助けになったりする。


私は、伊藤亜紗さんの本を読むのはこれが初めてでした。
以前にも、医療情報を発信しているお医者さん達の話題の中に幾つかの本が紹介されていて、気になっていました。

これ1冊を読んだだけでも、いろいろな気付きをもらえたけれど、伊藤亜紗さんが伝えようとしてくれていることの一部しか受け取れていない気がする。


なので、他の本も読んでみたいと思います。

どんどん「読まなくちゃ」の本が増えていきますねー。
頑張ろうー。
(頑張る先に何かがあるわけではないけれどw)

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2023年05月30日

Posted by ブクログ

テクノロジーが身体の機能み拡大させていく。テクノロジーと身体反応との循環というかフィードバックがあるんですね。そのテクノロジーをどういう風に使っていくか、という発想も面白い。長嶋監督の指導の仕方も、意外と本質を捉えた指導かもしれませんね。変動の中の再現性。脳の可塑性。

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2023年05月22日

Posted by ブクログ


「はじめに」からグイグイ引き込まれる内容だ

バーチャルリアリティを使ってけん玉の技をトレーニングする
球の動く速度はかなり遅い
このトレーニングにより、96.4%が技を習得したという

(TVでもこういうの見たぞ!ご高齢の方のリハビリだ
負荷をかけたトレーニングをさせたいが、故障してしまう可能性も高い
よって編み出された方法とは…
負荷の少ない器具を使うのだが、バーチャルでは実際より負荷の高い器具を使っているという設定にし、
そのバーチャル映像を見ながらリハビリトレーニングするのだ
これにより身体を痛めることはなくなり、かつ効果があったという)

「自分の体を完全にコントロールできないからこそ、新しいことができるようになる」という
どういうことかというと、逆に「体が完全に意識の支配下だったらどうか」
うまくやったことがないことをそもそも人は意識できないし、
うまくやろうと思ってもできない事は、意識の仕方が間違っていることになる
できなかったことができるようになるとは、「意識が体に先を越されるという経験」だという
意識がお手上げでもテクノロジーがあれば介入できると嬉しいことがたくさん書いてある


五名の科学者と考えるのだが、自分自身がピアノを習っていたのでピアノ関連でざっとご紹介

ピアニストの演奏技術を助ける方法を研究している科学者
「練習と本番は、仮説と検証の関係」だという
「ふだん降りてこない演奏を降ろすため」の探索
(何かが「降りる」という感覚は芸術だけではなくスポーツでも起こりますね)
楽器の個体差、場所、時間、その日の気温湿度、本人のコンディション…
すべてがそろったとき
そんな奇跡を待つの?いいえ違います

かつては…
筋トレ的なピアノ教育が盛んであった
これは全体を部分へと分解してしまい、かつ身体を壊してしまう
本末転倒なこの方法(根性で何とかする時代ありましたねぇ 「スポコン」流行りましたもん
私も幼少時に手を広げる器具を装着しタオルを巻いて固定させられた覚えがある 今なら虐待になるんじゃないのかしらん?)

芸術、スポーツ、そして労働や仕事までもが当てはまる面白い表現で言えば…
~職人の総合的な技を解体し工場労働的な分業と単純作業への反復及び分解にしてしまう
大量生産や弱肉強食といった近代資本主義社会の論理だ~

ではどうするか
プロの動きを体験できる自動で動く指のマシーンを生み出す
正しい指の動きを直感的に理解することができ、鍵盤を押す深さや押し方も再生できる
実際使用された科学者の息子さんのひとこと「あ、こういうことか」
(これめちゃめちゃよくわかりますね 結局私はピアノに関して「アハ」体験を全くすることもなく
ただひたすら親の目を盗み練習をサボることばかり考えていた思い出しかない…トホホ)

意識と関係なく指を動かすことよって、意識することのできない動作、つまりイメージすることのできない領域へと私たちの体を連れ出してくれる
未知の可能性へと誘い出す(ぜひとも味わってみたいこの体感!)



もう1個だけ事例を…

元巨人の桑田真澄
(何を隠そうファンだから取り上げたい(笑))
制球力のあれほど良い桑田の投球フォームは毎回違う
フォームは毎回違うのに結果はほぼ同じ
そしてご本人も知らなかったそうなのだ
環境の変動に対する応答可能性
それは「体のゆらぎ」だという
まさにこれが無意識レベルで体が意識を追い越している現象だという

(高校時代からしっかり存じ上げており大変尊敬しているのだ
そう大変な努力家であるから
が、それだけじゃない何かがあるはず
センス?
ん?もしかしてセンスってこういうことなのか?
無意識レベルで体が意識を追い越している現象=センス?)


■「報酬」と「罰」は使い分けが大事
非常に興味深い内容があったので紹介したい

「褒められると伸びるタイプです」と豪語するゆとり世代ちゃんたちに教えてあげたい!
異なるタイプの学習で使い分けが大切のようだ

◇報酬系
ドーパミンがバーっと出る
脳の深いところがつかさどる
うまくいったときの運動の仕方をフラッシュで焼き付けるようなもの
強化学習に最適だが、時間を置くと忘れてしまう

◇罰系
小脳で働く
誤差やエラーと認識し、その運動を抑制したり計画をチューニングし直す作用となる
小脳は記憶もつかさどる
よって罰系で学習すると学習したことが長い間定着しやすい
長い間やっていない水泳や久しぶりの自転車がこれにあたるという


興味深い内容は尽きないのだが…

~体という謎めいた物体を前に試行錯誤する人の営みは科学者よりその人その人が真理を求めて彷徨う
その営みは過去、未来に向かう体の歴史をつくり、身体的なアイデンティティとそこにうまれる唯一無二の物語は文学だという
「科学」と「文学」はいずれもテクノロジーとの付き合いに試行錯誤しながらも進んでいく~
「文理共創」著者の目指したいところはここなのだろう


なぜこの本を読みたかったか
それは私が芸術+スポーツである踊りを長年やっており、行き詰っているからである(トホホ)
むかしむかしはスポコンで「10回やってできないなら100回やりなさい」とご指導をうけておりましたが、
そんなことやったところで、できないことが全てできるわけがない(と気づくまでに約10年)
もう20年も続けているのにこのザマは一体…
プロの方や、上手い踊り手と一体何が違うのだろうか
数年前からいろいろ検証かつ試行錯誤の模索をしている最中なのである
この本で少しだけわかったことは
あらゆる環境に置いての再現性(変動の中の再現性)の重要性だ
このために出来ることはたくさんあるだろう
練習場所を変える、服装を変える、道具を変える…
そして修行は続くのである…


人の可能性を秘めた非常に興味深い内容なのだが、
ただ素人がどこまでできるかという虚しさも残るんだよなぁ
そんなことより、お身体の不自由な方や障害のある方に役立ちそうな内容がたくさんあった
今後、テクノロジーのさらなる開発により不自由な方に少しでも役立つことが増えるといいと思うし、
研究されておられる方を応援したいものだ


※Kazuさんのレビューで興味を引き読むことができました
ありがとうございます!


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2023年05月18日

Posted by ブクログ

脳と体の関係について、おもしろそうな本であったため読書
テクノロジーと人間の体の可能性について

メモ
・体のゆるさが体の可能性を拡張している
・自分の体を完全にはコントロールできないからこそ、新しいことができるようになる。

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2023年05月08日

Posted by ブクログ

伊藤亜紗さんの「見えないスポーツ図鑑」は期待外れだったが、本書は面白かった。
楽器演奏やスポーツ技術の習得に苦労した経験のある人や、今苦労している人には新鮮な視点が得られるだろう。

桑田真澄の投球フォームのデータには驚いた。
30球ほど「同じフォームで」投げて貰ったところ、大学や社会人の投手よりズレが大きかったのだ。
桑田の制球力には定評があり、コントロールのブレは少ないのに、これはどういうことだ。

フォームのばらつきがコントロールの誤差を生んでいるのではない。
誤差を含んだフォームからの調整力がコントロールの良さを生んでいるのだ。
実践の投球では、マウンドの傾斜や土の硬さ、風の強さや向き、疲労度など、環境は変化している。
桑田のフォームの揺らぎは、環境の変動に対する応答の可能性に繋がっている。

桑田の制球力の良さは、精密機械のような再現性でなく、結果を同じにするためにパフォーマンスを変える、変動の中の再現性なのだ。
優秀なピアニストが、ピアノの特性や空間の音の響き方によって自分の演奏を柔軟に変形させているのと同じだ。


本書はテクノロジーと人間の体の関係について「できるを科学する」ための本です。

「できる=優れている」「できない=劣っている」という能力主義的な価値観の社会の中では、
「できるようになる」は「○○さんよりできるようになる」という他者との比較の問題になってしまう。
そんな優劣を論じた本ではない。

できないには「思い通りにならないからこその可能性」がある。
楽器演奏でもスポーツでも練習方法を変えることにより得られるものがある。

そして、色々と工夫していると、ある時うまくできることがある。
「できたっ」ではなくて、「あ、こういうことか」という感覚。
これ、殆どの人がそういう経験していると思う。
理論に体を合わせるのではなく、先に体でできてしまって後から意識がそれを確認する。
倒れないようにバランスを取って自転車に乗るなんて、まさにどうやっているのか言葉で説明できないが、体はできている。
鉄棒の逆上がりなどもこの部類か。

第1章がピアノ、第2章が野球、と興味ある話題であったこともあり、面白く読めた。

ピアノでは「感覚トレーニング」のツールとして、エクソスケルトンというものが紹介されている。
私はギターは右手と左手の動きが違っても弾けるのに、ピアノは右手と左手の動きがシンクロしてしまい弾けない。
エクソスケルトンを使えばピアノを弾くというイメージが分かりそうだ。

多人数を相手にしていると「個別より一般」「具体より抽象」になり易い。
投手で言えば、誰にでも通用する「普遍的な」良い投げ方があるわけではない。
その体にとって最適な投げ方がある。
人それぞれ、その時の体に合ったやり方があるのだ。

何度もやっているうちに体が先に理解し、どのように行っているかの理論は後付けになる。
桑田のカーブの投げ方の、頭でイメージしている理論と実際の体の使い方が違っていたというのがその証拠だ。

桑田の感覚は、
①中指でボールを下向きにこする。
②親指でボールを上向きに跳ね上げる。
③腕の振りはストレートとは違う。

ハイスピードカメラの実際の映像は、
①中指ではなく人差し指でボールを下向きにこすっている。
②親指はボールを支えてはいるが、手のひらの中に隠そうとする動きになっている。
③腕の振りはストレートと同じ。

同じフォームで投げているつもりが、実際はだんだん前かがみになっていたり、
感覚とは違う方法でカーブを投げていたり、イメージした結果になるように勝手に体が動いている。

今の野球選手は、映像で自分のフォームなどを確認しているが、それを見てどうしようとしているのか気になる。
桑田の場合、ずっと脳の感覚と体の動きがズレていることを知らずに成果を残してきたのだ。

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2023年03月26日

Posted by ブクログ

けんだま練習のAIのことをちらっと聞いて、興味を持った。
身体ができないことを、科学技術の力でできるようになるとはどういうことだろう?

できるようになるというのが、「自分の輪郭の書き換え」ということであって、他者と比較してディスられるものではないという意見に共感。

桑田のピッチングフォームのことから、状況が変わる中で常に結果が同じくなるように合わせるというのは、なるほどと思った。
身体を全く同じように動かしたところで、環境が違うとどうにもならないだろうから。

それまでの自分じゃないところに誘う役割として、「暗示をかける」みたいにテクノロジーを使うということなんだ。
テクノロジーを外した後もできることが継続することもあるようで、興味が湧いた。

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2023年03月19日

Posted by ブクログ

恥ずかしながら学問や先端技術とかわからんので、「へ〜、そういうことやってる人もいるのね〜」という反応。
アンデシュハンセン系の自分で試してみようとか、そういう本ではない。

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2025年03月13日

Posted by ブクログ

5人の専門家・科学者へのインタビューを軸に、人間の身体が能力を身につける過程や感覚の会得とはどういうのものかを解説している。最新のテクノロジーを組み合わせて進められている研究も多数派紹介されており、今後の可能性にも様々な点で期待が持てる。
あらためて、人間の身体が持つ神秘的な奥深さや拡張可能性に驚かされた。

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2024年07月24日

Posted by ブクログ

★★★
今月1冊目
科学的な本。ピアニストにエクソスケルトンをつけて物理的に動かすとできないからできるイメージがわいてジストニアがなくなる。
このマシーンいくらするんだ?

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2023年11月11日

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