中村有希のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ下巻では主人公ファラデーと領主館の一人娘キャロラインの恋愛模様が描かれる中、相変わらず館は陰鬱な空気に満たされている。そして起こる悲劇。
真面目で、理性的で、思慮深い主人公。
それなのに、悲劇をますますこじらせ、ややこしくしているのは間違いなく彼であり、彼もまた狂気に蝕まれているのだとわかってくる。
ハンドレッズ領主館って一体なんだったのだろうね、というはっきりした答えがないまま物語は終えたが、そういう作品であることを前もって知っていたのでさほどショックはなかった。
が、しかし。
下巻の末尾にある、三橋曉氏の解説にて一つの疑惑が述べられた時には、ドキリとしてしまった。この作品に一つの解答 -
Posted by ブクログ
これがミステリといえるか否か解釈は微妙かもれない。
多くの方はゴシックホラーとして読むのではないか。
最後に全ての辻褄のあうようなミステリーがお好きな方の好みではないかも。
原題はThe Little Stranger。
邦題の『エアーズ家の没落』として"まるっと"読むならば、これは滅びの物語だ。
ラストに向けて、館はその不気味さを増していき、物語は怪奇ホラーの色を強く帯びていく。
これだけでも充分楽しめると思う。
だが、原題に意図される物語として読んでいけば、どこか”ひっかかり”を感じるはずだ。
そして、それはなぜかと問うていくと、この物語はもっと恐ろしい抑圧された執 -
Posted by ブクログ
主人公のスウはロンドンの下町で育った掏りの娘。育ての母親、サクスビー夫人に大切に育てられる。
スウが十七になったある日。顔馴染みの詐欺師がスウのところに一つの儲け話を持ってくる。詐欺師が金持ちの令嬢を騙して結婚する手伝いをスウにして欲しい、というのだ。
スウの役目は令嬢の侍女。令嬢の傍で詐欺師のサポートをする役どころだ。躊躇いながら、不安に苛まれながら、スウは田舎の城館、ブライア(荊)城へと向かう。
原題の Fingersmith は スリ の意。なるほど。幾重にも意味があるような気がする。
ただし、邦題の「荊の城」も作品にぴったりの題名。メインの舞台であるブライア(荊)城。その暗い荒んだ雰 -
Posted by ブクログ
ネタバレ買ってしばらく積んでいたのを読み始めたら一気に進んで、さっそく下巻を買ったら続きが怖すぎてまたしばらく放置した。
怖いって、この先に何が起こるかということ。不幸とか裏切りとか絶望とか手の施しようがないとか、そういう事態に、もうかなり自分が入れ込んでしまっているこの登場人物たちが、間違いなく突き進んでいっているのが憂鬱で。
憂鬱で夢も希望もないなりに、きちんと人生を歩いている人が、ふと見つけた謎めく相手にめちゃくちゃに心奪われて、期待をかけて信じて柄にもなくものすごい努力を重ねて、っていう姿にどうもずるずると共感してししまう。
なので、それがどうあっても叶わないのを、認めたくなくて足掻いたあげ -
Posted by ブクログ
ネタバレ「茨の城」にいろんな意味でときめいたり沈みこんだりしながらニヤニヤ読み終わって、「半身」だと不安や憂鬱や、お前そっち行ったら危ないだろ!って心配やどんよりした共感を持ちつつ、一気に突き落とされてしばらくぼんやりした、
ということがあったので、サラ・ウォーターズは気軽に読めないし読んだ後楽しくはならない、という印象。
だから覚悟はしていたはずなのに、いろいろ予想以上だった。
「一人称・回想・伝聞まじり」の語り方は大好きで、巧いことやられると本当にすっかり騙されたりまんまと感情移入してつらくなったりするけれども、まさにそんな状態。
登場人物はだいたい厭らしい部分や小汚い部分の方が多くて、それで -
Posted by ブクログ
今回は今までと趣が違うゴシックホラー風の作風。まるでスーザン・ヒルみたいだ。荊の城のようにテンポいい作品ではなく、夜愁のようにじんわり話が進行する。今回は同性愛が出てこなかったのも、これまでとは違うが、キャロラインのキャラは同性愛の女性に近いものを感じる。見た目は悪く、いかつい、気難しい女性だがどこか魅力のあるキャラクター。弟は母に似て美男だが、戦争の傷で美貌は損なわれ障害もある。気難しいが、誇り高く魅力のあるキャラクター。語り手である医者、これがどうしようもない。魅力の無いキャラクターなのだ。しかしこの時代の普通の男性はこんなものなのだろう。モヤモヤしたものが残るが良い作品。再読が必要かな?