加島祥造のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
audibleにて再読。読むのが20年ぶりでもさすがにこのトリックは忘れられない。クセのある登場人物が多くて、誰も彼も怪しい行動をして捜査を引っかき回してくる。楽しい。乗船客の犯罪者率高め。そして後半ぽんぽん人が死ぬ。いくらなんでももうちょい防げなかったのか。今まで読み返している範囲だと、クリスティーの3冊か4冊に1つは、意外な共犯によって不可能が可能になる話なのではないかという気がしてくる。どっちの犯人も早業が過ぎる。
頭空っぽ直情型みたいに言われているサイモンが意外と賢くかつ咄嗟の判断ができるのですごいなと思う一方、そんなに必死に取り合うような男なの?とはどうしても思ってしまう。明暗分かれる感のある女性陣それぞれの恋愛模様が楽しい。でもアラートン息子はやめといたほうがよい。 -
Posted by ブクログ
「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」
アバネシー家の当主、リチャードが病死した。彼の葬儀の後、遺言公開の座上で末の妹、コーラが口にしたのはとんでもない言葉だった。
ポアロシリーズ25作目
上手い……上手すぎるんだよ、クリスティは(笑)
最初から最後まで、とてもクリスティらしいお話。お金持ち一族の主人が死んで、財産分与で揉めるヤツ。
それぞれのキャラがやっぱり上手い。やなヤツあり、カッコいい女性アリ、怪しい人あり。
問題発言をした末妹のコーラの造形がまた良い。
そして安定のポアロ。この食えないオジ様がたまらん(笑)
オチにはしっかり驚いたし、安定感抜群なんよなぁ。女王はすごい。 -
Posted by ブクログ
1976年の夏、ぼくはフォークナーを三冊、続けざまに読んでいる。『サンクチュアリ』(1931年作品)『八月の光』(1932年作品)『フォークナー短編集』(1950年)。『響きと怒り』(1929年)も読んでいる気がするのだが、記録にはないので間違いかもしれない。いずれにせよ当時、ぐいぐい引っ張られたことを覚えているのと、何とも暴力的な世界だとの印象が残る。強烈な暴力の印象が。『サンクチュアリ』は二十歳のぼくにとってとても衝撃的で、しかも魅力的であった。それから半世紀近くが過ぎようとしている今、フォークナーの『野生の棕櫚』(1939年)が文庫化され目の前に出現。フォークナー作品で受けた衝撃は覚えているから、ただ事ではなかった。
そしてページを開いて呆気にとられる。この一冊の中には二つの小説作品が存在している。確かに本の帯には<二重小説>との特大文字が光る。目次を見ると『野生の棕櫚』の各章の合間には別の作品『オールドマン』が挟まれている。なので、二つの全く異なる作品を同時に読んでゆくという形式なのだ。いわゆる1930年代に書かれた極めて前衛的な構成の作品なのである。破壊的要素も強い印象のあるフォークナーだが、本書ではここまでやっていたのだ。
しかもフォークナーは、この作品を別々に書いたのではなく、『野生の棕櫚』を一章書くと、『オールドマン』の一章を連続して書き、また『野生の棕櫚』に戻るという書き方に徹したらしい。二つの小説を別々に書いたのではなく、二つの小説をセットとして意識して書いたのだ。
と、同じ構成の作品が何か身近になかったかと考えると一つだけ思い当たった。村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』である。アメリカ文学に詳しい村上春樹のことだからフォークナーへのオマージュは既にあったのかもしれない。
さて『野生の棕櫚』は、いくつかの夏用貸し別荘の建つ湖畔だが、季節外れになると誰もいなくなる医師夫妻のもとに、とある男女が辿り着くところから始まる。別荘の一つを仮住まいとして住み着いた夫婦は何やら訳ありの空気が見られる。第二章からは彼らの放浪の出発地点からのことが過去に遡って語られ始める。
一方『オールドマン』は、大雨洪水災害に見舞われるミシシッピ川の堤防の修復に駆り出される囚人たちの光景から物語がスタートする。未曽有の災害と言われる大洪水は、もう何度もミシシッピ川を襲ったことがあるらしいが、今回のそれはまた桁外れの様相だ。第一章では獄中にある囚人たちに看守から、堤防の補強に駆り出されるところまでが描かれる。その後、囚人たちのグループも看守たちを含め作業中にバラバラになってしまう。生死を賭けた自然の猛威との闘いがその後描かれてゆく。
若い不倫男女のあてどない逃避行と、飢餓感、餓えたような愛と性、救いどころのないロードノベルのような『野生の棕櫚』。
一方、流され翻弄される囚人が、被災した妊婦を助け、ともにミシシッピ川を下るエネルギッシュなストーリー。
作者は、あまりに救いのないギリシャ悲劇のような一つの物語を、もう一つの災害中でありながら救いに満ちた物語と交互に語ることで、バランスをとるという考えでこの一冊を書き上げたらしい。なのでそれぞれを別々にではなく、交互にストーリーを書きながら二つで一つの世界として構築してきたものだと言う。
文章は、とても長く、長ったらしく、段落替えが極度に少ないが、その文体とて考えられ考え抜かれたものなのか、フォークナーという独特の作品用文体なのか。ともかく描写能力は際立っているし、心の流れもどんどん文章化されてゆくように思う。前衛さと、文章のディープさと、フォークナー文学を支える原初的な野生。自分は小説家ではないと豪語しつつノーベル文学賞までかっさらった天才の物語作風は、やはり強烈そのものであった。半世紀前に受けた衝撃からこの方、いささかも緩ぎないものだったのである。 -
Posted by ブクログ
フォークナーの野生の棕櫚。ゴダールの『気狂いピエロ』だったと思うけど、映画の中でJ・P・ベルモンドが読んでいた小説。『Perfect days』で役所広司も読んでいた。野生の棕櫚とオールドマンが交互に配置されることでフォークナー自身が言うように独特の効果を発揮している。単に野生の棕櫚だけだったら普通の?恋愛小説になっているところに、全く関係のないオールドマンを重ねることで、野生の棕櫚にそもそも飽きが来ないようになっているし、関係性を探るような深読みも誘う。
生き急いでいるように感じる2人を描く野生の棕櫚と、どこか達観した2人を描くオールドマンの関係がなおさら、野生の棕櫚の2人の痛々しいまでの関係性を際立たせる。
文体はやや難しく、全ての出来事を拾い切れていないと思う。特に重要なイベントをぼやかして書かれているので、イベントに気がつかないところも多かった。ただ、その表現は散文だけれど詩的でかっこいい。何度も読みたい小説。 -
Posted by ブクログ
クリスティ作品の傑作は山程あり、中には僕がまだ知らない作品もあるのだが、「ナイルに死す」は間違い無く僕が選ぶクリスティ作品の「A級」に当たる作品で、大好きな作品の一つだ(とは言いつつ殆どの作品がA級になるのだが(笑))
今作は冒頭のクリスティ含めた財団の人達の挨拶も素敵で一種の映画の様な、そんな気持ちよさまで感じてしまう。とある金持ちの女性を中心にイギリスの片田舎から渦を巻いてエジプトへと集約されていくストーリーは何度読んでも引き込まれてしまい、抜け出す事は不可能である。クリスティ自身も述べている様に、外国旅行物としてもっとも良い作品という事は紛れもなく、更にはエジプトを舞台としてとても美しい描写を楽しめる作品である。
リネット、サイモン、ジャクリーンと三人の男女を中心に展開されるロマンスミステリー。と書くと印象が全く異なるが、今作はミステリーを土台に少しサスペンス的な恐怖を加え、ロマンスをミステリーの邪魔にならない様に全くの配合バランスで加えた構成になっており、始まりから終わりまで全く破綻のないスピードで進んで行く。ポアロの役割は勿論殺人犯を見つけ出す事により、真相を明らかにする事が求められているのだが、元来のロマンチスト、彼の出会った人達を幸せにするという考えかたから、とある犯罪を大目にみたり、結末としてああなってしまう事を推察しながらも認めていたりと人間的な心情がみて取れる(ヘイスティングスがいたら認めないだろう。レイス大佐である理由がこの部分だろう。)
大金持ちのリネット、彼女の親友のジャクリーン、恋人のサイモン。ジャクリーンはリネットにサイモンを紹介するが、リネットは彼に好意を持ちその後結婚する。ハネムーンでエジプトを訪れる夫婦の前に、都度ジャクリーンが現れて嫌がらせをする。ポアロはそんな様子に気づきジャクリーンを諭していくが、結局は無駄になり。その後、ナイルを降る船内で様々な事件が発生するが、登場人物達は皆んな曲者揃い。エジプトに集約され、ナイルにて事件が広がり、都市について事件が決着する。一連が凄まじい作品で出来栄えは群を抜いている。
クリスティ作品で珍しく金があり溌剌としていて頭も良い女性がとても悲しい結果になっており、人生において彼女は皆んなから羨ましがられ、嫉妬され、波瀾万丈の短い人生だった。サイモンに出会う前の婚約をしていれば違っていたのだろうが、クリスティは恋愛の恐ろしさを書くのが上手く今作の完成度に大きく作用している。
ナイルを降る怒涛のミステリー。クリスティの最高峰の一つだ。読み応えもあり、クリスティを堪能するにはもってこいの作品。