楡周平のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
楡周平『雌鶏』集英社文庫。
終戦間近に艦砲射撃を受けた岩手県釜石市や岩手県南が登場するのは楡周平が岩手県南の出身であるからだろう。余談になるが、自分が釜石市の小学校に2年ばかり通っていた頃、小学校の裏山に艦砲射撃の砲弾による窪みが多数あったのを思い出した。
人間というのは一度手にした権力にしがみつき、金さえあれば、その権力は永遠に保てると勘違いしている向きがある。
本作は戦後の日本を舞台にした長編小説である。判然としない結末には少し納得出来なかった。前半こそ、松本清張のサスペンス小説にも似ているのだが、人間の愚かさや数奇な運命に翻弄される男女の姿を描きつつ、日本の高度経済成長期に登場した -
Posted by ブクログ
トップレベルの私立大学に通う百瀬陽一の就職戦線は冴えなかった。名の知れた大企業への就職に囚われていた陽一は、再チャレンジする為に就職留年を決める。留年のあいだ派遣会社を通じて世界最大のネット通販会社《スロット》の物流センターで非正規労働者としてアルバイトをすることに。
そこで見たのは、派遣労働の過酷な職場環境、さらに膨大な商品の運送業務に忙殺される大手総合物流企業の厳しい現場だった。
社会で派遣やアルバイト、パートが重用されるようになったのは何時からだっただろう。
多くの主婦たちや学生にとっては短時間のパートは働きやすかった。
けれど、そのシステムは働きたい人々、働かなければならない人々にま -
Posted by ブクログ
楡周平さんは様々な業界を題材にビジネス小説を書く作家さん。今回は飲食業界、まさに「食」がテーマ。
恩義ある人から麻布の閑古鳥が鳴くような場所にあるビルを譲り受けた主人公が、飲食店を開き、どう建て直していくかを描いた物語。
飲食店だけは僕はできないなあと自分で思う。第一に舌が肥えておらず、ビジネスセンスもなく、細かいことを気にしすぎる。
この小説を読む限りでも家賃交渉から始まり、店のコンセプト、ターゲット客層を決め、メニューと価格帯、何よりも料理人の腕。内装や備品、食器類。仕入れ先を決め、客数と客単価のシュミレーション。人の採用と教育。人件費、光熱費、損益分岐点の計算。連日満員なんてありえない -
Posted by ブクログ
一流企業に勤務する部長職、同期に抜きん出て順調に出世、都内にマイホームを持ち、息子は名門中学を目指している50代のいわゆる『勝ち組サラリーマン』が主人公。
ある日突然、田舎に住む母親の介護問題(認知症・四肢の障害)がのしかかる。妻は息子の受験で頼りにならず、多忙な仕事のままでは夫婦共倒れになりかねない…悩んだ末に主人公は仕事を退職する…
親が長生きしてくれるのはありがたいが、『介護問題』は人それぞれで、どのような形でやって来るのかは予想も付かない。しかし目をつむって通り過ぎるのを待つことで、自然に解決事出来る問題ではない。
僕にとっても、8050問題ならぬ9060問題が先に控えている。現