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純愛の砂
考古学で名を知られた大学教授を父に持ち、母親がいない20歳過ぎの千也子と、やんちゃな妹で高校三年生のルミ子。二人の恋愛の行方はいかに? -
終幕
30年来、新劇界に不死鳥の如く君臨してきた美貌の女優・長塚明子。彼女は脳腫瘍に冒され「五本の薔薇」の舞台を最後に、生命の危険を賭けて危険な手術に臨もうとしていた。数時間後に迫った死の影に脅えながら、彼女は愛の多かった自分の半生を、愛を交し合った男たちを思い返し、真の愛の意味を問いつづけ、舞台で使った5本の薔薇を、彼女の最も愛した人に贈ろうと考える。劇評家の宇佐見、彼女の発見者・春原、演出家の高城……幕が降り、まだ興奮のさめやらぬ群衆に囲まれて楽屋から出てきた彼女が薔薇を手渡したのは、意外な人物だった……。 -
沙羅の門
琵琶湖畔の古刹・昌福寺の一人娘・千賀子は、父・承海が、後妻として八千代を迎え入れたあくる日に、初潮を見た。正式な妻帯が許されない寺の中での、父と継母のなまぐさい営みが、女として目覚めた千賀子の心と体を、かなしい渦巻きに突き落とす。やがて京都の大学に進んだ千賀子は、ボーイフレンドと愛の過ちをおかし、そのことを八千代に告白するが、姉妹のような継母と娘の間に、父の承海もたちいることのできない、ふしぎな愛情が育っていた。……偽りと煩悩にいろどられた寺の生活を背景に、せつない女の愛と宿命を、美しい叙情で描きつくした、香り高い名作。 -
紅い水着の女
剛直で声が大きいけれど、めっぽう正義感と腕っ節が強い天川剛太郎は、都心の紡績会社で頑張る若手。湘南の海で出会った深紅の水着の女・涼子にひとめで心を奪われ、急速に距離が縮まるものの、さっぱり行動が読めない涼子嬢との一進一退の関係にほんろうされる。そんな二人の前に、腹にイチモツ抱えた面々が現れて、剛太郎は熱情とトラブルの渦に巻き込まれていく。長く波高い日々と純情がつむぐ、一途な恋の物語。 -
拳銃を磨く男
大がかりな偽ドル密輸団を追う「私」なる人物は、密輸団の核心に迫るため、前科者・加下千里の偽名で香港ボス・楊長二の元に潜入し、彼の手先の美女・ジェーン李に近づく。そして、ジェーンとともに東京空港へ向かうが、飛行機のタイヤに仕込んだ偽ドルは、パトカーの追跡で放棄せざるをえない。ホテルの女支配人、女高利貸し、バーのマダムと、その用心棒など悪漢の、入り乱れる密輸団と、公安調査官の対決。力作長編ハードボイルド・サスペンス。 -
銀色の牙
影の多い国際都市・香港――そこでは、国籍は何の保証にもならない。日本商社の駐在員・越見は、ある日、友人のジョニイ劉が、アパートで殺されているのを発見した。間もなく、ヨットの遭難で話題になった男たちが、つぎつぎに殺される。そして、阿片窟の常連、元日本軍参謀、暗い過去のある大貿易商、美貌の女画家などの、もつれた糸のような動きに巻き込まれた越見にも、黒い殺人者の手が伸びてきた……。サスペンスに富んだ巧緻な物語の中に、落し穴を持つ現代の人間関係をさぐった、この野心的な長篇は、行動派の作者が華麗な才質を注いだ本格小説である。 -
温暖前線
九州の南西海上から本土にむけて放たれた無数の風船。それは化粧品会社が、東京への招待客をきめる「幸運の風船」だった。その中の2つ、赤と青の風船が、四国土佐と新潟の山中に落ちた。小松大五郎と柳田千穂は、この奇抜な宣伝アイデアによって出あったカップルだが、小松は新婚旅行の夜、室戸岬の宿で花嫁に逃げられた心の痛手をもち、また千穂も雪溪のみえる谷間で遭難、同行していた二人のボーイフレンドに置き去りにされた悲しい経験をもっていた。著者独自の素材で幻想的にくりひろげる、現代若人の恋と真実。 -
ある告白
夫の父である人との結婚を決意した野口ふじ子は、少女時代からの自分の性の歴史をふりかえった。小学校の男の子との幼いペッティング、女学校のクラスメートとの同性愛……。彼女のまわりには、母を犯した孝行息子もいたし、純朴な青年に肉の果実を饗して死んでいった女教師もいた。体験や見聞を通して、ふじ子は、セックスがさまざまな人間たちの中に、原始の祭典のように生きていることを知った。明るく悲しいことだった……。現実に目をそむけることなくセックスを描くことで、作者は観照の深い人間論を展開する。石坂文学のエキスをすべてとかしこんだ長編! -
兵児一代記
椎原真平は、薩摩のボッケモン(勇敢者)である。年少の頃から気に奔った奇行で知られた。薩英戦争では、素ッ裸に赤ふんどし姿で伝令を務め、唯ひとり砲台に居残って、届かぬ弾丸を英艦に射ち続けた。――「チェスト!」真平には万事が気合いである。鳥羽伏見の戦では、緊張の対陣のなかで、ノコノコ敵陣に煙草の火を借りに行く。「見事やりとげたら、宮川町の女郎をおごいやんせ」。真平は、中村半次郎と賭けをしていたのであった。――やがて、時代は明治維新に転換する。彼は、酒と女に溺れていた。風雲は、西南戦争に向って妖しく流れてゆくのに……。木強かぎりない薩摩っぽを描く「兵児一代記」ほか。 -
那智滝情死考
15歳で、京都五条の遊廓に身を売ったまきは、結核をかくしながら、男たちの相手をしていた。なじみを重ねた政市は、伏見の輜重隊で、けもののようにいじめぬかれていた。……ある日、廓を抜け出したまきと、兵営を脱走した政市の、からだをくくりあった心中死体が、熊野三山の聖域の那智滝で発見された。相擁して飛瀑の底に身を投じた男女の悲運な道に思いをはせて、美しくも哀しい愛の姿を描いた傑作。ほかに「蜘蛛飼い」「赤い毒の花」「真福寺の階段」「雪の下」を収録。 -
青い颱風圏
カミソリ奥さんと悪名高い女医の息子・孫六くんと、カミナリ親爺を父に持つ江利子が、若さと機智で、犬猿の仲にある両家をさばく、ユーモア小説――伊豆・天城の山中で偶然の出会いを重ねて惹かれ合った江利子と孫六。その縁結びの神がいたずら好きだったためか、二人は、互いの家族や友の因縁が招く暴風雨のような日々に巻き込まれていく。素直に好意を寄せ合うこともままならないなか、突如襲来したホンモノの台風が解決の糸口となりそうになるが……。『きんぴら先生』シリーズで大衆小説をけん引した著者の、軽妙爽快な青春群像。 -
五十両の夢
時代小説の巨匠が、江戸時代庶民の哀歓を、流麗な筆に乗せて描いた短編集。表題作、「女郎ぐも」「貞女」など、12編を収録。 -
孤剣二十六万石
孤剣腰間にあれば天下怖るるものなし――美濃高須館・松平義行の次男・雪丸は、高田二十六万石の養嗣子への縁組と美姫を蹴って、武者修業に立つ。雪丸は、柳生新陰流の達人である。高田藩では後継ぎ争いの家内紛争が続き、江戸表では酒井大老の対藩政策で政情波瀾に満ち、市中には旗本奴町奴が走り、道場には各派の名人達がはびこっていた。男性的な若い剣士を描く大剣豪小説。 -
体の中を風が吹く
章子は、ぐうたらな夫と別れ、2人の子供をかかえて働く、婦人記者である。わが子の成長を楽しみに生きる章子にも、女としての心のひもじさに耐えきれぬ夜もあった。彼女には、年下の恋人・省吾がいた。誠実な彼は結婚を迫るが、章子は自分の境遇を負い目として応じられない。愛しあい、逢瀬を重ねながら、章子の心は、かたくなに閉されてしまう。そして、上役の世話で、省吾に若い笹子との縁談が起こるのだが……。年上の女の情熱と哀しみを主題に、定年を迎えた隣りの山崎家、そこに同居する共稼ぎの安川夫妻など、善意をもって生きる人々の生活の哀歓を描く、長編傑作。 -
青い失速
冬の菅平へ、木塚哲男と稲山洋子は、新婚スキー旅行にやって来た。襖1枚の隣室のスキー客の含み笑いに、洋子は初めての夜をこばんでしまう。翌朝、木塚は偶然逢った友人とともに、洋子を残して根子岳に出発、そして吹雪の山で道を失う。救出された木塚の枕元で、洋子はうわごとに「美津子」と呼ぶのを聞いた。……濃霧の高原、寒冷前線の乱流の中に展開する、青春画像を描いた長編力作。 -
青い貝殻
生きているウシロメタサと抑圧された性の欲望、抜き差しならぬ友人や女との関係を、安岡章太郎節とも言うべき苦いユーモアと自在の文体で描いた5つの短篇集。 -
女の椅子
夫が若い商業デザイナーを愛し、間もなく子供さえ生まれようとしていることを知ったとき、由紀子は、小さな息子の洋を連れて、家を出た。家政婦として働き始めた彼女は、いままで知らなかったさまざまな家庭と、その中に息苦しく耐えている夫婦の姿を見た。それぞれの業を背負った男と女が、お互いに傷つけあっている姿に愕然とするが、それでも彼女は、安らかな「女の椅子」が欲しいと願いつづけた。その間に、夫との溝は、ますます深くなって行くのだった。……新鋭女流が、動揺しやすい夫婦愛の機微を、きめこまかな筆づかいで捉えた、味わい深い佳篇である。 -
嫉妬やつれ
夫がポケットにしのばせていた、女文字の手紙。《夫を愛している女性がいる》……三千代はとまどった。40歳をこして、冬眠した動物のように、枯れきっていた夫に、そんな情熱が、どうして甦ったのだろう……。相手は若い女なのだろうか? 三千代は、夫の後をつけた。そして見た、夫の情熱を呼びさました冴子という女を。突然、三千代は乾きを覚えた。忘れていた性の乾き。雑踏の中で、稲妻のように体を突き抜けた思いに、三千代は戦慄する。《私も夫を裏切ってみたい!》……中年夫婦の愛情の危機を繊細な筆でえがく、『嫉妬やつれ』はじめ、全10篇。 -
算士秘伝
現代での数学=算法を操る者たちの悲喜こもごもを描いた表題作や、超能力である千里眼を持つという女と、そこに群がる者たちを描いた『千里眼』など、時代物の短編集、全7編。 -
海流
遭難した紅洋丸の通信長・豊野道彦を救った密輸船の秘密。沖縄と海の生活を舞台に展開される、波瀾万丈のメロドラマ。海難事故から始まる出だしで、壮大な海洋物の長編と思いきや、ぐいぐい恋愛に引き込まれていく傑作。 -
シバテン群像
高知に棲息する天狗の幼虫的存在で、道行く人に相撲を挑み、1000人から勝ちを得ると天狗になれるという、妖怪・シバテンを題材に、江戸時代から明治開花の御世までを舞台に、坂本龍馬なども登場させて、虚実綯い交ぜの民話風味わいの滑稽譚集。 -
薔薇の木にバラの花咲く
潔癖で清純な心の持主の黎子は、アルバイトをしながら大学で学んでいた。戦災で両親を失い、肉親は姉ひとり。人の負担になるまいと肩を張って生きている彼女の前に、名門の建築設計士の叶が現われる。叶は黎子を愛し、若い直情から、彼女の肉体に愛の烙印を押した。黎子に静かな愛を寄せていた誠実な鳴海は、事情を知ったとき、男らしく耐えて、黎子と叶が結ばれることを願った。が、それは、黎子を蟻地獄のような苦しみと迷いに追いやるのだった。純粋な処女の心理と、愛情の哀しみと美しさを追究した、清爽な抒情あふれる青春ロマン。 -
夜と昼と
静子は過去に一度結婚したが、夫に女ができると自ら身を引いて別れるような、内気なやさしい性質であった。姉の愛子の家に、妹の珠子とともに身を寄せているが、姉たち夫妻のいまだに新婚気分の漂う幸福そうな様子、バレエに打ち込む珠子に較べ、女としての自分の幸福を夢みることもあった。静子は姉の夫の弟の和夫に親しみを感じていたが、和夫の方も共かせぎを続ける妻のさばさばした性格とは違って、いつも「女」を意識させる静子にひかれてゆき、やがて二人は周囲の人々の目を忍ぶ暗い情熱に結ばれてしまう。現代社会における愛のあり方を追求した力作。 -
忠直卿行状記
越前宰相・忠直には、沸々たる不満がたぎる。二代将軍・秀忠の兄・秀康の長子に生まれ、大坂の陣にも東軍随一の戦功をたてながら、恩賞は薄かった。「血統から言えば、わしが将軍となって当然の身分ぞ!」忿懣は忠直を酒色に走らせて、やがては狂乱の殺戮をほしいままにする。愛妾の一国とともに罪人の処刑を見物し、鮮血のなかに盃を傾け、果ては罪なき家臣に無理難題をつきつけて成敗する。残虐の裡に無上の快楽を求めていた。忠直の妻は、秀忠の娘・勝姫である。狂気の中に身を滅亡の淵に追い込もうとする夫の行動を、彼女は江戸に告げた。独自の新解釈による「忠直卿行状記」ほか9篇を収録。 -
鮮血洋燈
洋燈(ランプ)に隠された、ロマノフ王朝最後の王女・タチアナの宝石を巡って、ロシア、満洲、日本を舞台に繰り広げられた殺戮と惨劇。だが、実はその宝石は、ある日本人が軍に供出していた品で、ある日本の大臣が秘匿しようとしていたことがわかり……。元・日本探偵作家クラブ会長の手による、戦争が生んだ狂気を描いた傑作ミステリー。 -
告白・女心遍歴
幾度も職業を変え、貧に悩み、さまざまな傷心を、人の何倍か味わった水上勉は、人間のおそろしさにおののき、しかも人間を愛さずにはいられない。「女心遍歴」という言葉の中には、理想の女を求め、裏切られ、やはりそれを思うことをやめられない男の、せつない祈りがこめられている。また、みずから破戒坊主と称して、女性とのもつれ合いを「告白」するとき、水上勉の心には、愛へのはげしい願いが、こみあげてくる。……自伝的な、この2つの異色作は、著者の作品群の中で印象的な位置を占め、著者の心の記念碑ともいうべき、美しくかなしい物語である。 -
皇女和の宮
有栖川宮熾仁親王と婚約するも、公武合体・尊王攘夷で揺れる幕末の、江戸幕府と皇室と複雑な関係から、将軍・徳川家茂に降嫁することになった和の宮。大政奉還の後、二人は再会するが……。巨匠・川口松太郎が描く、幕末のヒロインの物語。TVドラマ化もされ、またこのドラマが縁で平幹二朗と佐久間良子が結婚へ向かったことでも話題になった作品。 -
剣士秘伝
篆刻をする剣士、秘伝を守る剣士、無刀の剣士、目を突く剣士、二つの魂を持つ剣士……など、五味康祐、柴田錬三郎とともに、剣豪小説を支えてきた著者による傑作8編。 -
慶長大判
関ヶ原の戦いの翌年、徳川家康は江戸大判座で大型金貨を鋳造し、日本で初めての全国的流通金貨とした。その金貨を届けるために男たちは……という表題作はじめ、人情や愛嬌のある人々を描いた、8作品の短編集。 -
脚光
ヤジマ製薬の宣伝部に働く大道輝子は、中流家庭にのびのびと育った明朗な現代娘。気まぐれに無名の劇団アシカビに加入し、たまたまヤジマ製薬提供のラジオ番組にサクラ出演したのが縁で、連続ドラマのヒロインに選ばれる。こうなると、本人の意志に関係なく、マスコミはスターの座におしあげていく。周囲の醜い嫉視、許婚者との愛の破綻に傷つきながら、輝子は次第に女優としての意識にめざめ、主役に抜擢されたT座公演の初舞台に、新生の第一歩を踏みだすのだった……。平凡なビジネスウーマンが一躍華やかな脚光を浴びて女優となる、現代の夢に愛と真実の意味を問う傑作長編。 -
偽りと真実のあいまに
たみ子とのぶ子は、魅力的な結婚適齢期の姉妹である。よく似た顔立の2人だが、性質は対照的で、姉は引っこみ思案、妹は積極的でコケティッシュでさえある。ある日、のぶ子は、デパートの特売場で好意を感じている好青年・野崎正雄と出会い、急速に親しくなる。そこでのぶ子は、野崎とたみ子を結びつけるために、野崎の若い血潮を燃え上らせ「飢餓状態」に引き入れようと企んだが……。ユーモアと健康なエロティシズムで愛情の真実を描いた「偽りと真実のあいまに」の他、「ハシカのようなもの」「辛抱づよく生きたS氏の像」「私の犬はレオという」「猫」「老婆」を収録。 -
まぼろしの人
初恋の女性との結婚生活に失敗した私は、いまふんぎりの悪い独身生活をつづけている。ある日、私は、既に人妻となっているリキ子と、37年振りに再会した。私とリキ子には、東北のS町で幼い性の遊びをしたという遠い記憶がある。それは異常な老婆の仲だちで行われた暗い彩色画のような、心の歴史の一齣であった。幼い体験から出発した二人は、それぞれに辿った人生の半ばを過ぎた頃、ホテルの一室で語り合う夜がめぐり来るとは、夢にも思わなかった……。人生のたしかな実感に裏打ちされた中年男性の抒情を流露させた「まぼろしの人」ほか4編収録。 -
チンネの裁き
ヒマラヤ遠征隊のリーダーとして有名な蛭川繁夫が、剣岳チンネをめざして池の谷左俣の雪渓で落石死した。剣尾根のドーム壁を登攀していた木塚健は、落石が3方から起こり、その上にそれぞれ人がいたことから遭難に疑惑を抱く。しかも、アイゼンの紐が切れていた! 何者かの作為を感じ真相の究明にのりだした木塚と蛭川の兄・一郎の前に立ちふさがる、山の偉容となまぐさい人間関係……。この「チンネの裁き」は、美貌の女流アルピニストをめぐって山の掟をやぶった山男たちの愛の確執から、登攀ルートに企らまれた完全犯罪が山の裁きをうける顛末を、逞しい筆致で描いた異色作。 -
野火
若い兄弟の孤児が、つまずきやすい青春を支え合い、貧しいながらも美しい恋を得て、人生行路を乗り出す、正義と純情の現代ロマン。競馬場のシーンがたくさん出てきて競馬ファンにもおすすめの1冊。 -
生きる場所
結婚5年目の伊乃、南仏リビエラのハインリッヒ……。山田耕筰に師事するも、病気のため音楽をあきらめた作家による傑作小説集、全9篇。 -
失踪
超満員の観衆でふくれあがった後楽園球場。6回表、突如、自からマウンドをおりた東京イーグルスの渡部投手は、球場から姿を消したのである。その夜、若手実業家・副島秀雄が絞殺され、現場に渡部投手のシガレット・ケースが落ちていた。さらに翌日、バーのマダム・木下綾子が絞殺された……二重殺人事件……。敏腕の速水警部は、事件の裏にひそむプロ野球の暗黒面に捜査の手をのばした。一方、独自の推理で「失踪と殺人」を追う弁護士の百谷泉一郎・明子夫婦の活躍。複雑にからむ事件のナゾを明快にさばく二人が、やがて探りあてた犯人は……。 -
思はぬ人
戦後の混乱した世相と、その中に生きる人間のひとひとりの苦悩とを、『人生劇場』の尾崎氏一流のユーモラスな筆致で描いた傑作、全4編。 -
今日のいのち
才色兼備の南方理子は親のあとを継ぎ、医者になる決意をしていたが、戦争で失ってしまった青山の病院を再建する話とともに、青年医師で研究者の吉成朝巳がプロポーズをしてきて……。山田耕筰に師事、音楽を目指した病気で断念した著者の傑作。石原裕次郎、津川雅彦、浅丘ルリ子らも出演して映画化された作品。 -
江戸の虫
東海道を江戸へ向かう娘・おふみ。二面性を持つ医師・村井長庵に出会い……。吉原の中では……。数々の事件がまき起こる。江戸を舞台にした長編時代小説。<上下巻> -
伊勢新九郎
鈴鹿の浮浪児が、野武士の頭領から一国一城の主となり、天下統一の野望に燃える。一世の風雲児・北条早雲の半生を、『人生劇場』の流行作家が描いた会心作。 -
としまあず
30代の女の盛りを楽しもうという、としまのぐるうぷの名誉会員・その子は、富士大学教授夫人の美女である。愛の充たされぬ夫との生活を過して来たその子にとって、熱烈なファンである新進オペラ歌手・柳瀬俊吉の愛の告白は、青春が再び甦り、女としての充実した時を予感させる快いできごとであったが……。虚構の物語の中に女性心理を追究した力作長編小説。 -
サイパンから来た列車
深夜の東京駅に突如訪れたサイパン玉砕の一個大隊。彼らが見た戦後10年の祖国の顔、そして家族たちは……、という表題作など、全5編。脚本家・倉本聰が手掛けて舞台・テレビドラマ化され、笠智衆など出演で映画化もされた傑作。 -
浪人横丁
幕末の世、壬生藩の家老の家に生まれた青江京介は、神田の浪人横丁で暮らしている。江戸を一時離れ、人助けをして帰ってきた京介だったが、若き主君の蟄居と父親の切腹に……。しかも遺書には……。 -
法廷の魔女
新進気鋭の弁護士・百谷泉一郎は、川瀬産業社長・川瀬雄三から、「奇妙な死の予感」のため、「死後をよろしく」と依頼されて、顧問弁護士となった。それから3日後、その予感は的中し、川瀬は、3番目の妻・綾子のベッドで、ナゾの毒死をする。当然、綾子は容疑者として法廷に立つが、不利な状況にもかからわず、常に冷やかな「魔女の如き微笑」を浮べていた。しかし、百谷の調査が進むにつれて、川瀬をめぐる複雑な女性関係、近親相姦などが暴露され、事件は意外な方向に進展して来た。綾子の魔女の如き微笑は、何を意味するのか? 百谷泉一郎の明解な推理は……。 -
鳶のぼんくら松
弱きをいじめる悪者どもを見つけると、黙ってはいられない性分で、実際、その腕っぷしも人の倍以上の、江戸の浪人・松太郎の豪快さ。 -
紅梅行燈
江戸・深川の八百源の娘・お澄は、小町娘と評判の美人だが、柔術の手練でもあった。ある夜、3人の侍に襲われながら見事これを撃退した若侍・弓川金吾と知り合い、傷の手当をしたことから、ほのかな恋心を抱く。金吾の襲われたのは、南部藩の内紛、ご老公派と当主派の争いに、源を発していた。隠退した先代老公が、愛妾・お市の方にせがまれ、新御殿を作ろうとして無理な金策をし、それを引き受けた豪商・盛岡屋が、当主の妹・小夜姫を妻にと要求したのだ。江戸屋敷の小夜姫に、ご老公から国元への帰還が命じられた。無事に済むはずのない道中を思い、当主派は、姫の見替りにお澄を仕立てた。金吾、お澄の行手には……。 -
巷説 荒木又右衛門
鍵屋の辻の決闘で名高い、新陰流の剣豪・荒木又右衛門。江戸から、剣術師範を務める大和郡山藩への道中で、悪をくじき、弱きを助け、武名ますますあげていく。その荒木又右衛門の旅日記。 -
やん八弁天
老中・水野の悪事を暴くため、南町奉行の内命を受け、金座役の手代にもぐりこんだ代二郎は、鳥居耀三の配下の者に付け狙われてしまった。なんとか1軒の小料理屋を見つけ、そこに上がり込むと、そこの女将は……。時代小説の名手の十八番とも言える反鳥居ものの傑作ほか、時には脆い青年剣士、男勝りの町娘など、市井に生きる様々な人々の生き方を多彩に描いた、傑作ばかりの15短編。 -
肌は匂っていた
デパートに配送ミスの苦情が来た。ワイシャツがパンティにすり替わっていたというのだ。配送担当の枝里子は、自分のミスでも責任でもないという思いを抱きながらも、お客様の家へ謝りに行く。そして家に帰ると、結核の夫が待っているのだった。そして、意外な事件が起こり……。サスペンス感もあふれる、働く女性の物語。 -
女の港
丘の上にあるカトリック系の女子学園。港を見下ろすことができる。西川はそこで英語を教える、数少ない男性教師である。信者ではないが、司祭をしている叔父の紹介で勤めているが……。周囲の人々との関係性を描いた、生活感のある傑作。 -
おこまさん
「おこまさん」は、小ぶりな身体から生れた愛称である。年ごろの一人娘・萱子と二人ぐらし。亡夫の遺志で建てたアパート「松の荘」の持主で未亡人。親切で世話好きなおこまさん母娘を中心に、現代社会の縮図ともいえる、男女さまざまな10人のアパート止宿人の生活から、笑いとペーソスを織込んだ人生悲喜劇が展開される。庶民的ユーモア溢れる長編小説。 -
虹に立つ侍
飄然と江戸の宵を歩いていた笹井又四郎は、尼崎十万石のお家騒動にまきこまれる。藩主・松平伊勢守が引退し、跡目は嫡子・寿五郎が、将軍家の喜久姫と縁組して継ぐことになっていた。が、家老・岩崎の一党は妾腹の松之丞を推して策動、寿五郎を監禁した。喜久姫との婚約の日は迫っている……。「謎の侍」笹井又四郎は立った。機略に富み剣は無双、彼が女元締め・お香と「のぞき屋」源太を手下に、先ず打った奇手。それは単身、喜久姫を説得して婚儀を延ばすことであった。次に彼は如何にして、寿五郎を厳戒の中から救出するのか。素浪人を装う又四郎とは、そも何者なのか!? <上下巻> -
天保うき世硯
掛川藩の目付下役という軽輩・桑名福太郎が、痣姫さまと通じたために、隠密という名目で江戸に追放されるが、討手に追われているようで気が休まらない。……作者は時代を江戸の天保期以後にもとめて、人情、風俗考証の正しさで、道中記の面白さの中にリアルな立体感を与える小説を得意とするので、この作品でもそれが満喫できる。しかも従来の作品と異なり、武士社会の組織の冷酷さの中に生きる主人公に、いわゆる「永遠の女性」としてのお高祖頭巾の痣姫への憧れが揺曳していて、一種の時代スリラー的な不気味さがあり、結末は余韻ふかい。山手文学の一転機を示す作品である。 -
三百六十五日
見かけは優しいノンキ者の浪人・風雷太郎は、腕がめっぽう強く、天秤棒を振って相手をキリキリ舞いさせる。……浅草の観音さまで敵討の大望いだく町娘・お加代を戒めての帰途、観音さまのお告げだと言いはる拾い屋の忠六のすすめで、花川戸の質屋・倉橋屋の色後家・お浦の用心棒となって、悪旗本・大河原一味をやりこめる。倉橋屋の内部事情は複雑で、先代の息子で今は人別帳から抜かれてしまった兇状持ちの伝吉が、ごろつき浪人を語らっては押しかける。お浦と夫婦になった雷太郎に近づく、料亭・つるやの看板娘・お加代と、女掏摸・裸弁天のお雪など……江戸の四季をいろどる、剣と恋の物語。 -
おすねと狂介
旅は道づれ……桃ノ井狂介が、大磯の街道でいっしょになった紫矢がすりの腰元、じつは松平家の季姫であった。江戸にもどれば、姫には気にそまぬ縁組が待っている。「死につらなる恋」と知りながら、姫は狂介に心をひかれる。だが、胸に奸計をひめる家老・鷲津兵太夫が、これを見逃すわけはなく、たちまち姫と狂介は、奔流のような運命に巻きこまれる。敵か味方か? 二人にまつわりつくように旅をする、河内屋平蔵と浜田屋お峰。そして奇怪な「ご落胤」の一団……。大磯から江戸へ、2日間の旅にまきおこる、人生の転変を見事にえがいた、山手文学の好篇。 -
嫉ける
長嶋薬局の若主人・雄太郎は、若く美しい女・戸倉由里亜に心ひかれ、その親友・野田金次郎は、アパートの隣室に住む奔放なファッションモデル・松宮のり子にのぼせ、そして由里亜は、モデル時代の恋人の推理作家・柾目秋介が、のり子と関係をもったのに激しく嫉妬する。由里亜の夫・戸倉作也は、妻の心をとりもどすため、のり子と一芝居うったのだが……。からみあう男女の妬心を描く推理長篇。 -
金紅樹の秘密
作家のもとにある夫人から、夫の殺人予告の手紙が何通も届く。友人に相談して未然に防げないかと考えるが……。殺人は起こるのか? はたしてその結末は……。時代小説『若さま侍捕物帖』シリーズで有名な作家が描く、現代ものミステリーの傑作長編。 -
海は七色
九州若松港の肉体労働者たちと、そこを取り仕切る親分衆。彼らはみな血気盛んで、ギャンブルにのめり込んでいる。ふとしたことから、海女だったという女と出会い……。北九州の海や島も舞台に、心意気を見せる男たちの物語。『糞尿譚』が芥川賞を受賞した作家の傑作。 -
加納大尉夫人
大阪で指折りのメリヤス問屋の末娘に生まれた安代は、卒直な明るさを持つ娘であった。安代が女学校を卒業した年に、戦争が始まった。ある日、母に見せられた1枚の写真、それが海軍中尉・加納敬作であった。敬作のりりしさにあこがれた安代は、彼の妻になった。少女時代の延長のような稚なさの安代が、帝国軍人の妻らしくなりたいと努力し、緊張するほど、無邪気な失敗がくり返された。そんな妻を、敬作はいとしく思った。戦いは次第に苛烈さを加え、敬作の出征中に、安代は男の子を生んだ。そして半年の後に、敬作の戦死が伝えられた……。ほかに「猫」「山」「二人の女」を収録。 -
愛の海峽
女子少年院で更生し出所した清純な若い女性が、世の荒波にもまれながら人間の真実と愛情に目覚めていく、映画化もされた感動の物語。スリ犯の不良少女・多恵子は、女子少年院の生活と院長の息子・弘志の愛情で更生したが、少年院を出て彼女の行く先はなく保護司に預けられた。だがその家で……。 -
ふくろうの歌
昼は写真工場の工員、夜は定時制高校に通う泰彦に注ぐ母の愛は、母一人子一人ゆえに大きかったが、職場の無理解、定時制に対する世間のハンデキャップから、泰彦は母に抵抗する。演劇部グループ内の恋のさやあて、学生運動、そして絶望、幻滅、孤独、虚無……。現代の若い生命の苦悩と哀歓を描いた長編力作。 -
タイトル・マッチ殺人事件
霧の深い夜、世界バンタム級チャンピオンのホセ・ネルボと、日本バンタム級チャンピオン・竹中義夫の、タイトル・マッチが行われた。第5ラウンド、リングの中央に進んだ竹中は、突然、異様な苦しみに襲われた。そして、ネルボの勝利が告げられた時、竹中は謎の死をとげた。それに続く、湖上の水死事件と自殺事件。全篇スリルとサスペンスに富んだ、私立探偵・矢笠俊平ものの傑作ミステリー。 -
明けゆく島々
瀬戸内海の島に駐在することなった保健婦の俊子。懸命に島の人々の健康を守ろうとするが、島の風習とは対立してしまうことも多い。そういう島ならではの事件を経験しながらも、奮闘して成長する。『Dr.コトー診療所』などにも通ずる、僻地医療作品の傑作。 -
妙齢失わず
本を読まない人を馬鹿にしているちず子が久しぶりに実家に帰ると、姉の明子が出迎える。その明子は、実は子供を……。大人の女性たちの心模様を、詩的な風景描写をまじえて描いた、日本を代表する詩人の長編小説。 -
武四郎探検譚
動物文学の第一人者が、戦国・江戸時代の歴史的人物を描く、傑作短編7編。蝦夷地探検で名を残す幕末の探検家・松浦武四郎の大自然の中での行動を描いた表題作ほか、鉄砲伝来の種子島、織田信長、今川義元、武田勝頼など、ノンフィクション作家としても定評のある著者ならではの作品ばかり。 -
武豪列伝
動物文学の第一人者にして、ノンフィクション作家としても多くの名作を残した著者による、12編の傑作。山岡鉄舟、千葉周作、沖田総司、嘉納治五郎などを見事に描いた作品。 -
濡れにぞ濡れし
恐怖と表裏をなしている幼年時代の性の記憶、羞恥に彩られた少年期の性の意識……京都の三高に入学した私は、倉田百三の「出家とその弟子」の恋愛観、ひいては親鸞の「歎異鈔」の倫理観によって、新しい精神の世界にめざめていった。性には罪悪感がつきまとう。私には愛を伴わない情慾は考えられない。東大に進学した年、六本木のカフェで女給の柳とく子に逢ったとき、私は「ここに私の妻がいた」と直感する。彼女と旅に出た私は、宿では手を握り合って寝たが、帰京した夜、彼女の下宿で初めて烈しい性衝動に襲われ……。晩年までの性中心の自伝で、絶筆となった長篇。 -
天国遠征
大雨の日、筑後川の氾濫を心配する人々。その中に、戦後の新しい時代に、資本家となり芸術に心を傾ける家族がいた。その家の娘は、お芝居に夢中になり、配役で抜擢されもする。そして……。キリスト教をモチーフに人間の罪と罰を、『糞尿譚』で芥川賞を受賞した作家が描いた長編小説。 -
私も不良だ
大学の学生寮に住む真弓。友人のお見舞いのために寮の中へ忍び込みたいという、他大学の男子学生の願いに、偽善的な大人たちへの反発もあって……。衝撃的なラスト、親に反発して抵抗する女子大生の心理と行動を描いた、長編小説。 -
山は大きい
大阪・心斎橋で、田舎から出てきた少年がスリを働き、地元のワルどもに因縁を付けられていたところ、一人の青年が助けに入った。お金持ちのその青年は、少年を自宅のある東京に連れてこようと上京すると、一人の女性が……。そして、ある事件に巻き込まれ……。少年と青年の交流を描いた感動の名作。 -
花嫁太平記
親藩・松平家の江戸留守居役を、倅の藤太郎に譲って隠居した藤翁は、同藩目付役の娘・お乃芙を倅の嫁に迎えたが、藤太郎は国事に奔走するため、妻と相談の上、脱藩する。家名の断絶をおそれて倅を勘当した藤翁は、夫を信頼する嫁の強さといじらしさに心うたれて、勘当を思いとどまる。という、幕末の藩邸にありがちの事件を描いた「花嫁太平記」のほか、格式ばった武士階級の中に人情味を汲みとった「藪うぐいす」「ばかむこの記」や、勤皇浪人に危難を救われた男嫌いの姐御が、一夜の情交からすっかり女らしくなる「舞鶴屋お鶴」など、幕末動乱期のなかに義理人情を描いた、珠玉の名作集。 -
くれない系図 若さま侍捕物手帖
両国広小路「娘手ずま胡蝶斎一座」の君太夫が、何者かに殺された。親方・一神は、秘蔵弟子の死をきくと、なぜか花太夫の安否を気遣う。おなじみ遠州屋小吉が駆けつけ取調べていると、花太夫が行方不明となり、常回り同心・矢村小左衛門が検死にきたとき、君太夫の死体は煙のように消えていた。そのうえ小吉は、剣客風の武士に事件から手を引けと威される。花房家跡目相続にからむ一党と幻術師の死闘が展開され、渦中にまきこまれた「若さま」は、船宿・喜仙で淘然とばかりもしていられず、忍者もどきの大活躍をする。数多い作者の「若さま侍捕物手帖」のうちでも屈指の異色長篇。 -
おえん殿始末 若さま侍捕物手帖
将軍家の寵妾おえんの方付の奥女中が、宿下り中、謎の矢に射られて死んだ。その背後に秘められた大事件!? ――「ここは柳橋米沢町、船宿喜仙の大川に沿った二階屋敷。齢のころなら三十四五……」一向に格式張らず、何の屈託もなさそうな至極のびのびと育った人柄の若さま。船宿の一人娘で今年19のおいと。二人の閑談をいつも邪魔して無粋さをおいとにうらまれる御用聞き、遠州屋小吉。……ご存じ、若さま侍捕物手帖『おえん殿始末』は、将軍家の寵妾・おえんの方という歌川の局付の奥女中が、宿下りして謎の矢に射られて死んだことから、大奥を舞台に豊臣家遺臣の謀叛事件が発覚する。その底深さに挑戦する若さまの鋭い推理と、優美な剣の冴えが、錦絵さながらに繰り広げられる巨篇。 -
夜は新しく
香料技術家の夫・毛利直保が、銀座街頭に連れだっていた若く背の高い女は誰だろう……。平穏な日常生活に退屈した28歳の人妻・由美子の心にしのびよる愛の渇き。そして、濃い眉と逞しい胸をした建築家の小泉青年とともに、バア・トレントで乾したジン・フィズの味が、ひとつの危機の重みとなって冷たくのしかかる。傷ついた美しい獣のような由美子が、死を賭してまで捉えようとしたものは何であったのか……。人妻の不倫に内側から照明をあて、大胆な筆致と濃密なムードに浮彫した野心的長編。永遠にかなしく美しい〈女のかたち〉がここにある。 -
夜の人魚
シベリア抑留から生還した、頑固一徹の元・師団長がたどる、変わってしまった日本の世相。清純な長女といわゆるアプレゲールの次女が、社長の息子で漁色家に翻弄され、ついには騒動に巻き込まれるが、その先に幸せをつかんでいく……。 -
虹の誘惑
国鉄で若い頃一緒だった津村基幸と祖父江謙吉。平凡な幸せを掴んだ基幸家の人たちと、出世はしたが、道彦という長男が冷血な色魔である祖父江家の人たちの、愛と苦悩の物語を飽かせることなく読ませる。定年後、囲碁だけを趣味に生き、いかなる苦労も淡々と引き受ける飄々たる人生観が魅力的な基幸という人物像が、非常に魅力的に描かれている。 -
地に満つる愛
瀬戸内海の同じ島に育った、高校の同級生という二人の青年。一人は高松市の講習所で農業を教えているが、船に乗って島へ帰ってきた。二人は役場に勤めている同級生の女性に声をかけるが、その女性は……。まじめな島の若者たちを描いた名作。 -
大阪の風
しがないサラリーマンの大川清吉と朝子夫妻、その子どもたちの久子、一郎、次郎3人の成長の物語。清吉が東京支店に左遷させられた後、子どもたちは大人たちの生き方を見て、それぞれの形で自立していく。久子は台湾人との結婚を宣言、清吉と朝子は衝撃を受けるが、一郎と次郎は受け入れる……。長門裕之、南田洋子、浅丘ルリ子らが演じてで映画化された家族物語。 -
若草軍記
紀ノ川の近くの館で、真田昌幸・幸村に仕える忍びの又四郎。また猿飛佐助。徳川の策略で秀頼は……。そして真田が動くとき……。大阪城落城前後の攻防のとき、隠密の活躍や人心の混乱を描き、被害を受けた善意の人々を浮彫にした異色時代長編。<上下巻> -
若い樹々
快活で美しい立花理々子には、父がない。中学を卒業すると、東京に出て働きながら夜間高校に学ぼうと決心する。上京した彼女はお手伝いさん勤めをするが、慣れない環境で身も心も疲れていった。そういう理々子の心の支えになるのが、洗濯屋のご用聞きをしている戦災孤児の橘悟くん。周囲の無理解と蔑視に傷つき、また悩みながら、しかし希望をもって彼等は生きる……。幸せを願い、明日をさして伸びゆく若い樹々のような若者たち。働く人たちの愛と生活を暖かく描いて定評ある壺井文学の名作長篇。大映映画化。若い世代に贈る話題の1冊。 -
絞首台の下
北海道の開墾地で兄と働く近代娘の千早。消息を絶っていた許婚のハガキを手に千葉へ向かうが、そこは刑務所で彼は殺人罪で服役中だった。そしていろいろと周囲に話を聞くうちに、事件を取材した新聞記者が会社を辞めていたり、不可解なことが出てきた。だが、彼は脱獄を……。赤木圭一郎、長門裕之らで映画化された傑作。 -
愛が扉をたたく時
アパートの一室で、歌手の朱実は自殺した。彼女の突然の死は謎につつまれていた。朱実の死の翌日にその部屋を訪れる人が、朱実のほんとうの恋人なのだと、妹のみどりは言う……。男たちの欲望の渦の中を生きる美しい姉妹と、転向という過去を持つ中年の作家との交渉を描きながら、真実の愛の成り立ち難い戦後の暗さを追求した力作長篇。 -
東京0番地
戦後、不運にも刑務所に収監された男がいた。その刑務所の中での囚人たちの姿と心を通し、犯罪の本当の姿を暴いていく。欧米や朝鮮半島などと日本との微妙な関係など、当時の世相も見事に活写した傑作。芥川賞候補にして『早稲田文学』で多くの作家と接した著者の代表作。 -
女の繭
菱川佳世は、銀座「丸藤」専属の若い和服デザイナー。彼女の染めた衣裳を、一流会社の社長夫人・菅野三千代が着ると、人目をそばだてる。生家が西陣の帯地問屋と織元という関係で、三千代の方が年上だが、二人は幼い頃から姉妹のように親しかった。佳世の兄・豊喜は太平洋戦争の軍医で、ある夏、突然帰国する。彼は抑留中のいまわしい経歴から、虚無的な影のある男となっており、佳世はそんな兄の底知れぬ冷たさに幻滅するが、彼の帰還を10年待ち暮して今は人妻の三千代の瞳は、妖しく燃えるのだった。人間に絶望した男を愛のちからで蘇らせる、京おんなの激しくも哀切な恋を描く傑作。 -
子供は知っている
大人はわかっているつもりでいるが、子供のことを本当にわかっているのだろうか。そして、子供のことを大切にしているのだろうか。だから、いつもこんな……。貧しい家庭に生まれながら肉体労働をして早大で学んだ経験を経て、「子供をよくする会」設立、更生施設建設など、自ら少年少女の救済活動をおこなった作家による、大人と子供の相容れない視点の差異を描いた、リアルな長編小説。現代の教育・子育ての課題・問題にも通じる、心揺さぶられる普遍性に満ちた傑作。 -
妻は知っていた
デパートの設計部に勤務し、若くて優秀な室内装飾デザイナーの菊雄を夫にもつ多緒子は、幸福な家庭生活をおくっている。ところが、菊雄が上顧客である貿易会社の社長令嬢・潮子から、商業装飾の店の専門技師として転職をすすめられ、この事件をめぐる夫婦の感情のもつれが、やがては家庭の苦悶の姿に変っていく……。 -
現代好色一代女
男の欲望のまにまに押し流されて生きる美しい母・よし乃。真実の愛を求めて悩む娘・ゆかり。夫の岳夫と母との不倫な関係を知ったゆかりは、恋人・篠田との新生活を望みながら、夫の脅迫に怯えその腕に抱かれつづける。この女体の哀しさは、母の弱さとどこが違うといえようか……。戦争を境に、衣笠家は没落した。かつて宮家の姫たちに仕え由緒ある豪農に嫁いだよし乃は、夫・義則の嗜虐的な愛撫に馴らされていたが、夫の死後は女手一つで生きるため、次々と男に身を委せていくのだった…。女盛りの寡婦のたどる数奇な男遍歴を通して、女体に潜む「業」を追求した、円地文学の会心作。 -
四角な卵
戦後のオフィス不足の時代、銀座にオフィスを持っているだけで信用される……。元植木職人とその妻、姪……経営者と普通の人々……。新しい時代に立ち向かう人々を、作者ならではの暖かい眼で描いた、朝日新聞連載小説。 -
青年の樹
東大に入学した坂木武馬は、さまざまな人生を背負った友人たちを持った。赤坂の有名な料亭の娘で、母親が汚職事件に巻き込まれている明子。やくざの大親分の長男として、跡目相続を迫られている和久。高校野球のヒーローだったのに、なぜかマウンドを踏もうとしない杉。見えない糸が彼らを結びつけ、青春の地図は苦悩と友情とで、複雑に彩られて行く。「本当の青年になれ、そしていつまでも青年であれ――」という父の希望を、若い樹の養分として、冒険を恐れずに生きる武馬を通して、行動派作家の思想を見事に昇華し、さまざまな苦悩に満ちた人生を歩む若者たちの、友情と恋と冒険を爽やかに描く青春ロマン。東宝で映画化された傑作。 -
私も燃えている
ユニークな自我に生きる女流作家の宇女子と、美しく聰明な姪の千晶を中心に、2人が同時に愛する若い原子物理学者の香取耕二、千晶の婚約者である医師の宇津木努、江戸趣味に生きる洒脱な美術評論家・市島克衛、繊細な心情を持つ理論物理学者・小坂部、千晶の父の病院長・弥曾次、母の類子、宇女子ファンの芸者・小千代など、さまざまな恋の姿と、綾なす人間群像が描かれる。この作品は、著者の男性観・恋愛観のすべてを注ぎ、個性的なリアリティを持った円熟の筆に、恋の虚飾と真実を、見事に凝縮し、彩りゆたかに描きつくしている。豊麗な大河の魅力を思わせる傑作長編。 -
月光の門 若さま侍捕物手帖
大江戸八百八町に次々起こる謎の神隠し。事件に乗り出した粋な着流し姿。ご存じ若さま侍の剣が冴える。奇怪な美女神隠し事件の謎とは?――江戸八百八町に奇怪な美女の神隠しが続発し、公儀御用達・糸問屋の娘・おつゆ、御弓師の娘・おこう、吉原の芸者・おちせの行方も判らぬ折りも折り、将軍家息女・当年9歳の綾姫が大奥から忽然と姿を消すに及んで、ついにご存じ若さま侍の登場となる……。この『月光の門』は、町奉行・寺社奉行の共同捜査も空しく迷宮入りした美女誘拐事件の核心を追う若さまと、大名、旗本、悪銭かせぎの武士やくざ、人入れ稼業の一味、奇怪な山伏の一団が入り乱れて横行し、この世ならぬ一途な恋のはげしさと、修験道の法力の巧妙さを、大峰の奥の神苑に展開される昇天の儀式にからませた異色篇。
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