小川哲のレビュー一覧
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地図と拳→嘘と正典→ゲームの王国→君のクイズと読んでやっとこのデビュー作に辿り着きました。
すぐに読み終えるのが勿体無くて1日一章までと決めて読みました。
海外の作品の方が日本の作品より優れているというつもりはないのだけれど、この作品は舞台がアメリカなこともあり、アメリカSF小説の翻訳を読んでいるような感覚でした。逆に英訳版を出して世界の人々の評価を知りたいくらいです。
2015年の作品だけれども今まさに起きている、あるいは起きようとしている世界を見ているようでした。そして小川哲さんの論理的というか理詰めで理屈っぽい表現が自分の好みにぴったり合ってすごく面白かったです。
行為を裁くこと -
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個人の情報や行動のデータを全て提供する代わりに、完璧に安全が保証され、調和の取れた理想の生活が手に入る街、「アガスティアリゾート」。
そこでの生活を志願して暮らす人々の話。
カメラに囲まれた街で視覚、聴覚などのあらゆるデータが分析され、犯罪や不穏な行為は未然に防止される。究極の監視社会とも取れるが、住む人によっては完全なるユートピアであり、なんとしてでも住みたい理想郷として描かれている。
程度の差はあれど、個人のインターネットを通したやりとりを企業に情報提供することに抵抗がなくなり、あらゆる情報が個人に最適化されて提供され、自分自身でものごとを選択する必要がどんどん無くなってきている今 -
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「なんだこれ?」と「なんだこれ!」の間で反復横跳びさせられた作品。
小説も商業の場合は、読者のことを考えて書く必要があるとは思っていたが、ここまで色々なことを考えているとは思わなかった。著者の賢さは存分に伝わってきたが、その思考に私がついていけず、ところどころ何を読んでいるか分からなくなった。
とりあえず、小説国の法律のくだりと、アイデアは発想力でなく面白い瞬間を見逃さない視力によって生み出されるという意見を読めただけで収穫である。
身勝手なことだが、全作家がここまで思慮深くないことを願いたい。そうでなければ、私は筆を折ってしまうだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ直木賞作家が描く早川書房創立80周年記念作品である。さらにNHKの放送100年特集ドラマの原作となっている(2025年12月放送予定)。読んだ印象としては、ドラマ化を前提に書かれたような作品と感じた。また、オーソドックスな「火星もの」として読むことができた。
ただタイトルからしてそうなのだが、ハインラインの<月は無慈悲な夜の女王>を想起した。「月対地球」と「火星対地球」の独立騒動。そして武力衝突(本作では限定的)と来る。
本作では。火星と地球との距離に起因する対面での交渉や会議の「間延び」が問題となっており、ここが物語のミソと言えるだろう。
ちなみに<月は無慈悲な夜の女王>は、< -
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何でゼロ文字回答ができたのか、全く分からない中で読み進めて、よく分からないけど見えていない人物のストーリーがあるんだろうなと思って読んでいた。でも、この本からクイズの奥深さや技術を知るうちに、あのクイズによって何が分かったんだろうという探せば分かるんじゃないかという気持ちにもなった。ゼロ文字回答ができた答えは、何の魔法も物語のお話のようなことがあった訳ではなく、現実にありそうな恐らくあるストーリーだった。最初はミステリーに思えても、現象の答えは日常の延長のような感じで理由を知ると納得できる驚きもないということが、すごくしっくりきてこういうの書けるがすごいなと思った。クイズはその人の人生で、人生
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1970年代の地獄のカンボジア。
ポル・ポトの支配していた時代を駆け抜ける、史実を元にした物語の下巻。
大量殺戮の季節が生んだ、復讐の誓いと二人の訣別。そこから半世紀後。
政治家となったソリヤは理想とするゲームの王国を
実現すべく権力の頂点を目指す。
一方でムイタックは自身の渇望を完遂するため、
脳波測定を使用したゲーム『チャンドゥク』の開発を
早熟な少年アルンと共に進めていた。
過去の物語に呪縛されながらも光ある未来を
希求して彷徨うソリヤとムイタックが最後に手にしたものとは。
壮絶な歴史を描いてきた上巻とは打って変わって、
いきなり物語は50年後の現代、そして一気にファンタジー感を増す -
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ネタバレ神とか信仰をテーマした小川哲の短編集
テーマを絞っているようで、取り上げている題材と描かれている知識は膨大。まずはその情報量というか知識を浴びるのが楽しい。
短編なので基本アイデア勝負なんだけど、伏線張って回収していくこともきちんと押さえている。ただ、短編故の説明余地の少なさで、落とし噺のようにすっきり治まる話もあれば、難解のまま終わってしまう話もあって好みも分かれると思う。
聖書の解釈を巡る冒頭作で「なんじゃこの情報浴びせ系」と圧倒させておいて、SF感動譚の最終話でほっこりさせるという構成は良い。難解度的に、掴みはOKで始めるのも手だが、いきなり関門ガツンで最後ユル目ってのも1冊全体通す -
Posted by ブクログ
前情報何もなくタイトルだけで手に取ると、
想像と180度違う内容に驚愕する小説。
とにかく日本人の作家が選ぶ題材としてはかなり挑戦的な部類だろう。
後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュの首魁サロト・サル。
その首魁の隠し子とされるソリヤという少女。
そして貧村ロベーブレソンに生を享けた天賊の智性を持つ神童のムイタック。
皮肉な運命と偶然に導かれた二人は、
軍靴と砲声に震える1975年のカンボジア、バタンバンで出会った。
秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺。
百万人以上の生命を奪った全ての不条理は、
少女と少年を見つめながら進行する。あたかもゲームのように。
世界史の授業で触れた