あらすじ
和久井ミモザは、死の床にある父親に届いた薔薇の絵の写真と不可解な手紙に導かれ、大阪に赴く。指定された廃墟のようなビルにいたのは正体不明の三人の男。ここを「王国」と呼ぶ男たちは、父の過去を話し始める。かつて「王国」で起きた忌まわしい事件が語られるうち、ミモザ自身の真実もまた明らかになり――。愛と罪、贖罪が重なり合う、哀切と衝撃の傑作長編。
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Posted by ブクログ
読後に感じたのは「悪い夢から醒めたよう」だった。
初手に提示された謎は程良く回収されては新たな疑問を残していく。とにかく息をつく間がなく物語に惹き込まれてしまった。
モノローグと回想で物語は進むが時系列が乱れる事がなく非常に読み易い。もし本作が推理小説であったなら3人の語り部は同じ事象を違う視点から伝える役割を担ったかもしれない。が、実際は三者三様の物語があり飽きにくく謎解きの必要性も感じなかったので没入感が強かった。
登場人物の誰1人として完全に物語の真相を知らず、読者も同じ様にピース繋いでいく楽しみがあった。その際、現在と過去の対比が舞台となる廃墟と相まって物悲しい本作独自の雰囲気を作り出している。
未回収の謎が幾つか残ってしまったものの、ほぼ同じ建物内で進行する物語で中弛みせずに読み切れたのはこの雰囲気の良さに寄るところが大きいと思う。
登場人物の殆どが愚かで救いようのない話にも思える反面、どこか理想郷として憧れる部分もあった気がする。
最後のオチは好みが分かれる部分で個人的には蛇足だったがイヤミスへの中和剤だと考えれば作者の温情だと受け取れる様に思う。
Posted by ブクログ
まったくもって暗い。遠田潤子が紡ぐ物語はいつも凄絶で暗い。なのに吸い寄せられるように読みはじめてしまうのです。
病床の父親宛てに届いた手紙を無視できず、指定された場所に出向く息子。そこにはかつて父親と同じビルに住んでいた男たちが集まっていて、その全員が最上階に住む艶めかしい大家と寝ていたという。
大家の惚れ込む男をクズだと言うけれど、ほかの男たちだって負けないぐらいのクズ。大家の幼かった娘の心配をしたところで罪滅ぼしにはならない。
誰も好きになれないのに読むのをやめられません。自らを赦すために死のうとする男たち。償おうにも償う相手はこの世にもういないとは。苦しい。
Posted by ブクログ
遠田潤子『廃墟の白墨』光文社文庫。
ファンタジックな一面を持つ、ハードでミステリアスな不思議な小説。少しずつ明らかになる過去に起きた事件の真相。後半の予想外の飛び道具で物語の世界は一変するのだが、もっと違う方法で展開を変えた方がしっくり来たようにも思う。
遠田潤子の小説では珍しく、グルーヴの効いたジャズの演奏がいきなり飛び込んで来たド演歌のメロディーで転調するかのような違和感を感じた。
病床で死を目の前にする父親の元に届いた黒板に白いチョークで画かれた薔薇の絵の写真と不可解な手紙に導かれ、和久井ミモザは大阪の廃墟のようなビルに辿り着く。ビルの中に住む正体不明の3人の男がミモザに語る父親と『王国』で起きた過去の忌まわしい事件の物語。
ビルの持ち主だった明石という退廃的な女性と、その娘の白墨。やがて、悲惨な事件により……
本体価格720円
★★★★
Posted by ブクログ
私が近い父親の元に届いた
薔薇の絵の写真と手紙
息子ミモザは 父に代わって指定された場所へ
そこは廃墟のようなビル
待っていたのは三人の老人
そこで語られる 父親も若かった頃のそのビル
での出来事
物語の導入部分で 四人の男達と明石という女性
そして彼女の娘、白墨との生活が語られる
「ティファニーで朝食を」を陰鬱にした雰囲気で
どうも苦手と思ってしまう
そして、それはさほど間違っていなかったようで
小説半ばで「ティファニーで朝食を」の映画に行くといったシーンでタイトルが使われる
奔放な女性として作者も意識したのかと思う
当然遠田さんが奔放な女性で終わる事はなく
明石が抱えていた父親の問題
娘白墨が記憶させられた殺人、等
男達の贖罪と共に語り尽くす
親として欠落した部分がある母娘
男達によって作られたか
振り回されたのは男達か
Posted by ブクログ
登場人物を襲う苛烈な運命が、遠田作品としては比較的マイルド。読むのが辛くなるような描写があまりなく、明石ビルでの日々は、本当に「王国」「楽園」のようでもある。故に、巻末解説にあるように、「入門編」としていいかも知れない。その代わり、ではないだろうが、終盤に明かされる真相が多少型どおりな気はする。
Posted by ブクログ
74
最終章で全てのことがわかるお話しは好きでは無いが、この作品にはそうせざるを得ない様な重みがある。二度とやり直せない人生だから、これからどう生きるかとが問われている様な気がする。