詠坂雄二のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ〇 概要
86件の殺人を自供した殺人鬼,「佐藤誠」。その犯罪は,いつも完璧に計画的で,死体を含めた証拠隠滅は徹底されていた。しかし,遺体を残しただけでなく,遺体の首を切断した事件があった。どうして,彼は遺体を残しただけでなく,その首を切断したのか。伝説的な殺人鬼である佐藤誠の実像に緻密に迫る異色のミステリ
〇 総合評価 ★★★★☆
まず,本の構成,プロットが秀逸。86人もの殺人を自白した伝説の殺人鬼「佐藤誠」について,小説パートを交えた犯罪ルポを描いているという構成となっている。この犯罪ルポの作者が,作中で佐藤誠に憧れ,最後に獄中結婚をして面会を果たす水谷(佐藤)育であるという事実が,最後のサプライズとして明かされる。そもそも,犯罪ルポのコラムや序文などの文章が,抑圧的でありながら,佐藤誠への好意がにじみ出ている点まで伏線になっており,サプライズだけでなく,良好な読後感につながっている。
小説パートも,景色,切断,翌日,捜査,迷宮というパートから,自白,理由といういわば,解決編と言えるパートまで,テンポよく,バランスよく描かれている。死体の首を切断した理由=ブックセルという本屋を守るため,恩師の名誉を守るため,そして,児童買春を告発するという意図を果たすためという部分は秀逸。アリバイトリックは陳腐なので,小説パートだけ見れば傑作とは言えないが,全体の構成が秀逸な上に,さりげなく挟まれているコラムの内容,構成も見事。最初に万引をした水谷育に暴力行為を働いたバイト店員が詠坂雄二だったという部分もうまい。トータルで見て,詠坂雄二らしい構成の上手さがある上に,十分なサプライズ,良好な読後感まである。非常に面白く読むことができた。★4で。
〇 サプライズ ★★★★☆
まず,大きなサプライズとして,佐藤誠が行ったとされる多数の殺人のうち,本作で語られる2件の殺人,遺体の首を切断した蛎塚諒一とその娘の殺害は,実際は佐藤誠が真犯人ではないという推理が語られる。佐藤誠は,恩師である蛎塚諒一の名誉と,当時勤めていたブックセルという本屋を潰さないため,そして,8歳の子どもが児童買春をさせられており,その顧客に警察関係者がいたという事実を告発するという意図から,死体の首を切断したという推理である。86人もの殺人を自供している伝説的殺人鬼という設定の佐藤誠が,殺人をしていない事件を描くというのは,なかなかのサプライズ。更に,この作品の共著者という設定の犯罪学者が,かつて,佐藤誠に憧れていた水谷育という少女が成長した姿であり,獄中で佐藤誠に会うために,佐藤誠と獄中結婚していたという事実がエピローグで明かされる。これもなかなかのサプライズ。サプライズを狙った作品ではないのだろうが,十分な驚きを感じることができた。★4。
〇 根中度 ★★★★★
伝説の殺人鬼「佐藤誠」についての犯罪ルポという形式で,小説パートとコラムが繰り返されるという構成。この構成が面白い。話も,そこそこテンポよく進む。コラムも面白く,この構成で,どういうオチに持っていくのかという興味を持って読むことができ,最後まで集中して一気に読み終わった。非常に熱中度は高かった。★5で。
〇 インパクト ★★★★☆
86人もの殺人を自白した殺人鬼が,殺人をせずに,死体の首を切り落とした事件というものを描いているのでインパクトは高そうなのだが,そこまでのインパクトはない。本の構成は,面白く,プロットはさすがと思うだが,アリバイトリックは,「サトウマコト」というよくある名前を利用した陳腐なトリックで,作中では殺人事件が2件しか起こらないこと,さらに,捜査パートが地味なことなどが原因だろう。特殊な構成と十分なサプライズがあるので,インパクトも薄いということはないが,抜群とまでは言えない。★4で。
〇 キャラクター ★★★☆☆
人間が描けているというほどではないが,86人もの殺人を自白したという「佐藤誠」のキャラクターが,意外なほど魅力的に描かれている。まぁ,86人もの殺人を自白した殺人鬼という人間がきちんと描けていないともいえるのだが…。ほかの登場人物も,この犯罪ルポの作者という設定の佐藤(水谷)育,リロ・グラ・シスタにも出てくる時野将自,阿比留刑事など,それなりに魅力的なキャラクターがそろっている。ただし,小説パートの作者として登場する詠坂雄二がいまいち。これは,電気人間の虞でも感じたのだが,自分という設定なので,自虐的に描いているのだが,この部分がやけに鼻に付く。全体から妙に浮いているというか…。総合的にみると★3か。
〇 読後感 ★★★★☆
佐藤誠と水谷育が獄中結婚をし,水谷育が犯罪学者として,青春時代に影響を受けた佐藤誠のことを犯罪ルポとしてこの作品を描いているという終わらせ方は,サプライズもあるし,読後感もよいものにしている。このアイデアが非常に秀逸で,この作品全体の完成度を高めていると思う。★4で。
〇 希少価値 ★★★☆☆
現状ではなんとも言えないが,光文社文庫であること,そこまで受けそうなネタでないことなどを踏まえると,絶版になる可能性はありそう。読坂雄二が,ヒット作を出せば版を重ねる可能性もあるかもしれないが…。★3で。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの人の作品は本当に個性的というかなんというか。ありきたりなストーリーでもありきたりに見せない、構成や描写の妙ですなぁ。
そして魅力的なのは、探偵、月島凪。学生時代から日本人作家のいわゆる本格ミステリモノを好んで読んできて、館シリーズの島田潔(鹿谷門実)、百鬼夜行シリーズの中禅寺秋彦(いや、榎木津礼二郎かな)、学生アリスシリーズの江神二郎などなど魅力的な探偵にたくさん出会ったけども、この月島凪という、周りの登場人物から語られるモノローグやエピソードだけで形成され、本人が表舞台には出てこないというキャラクターの特異性がなかなかにニクイ。なにせ推理する過程が描写されないけどとにかく凄い人っぽいっていう。この感じでシリーズを続けていくとしたらなお面白い。いけるところまでいってほしい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの本の前に読んでいた本が「探偵」が実は「男」だった、という叙述トリックがあり、この本も同様のトリックが仕掛けてあったのがほぼ意味をなさなかった。
加えて、詠坂雄二の本は、先に遠海事件を読んでいたのも、楽しみを減らしてしまった一因。こっちから先に読めば、もっと楽しめたのかと思うと残念!
ストーリーは、ある意味よくある学園内での殺人事件を、探偵役の主人公が解決していくというもの。
しかし、他の作品と全く違うのは、出てくる登場人物の描写が完璧でないこと。読み手はある意味置いて行かれて、キャラクターが個々の役割をこなす。なぜ、その役割なのかの詳しい説明はない。その部分で賛否別れる作風かもしれない。謎も、「殺人事件」の大きな部分は解決するが「動機」や「真実」の部分はラストで匂わせる程度。
そこが個人的にこの作家さんの味で、美味いと思ってしまったら抜けられない要因の一つになっていると思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ小説形式の犯罪実録ものという、ノンフィクションの体をしたフィクションという変わった小説。
覚えているだけで86件の殺人を自白した殺人鬼・佐藤誠が起こした数多の事件の中で、一際異彩を放つ「遠海事件」にスポットをあて、佐藤誠という殺人者を掘り下げています。
佐藤誠がなぜ自白をしたかとか、探偵とどんなやりとりがあったのかとかは、「前作で書いたので」と一番盛り上がりそうなところをつまびらかにしていないのもユニークです。
副題にある通り「佐藤誠はなぜ首を切り落としたか?」のホワイダニットが主眼となっているものの、(架空ですが)犯罪実録ものとしてもおもしろく、技巧を凝らした良質なミステリーでした。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
肝心の首切りの真相ですが、傷口を隠すというのが時野によって可能性のひとつとして挙がっていますし、特に目新しい理由でもありません。
ただ、何十件にも及ぶ殺人の自白をしておいて、たどり着いた真相が佐藤誠は遠海事件では殺人を犯していない、というのが意外性を演出しています。
危険を冒してまで他殺にみせかけた理由は、蛎塚を殺害しようとした理由と矛盾していないのもおもしろいです。
首切りは絶対に必要な行為ではなかったかもしれませんが、佐藤誠が殺人に呵責がなく、首切りを職人技でたやすく実行できることを考えれば、首を切断した方が彼の目的にはより適うという合理性のもとに行動しており、ここに怖さを感じるとともに首切りがやはり事件の要になっている構成に唸ります。
佐藤誠が殺人者だと知っているわけですから、倒叙ものとしても読めるのかもしれませんが、ここでアリバイを自ら崩したりするあたりが上手いです。
真相を看破するのは時野だと思ってましたが、詠坂というこれまた意表を突く人物がでてきたのもおもしろい。
時野が事件に興奮して楽しそうにしている様は、わたしも推理小説が好きですが嫌な感じでした。
獄中結婚の記載にびっくりし、水谷育が佐藤育になっていたのにまたびっくり。 -
Posted by ブクログ
常闇という舞台設定、現代と過去の対比、そして魅力ある登場人物が織りなす物語は短篇集ではなく長編小説としてじっくりと読みたい。が、短篇集であるからこそ想像の余地があり作品の魅力を増しているように思える。
もう一つ面白いのはワーニー・アンサーの著作の翻訳という体裁をとっていることである。これは”訳者”あとがきに至るまでこだわっており、本当にそのような著作、そして常闇という史実が存在していたかのような錯覚を覚えさせる。本として嘘をつけない初出、奥付をみて創作であることを思い出させるほど。こういった仕掛けも物語の真実性を増すのに一役買っているように思う。 -
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麦茶と思って飲んだらめんつゆだった、そんな感じの読後感。
最終章『始末』のタネ明かしを読んで「なんだこのオチは、ふざけてんのか」と切って捨ててしまうことは容易い。でも。立ち止まってもう一度考えてみる。最初からめんつゆだと思って読み返すと、「あっ、そう麺つけると美味しい…」となる。つまり、小説のギミックとして破綻してはいない。そういう小説だと分かって読めばちゃんと面白いのだ。
まさかそういう結末だったのか〜と裏切られることはミステリー小説では勿論、ホラー小説でも少なくない。『リング』とか『近畿地方のある場所について』とか。むしろそれらの読み味に近かったかも。
とはいえ、流石にこのオチは読者が自力でたどり着くのはかなり難しい。ギリギリの離れ業だ。だからミステリー小説としては、やっぱり邪道なのかもしれない。うーむ。
あと、登場人物がみんな賢すぎて現実味があまりなかったかもしれない。そんな少ないヒントで真相に迫れることある?と思ってしまった。 -
Posted by ブクログ
JISコード5A73(暃)という字を巡る物語。大半は幽霊文字と言われる(暃)の読み方に終始したよう。
この字を体に張り付けて自殺する人々。3人目ぐらいから警察も気付き捜査が始まる。自殺した人々の関係を掴めない警察。並行して順不同に関係が別に明かされる。5人が自殺するのだが、中々分かりずらい。被疑者が浮かび上がるのだが、これも公安の横槍で中断される。この公安との関係もよく分からない。被疑者とそれを追っている警察の対話が始まるのだが、結論が出たような出ないような。
最後に新たな作家が出て来て謎解きのような終わり方。結局、ホラーミステリーだったようだ。