加島祥造のレビュー一覧
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かなりひどいことが起きているのに、カラッとした読み味で読み終えられたのはオールド・マンのおかげなのだろう。野生の棕櫚に見られる一組の男女の悲しい顛末を、オールド・マンのなかの囚人と妊婦の長い旅の場面が差し込まれることで、うまく気持ちをフラットにしたまま読めた。オールド・マンが、まるで老人と海のようでもあり、自然に翻弄されながら必死にボートを漕ぐ囚人がユーモラスに映る。でもオールド・マンだけを読んでも、多分あまり意味がないのだろうと思うから、この交互という形が完ぺきなのだろう。
フォークナーは読むのに時間がかかるのに、また読みたくなる。光とも暗部とも取れるこのエネルギーを受け取りたい。自分の大事な地盤となっている感触がある。死がピークとなった「響きと怒り」だが、今作で死はピークではなかった。しずかな悲劇であった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ・wikipediaに詳細なあらすじがあるので、参考になった。
・棕櫚(シュロ)で通じているが、実は椰子(ヤシ)らしい。
・スイカズラではないのだ。舞台もヨクナパトーファではない。
・中上健次「野生の火炎樹」はオマージュしているわけだが、たぶん内容は関係なく、タイトルだけだろう。
・ちょうど前に読んだのが、バルガス=リョサの「フリアとシナリオライター」だった。年上の世慣れた女に手ほどきされた、という構図。また、帯に「二重小説(ダブル・ノヴェル)」とあるが、リョサ作は作中作であっても二重小説ではないだろう。
・奇数偶数で交互に語られる小説は多くあるが、だいたいは絡む。本作は場所も時間も異なり、絡まない。なのに交互に繰り出されることに意味がある。音楽でいう対位法。その効果は抜群だった。
・積読の「ポータブル・フォークナー」では「オールド・マン」だけ池澤夏樹が訳しているらしいが、片方読んだときと両方読んだときの感想は全然違うのではないか。意義深いぞ>中公文庫の担当者様。おそらく中上もお好きなのだろう。お名前は存じないがこっそり応援しています。
・ただし加島祥造氏の訳文は古臭かった。この点は光文社古典新訳文庫か岩波文庫あたりに期待したい。
以下、ネタバレメモ。
■野生の棕櫚 009
視点人物は医者。不審な男女。特に女は混乱している?
■オールド・マン 034
1927年。
■野生の棕櫚 043
ハリー、25になって初めてパーティへ。
シャーロットという女。兄好きの挿話。手で触れる物を作る。
逢い引き。夫。
ひょこっと金を拾う。……このご都合? 啓示? 岩井俊二「リリイ・シュシュのすべて」での強盗を連想。
シャーロットは二人の子供を愛していない?
■オールド・マン 082
駆り出されて行方不明に。
■野生の棕櫚 106
愛。生活。金。仕事。セックス。友人のマコード。ヘミング波(ヘミングウェーブ)という皮肉。面白い表現。
クリスマスについての考えで、やはりシャーロットは子を愛せない?
童貞が長いのがまずかった、とマコードに一席ぶつ。愚かだなあ。
ハリー「君からの祝福が欲しいな」マコード「呪いをくれてやるよ」マコードのほうが正しい!
■オールド・マン 183
女を救出。
いつでも置き去りにできる。
何度かの洪水。
出産。
全然別の話なのに、ハリーとシャーロットの話と照応している。
■野生の棕櫚 225
鉱山に勤める。
夫妻の堕胎を。カソリックだから? 医師免許がないから? 抵抗。
勤める外国人をだましつづけ。……このへん、夏目漱石「坑夫」を連想。結局はボンボンじゃん。
一度シャーロットが子供らに会いに行く。……ここで、相米慎二監督「風花」の小泉今日子を連想。
手術に失敗したら逃げて、と。
■オールド・マン 293
言葉の通じないフランス人(ケィジャン)との共同作業。
堤防爆破。
■野生の棕櫚 354
冒頭に戻る。
「わたしたち、雪の中で楽しんだわよね」セックスを。でもこの抒情はいいな。
つかまる。
保証人になったリトンメーヤーの偉さ。
対比的に、ハリーの卑小さ。
悲しみと虚無しかないのだとしたら、ぼくは悲しみのほうを取ろう。……あ、大江健三郎が引用していた言葉だ! ……状況からなんとなく、アルベール・カミュ「異邦人」を連想。
■オールド・マン 416
また刑務所に戻る。
追加の10年の刑期を甘受する。ここもハリーと対応。
◇『野生の棕櫚』について 加島祥造 436
◇人間終末説は容認せず ウィリアム・フォークナー 446
◇フォークナーとラテンアメリカ文学 野谷文昭 450 -
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ひらいたトランプ
ポアロシリーズ長編。再読だが記憶は曖昧。途中、うっすらとだが犯人を思い出したと思ったのだが。恥ずかしい事に、意外性のある結末に初見読みの様なリアクションをしてしまった。作品構成が良くトリックも上手い。
しかし、終盤、とある人物が都合よく睡眠薬を飲んでいる事、それを犯人が見越している事は腑に落ちないが。
初見の際にはまだポアロシリーズの世界観を把握していなかった為、バトル警視やレイス大佐、オリヴァ夫人まで疑ってかかった事を思い出した。後々彼らが登場する作品を沢山読んでいる為、完全に容疑者から除外される訳だが、いかに筆者が「容疑者はこの四人」といっても我々読者は素直に取らないし、筆者はあのクリスティだ!!と構えて読んだ記憶がある。そのせいで理路整然と簡潔に完成された今作の魅力が小さくなっていた事に今更ながら気づいた次第だ。
シャイタナという如何わしい人物がポアロ、バトル含めた優秀な探偵役と名目上は素晴らしい人物合計八人を招待しパーティを開く。シャイタナはパーティ招待メンバーに過去の事件を匂わせ彼らの秘密を握っている事を喜んでいたが、二組に別れて開催されたブリッジのゲーム中、何者かに刺殺されてしまう。ポアロ達のグループはシャイタナと別の部屋におり、メンバーはポアロ、バトル、レイス、オリヴァといわば探偵的素養がある人物達。一方、殺害されたシャイタナと同室にいたのは4人のグループでそれぞれが過去に何かを隠していると思われる人物。犯人はこの四人のうちの誰かである事は間違いなく、彼らの過去を捜査しながら真相を突き止めていく。
ストーリーの土台としてポアロがブリッジの戦い方、スコアシートの取り方などからそれぞれの人物の性格や特徴を読み解き、今回の殺人のケースに当てはめて推理を進めていく。ブリッジを知らない人には彼らの性質をどの様にポアロが読み解いていったのかが少しわかりにくい。また、それぞれが過去に何らかの事件を起こしているだろうと推定できる設定の為、彼らの過去について明かされていく事実が物語に深みを与えている。
登場人物が限られている事が今作をシンプルにそして一人一人を深く掘り下げる事に適しており、他の作品の様に登場人物の名前や性格に悩まされる事がない。ブリッジ要素以外はわかりやすく読みやすい。僕は今作を手に取ったのが比較的早い段階だったため、探偵側の人物達の知識がなかった。本来であれば非常に洗練された謎解きミステリーだが、あろう事にバトルやレイスを疑ってかかる始末で個人的に反省した部分だ。(全てを疑う様にしたのもクリスティなのだが(笑)
ポアロと並び、バトル警視やオリヴァ夫人の活躍も魅力的で、特にオリヴァ夫人の強烈な個性がシリーズ中何度も登場を求められる人物になる事はクリスティの表現力によるものだろう。これほど魅力的なキャラクターは中々他のミステリーにも存在しない(他のミステリーで登場する強烈な人物達は“狙い“すぎていて作品に馴染まない様に見える)
評価としてとても面白かったが、ブリッジを知らない事が残念でならない。おそらく知識があればもっと楽しめた。再読により、ポアロシリーズの世界観を理解した上で読むと何倍も面白く感じた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ⚠️2022年放映の映画版についても言及があるため、未視聴の方は軽いネタバレにご注意ください⚠️
今回の教訓:愛は人を変える
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エジプトのエキゾチックな景色の後に後半バタバタと展開していった映画版と違い、小説ではウィンドルシャム卿とリネットの結婚問題にページが割かれていたため、リネットがサイモンを奪うまでの過程が見られ、じわじわと迫り来る嫌な空気を味わうことができました。
ジャクリーンとの友情が壊れるだろうことは予測できたのですが、まさかジョウアナまでリネットを脅かしていたとは……油断ならないリネットの身の上を思うと、せつなくなります。映画を観てからかなり経っているため記憶が朧気なのですが、映画ではジョウアナについては確かあまり触れられていない(というかアラートン親子も出てこない)ため、船上にいない人物の話が度々出てきて伏線となっているのも、小説ならではだなと思いました。(私が覚えていないだけかもしれない)
とても巧妙なトリックで舌を巻くばかりなのですが、あまりに複雑すぎて自分の理解が追いつきませんでした。話は5点満点ゲージ突き破ってますが、悔しかったので私情で-0.5です笑
個人的に自分で考えながらじっくり読み進めたい方には原作、エジプトの景色を目で楽しみたい方(本の事件とは対比的なエジプトの雄大且つ神秘的な情景描写もお見事でしたが)、比較的サクッと話を楽しみたい方には映画がおすすめかなと思いました。