遠田潤子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
遠田潤子『雨の中の涙のように』光文社文庫。
先日、惜しくも亡くなった北上次郎が、本作の帯に『一編一編が実にうまく、たっぷり読ませることは最初に書いておく。問題は、心温まる話が多いことだ。なんだか遠田潤子らしくない。』という言葉を残している。確かにこれまでの重く、暗く、ハードな小説の多い遠田潤子とは味わいが異なる作品である。
人気アイドルから俳優に転身した堀尾葉介が関わった様々な人びとたちは、知らぬうちにその人生を大きく変えることになる。第三者の目を通して、堀尾葉介の人物像を浮き彫りにする連作短編かと思っていたが、第七章から事情が変わって来る。最終章で明らかになる堀尾葉介の人生の闇とその結末。面白いことにそれぞれの短編の中に懐かしい映画がモチーフとして描かれる。
『第一章 垣見五郎兵衛の握手会』。思わず涙が溢れてしまうような感動の物語。人生、出会いもあれば、別れもあり、思わぬ形での再会もある。映画は『長七郎江戸日記』と『忠臣蔵』。
愛媛県の大洲で印章店を営む中島伍郎は10年前に京都で時代劇役者になることを夢見て俳優養成所に入り、微かな夢を捨て切れずに京都に留まっていた。そんな中、伍郎は同じ俳優養成所の仲間だった小桜しのぶと同棲する。しのぶには20歳の時に産んだ若葉という娘が居たが、娘は奥出雲に住む祖父母の元で育てら、たまにしか会えなかった。いつの日か、伍郎はしのぶと若葉の3人で暮らすことを願うようになる。ある時、時代劇映画に主演することになった人気アイドルグループの堀尾葉介に伍郎が殺陣を教えることになった。必死に短期間のうちに殺陣を覚え、無事主役を務めた堀尾葉介だったが、突然グループを脱退し、本格的に俳優の道へ進むことを決める。そんな堀尾葉介の姿を見た伍郎は俳優の夢を諦め、実家のある大洲に戻ることを決意する。しのぶに若葉と一緒に大洲に来て欲しいと伝える伍郎だったが、しのぶの方は堀尾葉介の姿に触発され、夢は諦めないと言って東京の劇団に入る。
『第二章 だし巻きとマックィーンのアランセーター』。これも心が温かくなる話だった。アイドルから俳優に転身した堀尾葉介が小西章に伝えた父親の言葉にはジンと来た。映画はスティーブ・マックィーンの『大脱走』。
父親の鶏卵店を継いだ41歳の小西章。鶏卵店の人気商品はアイドルグループの堀尾葉介が幼い頃に食べたと絶賛したことで有名になっただし巻きだった。父親が亡くなり、会社を辞めて店を引き継ぎ、41歳になっても独身でいる章に見合い話を持って来たのは商店街の蒲鉾店の市川夫妻だった。章は編物講座を務める内藤百合という女性と見合いするが、あることが心に引っ掛かり、市川夫妻に断りを入れる。
『第三章 ひょうたん池のレッド・オクトーバー』。一転して、何時もの遠田潤子の小説のようなハードな展開に驚いたが、同時に温かさを感じる短編だった。映画はトム・クランシー原作の『レッド・オクトーバーを追え』と『リバー・ランズ・スルー・イット』。
モンタナでフライフィッシングのガイドを務める60歳を過ぎた村下九月が帰国する。村下が語る23年前に村下九月の人生を変えた白い傘の女は後に俳優となった堀尾葉介の母親だった。
『第四章 レプリカントとよもぎのお守り』。本当の幸せは身近にあるのに気付かないのだ。映画はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を原作にした『ブレードランナー』。
潜れなくなった元潜水士の35歳の横山龍彦は、山間の小さな町でカフェ&創作料理『森の塩』でオーナーシェフを務める志緒に拾われる。OLを辞めて念願の店を持った志緒だったが、店は赤字続きだった。ある日、龍彦が老夫婦を助けたことを切っ掛けに老夫婦が店を訪れるようになる。その老夫婦は堀尾葉介の両親だった。
『第五章 真空管と女王陛下のカーボーイ』。山あり谷ありの人生。その時の決断一つで、波に乗って駆け抜ける人生もあれば、足踏みする人生もあれば、後戻りする人生もある。映画は『真夜中のカーボーイ』と『ボヘミアン・ラプソディ』、『女王陛下の007』。
小学3年生の晴也と2人で暮らすペット探偵の丸子浩志は密かに28歳の歯科衛生士の鮎子と付き合っていた。突然、浩志の元に堀尾葉介からの依頼が入る。ペット探偵の役柄で映画で主役を務めることになった堀尾葉介が浩志の仕事を役作りのために参考にしたいと言うのだ。そんな中、鮎子にプロポーズする浩志だったが、ある事件を切っ掛けにプロポーズを撤回する。
『第六章 炭焼き男とシャワーカーテンリング』。何が人生を変えるのかは解らない。我武者羅に働いていても、それが報われるかと言うとそうでもない。映画は『大災難P.T.A.』
炭焼きの仕事をする38歳の岩田近夫がわざわざロケ場所まで堀尾葉介に会いに行く。岩田が話す堀尾葉介にまつわる不思議な話。今の世の中の不幸を全て詰め込んだような悲しい話だ。
『第七章 ジャック ダニエルと春の船』。映画は『スカーフェイス』と『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』。田舎ではありがちな、いじめや不正。
久し振りに実家に戻った大型貨物船の船長、玉木順二と堀尾葉介の不思議な縁。あらためて、全ての短編が堀尾葉介を中心につながっているのだなと感心した。
『最終章 美しい人生』。『雨の中の涙のように』というタイトルの意味が解る完結編。映画は『素晴らしき哉、人生!』。堀尾葉介の抱える心の闇が全ての明らかになり、堀尾葉介が辿り着いた人生の場所が描かれる。
本体価格700円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
大阪で鷹匠として働く夏目代助。ある日彼の元に訃報が届く。12年前に行方不明になった幼い義弟・翔一郎が、遺体で発見されたと。孤児だった代助は、日本海沿いの魚ノ宮町の名家・千田家の跡継ぎとして引き取られた。初めての家族や、千田家と共に町を守る鷹櫛神社の巫女・真琴という恋人ができ、幸せに暮らしていた。しかし義弟の失踪が原因で、家族に拒絶され、真琴と引き裂かれ、町を出て行くことになったのだ。葬儀に出ようと故郷に戻った代助は、町の人々の冷たい仕打ちに耐えながら、事件の真相を探るが……。第1回未来屋小説大賞を受賞した、長編ミステリ!
町人がよってたかって冤罪でっち上げはあかんだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ醤油蔵の跡取り息子をお父さんに持つ、銀花。
銀花の複雑な生い立ち、彼女が当主になるまでの醤油蔵の存続。家族の紆余曲折が描かれています。
初めての作家さんでした。
めちゃくちゃ,良かった
時は、1960年代。大阪万博へ行くシーンがありました。
生まれてきたこと、育った環境に抗えなさ。彼女には、次々に試練が、、
電車の中で読んでいて、ほろっと涙がこぼれました。
家族とは、血族とは?
深く考えさせられる一冊でした。
遠田さん、もっと読みたいです!
おすすめあれば,是非!
ネタバレあり備忘録
銀花ちゃんお母さんの窃盗障害。
お父さんの画家として生きたいという苦悩。義母の長年言えなかった子供の生い立ちの苦しみ。
銀花ちゃん、剛くん、あなた達の苦悩が痛いほどに伝わる。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ凄い作品だった。
人間の厭らしい所と素晴らしい所が随所に散らばっていて考えさせられる事がいっぱいあった。
ストーリー背景は何故か昭和をイメージしてしまう。携帯電話とかネットとか出てくるのにも関わらず登場する人物達が何故かその雰囲気を醸しだしている。
ミステリーというよりは官能的であり文学的だと感じた。
「コンプレックス」がテーマになるだろうか?
各々のコンプレックスが積み上げられ、過去が継続して現在に至り、苦しみの中で更に苦しみを重ねる。
勿論希望もある。しかし希望に希望を重ねる事はしない、それをしてはいけないという抑止力がそうさせる。
弱さが顕著には出せず、理解の薄い人間関係の中で飲み込むしかないようにその弱さを溜める。そして苦しむ弱い者達が更に弱い者を苦しめる。なめあおうとしない。
究極の人間らしさなのかもしれないと感じた。
最後は投げかけられるような、問いかけられるかのような終焉。
まるで自分に言われているみたいな感覚を覚えた。 -
Posted by ブクログ
面白かったです。最初、読み始めた時は、ミステリー好きの私が、なぜこの本を買ってしまったのか、後悔しましたが、中盤に差し掛かってきたらどんどん面白くなってきました。
父親がいなくなってしまったところから、急かされるように次を求めて読み進めていった感じです。銀花の人生が、非常にドラマチックで、不幸が次々と襲ってくるので、何処で、休憩を挟もうか、悩みながら読んだくらいです。
話は主人公の銀花を中心にか語られていきますが、過去を振り返る場面などが印象深かったです。彼女以外の視点で語られる事実が、銀花視点からの事実と違っていて、それを擦り合わせて、分かる真実の残酷さに何度も心揺さぶられました。
そして、最後。幸せな気持ちで終わりました。何よりも、彼女を取り巻く家族の形が好きだなと思いました。 -
Posted by ブクログ
遠田潤子『銀花の蔵』新潮文庫。
数奇な運命を背負った女性の半生記という感じでストーリーは展開するのだが、その実は主人公の女性が醤油蔵を守り続ける一族の業と宿命を乗り越えて、本当の家族を造る姿を描いた何とも重厚な物語であった。
失念していた。遠田潤子の小説は一筋縄ではいかないのだ。
画家を夢見ていた父親の尚孝が実家の醤油蔵を継ぐことになり、父親と母親の美乃里と3人で大阪から奈良に引っ越し、新たな環境の中で暮らすことになった娘の銀花。意地悪な父親の妹で銀花の一つ年上の桜子、母親の盗癖、祖母の多鶴子と父親の不仲、自らの出生の秘密に悩みながらも銀花は成長していく。しかし、銀花が中学3年生になった時、父と醤油蔵の杜氏とが事故死する。
少しずつ壊れていく母親、銀花をなかなか受け入れない多鶴子。醤油蔵を継ぐために奮闘する銀花であったが、運命の歯車は思わぬ方向へと銀花を誘う。思わぬ形で一族の秘密を知ることになった銀花は……
本体価格800円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
読後に感じたのは「悪い夢から醒めたよう」だった。
初手に提示された謎は程良く回収されては新たな疑問を残していく。とにかく息をつく間がなく物語に惹き込まれてしまった。
モノローグと回想で物語は進むが時系列が乱れる事がなく非常に読み易い。もし本作が推理小説であったなら3人の語り部は同じ事象を違う視点から伝える役割を担ったかもしれない。が、実際は三者三様の物語があり飽きにくく謎解きの必要性も感じなかったので没入感が強かった。
登場人物の誰1人として完全に物語の真相を知らず、読者も同じ様にピース繋いでいく楽しみがあった。その際、現在と過去の対比が舞台となる廃墟と相まって物悲しい本作独自の雰囲気を作り出している。
未回収の謎が幾つか残ってしまったものの、ほぼ同じ建物内で進行する物語で中弛みせずに読み切れたのはこの雰囲気の良さに寄るところが大きいと思う。
登場人物の殆どが愚かで救いようのない話にも思える反面、どこか理想郷として憧れる部分もあった気がする。
最後のオチは好みが分かれる部分で個人的には蛇足だったがイヤミスへの中和剤だと考えれば作者の温情だと受け取れる様に思う。