滝口悠生のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
夏の季節に読めて良かったです。複数の本を同時並行で読み進める癖があるから、読み終わるのに1ヶ月くらいかかってしまったけど。
たとえば長い一日などで感じた、日常の中の些細なことの自分・他者の拡がりや、茄子の輝きで感じた、過去の自分の記憶の漂いみたいな、滝口さんの哲学たちが、時間軸や物理的にも拡張された壮大なスケールで展開されてゆきます。
壮大なスケールと言っても、SFみたいなあり得ない世界というわけではなく、まぁ見方によってはそうかもしれないけど、なんだか本当にあるような、ファンタジーとかって分類する意味がないような、日常のものとして語られていく。その語りが、悲哀に満ちた劇的な最期ではなく、硫黄 -
購入済み
新たな光で照らす「生」
ヒトは、抗うことの出来ない結末に向かい、為す術もなく生きて行く。
そこには本来、物語は無いが、すべてを擬人化してしまう私たちは、物語を作り続ける。
他人事のように日常は進んで行く。 -
Posted by ブクログ
とても読みでのある小説だった。読書好きの人には勧めたい本。
長いし、わりと時間はかかるのだが、どんどんページをめくっていきたくなる小説。
時空を超えたり、死者が語ったりするのはどちらかというと苦手なのだが、全く違和感なく、そんなこともあるだろうよみたいな感じで読めた。
硫黄島に人が住んでいたのは、映画「硫黄島からの手紙」等で知っていたし、その人たちが大変な思いをしたというのもなんとなくはわかっていた。そして戦後戻れないままであったことも理解していた。でもそこまでだった。この小説を読んで、生き生きとして暮らしていた人たちの様子、そこを去らなければいけなくなった悲しみ、家族との別離、新しい土地で -
Posted by ブクログ
わぁこの作家は私と同い年なのか。
はじめて読んだけど、めっちゃ書きたい内容だった。
前情報なく手に取って、
通夜の親戚の集まりを描いてるとわかってかなり身構えた。
私自身地方の出身で親戚付き合いが濃いもので、
自分の中の強固なリアリティがあるものだから
嘘っぽさとかがあると途端に引いてしまうだろうなと。
でも今作はそんな自分を次第にほぐして行って、
最終的にはなかなか遠くまで連れて行かれた。
まるで線香の煙のようにたゆたいながら
何人もの親戚たちの内側に入り込んでは
この親戚たちの関係性や複雑な思いを描きつつ、
型にはまらぬ家族のあり方をいくつも提示する。
特に後半はかなりドライブしてくる -
Posted by ブクログ
ネタバレ以前勤めていた会社の、もう二度と会うことのない同僚を想う、というシチュエーションは、好きな小説でもある保坂和志の「コーリング」を思わせる。「コーリング」はふと思いを馳せる事がコミュニケーションたり得るか、というテーマだったように思うが、こちらは、関係が絶たれてから、孤独の中で記憶が劣化し、本当の意味で関係が消滅していく事をテーマにしているように思った。特に、元妻の合成写真を作り続ける章など。だから、すごく暗いし救いのない気分になる。しかし、その分、最後のサービスが利いてくる。過去を思い返す事が多く、その都度複雑な気分になる自分としてはこういう話は好きだ。
あと、出てくる地名がいちいち自分に関