滝口悠生のレビュー一覧
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硫黄島の島民の記録を軸に,敗戦前に疎開した人々とその家族を少しオカルト交えて描いている.そして軍隊に徴用された人々が全員死んだ事実には,改めて胸が塞がれる思いがする.硫黄島からの疎開者の孫である来未に死んだはずの祖父の弟忍からかかってくる電話と横多兄に行方不明の祖母の妹からのメール.夢ではなく現実に過去が混ざり合ったような場の異空間の表現が自然で,読みながらも受け入れていて,でもそれはおかしな事.
硫黄島といえば,戦争の激しさばかりが強調され兵隊さんたちの悲劇がクローズアップされるけれど,島中犠牲になった人々のことを思うと,どこかサバサバと綴られた物語の中に深い哀しみを感じました. -
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クリント・イーストウッドの映画で有名になった硫黄島。戦前は住民がいたなんて知らなかった。
硫黄島に残り亡くなった家族、そして本土に疎開して生き残った家族とその子孫の物語。リアリズム小説なら並行世界的に描かれるところだが、この小説では超常現象的に両者が交わり、そしてそれはとても自然に書かれる。またリアルに表現されているはずの現代パートも微妙にズレて両立する。
最初はその荒唐無稽な内容に違和感を覚えるんだけど、だんだんその世界に馴染んできて、世代的に遠く離れた人々が身近に、逆にリアルに感じられるようになる。不思議な話だ。
硫黄島の砂糖工場で使われる牛フジに最も共感を覚えるというのは、自分とし -
Posted by ブクログ
一人の老人が亡くなりその葬儀に集まった親族達の様子を、それぞれの視点で何気ない一言や頭の中で考えていることが次々と描写されていく短編小説。
登場人物達自身も、葬式の場で久しぶりに会う面々でお互いに「誰の家族か、何て名前だったか」という状態のため、次々と視点の主が変わるので「今、誰が話の主なのか」が時折混乱してくる。しかしそこで描写される情景は、何気ない過去の記憶(なのになぜか良く覚えている)に飛んだり、発した言葉の一瞬のうちによぎった思いだったりが巧く表現されていて、「こんな感覚、たまにあるよなあ」と思わされる。
特に大きな事件が起こるわけでもない。全体的にゆったりと時が流れて行く話だが、 -
Posted by ブクログ
この作家の本を読むのは4冊目。若い世代の男性作家をあまり読まないのだが、『長い一日』がとても良かったし、これからどんな小説が読めるのか、楽しみだ。
亡くなった高齢の男性の一族が通夜に集まる、一夜の群像劇っぽい話。
でも描かれるのは、子供から孫にいたる多数の人々の内面と記憶、それが一夜の行動の中で代わる代わる書かれるだけなので、これを群像劇と読んで良いのか、分からない。
世間的には引きこもりと思われる孫と祖父(この話の中心である死者)の関わりが関係性としては一番重厚そうで意味があるように思うのだが、それは具体的には記されない。それぞれの想像を駆してまで書かれる部分と、まったく書かれない部分 -
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『花束みたいな恋をした』に重要なアイテムとして登場していたので読んでみた。過去のかけがえのない記憶についての小説だったので、『花束みたいな恋をした』のテーマに通じるものがある。
小説内では派手な出来事は起こらず、ゆったりとした時間が流れている小説だった。読んでいると、大切な人との過去の記憶を思い出したくなる。主人公は離婚した妻のことをなにかにつけて思い出すのだけど、私たちは過去の延長線上にいるんだなと実感させられる。けれど、どんな大切な思い出だって時の流れには逆らえず、部分部分が風化していってしまう。だから、新しい思い出を塗り重ねて生きていくのかなと感じた。今思い出せる過去を大切にしたいなと思