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月光の門 若さま侍捕物手帖
大江戸八百八町に次々起こる謎の神隠し。事件に乗り出した粋な着流し姿。ご存じ若さま侍の剣が冴える。奇怪な美女神隠し事件の謎とは?――江戸八百八町に奇怪な美女の神隠しが続発し、公儀御用達・糸問屋の娘・おつゆ、御弓師の娘・おこう、吉原の芸者・おちせの行方も判らぬ折りも折り、将軍家息女・当年9歳の綾姫が大奥から忽然と姿を消すに及んで、ついにご存じ若さま侍の登場となる……。この『月光の門』は、町奉行・寺社奉行の共同捜査も空しく迷宮入りした美女誘拐事件の核心を追う若さまと、大名、旗本、悪銭かせぎの武士やくざ、人入れ稼業の一味、奇怪な山伏の一団が入り乱れて横行し、この世ならぬ一途な恋のはげしさと、修験道の法力の巧妙さを、大峰の奥の神苑に展開される昇天の儀式にからませた異色篇。 -
青年の樹
東大に入学した坂木武馬は、さまざまな人生を背負った友人たちを持った。赤坂の有名な料亭の娘で、母親が汚職事件に巻き込まれている明子。やくざの大親分の長男として、跡目相続を迫られている和久。高校野球のヒーローだったのに、なぜかマウンドを踏もうとしない杉。見えない糸が彼らを結びつけ、青春の地図は苦悩と友情とで、複雑に彩られて行く。「本当の青年になれ、そしていつまでも青年であれ――」という父の希望を、若い樹の養分として、冒険を恐れずに生きる武馬を通して、行動派作家の思想を見事に昇華し、さまざまな苦悩に満ちた人生を歩む若者たちの、友情と恋と冒険を爽やかに描く青春ロマン。東宝で映画化された傑作。 -
私も燃えている
ユニークな自我に生きる女流作家の宇女子と、美しく聰明な姪の千晶を中心に、2人が同時に愛する若い原子物理学者の香取耕二、千晶の婚約者である医師の宇津木努、江戸趣味に生きる洒脱な美術評論家・市島克衛、繊細な心情を持つ理論物理学者・小坂部、千晶の父の病院長・弥曾次、母の類子、宇女子ファンの芸者・小千代など、さまざまな恋の姿と、綾なす人間群像が描かれる。この作品は、著者の男性観・恋愛観のすべてを注ぎ、個性的なリアリティを持った円熟の筆に、恋の虚飾と真実を、見事に凝縮し、彩りゆたかに描きつくしている。豊麗な大河の魅力を思わせる傑作長編。 -
泥の勲章
社長秘書の交通事故死、それにつづく専務の失跡。東洋石油には秘かに、しかも確実な足どりで「魔の手」が迫っていた。資本金140億円の巨大な会社を背後からあやつろうとしているのは誰なのか――。専務秘書・名取洋三は、その激流のなかにサラリーマンとしての運命を賭けた。彼がみた汚濁にみちた人間の闘争。泥にまみれた「勲章」を狙って、社長、重役、右翼ゴロ、新興宗教……人々は牙をとぎすました獣のように争う。が、東洋石油の経営権は、その誰の手にも得られない。最後にそれを手にするものは? 金融資本対産業資本のすさまじい闘争を描く力作。 -
女人白道
焼夷弾を避けて逃げ惑った東京大空襲の日、手を引く母に逆らって、細い道を選んだために生きのびた二宮唐子。――12歳の彼女は、白く光る大道を幻に見ていたのだ。 戦後〈霊感少女〉に仕立てあげられた唐子は、仮面をつけた生活に失望する。自堕落な母の生き方にも反発して、流行歌手・江月の前に自らの体を投げ出すのだった。が、唐子は妖気をはらむ女なのか……男の体を萎えさせるだけなのである。やがて江月は、自らの生命を絶つ。唐子も歌手としての道を求めて大阪へ家出する。幸運の卦はいつ訪れるのか?――無限に拡がる「白い大道」。 -
巨人商社
雨の夜の神戸港で、港湾労働者スケやんが水死体となって浮んでいた。その死因に疑問をもった水上署の刑事はひそかに捜査を始める。一方、貨物船興亜丸の沈没で兄を失った小柳は、沈没のナゾを解くべく貿易商の玉井、美人真珠商の伊吹楊子と共に事件を追及するうち、興亜丸と共に沈んだはずのコック・吉村公夫の生存を知る。膨大なる組織をめぐらして真珠市場に君臨する極東商事の暗い過去。不能者の玉井と同棲する美女アンナ。欲望のために小柳を捨てた過去の女、早苗。――冷酷な陰謀を秘める巨人商社のシンジケートに挑戦し、現代社会の偽装を暴く雄大な産業推理長編小説。 -
あなたと共に
雑誌「婦人倶楽部」に連載された著者初めての長編小説。岸恵子主演により映画化もされた。主人公の美容師・小泉菊子は母と姉との三人暮らし。ある日、かつて従兄に紹介された上山有二と遭遇する。有二には恋人がいたが、菊子に強く惹かれていくのだった……。菊子めぐる恋愛模様が微細かつ丁寧に描かれてゆく。 -
熱愛者
音楽評論家で大学の講師でもある「私」が、主我的で嫉妬深い歌劇団のプリマドンナ・千坂牧子との生活に疲れ、小悪魔的な室内装飾家・津島頼子に心をひかれ、結婚して家庭生活に耽溺する。しかし、やがてその生活に破綻をきたし、頼子は別の男の許に走り去る。……心憎い程に女性心理を透視する著者が、男の異常なまでに純粋な熱愛がかえって女の愛を動揺させていくという物語を、物やわらかいムードの中に描いた力作。 -
夜の専務
夜の専務、といわれる彼の仕事は世の裏面に直結することが多い。たとえば愛人譲渡式の立会人。大臣の羽沢が愛人の貝塚ラクを財界人の九段に譲渡した。羽沢が九段に向って、「今夜より貝塚ラクとは縁を切り、貴殿に進呈します。よろしくな」というそのかたわらに、彼は重々しく正座しているわけである。こうして貝塚ラクは九段の所有物となったが、どうしたわけか、九段は1週間ののちにポックリと死んでしまう。いわゆる腹上死とよばれる死に方であった――。表題作他6編を収録した短編集。 -
悪の紋章
小菅刑務所の門を2年ぶりで出て来た稲村清一は、やさしく頬をなでるシャバの風に逆らうように、ペッと唾を吐いた。「悪徳警官」のレッテルを貼られ、麻薬運搬の罪に服した彼は、完全に無実だった。彼は復讐の鬼になっていた。自分を裏切った妻との憎悪の再会、「共犯者」だった男の突然の死、謎の乗用車の追及などが、すこしずつ真相を語りそうになりながら、しかし、事件の背景は複雑にひろがり、政界・財界の大立物の身辺につながって行く。名作『私は貝になりたい』の作者が、新風の文体で現代の悪の姿を描いた本格的な長篇推理小説である。 -
叛乱
2・26事件――昭和11年2月26日未明、霏々とふる雪を軍靴で踏みしめて、昭和維新の名のもとに特権階級打倒をめざす陸軍青年将校が、1400余の兵をひきいて蹶起した。この「叛乱」は、陸軍における統制派と皇道派の派閥争いが、ついに軍の指導権争いとなって、皇道派・相沢中佐の永田軍務局長斬殺事件に発展し、やがてこの雪の朝の悲劇を迎えるに至る。その経緯と事件の過程を、世評高い「昭和軍閥」の作者が、その抱懐する歴史的社会小説の立場から資料を駆使して、政治の腐敗、軍部の政治関与、青年将校の苦衷とその誤算を鮮烈に描く。直木賞受賞作品。 -
未知の界へ
複雑な家族の末子として生まれた桂。兄の友人で新聞社勤めの安彦を家庭教師として大学進学を目指すが、社長令息の透との縁談が持ち込まれる。子を産んだあと赤線に売られていった幼な友達、同じ年頃の温泉芸者との触れ合い、東大受験、そして透と安彦の狭間で、桂は次々と未知の世界を覗いてゆく。病と闘い、離婚を乗り越えて書き続けた北畠八穂の人生観が表れた長編小説。 -
赤い椿の花
椿の名所、菅多峠の観光路線は、急勾配の隘路続きで事故が絶えないため、トンネル工事の完成が待たれていた。麓の漁港、佐土浜にあるS交通バスの三崎義実は、運転手仲間も舌をまくほどの腕達者だが、黙々とハンドルを握る孤児の彼には、暗い過去の影がつきまとう。忘れ得ぬ女、市枝の面影を空しく追い求める彼の心に再生の灯をともしたのは、若い車掌、加江子の純愛だった。が、港祭りの日に市枝の姿を見かけたときから、彼の運転はすさんでいった。…… 田宮文学独自の冴えた抒情のうちに、生きることの真意を求めて描く長編力作。 -
火口湖
甲州に葡萄園と葡萄酒工場をもつ千倉家には、二人の美しい娘がいた。東京の直売所、千倉洋酒店を切り盛りしている姉の一枝と、近郷の雑貨屋に嫁いだ妹のしげ実である。一枝は薬剤師の西竜一と愛し合っていたが、勝気な彼女と消極的な西との間は、一向に進まない。詐欺事件の後始末に大阪へ出向いた一枝は、叔父の自動車販売会社に働く妻子持ちのセールスマン、染谷の行動的な性格に魅かれていく。一方、封建的な婚家を逃げ出したしげ実は、姉の店で暮らすうち西と知り合い……。 あかね色の夕映えに輝く葡萄園、そこに育った姉妹の人生行路を描き感動をよぶ長篇恋愛小説。 -
おぼろ忍法帖
心をこの世に残しつつ死の際に立った男が愛する女と交る――と、ひと月後にその女胎を裂いて男は再誕する。妖異凄絶の忍法「魔界転生」! 血風の中に甦る剣鬼たちは天草四郎を筆頭に、曰く宮本武蔵、荒木又右衛門、柳生宗矩、柳生兵庫、宝蔵院胤舜、田宮坊太郎。背後でこれを操るは天草の乱に敗れた森宗意軒と、そして由比正雪。 彼等は紀伊大納言頼宣を唆かし、徳川の天下を潰乱に導くべく、魔人と化した「転生七人衆」を紀州に送り込んだ。これに対決しうるは隻眼の剣手、柳生十兵衛あるのみ。妖雲は腥気をはらみ、十兵衛を窺って紀州から柳生の庄に迫った。全3巻、痛快忍法小説。 -
中国美女譚
紂王に愛された「妲己」、項羽と生きた「虞美人」、高祖劉邦の亡き後、呂太后に責め殺された「戚夫人」、処女のまま花神となった「張淑君」、辺境に嫁いだ「王昭君」、中国史上唯一の女帝「則天武后」、玄宗皇帝の寵姫「楊貴妃」、復讐と恋の狭間で苦しんだ「凝香児」、芳艶な10代の少女「費美人」、紫禁城で権力をほしいままにした「西太后」。愛欲と陰謀と怪奇渦巻くロマンス。10人の中国美女の伝説。 -
小雪―続・絶唱
最愛の妻・小雪を失って、孤独感と追憶の感情にとらわれている園田順吉だったが、皮肉なことに、彼の小説が映画化され、まわりは華やいだ。小雪の父親・正造は、そんな順吉をみて、もう小雪の残像を捨てて、早く後妻をめとってくれ、と頼む。事実、後妻を彼に、という周囲の努力があったし、娘たちから順吉に接近するというケースもあった。しかし、小雪への思慕は、はるかに大きくて強いのだ。そんな折、順吉は、ユキという女性に出会った。容貌も、そして名もそっくりではないか。順吉はときめく。亡妻・小雪との愛の残光をふり払うため、順吉は、ユキとの新しい愛に生きようとする。小雪に瓜二つのユキだったが、彼女のなかには、小雪と対照的な「女」があった。話題の名作「絶唱」の姉妹篇にあたる書き下ろし長編小説。 -
えろぐろ軟扇子
子供のころ、女体のグロテスクなことにびっくりしたあたいは、女よりも男が好きになっちゃった。学徒出陣をしているとき、ホモっ気のある中隊長につかまったのが、ゲイ道に入るきっかけよ。中隊長は権力であたいの処女性を奪ったの。戦後はGI相手に稼いだりした。外国人の囲われ者になったこともあるわ。そのうち、日本人の素敵なパトロンにめぐり合った。彼のおかげでいまあたいはゲイバーのマダムだけど……。と、その奇妙な人生を味のある独白調で語る標題作の他に、「やったぜベイビー」「あとの二人が損をする」「密造酒」など、全5編を収録する短編小説集。 -
花ひらく森
美也子が書いた「秘書日記」が思いがけず爆発的なベストセラーに。彼女が勤める大手出版社の社長、ライバル会社の社長、悪徳映画プロデューサー、映画監督、文芸記者、地方の良心的実業家たちが入り乱れて演じる、映画化権を巡るドタバタ劇と愛の綾。明朗軽快なタッチで描く傑作ヒューマン小説。 -
緑の水平線
鎌倉に住む小説家の白井は、釣り道具を肩に家を出た瞬間から、俗世間と縁を絶つ。奥さんの鈴江と娘の友子は、それが白井の健康法だと理解している。しかし、孤独になったつもりの白井は、思わぬ釣り仲間の出現から、世間的なトラブルの中に捲き込まれてゆく……。この型破りな小説について作者は、「世界にもちょっと類のない小説だと、大口をたたきたい。小説は何もお色気と殺人スリル専門とは限るまい。人生には、そのほかにも、いろいろと楽しみがあるはずだ」という。ホームドラマに新境地を開拓した林房雄が、約30年のキャリアを活かした釣魚小説。 -
狸小路の花嫁
国産車を愛するタクシー運転手の庄太は、友人の天才エンジニアー・キイスケ君の妹がマダムを務める新橋駅前・狸小路の中のバー「腹つづみ」の常連である。深夜、酔い潰れた老人を乗せたら、それは常連仲間の通称「閣下」であった。閣下の正体は、自動車会社の元社長で、キイスケ君につくらせるため、新型車の設計図を持っていたが……。誇りをかけて始まった日本縦走ロードレースと、並走してゆく恋のレース。その勝利の行方は? ユーモアとペーソスあふれる傑作長編。 -
青年
ペルリ来航から10年後の元治元年、英国留学から帰った志道聞多と伊藤俊輔は、英艦バロッサ号で長州へ戻り、攘夷論者に対して開国を主張し、馬関戦争の勃発と、京都での敗戦に苦慮する藩政府を説得し、高杉晋作とも協力して、屈辱的な条件にもめげず、講和への道をひらく。バロッサ号の通訳アーネスト・サトウとドクトル・ブラウンは、幕府の開国主義が見せかけの進歩主義にすぎず、一見反動的な長州の排外主義の中に、真の進歩主義が潜んでいることを理解して、二人を支持する。明治維新の大業をなしとげた青年たちの理想に燃える姿を作者・林房雄が心熱こめて描いた傑作歴史小説。 -
祈る人
父の死後、暁子は母の勧めで見合いを重ねた。行きずりの旅人に似て、暁子の前にあらわれては去る男たち。その儚く淡い触れ合いだけが、思い出の淵に澱んでいく。暁子の育った家庭には、疎開先の叔父夫妻や友人の新婚生活に見られる、強い愛の絆がなかった。学者だった冷たい父と美しい母との間をへだてる厚い壁。異性と愛し合うことへの違和感を自覚した暁子の心は、千々に乱れる。そうした彼女の耳に、忌わしい出生の秘密を告げる男の声が聞こえてくるのだった。生きる証しを求めてさまよう若い女性の心理と新しい愛のモラルを、清冽な筆に描く傑作長編。 -
恋慕奉行
母の形見の印籠1つを抱いて江戸へでてきたお柳には、正体のわからない、不吉な影がつきまとっていた。大事な印籠は僅かな隙に盗まれ、折角きまった奉公口も次々とこわされ、千住の宿場女郎に身をおとす破目となった。――見えない、呪(のろ)いの糸が、お柳を縛っている。もし、町同心・水木半九郎に夜釣りの道楽がなかったら、お柳はとうに死んでいたろう。半九郎の鋭いカンは、暗闇に嘲笑う覆面の武士の正体を見破った。彼の名は、阪田権太夫。町奉行・大岡越前守に不敵な挑戦を宣し、江戸を恐怖の巷(ちまた)に落とす男。越前守の弱点――恋の過ちを衝くだけに、名判官の苦渋は深かった。<上下巻> -
娘の縁談
祖母に縁談をおしつけられ、18の時、九州から東京へ飛び出してきたおてんばの千栄子さん。それから4年、おっとりとした友人の友子さんと同居しながら、速記者として働きつつ、女優のタマゴとして頑張っている。そして、そろそろ恋愛や結婚のことを真剣に考えるようになり……。映画化もドラマ化もされた傑作。 -
息子の縁談
銀座の老舗ブティックの主人は婿養子で、頑迷なるカミさんには頭が上がらない。その一人息子に、財界巨頭のトンデモ三女、整形美女の外科医、新橋の売れっ妓芸者、横浜商社の社長秘書など、自薦他薦の縁談・艶談が舞い込む騒動のうちに、元戦友の清純な縫い子の妹との結婚に到るまでの、明るく軽快な物語。 -
影ふかき人
心ならずも神宮球場のスーパースターの妻となった冴子は、新婚旅行の途次、新郎・信三とともに事故に遭ってしまう。そして、新婚初夜にも関わらず、冴子は建築家の城田と結ばれ、子を孕んでしまうのだった。それでも、意識の定まらない状態になった信三を愛せるようになった冴子だが、奇跡的に元に戻った信三の暴君振りに、今度は家を出てしまう。そこには、独身となった城田に想いをかける3人の女たち。だが、ついに冴子は城田と……。 -
赤ちゃん誕生
男児か? 女児か? どんな赤ちゃんか? 第1子誕生を目前に、不安と期待に胸おどらす若夫婦を中心に展開するホームドラマーー「まるで貴重な壺みたいなものだ。よほど丁寧に扱わないと、こわれてしまう」……愛妻・美和子さんのふくらんだ下腹を見ながら、光男は禁酒・禁欲の決心を新たにする。初めての子供が生れるのだ。あとしばらくの辛棒である。ところが、5年前に別れた初恋の女性・歌代が、いまはスターとなって出現、彼の禁欲をゆさぶったり、ネズミのフンと杉苔を妊婦にのませると、頭脳明敏な男の子が生れると信じてやまぬ故郷の父が乗りこんできたり、三田家は臨月をひかえてもユーモラスな騒動がたえない……。軽やかに淡々と、家庭の笑いをふりまく林文学の異色作。 -
青空乙女
戦後日本の空に民間航空路が広がるなか、真木三枝子は時代の華となった客室乗務員として、家族を支えながら懸命に働いていた。機内で美しく立ち振る舞う三枝子を、息子の結婚相手として見初めたのは、建設会社社長の藤川。しかし、息子の重雄の意中の人も、かつて機中で見かけた三枝子その人だった。磁石の両極のように惹かれ合う二人だったが、その恋路と両家の前には、国際的な詐欺集団による事件の数々が立ちふさがる。新しい風景となった空の旅と猥雑な地上の世相が交錯し、戦後のエネルギッシュな息吹を伝える長編青春小説。 -
再婚旅行
越智さんは齢50を越えた、鎌倉の人里離れた地で執筆に追われる、人気の小説家である。結婚25年の千代子さんと2人の男の子、お婆ちゃんとお手伝いのお啓と暮らしている。一見穏やかな世間にある日々だが、酸いも甘いもかみ分ける越智さんにとっては、人生模様のドラマを垣間見る毎日でもあった。老いも若きも男も女も、町の親分も謹厳な弁護士も、動物たちも、悲喜こもごもに思いを語りだす、10篇の連作ユーモア小説。 -
影丸極道帖
天保13年9月、江戸を襲った台風の日、怪盗・影丸が脱獄した。江戸城内、大奥にまで侵入した剽盗だけに、奉行所の召喚状をすりかえて脱獄する、前代未聞の牢破りだった。同じ日、名与力・松並白亭の養女・小夜も何者かに誘拐された。そして、白亭と配下の同心・志賀三平は、この2つの怪事件を結ぶ謎に立ち向かう。不敵にも影丸は、「目指す相手は八丁堀!」と、かれらに挑戦してきたのだ。だが、目明し伝六、紋十郎ら悪党の名は浮かんでも、当の影丸は神出鬼没。しかも事件の背後には、将軍家継嗣をめぐる暗闘までも絡んでいる……。著者が秘材を傾けた本格派時代物推理の妙。<上下巻> -
末っ子物語
作家の多木は、戦時中、東京の住居を畳んで、以来、郷里に住みついた。御殿場線の小さな田舎町だ。戦中戦後の多難な時に、多木は長い闘病生活を送るが、奇蹟的に全快して、家庭も明るさを取戻す。楽天的な妻の芳枝はいよいよ健在で、3人の子供たちもつつがなく成長した。長男長女ともに、父の母校・早大に入学して東京にいるが、これは心配ない。気がもめるのは、ミソッカスの「チビ」、つまり末っ子の圭子のことである。甘えん坊でお転婆で不勉強ぶりは、両親の若い頃そっくりなのだ……。 末っ子を中心に、子供たちにそそぐ父性愛、母性愛を描き、深い感動を呼ぶ、最高級の長篇家庭小説。 -
舟姫潮姫
関ヶ原の戦いの直前、瀬戸内海の島々を舞台に、美貌の姫たち、歌舞伎踊の名手、海賊船、美貌と剣の兄弟たちが繰り広げる、ソロモンの財宝の在処が古代文字で書かれた舟姫呪文の秘文書を巡る、愛と欲の伝奇物語。伝奇小説の第一人者が描く、妖異怪奇の異色譚。 -
夢魔
新幹線の車中で、美しい和服の女が発病した。医師と名乗る黒背広の男に治療をうけた彼女は、京都で下車した。が、その瞳はどこか虚ろだ。ルポライター・渋谷は、彼女を尾行する。それは、奇怪な体験であった。京都の有名な料亭の若夫人である彼女が、娼婦のように彼に身を任せたのだ。しかも彼女は、その悦楽の情事を一切記憶していない、という。この日から渋谷の周囲に「夢魔」にあやつられた女たちが、続々と登場する。女は鍵言葉(キー・ワード)で、やすやすとその白い肉体を開き、没我の欲望に狂うのだった……。深層催眠を利用して女体を弄ぶこの「夢魔」の正体を渋谷は追う……。 -
揺れる女
深夜、私の部屋の電話が鳴った。「あたし、由香利です。死のうと思ってるの」……電話の主は、青江由香利・18歳。女流作家の私を慕ってくる、六本木のフーテンのひとりであった。その翌朝、由香利は、私の8年来の情人である国井と、心中しているのを発見された。私は愕然とした。なぜ、あのふたりが? 苦悩と懐疑が私を駆り立てた。由香利には、国井を《死》に誘うほどの魅力があったのだろうか。そして、私はついに、由香利の肉体の秘密を知った……。傷ついた心と肉体をもち、荒涼たる現代の夜をさすらう少女を描く「揺れる女」など、全7編。 -
背徳の夏
夫を寝取られた妻の惨めさを、智子は、光子によって味わされた。その光子は、智子の親友だった。ダンスホールで知り合った住田という男と、官能をくすぐり合うゲームのような逢引きを繰返しているうちに、智子の心の中に、光子への殺意が高まっていった。その殺意は、夫への愛の証しでもあったのだが、やっかいなことに、光子を消す計画に、殺し屋の役を引き受けたのは、住田であった。……愛とセックスのメカニズムを、心理的なスリラー・ドラマのかたちで描き出し、孤独な現代人の荒涼たる心の風景をのぞきこんだ、ユニークな長篇小説である。 -
金曜日の誘惑
ユダヤ人の老貿易商であるミスター・ウィリアムから、世にも不思議な「悪魔の印鑑」を預かった公認会計士の本田俊一郎は、この10年、妻以外の女性とは交渉を持ったことのない生真面目な男であった。しかし、女性の体に押しつけると巨大な悪魔のセックスと化す象牙製の印鑑を手にしてから、本田の夜の生活は一変した。外人相手のコール・ガールを手始めに、喪服の似合う未亡人、美貌のダンス教師、女優の卵、沖縄海洋博外国館の女、と実験を重ねていくうちに、すっかりその魔力の虜となってしまったのだ。ついには、姪の奈奈子や妻の紀美子までをも渦中に巻込んでの女遍歴の果てに……。 -
夜のパスポート
婚約者に裏切られ、国際見本市アフリカ隊の一行に加わってモロッコにやって来た、羽仁生節子。眠れぬ夜、睡眠薬を飲んで床に着こうとしていた節子を、隊員のひとり、一の瀬が訪れた。翌朝、同じベッドに横たわる男の醜悪な体を発見して、節子は絶望する。スキャンダルは広がった。砂漠の古都・フェズで節子に求愛した若い大使館員・北沢も、噂を知ると冷たくなった。傷ついた節子の行手に待つものは……。異国の空の下、孤独な男女に忍びよる危険と誘惑、行きずりの愛、歪んだセックスを描いて、現代人の心の傷をユニークなタッチで抉る異色作。 -
仮装行列
旧華族との交渉を懸念する父のすすめで、滝沢一郎と婚約した田所真木子。真木子の義父・憲介は、東洋美術館長で、重要文化財審議会の委員をしている。旧華族の東照寺公一は、徳之内元伯爵家の相続人・摂子とブルー・セックスに耽っているが、真木子の婚約を知ると、掌中の珠を失う思いに悩む。二人の結婚に執念を燃やすのは、元伯爵夫人・徳之内津留で、一郎の父・滝沢代議士は、大名華族の元家令である。この政略結婚のかげには、徳之内家所蔵の国宝絵巻屏風をめぐる、母娘の醜い争いが隠されていた……。真木子をめぐる、仮装行列さながらの上流社会の虚偽と性の腐爛を描いた大作。 -
女神出奔
あまり人のいかないハイキング・コースの途中で病気になった楠田は、一軒の草深い古別荘に犬と住む由緒ありげな女に、一夜介抱された。その妖しい魅力にひかれ再び訪ねた楠田と、女は「お茶でものむように」交わる。一方、楠田の恋人・順子は、片貝助教授を知り、その家柄や名声に酔わされる。片貝を取り巻く女性は多い。彼は、財界に名の通った湯浅社長の娘・治子を選び、結婚式を挙げるが、新婚初夜を待たずに、治子は伊豆の別荘から恋人・昭夫と脱走する。そのとき、片貝がそこで幽霊のように見たのは、教え子の楠田に付添われて立つ古別荘の女であった。俗物への諷刺をこめて、愛と真実を追求する長編小説。 -
女ひとり
夫の帰還を待ちわびながら、女代議士としてヒロポン絶滅を叫び、社会悪と闘う香川文江の姿を通し、人生の哀歓を訴える傑作。 -
ぜったい多数
暁子は、手術直後の苦痛に歪む秋山の唇に、しずかに自分の唇を重ねた。秋山の胃ガンが絶望的な状態になっていることを知った彼女は、そうすることだけが、友だちとしての祈りであり、励ましであると信じたからだ。彼女自身も、郷里の家の束縛を逃れた東京での彷徨によって、心に深い傷を負っていたのだが……。暁子の冒険にみちた経験をカメラ・アイとして青麦のように、あざやかな色とむんむんする匂いを持つ、折れやすい若者たちの愛と真実を捉えたこの作品は、人生の地層を流れる清冽なものを、多彩な手法で探った、青春文学の名篇である。 -
不貞な貞女
加奈子が地方の素封家に縁づいて、もう5年。夫・浩介は、長い病床にふせったままだ。看病に明け暮れる加奈子も、いつか貞女の幻を心にえがいていた。が、そんな妻に、夫は画廊勤めを勧める。《きみのからだの外のにおいが、僕には爽かな刺激になる……》ーー勤めに出た加奈子は、青年建築家・植木との恋におちた。女心の飢えをみたす、背徳の愛に、加奈子はおののく。が、夫はすべてを知っていたのだ。やがて、臨終の枕もとに妻をよんで、心の葛藤を告げる浩介。美貌の妻に、くらい喪の季節が訪れた……。という表題作など、全10編。 -
忍ぶ橋
母の残した背徳の傷痕ゆえに、愛をも捨て、憎悪と怨念の石礫を浴びて、贖罪にのみ生きねばならぬ、哀しくも美しい女のさだめ――中桐晶子は、淡路島へ向う船に、傷心をゆだねていた。若い男と蒸発し、淡路島の小料理屋で働いていたらしい母の宮子が、ゆきずりの客を情交後に腰紐で絞殺、睡眠薬自殺を遂げた。客は、奈良の一刀彫り美術商・宗方春之と判り、ゆきずりの無理心中とみられた。宗方春之の妻・志津は激怒した。詫びる晶子に、ちぎった数珠を投げつけ、母親・宮子の罪をつぐなえと叫んだ。そして、晶子は、母の贖罪のために、宗方家の長男・知之の嫁として、志津の前にさらされることになった……。女の憎悪と怨念の石礫を浴びせる志津、女の愛も捨て贖罪にのみ生きる晶子の、哀しくも美しい日々を描く。 -
女優
この女! きらい! パパをいじめて、きらい……。死の床に横たわった父の身体の下に隠された、美しい女の写真は、幼ない未来子に、生まれて初めて人を憎む気持を教えた。あれから、何年の歳月が、流れたことだろうか。あの女、演劇界の女王といわれる鳳しのぶの一人娘として、映画界入りした未来子は、たちまちスターの座についたのだった……。華やかな日々、肉体を通りすぎた何人もの男たち……。いつしか母と似た道を歩むようになった未来子の心は、だが、いつもひえびえと孤独だった。硝子細工のような繊細華麗な女体に、妖しく燃える炎を秘める、ひとりの女優の愛と性を描く。 -
砂糖菓子が壊れるとき
映画スター・千坂京子は、無名だった頃、お金のためにヌードを撮らせたことがあった。教育のない彼女は、人一倍知的なものに憧れたのに、世間はその1枚のヌード写真のために、彼女に肉体女優の烙印を押した。京子は、あるときは烙印の痛みから逃がれるために、あるときは自分が高められると信じて、つぎつぎに、男の胸の中に顔をうずめた。男たちは、それぞれに、彼女の中に光を放っている純粋さを知っていた。しかし、京子の魂は、どの男によっても、安らぐことができなかった。……幸福を空しく追い求める美貌の女の短い生涯を、乾いた叙情で歌いあげた名作! -
火山列島
大学の医学部教授・仁王慶一郎は、主治医として、国光家に行くことが多かった。彼は、国光夫人・安芸子の、憂いに耐えた姿に、惹かれることがあった。ある日、仁王は、その秘密に、かかわりを持つ。主治医としての立場に、とどまることができなかった彼が、その秘密の糸をたどって行くうちに、戦争の前後に起こった、幾つかの悲しいできごとが甦ってきた。しかも、それらは、彼自身の家庭とも、関係があった。八丈島、熱海、九州・飫肥という3つの火山地帯を結ぶ、愛と憎しみの歴史を描きながら、現代に失われた心の問題を、執拗にさぐった、清冽な美しいロマン! -
キャンパス110番
芳土女子大学の学生である佐藤ノミエの綽名は、キャンパス110番という。キャンパスは、校庭の意味。事ある所には、彼女がいつもパトロール・カーのように現れて、あざやかに事件を解決していくからだ。粋で、おしゃれで、冒険好き、行きずりの男の子とのキッスなんかへいちゃらで、適当に正義派で人情家で、気はやさしくて合気道の達人というノミエが、東北出の重タンクを思わせる松子と組んで、手当たり次第に演じるボーイ・ハントのアバンチュール、笑いと涙のタッグ・マッチとは……。青春の息吹にむせる、生きのいい現代娘のスカっと胸のすくような無責任行状記。 -
魔婦の足跡
贋札造り、偽装化石師、偽真珠造りという3人の前に、突然姿を現し、そして消える可愛い魔婦。秘密の島に逃れる3人に、死の影が迫る! ゴジラ原作者による傑作サスペンス。 -
中年女
小ぎれいで素人くさく、何となく御しやすい感じを男に与えるトキは、39歳の未亡人である。村の男たちは、トキの女を意識して蝟集する。彼女の噂は消えることがないが、噂の実体を掴んだものはいない。村人は、未亡人という名に拘束を与えることに、満足があるようだった。しかし、トキは、女であることを十二分に生かして生き泳いでゆく。愛欲のむなしい絆を描いた、巨匠の珠玉長編小説。 -
染められた感情
熱海の温泉旅館に勤める聖子を自活させようとする勝又の愛と、勝又にすがる聖子の愛。相克を繰り返す愛、巨匠円熟の筆。傑作恋愛小説。 -
情熱の市
清純で穢れを知らぬ娘・マリ子は、母の友人の一人息子で、現在は家を飛び出して麻薬密売業者の手先になっている青年・多賀一郎に会って、深い愛着を覚え、彼に自首をすすめて、更生の道へ導こうとするが、ふとした行き違いから、麻薬をもっていたマリ子だけが疑われて、留置されてしまい、一郎は逆に、密売業者の手で大阪へつれさられる。警察を出たマリ子は、家に戻らず、ストリッパーになってまで一郎を救おうとするが、麻薬業者たちの泥沼は、いよいよ深く一郎を引きこんでいく....…。清純な愛で愛する男を救わんとする乙女を襲う、激しい運命の起伏を描く、炎のロマン。 -
女拓物語
堂堀不動産の独身社長・堂堀進六は、男盛りの36歳。生まれは群馬県の貧農の六男坊だが、中学卒後、すぐ上京。兜町の証券会社の小僧をふりだしに、たちまち株で2億円のボロ儲けをして独立した。金には強いが滅法女にヨワイ進六は、自ら「風俗研究科」と称して、女の拓本蒐集を男子一生の悲願とする。東名高速をぶっとばす車の中でのホステスとのカーセックス、全共斗女子大生との同志的「結合」、さては、ガラスの床に座って用をたす女を見上げる猟奇的女研究など……。一盗二卑に徹することを色道修行の信条として、進六は今日も変った女めざして夜の街に出陣する……。 -
朱乙家の人々
夫の面前で何人もの男を転々とする妻、それでも平然と微笑する夫、そんな異常な環境の中で幸福をつかむ妹……。異色の愛欲文学。 -
黒の魅惑
裕福な家庭の子女が多く通う、一貫校の名門大学の中にあって、田辺信男は、大学から入った上京組だった。大原陽子は、学内でも有名な才色兼備の人だが、彼女が付き合い始めた有坂淳は、どこか陰のあるプレーボーイでよくない噂がある。ある日、陽子の落としたイアリングを信男が拾ったところから、3人の愛が絡みはじめる……。日本が高度成長期に入る時代の、ハイソサエティーな学生生活を活写した傑作。 -
午後の微笑
神保羊子は、雑誌の編集の仕事をしている。取材で知り合った作曲家・郷雪生の、芸術家ぶらないナイーヴであたたかな人柄に魅かれ、病気で寝込んだ郷を放っておけずに、徹夜で看病する。その夜以来、郷の胸のなかにも、羊子の姿が強く灼きついて、お互いに愛しあうようになる。そして、結婚の約束をしたふたりの前に、郷が貧乏な留学生であった昔の恋人の密石麗華が、今は実業家の国分夫人となって出現する……。虚偽を許さない若い娘の心に写った「傷ついた世代」の苦悩を通じて、つねに裏切り合いながら救いを求めている、人間の魂の深部とさまざまな愛の想いを、鮮やかに、綿密画のように描きあげた長編小説。 -
侠骨一代
関東大震災の翌々年に入隊した、飛田二等兵。2日目にはもう、二年兵たちを相手に大立ち回りをやらかした。除隊後は、宿無しとなったところから這い上がり、あらくれ者を束ね、労働者として教育し、やがて、国家事業を請け負うようになる。昭和のフィクサーで、任侠映画「唐獅子牡丹」シリーズのモデルとなった人物、飛田勝造(東山)の波乱万丈の半生を描く! 高倉健主演の同題映画の原作小説。 -
乾いた湖
大学生の卓也は左翼運動崩れ、女子大生を相手に怪しげな闇斡旋をしている。一方、財閥の御曹司・道彦は、怠惰な生活を送っている。汚職の責任を取らされる自殺した父を持つ葉子は、世の中を見返すために、女優として成功するも、道彦が運転する自動車で事故死してしまう……。卓也が相手をする女たち、ゲイ・バーのジャニー、クラブのマダム・文枝など、多彩な人物が登場する、長篇風俗小説。 -
海の蝶
柿本精器の社長夫人・羊子は生来、その美貌に加え、奔放な性格の女性だった。結婚前からすでに男関係があり、結婚後もやまなかった。夫の礼介はこれを知ると激怒し、以来、妻に復讐するかのように隠れて放蕩する。そして、10余年が過ぎた。だが、羊子の乱行はやまなかった。息子の章は、自然にうとんじられた。章にとって心の結びつきは、家庭教師である22歳の青年だけになる。青年と秘かに愛し合っていた女中の喜久乃が、主人の欲望によって犯され、動顛し泣き喚く姿を、少年の章は不安そうに眺めていた……。愛欲の中に潜む人間の業を捉えた、力作長編。 -
炎の氷河
高校の仲良し3人の女性がたどる、それぞれの波乱の人生と恋と、そして株をめぐる復讐の物語。なにか重苦しい情念に突き動かされる! -
愛と悲しみの時
期待とおそれに充ちた新婚の宿で、千江子は夫の庄一郎から、彼が戦傷のため男性の機能を喪失していることを打ちあけられた。しかし千江子は、肉体の結びつきよりも精神の交流にこそ真の愛があると信じ、結婚生活をつづけることを誓う。だが、庄一郎の肉体の欠陥は、精神の歪みをも招いていて、夫のいわれのない嫉妬に彼女は苦しめられる。そして、みたされない不自然な夫婦生活の渇きから、千江子は、彼女に言い寄る夫の下僚のプレイボーイ・石川に次第にひかれてゆく……。結婚生活における肉体の占める意味を抉り、奔放な現代愛欲図を描いた長編小説。 -
妖蝶記
はるかゴビ砂漠の発掘現場から、ひとりの男が古生物学者・曾根の館を訪れた。男はいわくありげに巨大で薄汚れた1匹の瀕死の蝶を差し出すが、曾根はすぐに打ち捨ててしまう。しかし蝶は、館の温室に隠れ棲み、やがて美しい少女に姿を変えて、曾根の前に姿を現した。化身の妖しい魅力の虜となった曾根だが、少女の目的はただ一つだった……。映画「ゴジラ」の原作者として知られる小説家が、異形と異能のものたちの蠱惑的な姿を流麗な筆致で描く、4編の幻想譚集。 -
密航
川口と有賀は、予科練上りの米軍通訳という経歴も同じだったし、年齢・性格も似かよっていた。粗暴な米軍人に対する共通した反感が惹き起したある事件を契機に芽生えた友情は、お互いの体内に欝積していく若さと可能性の残滓を確認しあうことで、さらに強固なものとなっていった。二人の若者にとって、未知の可能性はアメリカにしかないもののようであった。綿密な計画がたてられ豪華船に忍び込んだ二人は、満月のハワイ沖で、デッキから相次いで海中に身を躍らせた……。既成社会のモラルの中で、なお若者のエネルギーの純粋性を主張する、著者の野心作5篇を収録。 -
地球喪失
生物化学研究所の若き学究・宮原は、街の暗がりで焦っていた。手に持つスーツケースには、たとえようもない邪悪なものの幼生が収まっていたから。追っ手をかわし、早くこれを処分しなければ、人類に明日という日はなくなる。しかし、それはあまりに巨大な力へのはかない抵抗にすぎなかった……。映画「ゴジラ」の原案を担い、怪獣という存在を生み落とした怪奇小説家が、遊星から来た圧倒的な恐怖にあらがう人々を、ミステリータッチで描き出す。 -
太陽がみつめる
運は気まぐれなものである。8回表、中屋投手の乱れから、海城高校の1点のリードが危うくなったとき、早崎監督の頭に閃いたのは、度胸のいい刀根英一郎一塁手をリリーフに使うことだった。作戦は当たった。以来、刀根は大型の速球投手として腕をあげ、別所投手の再来とまで注目されるようになった。尊敬するプロの尾上捕手とも口をきく機会をえたが、これは高校野球にあるまじき卑劣な陥穽からだった。プロのスカウトが美辞をつらねて寄ってくる。巧妙なスカウト、刀根家の困惑……。英一郎の心の窓は、いつか同級生の清子に開かれていた……。文壇随一の野球通たる著者の力作。 -
泉はかれず
一代で堀江酒造株式会社を築き、大阪の財界でも女傑でとおっている堀江ギンは、孫娘の晴子に早くも結婚の相手をみつけるのに、夢中だった。当の晴子は、まだ学生だから、将来の夢と考えている。しかし、堀江家は、代々、女が家を継いで発展してきたから、晴子にもいい養子を、というギンの持論で、ともかく、晴子は見合いをした。相手は、汽船会社の重役のぼんぼん。奇妙なことに、その青年よりも、ちょっと変わっていて口の悪い脇村のほうが、晴子には好ましく印象づけられた。そして、だましうちの見合いよりも、晴子に瓜二つの美しい弓子の登場が、彼女の心を強くゆさぶった……。 -
女人の館
禁男の館に集った世代の違う女性たちが、封建社会に抗して奔放に生き、様々の人生劇を展開する、現代恋愛白書。読売新聞に連載され、三國連太郎・北原三枝で映画化もされた傑作長編。 -
禁猟区
情痴と愛欲の渦の中に、絢爛と咲き誇るあだ花にも似た女性の姿を、心憎いばかりに描破した、巨匠快心の力作長編――美貌で男を狂わせる女・虹子は一代で成り上がった醜い顔形の実業家・百武達郎の世話になりながら、菓子会社の宣伝マン・薬王寺温と交際、温の二度目の妻を追い出して,憧れの結婚にまで持ち込み、子まで成すが、まったく妻としてのことができず、薬王寺家では浮いた存在になる。浮き上がった虹子は、旧知の小村雪が経営する銀座の「クラブ雪」で働き出し……。普通の価値観で生きることができない魔性の女と、その周辺で悪戦苦闘する男たちを描く。<上下巻> -
還らぬ海
下田・葉山間のヨットレースで3隻のヨットが遭難し、一瞬のうちに、津田は弟と古い友人の秋吉を失った。彼は、1年前、秋吉の妻・昌子と背徳の関係にあった。複雑な感情を胸に秘めて遺体を捜索する津田と昌子……。そして、一周忌を過ぎた大潮の夜、海で死んだ人々の姿が現われるという白浜の漁村の伝説をたよりに、秋吉の母親と津田と昌子は邂逅する。しかし、微妙な愛憎の襞も、喪われたものを悼む感傷も、灰色の海は呑みこんでいく。――男性的叙情の世界を描いて他に比類ない、石原文学の傑作「還らぬ海」のほかに、「貧しい海」「獅子の倒れた夜」「白い小さな焔」「灰波」を収録。 -
海の地図
晶子は、啓介と、若く物憂い逸楽の夏を、海浜で過していた。ある夕方、残照の中を、喪の半旗を掲げたヨットが、入江に入った。渚へおりた晶子は、初老の船長・外村に出会い、なぜか全身に戦慄を感じた。やがて晶子は、父と外村が、今は亡き母をそれぞれ愛し、叔母もまた外村を愛していた、という隠された過去を知る。ある日、ヨットで沖へ出た啓介と晶子は、突然の嵐で遭難し、偶然、外村のヨットに救われる。外村は、かつて愛した女の遺児との邂逅に運命の手を感じ、晶子もますます、外村に魅かれていった。二人はかたく唇を交すのだが・・・・・・。長編ロマン小説。 -
汚れた夜
雨の井ノ頭公園の池に車が落ち、その中で女が死んでいた。残された男もののライターから、婚約者の秋月という男が浮かびあがったが、彼にはアリバイがあった。罠のにおいがした。そのにおいを頼りに、ひとりの刑事が動き始めた。すると、秋月のシロを証明した女が殺され、つづいてその女の部屋で、もうひとり中年の男の屍体が発見された。行方をくらました秋月は、いったい被害者なのか、加害者なのか? ……手さぐりで事件の核心に迫ろうとする刑事の行動の軌跡によって、戦争の傷痕と政治の腐臭とを、生き生きと描き出した、本格的な社会推理小説である。 -
やどかりの詩
人工授精に使用する精子を提供するアルバイトをする神立晋の精子で、性交なしに妊娠する、看護師のレン。自分の産んだ子が神立晋の子と分かった、名門家庭の妻・三鈴。そして、レンを愛するようになる晋の友人で路上でヤドカリを売る佐治、三鈴の夫・加瀬、医師・四宮……。彼ら彼女らが織りなす愛憎のドラマと、それを横目で見ている小説家・信夫倫太郎は……。力作感あふれる長篇小説。 -
おゝい、雲!
健哉、三和子、十郎の3人の大きな子供たちを抱えてやもめ暮しの西條健吾は、秀れた才能を持つ建築家だが、純粋さの故に世に容れられない。子供たちは、ふとしたことから三島家の美しい2姉妹と知り合い、姉妹の母で未亡人の建築雑誌社社長・房子と父親との恋愛を嗅ぎつける。しかし、房子に横恋慕する評論家・江見は、スポーツランド設計に情熱を燃やす健吾を卑劣に中傷する……。それに対して、両家の子供たちは、その友人たちと協力して陰謀に立ち向い、親たちの婚約を実現させようと活躍する……。恋と夢にあふれたエネルギッシュな若者と理解ある親たちとの、明るいパンチのきいた長篇。 -
流旅の花
片山津から京へ出て、バー「きぬがさ」に勤める和江に、じわじわと押し寄せる黒い影……。由緒ある禅寺・燈全寺の老師・碩堂、老師の妾でバーのマダム・歌子、謎の男・竹橋勝弘、彼を追う刑事たち……。疑うことを知らぬ和江の眼にも、次々と腑に落ちない出来事が見えてくる。そして突然、仏像偽造事件や贈賄事件が明るみに出され、雲水の承学に捧げた和江の純愛も、2人の支えとなるはずの天徳院の千手観音像も、虚しいものになってしまう。古都の裏側に繰り展げられる色と欲の澱んだ関係、その渦中に翻弄されながらも強く生きようとする女を、スリラー風に描き上げた力作長篇。 -
命の森
東都学園大学部Jクラスに新入学した若者たちは、夢と希望にあふれていた。保守党政治家を父とする空手の名人・勝見明、元華族の娘で皇太子妃候補と騒がれたこともある美貌の冴子、日本復帰を叫ぶ沖繩青年・当麻、社長と呼ばれる謎の男・加納、なぜか彼の姿に脅える葉子、ラグビー部の乱暴者・片桐一派……。だが、明るく甘美であるはずの青年たちの、前途は困難である。当麻と冴子は許されぬ恋に苦しみ、勝見と葉子の燃えるような愛も、葉子の暗い秘密のゆえに、苛酷な運命の波に翻弄されていく……。短く華麗に花火のごとく生きて燃え尽きる若い命を、アクションドラマ・タッチで描いた青春長篇。 -
飛べ、狼
次々と驚異的に記録更新をする天才テスト・ドライバーの邦光良二は、16歳で浅間の二輪レースで優勝して以来、スピードに憑かれていた。自分の運命を賭け、「何かを、この手で捉える」ために危険なレースに挑み、愛する女にも、信頼する助手にも裏切られながら、彼はヨーロッパのレースに参加する。そして、チャンピオンに挑戦する2度目の機会が、ザールで訪れた……。――先を走るチャンピオンを追う。何周目か、赤いフェンダーが後方にすっとんだ。が、その瞬間……。栄光と死を賭けて生きる孤独のレーサーを描く表題作のほか、「虚無と貞節」「鉛の部屋」「リキとタクとルリ」「悪い娘」を収録。 -
怒りの像
南海の孤島に戦死した父の遺書が、戦後の混乱のなかで異なる人生を歩んでいた兄弟を再会させた。伯父に引き取られた兄の洋一は、大学生活を送っていたが、弟の寛二は、街のチンピラの群に身を投じていた。しかし、寛二には、この世の不正を許せぬ正義の血がたぎっていた。彼の意気を買う人々や兄の支持のなかで、寛二は、街のダニどもに果敢な挑戦を決意した。戦うからには勝たねばならぬ。巨大な圧力に抗し、執拗な妨害にめげず、寛二は、無謀ともいえる闘いをつづけていく……。悪に対する純粋な怒りと人間の不屈の闘志を、一人の若者に托して謳い上げた、長篇小説。 -
都会の白鳥
病院勤めの若い外科医・梅原と、彼の友人でドンファン型の演出家・五十嵐。その二人をめぐって展開する愛の葛藤。恋と野望にゆがむ青春を描く、長編大ロマン。 -
誰かが呼んでいる
仲のいい二人の若い女性が、赤い糸で結ばれていたそれぞれの伴侶、つまり赤い糸で結ばれている「誰か」を見つけるまでを描いた、傑作恋愛小説。 -
青春とはなんだ
正義派で八方破れの高校教師。アメリカ帰りと6尺豊かな巨体にものをいわせて、学校改革に獅子奮迅。文壇の鬼才・石原慎太郎氏が、スーパーマン教師を描き、テレビ化・映画化で大評判の痛快青春小説ーー早春のある日、山々に囲まれた小さな町の高校に、若い英語教師が、赴任してきた。病気で休職している親友の後がまに推されて、やってきた野々村健介だ。田舎町には、さまざまな青春があった。侠気から友人の不良行為の罪をかぶって退校になった少年もあれば、ロメオとジュリエットのように、親に許されない恋人たちもいた。そして学校には、おきまりの派閥争い。野々村は、それらの渦の中で、青春の姿を、自分のからだで逞しく描いて行った。……現代に見失われた、純粋な生き方を、スピーディな筆致で、明るく彫り上げた、石原文学の記念碑的な作品。 -
人喰鮫
イギリス人の青年が、いまだ開発が始まったばかりのにオーストラリアに渡り、不思議な縁と運に導かれて、釣り上げた鮫の腹の中から見つけた小箱の中にあった、ひと月前のロンドン・タイムスの記事から、オーストラリアの羊毛の高騰を予見し、大富豪になった。そして最後に、日本人の鮫釣り男と大航海に出る計画を語り合う、という綺譚。描写が的確で重層的で読み応えのある傑作。 -
人魚と野郎
軽井沢の森の奥深く、ニンフのように一人ひっそりと暮している杏子の山荘に、ある日、2人の若者がとびこんでくる。天才的オートバイ・ライダーの片倉譲介と弟分の三次である。杏子と譲介は、一目で惹かれ合うが、譲介はある事情から新案オートバイのパテントを手放さねばならず、失意のまま山の開拓地にひっこんでしまう。一方、杏子は祖父の思いもよらぬ遺言で、コバルトを産出する鉱山を相続するが、その権利を狙う陰謀のために、危険に曝され……。汚れを知らぬ美しい娘と、荒々しく勇敢な若者との、ロマンチック・アクション長篇。 -
新樹の丘
六甲山上の別荘地で静かに暮らす堀田夫婦の家に、久しぶりに訪れた若い友人・能登。偶然にもその日は、長患いで没した隣家主人の初七日であり、能登こそ、かつては病人を抱えて苦労する隣家の妻・郁代を気に掛け、手助けしていた、この地の巡査だった。その日から郁代へのひそやかな能登の思いと、郁代の妹の女子高校生・しのぶたちの恋愛がからんだ、恋と事件のめまぐるしい連鎖が始まる。進駐軍の闊歩する戦後間もない神戸を舞台に、中間小説の名手が熱気に溢れた世相を生き生きと描く。 -
若草の歌
美人でしとやかな千秋と、愛らしくドライな元子は、東京西郊の住宅地で繁昌している、そば屋の二人娘である。中学卒業と同時に、二人とも、「手に職を持つこと」を望んで、理容師になる。そして、実力とPRと親バカを利用して、ささやかな店を持ったが、青春の街道は、照る日ばかりではなかった……。「紀ノ川」「有田川」など、女の歴史を才筆で辿った作者は、この作品で、現代女性の生き方を、軽妙なタッチで、輪切りにした。若い女性の、職業・恋愛・結婚・親子問題などが、精妙に織り込まれた、ユニークな青春小説。 -
黒い環
おれのことを、人はセイントと呼ぶ。聖人のようにわがままに、気ままに生きているからだ。職業は、カメラマン。ボリビアで祭りを撮ったとき知り合った、バロン加納という怪人物が東京に現われたことから、おれは姿のない奴から、命を狙われる羽目におちいった。そして、あの忌わしい戦争の尾を引く財宝さがしの殺人ゲームに、巻き込まれることになった。仲間と敵が、信じられないようなつながりを持っていて、おれをガンジガラメにした。……行動人・石原慎太郎が、現代の「英雄」の危険なゲームに託して、ムキだしの人間群像を描き切った、アクション・ノベルの巨篇! -
飢える魂
一代で身上を築いた暴君・芝直吉が50歳の時に嫁いできた27歳の令子が、猟色家の立花烈と関係を持つという物語と、病妻を持つ下妻雅治と関係を持つ未亡人の小河内まゆみという、2つの不倫の物語。大人の感覚を持つ登場人物たちの肉体と精神の揺れを、堂々たる筆致で描いた力作。小林旭がデビュー作となった映画の原作。 -
まことはうその皮
騙りの老人を捉えたばかりに、娼婦と甥との恋に巻き込まれ、周囲をだますハメとなった一教師を通して、虚像と実像の人間をえぐる長編力作。 -
ヒマワリさん
新聞記者の恋人を都会に残し、僻村へ赴任した新米保健師・小日山ヒロ子。明るく情熱に燃える彼女のニックネームは「ヒマワリさん」。貧困と無知により衛生観念に乏しく、病気になったら神頼みのその村に、保健衛生のタネを少しずつ蒔いていく「ヒマワリさん」と、周囲の人々が繰り広げるヒューマン・ドラマ。1965年公開の吉永小百合主演映画『明日は咲こう花咲こう』の原作小説。 -
あさ潮ゆう潮
波静かな瀬戸内の海の自然を背景に、巡航船「セト丸」で一緒に高校に通った仲良しグループ「セト丸組」の友情を描く! -
閉店時間
華やかな都会の夢をはらむ、白亜の殿堂・東京デパート。そこに働く松野紀美子、藤田節子、牧サユリの3人は、高校のクラスメートで、いまでも仲がいい。だが4年の歳月は、彼女たちをかなり違った色合いに染めあげていた。意地っぱりの紀美子、古風な節子、派手好きなサユリという性格の延長だけでなく、4階の高級呉服売場、地階の食料品売場、エレベーター係といった職場の影響にもよるらしい。そこから三人三様の恋が、そして当然、将来がひらけていくのだった。現代の花形企業であるデパートの内幕と、3人の女店員の恋愛模様を、清新な筆致で描いた長篇。 -
転落の歌
あまりにも醜い母のおこないを、真砂子は見た。少女の胸に汚点となった或る夜のこと。母は次々と男をかえ、生活はすさんだ。そして真砂子までも、母の男の餌食にされていく。家出、住み込み女中、そして場末のバー……。真砂子の汚濁にまみれた生活。それは、母から享けた淫らな血のせいだったかも知れない。やがて、銀座にでた真砂子は、ガイドをよそおうコールガール組織に巻きこまれる。麻薬の足かせでしばられ、肉を削りながら、ネオンの海にただよう少女・真砂子。混濁する意識のなかで、彼女は罪深い母をのろい、血をうらんだ……という表題作など、全10編。 -
朝な朝な
女流評論家の高輪薫が海外旅行中、ローマに留学している一青年から故国の一女性への贈物を預ってきたことから、幸福をもとめるその女性の運命がひらけて行く――華道創美流の機関誌「創美」の編集部につとめる仙波雅子は、母のつよい希望で掛川昇と見合するが、初恋の人・松尾三郎の愛情を確めたことから、周囲の人びと、とくに副編集長・石井志奈子などの鞭撻で、幸福をつかみとる……。華麗なフランス情艶絵画をくりひろげるような愛欲を描いてベテランの作者が、仙波雅子の愛と行動のうちに現代娘の一典型を、ヨーロッパ帰りの女流評論家・高輪薫の眼をとおして描く大作。 -
誰も知らない
女たらしで有名な大会社の御曹司・英太郎と、その親友の清司。そして、英太郎の妹、清司との結婚に踏み切れない幾代、清純な娘・麻子、英太郎との肉体関係で結ばれた柳子たちの、それぞれの愛の行方は……。そして、脳溢血で倒れた父親のロボットとして会社運営に携わる英太郎は麻子と結ばれ、清司は幾代と、柳子は知らぬ顔して別の男と結婚して……。 -
大豪記
大力無双の野人の怪童は、熊野詣りの美女・梢を山賊から救って町に出たが、加藤清正に見いだされ、無類の大活躍! 豪放磊落、野生児の時代雄編。 -
戦国愛染峡
長篠の戦いの敗退から6年、武田勝頼が治める甲斐の国は、ひたひたと周囲を圧し始めた織田・徳川連合の影に揺れていた。武士の身分を隠して、上杉の越後から情勢を見極めに来た、若き遣い手・朝井若狭之介は、人心が迷い乱れるなか、武田家忠臣の娘・小弓の、毅然と使命に生きる姿に惹かれていく。陣営内の裏切りや策謀に苦しむ小弓たち一族を、必死に助ける若狭之介だったが、武田家滅亡への潮流には抗いようもなかった……。「きんぴら先生」など現代小説で著名となった鳴山草平、得意の時代ものの本作で、戦国末期の若者たちの、鮮烈な心情を抒情豊かに描き出す! -
川向うの白い道
女子学園の先生を今は嘱託でしている老男性教師の、六甲山麓の家に下宿する卒業生2人のところに、同級生たちが集まってくる。そこに出入りする男たちとの出会い、そして様々な恋愛……。それぞれの成長と恋愛の物語。 -
青春の言葉
風見京子、鳥羽ヤス子ら、3人の女子高生は、瀬戸内の島のお寺に勉強合宿へ。そこで、浜でキャンプをしていた医大生の汐見、寺田、矢部と知り合うことになる。京子は汐見に恋心を抱くのだが、父親が怪我をしたとの連絡が入り、しぶしぶ戻ることに……。若い男女の嫉妬うずまく中、大人たちの事情も絡んでいき……。新藤恵美の主演により映画化されている作品。 -
女の旅路
30代なかばの荘一は、7年間連れ添った妻を病気で亡くしてしまった。そして荘一は、なんとか切り替えようと旅に出た先で、美しい人妻・藤堂萌子に出会う。だが、妻の妹の美也子は、姉より「自分が死んだら荘一と結婚してくれ」という旨の遺書を受け取っていたのだ。荘一は藤堂萌子に惹かれていくのだが……。愛憎、まさに絡まる物語! -
朱よりも赤く
長野・小諸の高原をスピードにのって走る車では、都会のおしゃれな5人の男女の若者が大騒ぎしている……。それぞれの青春と恋愛を明るく描いた、恋愛小説の傑作長編。 -
砂の花
真実の愛を求めて、男から男へとわたって歩いた女優・彰子が、払わねばならなかった代償は、あまりにも大きかった。彼女を捨ててアメリカへ去った第1の男・大滝のあとに現われた第2の男・石垣は、戦争で受けた心の翳をいつまでも暗くひいている男であった。彰子から捨てられたと思った石垣は、自殺。傷心の身を岐阜の実家へと戻った彰子の前に現われた第3の男・朝吹は、アル中の病身であったが、彰子との愛に男としての再起なるかとみえた。が、二人の間に横たわる壁は厚かった。そして、女優として舞台復帰を夢みる彰子……。現代女性の一面を、多彩な筆で描く、石原慎太郎の傑作長篇。
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