【感想・ネタバレ】野生の棕櫚のレビュー

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Posted by ブクログ

フォークナーの野生の棕櫚。ゴダールの『気狂いピエロ』だったと思うけど、映画の中でJ・P・ベルモンドが読んでいた小説。『Perfect days』で役所広司も読んでいた。野生の棕櫚とオールドマンが交互に配置されることでフォークナー自身が言うように独特の効果を発揮している。単に野生の棕櫚だけだったら普通の?恋愛小説になっているところに、全く関係のないオールドマンを重ねることで、野生の棕櫚にそもそも飽きが来ないようになっているし、関係性を探るような深読みも誘う。
生き急いでいるように感じる2人を描く野生の棕櫚と、どこか達観した2人を描くオールドマンの関係がなおさら、野生の棕櫚の2人の痛々しいまでの関係性を際立たせる。
文体はやや難しく、全ての出来事を拾い切れていないと思う。特に重要なイベントをぼやかして書かれているので、イベントに気がつかないところも多かった。ただ、その表現は散文だけれど詩的でかっこいい。何度も読みたい小説。

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2024年02月10日

Posted by ブクログ

小説におけるオールタイムベストに「八月の光」を挙げている私は、その著者フォークナーの文庫最新刊に当たる本作の発売を楽しみにしていた

ミシシッピ州に属す架空の街(ヨクナパトーファ郡)を舞台に、様々な登場人物たちの人生が交錯するサーガ形式であったり、或いは、代表作「響きと怒り」に用いられた、言葉を持たない(話せない)者の意識の流れを綴った文章表現であったりという具合に、小説の可能性を常に追求し続けた作家、それがフォークナーと言っていいだろう

そんな革新派スタイルの彼が、ここで試みたのは、異なるふたつのストーリーを交互に語り進めていく「二重小説」だ。元医学生と人妻が世間のあらゆるシガラミから逃れるべくアメリカ各地を放浪する話と、ミシシッピ河の洪水で取り残された女を救う囚人を描いた話は一見すると全く別の物語のようだが、どちらも「懐妊」をキーワードにして、底辺では共鳴し合っており、私には前者が「旧約聖書」アダムとイヴの楽園追放を、後者が「新約聖書」ヨゼフ、マリア、イエスの聖家族をモチーフにしている風にも感じられた。こうした重奏的な物語の構成は如何にもフォークナーらしい独自性に溢れ、読み手をたまらなく魅了する

ただ残念なのは、日本語訳に滑らかさが欠けているため文章がかなり読みづらく、スンナリと内容を把握出来ない箇所がいくつもあった点だ。途中で頭が混乱してしまい何度頁を戻ったことか。本書は50年近く前に学研より出版された世界文学全集に依ると巻末に記されていたが、今回敢えて文庫を刊行するのであれば版元には新訳に挑んでほしかったと思わずにはいられない

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2024年02月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・wikipediaに詳細なあらすじがあるので、参考になった。
・棕櫚(シュロ)で通じているが、実は椰子(ヤシ)らしい。
・スイカズラではないのだ。舞台もヨクナパトーファではない。
・中上健次「野生の火炎樹」はオマージュしているわけだが、たぶん内容は関係なく、タイトルだけだろう。
・ちょうど前に読んだのが、バルガス=リョサの「フリアとシナリオライター」だった。年上の世慣れた女に手ほどきされた、という構図。また、帯に「二重小説(ダブル・ノヴェル)」とあるが、リョサ作は作中作であっても二重小説ではないだろう。
・奇数偶数で交互に語られる小説は多くあるが、だいたいは絡む。本作は場所も時間も異なり、絡まない。なのに交互に繰り出されることに意味がある。音楽でいう対位法。その効果は抜群だった。
・積読の「ポータブル・フォークナー」では「オールド・マン」だけ池澤夏樹が訳しているらしいが、片方読んだときと両方読んだときの感想は全然違うのではないか。意義深いぞ>中公文庫の担当者様。おそらく中上もお好きなのだろう。お名前は存じないがこっそり応援しています。
・ただし加島祥造氏の訳文は古臭かった。この点は光文社古典新訳文庫か岩波文庫あたりに期待したい。

以下、ネタバレメモ。

■野生の棕櫚 009 
視点人物は医者。不審な男女。特に女は混乱している?
■オールド・マン 034 
1927年。
■野生の棕櫚 043 
ハリー、25になって初めてパーティへ。
シャーロットという女。兄好きの挿話。手で触れる物を作る。
逢い引き。夫。
ひょこっと金を拾う。……このご都合? 啓示? 岩井俊二「リリイ・シュシュのすべて」での強盗を連想。
シャーロットは二人の子供を愛していない?
■オールド・マン 082 
駆り出されて行方不明に。
■野生の棕櫚 106 
愛。生活。金。仕事。セックス。友人のマコード。ヘミング波(ヘミングウェーブ)という皮肉。面白い表現。
クリスマスについての考えで、やはりシャーロットは子を愛せない?
童貞が長いのがまずかった、とマコードに一席ぶつ。愚かだなあ。
ハリー「君からの祝福が欲しいな」マコード「呪いをくれてやるよ」マコードのほうが正しい!
■オールド・マン 183 
女を救出。
いつでも置き去りにできる。
何度かの洪水。
出産。
全然別の話なのに、ハリーとシャーロットの話と照応している。
■野生の棕櫚 225 
鉱山に勤める。
夫妻の堕胎を。カソリックだから? 医師免許がないから? 抵抗。
勤める外国人をだましつづけ。……このへん、夏目漱石「坑夫」を連想。結局はボンボンじゃん。
一度シャーロットが子供らに会いに行く。……ここで、相米慎二監督「風花」の小泉今日子を連想。
手術に失敗したら逃げて、と。
■オールド・マン 293 
言葉の通じないフランス人(ケィジャン)との共同作業。
堤防爆破。
■野生の棕櫚 354 
冒頭に戻る。
「わたしたち、雪の中で楽しんだわよね」セックスを。でもこの抒情はいいな。
つかまる。
保証人になったリトンメーヤーの偉さ。
対比的に、ハリーの卑小さ。
悲しみと虚無しかないのだとしたら、ぼくは悲しみのほうを取ろう。……あ、大江健三郎が引用していた言葉だ! ……状況からなんとなく、アルベール・カミュ「異邦人」を連想。
■オールド・マン 416 
また刑務所に戻る。
追加の10年の刑期を甘受する。ここもハリーと対応。
◇『野生の棕櫚』について 加島祥造 436
◇人間終末説は容認せず ウィリアム・フォークナー 446 
◇フォークナーとラテンアメリカ文学 野谷文昭 450

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2024年01月23日

Posted by ブクログ

交互に展開する二筋の物語は、読む人の人生観を浮き彫りにさせると思った。現実を忌避するようなふわふわとした逃避行の末に最悪の結末に至った二人は、一体何が足りず何を求めていたのか、私の中で答えに辿り着けていない。対する漂流する囚人と妊婦の力強い生命力。善悪も愛も悲しみも全て命あってこそなのに、命だけでは生きることができない人間の哀しさ、を個人的には感じた。

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2023年12月31日

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