滝口悠生のレビュー一覧
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「お母さんのほうが、よかった」と泣き叫ぶももちゃん。全力で抵抗するももちゃんをなだめて保育園につれていこうとするお父さん。その光景が、目に浮かぶほど細かく書かれているのを始めに読んで、子育ての頃が懐かしくよみがえってきました。
お父さんがももちゃんの気持ちを考えたり、ももちゃんの思いに寄り添う様子を、温かく思う自分に気づきました。細かく子どものことが表現されている文章に、惹き付けられました。
子どもは毎日同じことをしているうちに、いつのまにか大きくなっていて、3歳頃までの発育は見落とすのがもったいないくらいだったなと、私はその時期を過ぎてから気づきました。
ももちゃんのお母さんは、お父さんから話を聞き、ももちゃんの成長を感じていました。こんなふうに2人で同じように子育てするような時代になって、よかったなと思いました。そして羨ましく感じました。
保育園の先生や、ももちゃんの友達の親たちとの交流も、みんなで育てている感じがして、そんな感じだったなと思い出しました。
子どもと歩いていると、声をかけられ、笑顔を向けてくれた多くの人がいたことも思い出しました。ももちゃんと保育園の友達とのやりとりを、ほほえましく感じると同時に子どものたくましさも感じました。
ほとんど考えることがなくなっていた子どもの幼い頃を思いだし、あの頃が一番大変だったけれど、子どもと共に自分も育てられた時期だったなと思いました。そしてあの頃、子どもを介して親しくなった人たちと、いつまでも当時に戻れて話せることが、とても幸せなことだと改めて思いました。
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Posted by ブクログ
この著者、読みはじめ慣れないうちは、一瞬、なんか読みにくい?くどい?とか思っちゃうんだけど、慣れるとクセになるというか、ああこの人こういう文章だった好き、と思うっていう。今回もそうだった。口に出さず心のなかで思っていること、うつろっていくさまざまな細かい思いがそのまま書き連ねられるような感じが好き。
ストーリーは、友人のロンドンでの結婚式に出席した30代の夫婦が、その帰りにイタリアに住む妻の友人を訪ねるって話と、同じ結婚式に出席した友人のひとり(窓目くん)の恋愛話。どっちもおもしろかったけど、この「窓目くんの手記1~5」がよかった。手記と言いつつ、手記じゃないみたいな部分があったり、延々と料理の実況中継みたいになったりしてちょっと不思議な読みごこちもあるんだけど。彼が恋するシルヴィーあてのメールの、日本語で考えて英語で書いたメールをまた日本語に訳したみたいな文章がよかった。ロマコメみたいにキュートな感じがあって、まさに窓目くんこそ「ラブリー」だ。期待や願望や約束は絶対に叶えられないと思っている、でも絶望しているわけではなく、あきらめているわけでもなく、っていう窓目くんいいなと思った。 -
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読み終わるまでに時間もかかかったけど、読み終えてからもあれはなんだったんだって考える時間もあったりといい読後感だった。
最終章を読んでいた時、この部分を読むためにずっと漂っていたのかもしれないとも思った。思っていル。
「海はあらゆる時間にもつながっているんだ、海を見てれば誰だってそのうちそう気づいて気づいたときには遠い時間が波にのって寄せてくる」
硫黄島にはかつてそこで暮らし死んでいった人々がいた。民宿「水平線」の2階の部屋にはかつてそこで海の向こうを眺めていた家族がいた。そして今を生きる人がいる。そうやって繋がってきたものが時間を超えて混じり合う。海や釣りを介して。
現代パートでは横多の生きている世界では2020年に東京五輪が開催されているけど、妹の世界線では五輪延期しているのに兄(横多)の言っている五輪はなんだったんだろうという場面がある。この世界線の違いはなんだったんだろうと考えてもわからなかった。なので、そういうもんなのかと思いながら読み進めた。 -
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新井田は、先輩から譲られたかたばみ荘のある部屋でに住んでいたが、就職とともに部屋を出ることになった。その際に譲った片川三郎は、しばらくすると失踪し、新井田には大家の万田から問い合わせが届く。片川を探さなくて良いので、次の住人を探すように言われるが…。
日記なのか、インタビューなのか最終的明らかにされないが、いずれかの形で、新井田から次々と住人またはその周辺の人物による視点による自分語りによって語られることによって、かたばみ荘の記憶を描いていく。
ミステリとして読むのであれば、片山三郎が失踪した理由と行き先であったり、かたばみ荘に住む謎の人物であったり、そもそものかたばみ荘の謎に付いてというところになるのだが、ある意味そのへんはどうでもいいというところが面白いところでも有る。
ふんわりと過去の関係ない話が続くため、当初は散漫に感じるものの、片山三郎の謎が明かされていくうちに話が一旦まとまっていき、『蒲田行進曲』のあたりで理由がわからなく広がって収束してという、なんとなく安部公房を想起させるようなストーリーでも有る。
純文学かと言われると、きっとそうではないのだろうけれども、ふわっと解ったようでわからないような雰囲気は芥川賞系なのだろうなあ。
些細なところだが、七見奈穂子のところは序盤はやけに分が長いまどろっこしい文学的な表現だったのに、途中からさらりと軽い口調になってしまうのと、タムラックスの視点がなかったのが残念なところか。
最終的に、タイトルの『高架線』が比喩なのか直接表現なのかはちょっと判断に苦しむところでは有る。 -
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仁さんと茜ちゃん夫婦のイタリア旅行記風のお話と、後半はその夫婦の友人の窓目君の話。エッセイかと思いきや小説なんですね。視点があちこちに移っていく文体や窓目君の偏執的な語りといい、捉え所のない感じが面白かったです。登場人物みんな本当にどこかにいそうな感じがする。窓目君のあの感じは、そりゃ日本人で付き合える人はいないって言われちゃうよな…と思いつつもちょっと気の毒になったり。でも、彼女でもない大学の同級生に原稿用紙100枚の論文?作文?を渡しちゃうのはやっぱり気持ち悪い。むしろ、数年後に半年とはいえよく付き合えたな。窓目君の遠視的な恋の仕方は、なんか対象を過剰に神聖視してしまうところといい、寧ろ推し活とかに近そうで…あぁそういうタイプの人もいるよね…と分からないでもない感じ。
カレーは非常に美味しそうだった。 -
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硫黄島の島民の記録を軸に,敗戦前に疎開した人々とその家族を少しオカルト交えて描いている.そして軍隊に徴用された人々が全員死んだ事実には,改めて胸が塞がれる思いがする.硫黄島からの疎開者の孫である来未に死んだはずの祖父の弟忍からかかってくる電話と横多兄に行方不明の祖母の妹からのメール.夢ではなく現実に過去が混ざり合ったような場の異空間の表現が自然で,読みながらも受け入れていて,でもそれはおかしな事.
硫黄島といえば,戦争の激しさばかりが強調され兵隊さんたちの悲劇がクローズアップされるけれど,島中犠牲になった人々のことを思うと,どこかサバサバと綴られた物語の中に深い哀しみを感じました. -
Posted by ブクログ
クリント・イーストウッドの映画で有名になった硫黄島。戦前は住民がいたなんて知らなかった。
硫黄島に残り亡くなった家族、そして本土に疎開して生き残った家族とその子孫の物語。リアリズム小説なら並行世界的に描かれるところだが、この小説では超常現象的に両者が交わり、そしてそれはとても自然に書かれる。またリアルに表現されているはずの現代パートも微妙にズレて両立する。
最初はその荒唐無稽な内容に違和感を覚えるんだけど、だんだんその世界に馴染んできて、世代的に遠く離れた人々が身近に、逆にリアルに感じられるようになる。不思議な話だ。
硫黄島の砂糖工場で使われる牛フジに最も共感を覚えるというのは、自分としてどうか。
「真剣さは毒だ。真剣になっているうちに、自分じゃなく誰かべつの者のよろこびが自分のよろこびであるかのように思ってしまう。他人のよろこびを俺がよろこぶのは俺の自由だが、他人から、そいつのよろこびが自分のよろこびであるかのように惑わされて騙くらかさせるのは御免だ。だから俺はあれからずっと自分の真剣さを疑っている。なるべくふざけていたい。大事な話や、大事なものについて考えるときほど、真剣さに呑みこまれてしまわないように。」