高野秀行のレビュー一覧
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昨年、腰骨を骨折して、今も完全には痛みが消えていない読書好きの義母が”腰痛”というキーワードから興味を持って読んだところ、腰痛が治る治らないということより笑っちゃうから読んで、とのことで。
著者の高野秀行さんはずっと以前に『ワセダ三畳青春記』を読んだことがあり、文章のおもしろさはお墨付き。
そもそも探検家なんだし、あんなにアクティブに世界中を動き回ることがお仕事なのだから、腰痛と言ってもたかが知れているのではと思って読み始めたら、著者の腰痛は思っていたより重症。なのに、申し訳ないけどとにかく笑っちゃう。
藁にもすがる思いで訪ねていく治療現場の先々で、その効果や洗脳的な心理描写がおもしろおかしすぎる独特な例えと表現の連打で、同情を誘うより先に吹き出してしまう。私は電車の中では読めなかったほどで。
腰骨を折った義母以前に、実母は深刻な腰痛を抱えているし、もう二度も手術をしている。何かひとつでもヒントになるような話があるかな、と読み始めたが、一冊読んで得たものは”腰痛改善に王道ナシ”ということだった。(全く批判ではなく、腰痛というものへの絶望です。そして、最終的に高野氏の行き着いた場所も要注目!)。 -
Posted by ブクログ
高野秀行(1966年~)氏は、早大第一文学部仏文科卒。早大で探検部に所属し、大学在学中に探検部での活動をまとめた『幻の怪獣・ムベンベを追え』で作家デビュー。その後も多数のノンフィクション作品を執筆し、2013年に『謎の独立国ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、2024年に植村直己冒険賞を受賞(探検家・山田高司と共同)。
私はノンフィクション物を好み、冒険家・探検家が自らの体験を記録したノンフィクション作品もしばしば読む。具体的には、古くはスコットの南極探検を描いたガラードの『世界最悪の旅』から、植村直己、角幡雄介、石川直樹等の著書までだが、高野秀行に関しては、気にはなっていながら、著書を読んだのは今回が初めてである。
本書は、1995~6年に7ヶ月間、世界最大のアヘン生産地と言われる、ミャンマー、タイ、ラオスに跨る「ゴールデン・トライアングル」の中でも、その中心地であるミャンマーの中国国境地帯にあるワ州に、高野氏が単身滞在した記録である。ワ州は、反政府ゲリラ・ワ州連合軍が支配し、100を超える少数民族が存在して「東南アジアのユーゴスラビア」とも呼ばれるミャンマーの中でも、ヤンゴンの中央政府の権力が全く及んでいない地域で、無法地帯とも言われているという。(近年は状況が変わっているらしい)
本書を手に取るとき、普通の人であれば、まず、「何故、こんな場所に7ヶ月も滞在したのか(そして、それを本にしたのか)」が気になるものだが、それは、高野氏が、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」ことをポリシーとする中で、20世紀も終盤になって、それに値する“地理的な”未知の土地は地球上にほぼなくなってしまい、残るは“政治的な”或いは“精神的な”秘境しかないと考え、その象徴がゴールデン・トライアングルだったからなのだという。そういう意味で、高野氏は本書を自らの「背骨」になる仕事と言っているのだが、一方で、そのハードさのあまり、当初はなかなか評価されなかったとも語っている。(現在では高野氏の代表作の一つと認識されていると思うし、それ故に私は手に取ったのだが)
この、高野氏のポリシーは、いわゆる「冒険ノンフィクション」を書く作家に共通するものであるが、同様に、現代においては地球上に地理的な未知の土地はなくなったという事実も共通の認識で、角幡氏なども、「冒険とは何か?」、「ノンフィクションとは何か?」と自らに問い、それに関する著書も出している(『新・冒険論』等)。そういう観点では、高野氏と角幡氏の対談集『地図のない場所で眠りたい』もぜひ読んでみたいものである。
読後に強く印象に残ったのは、反政府ゲリラが支配する麻薬地帯という、極めて物騒なイメージとは裏腹に、ここには(にも)普通の人びとの普通の生活が存在するという、当たり前のことであった。そして、もう一つは、民族というものの考え方の難しさで、ほぼ単一民族である日本人には実感が湧きにくいが、これは、世界各地で止まらない国家・民族・宗教間の対立の最大の原因の一つである。
また、本書のアプローチについては、高野氏は、自分の好奇心はジャーナリズム的な関心と重なるところがあり、一時期そちらに傾倒したが、多くのジャーナリズムは上空から森を眺めているのであり、自分は「一本一本の木を触って樹皮の手ざわりを感じ、花の匂いや枝葉がつくる日陰の心地よさを知りたかった」ので、結局、対象により近く、より長く接するような手法を取るようになったという。今般のワ州滞在が長期に及んだ(普通のジャーナリストならせいぜい4~5日。現地人からは、外国人が7ヶ月も滞在するのはギネス記録だと言われたそうだ)のは、そうした背景があってのことだ。私はジャーナリストが書いたものを好んで読むし、それは今後も変わらないが、高野氏のようなアプローチだからこそ書けるもの、そして、面白いものがあることを改めて感じた。
(2024年5月了) -
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文章には人柄が出るということがわかった。それぞれの作者(何人かの本は読んだことがあるけど)の素性は一切わからないけど、質問に答えていく回答文自体が自己紹介をしているようだった。
そして、私が普段よく思っていることが、忠実に言語化されていて勝手に爽快な自分を味わった。
個人的には、「人と人とが関係を結ぶときは、もしかしたら美点によってかもしれない。けれどその関係を深めていくのは、美点ではなく欠点なのではなかろうか。また、私たちが人間くささを感じるのは、どういうわけだか美点ではなく欠点である。」
「私は今現在『早めに終わらせ、夏休み最後まで何度も見直す派』なのだが、もちろんそんなことは言わない。そんな模範的な回答、まわりの人たちは白けるだけなのだ。『もちろんぎりぎり派だよ』、これは会話のマナー。」
の2つはまさに私の脳内の言葉をそのまま書き写しているようで驚いた、とともに似た考えを持つ人がいて安心もした。 -
謎の独立国家ソマリランド
- カート
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試し読み
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ネタバレ「およそ真実の探索者は、塵芥より控え目でなくてはならない。」 (ガンジー 『ガンジー自伝』)
読み終わると冒頭のこの一節が本当にその通りだなと痛感する。
これまで生きていた中でなんとなく"常識"として自分の中に埋め込まれてきたことが一歩外に出ると全然そうでなくて、ソマリアの人はソマリアの仕組みで生きてる。だからこそ外から介入があるとその仕組みは維持できなくなる恐れがある。そんな中で自分たちで上手く築き上げてきた奇跡のような国(認められてないが)がソマリランド。
ソマリランドとして平和を維持できているのが、農業や産業が盛んな南部ではなく、"何もない"北部なのが皮肉だけどリアルだなと思った。
「ソマリランドは貧しくて何もない国だから、利権もない。利権がないから汚職も少ない。土地や財産や権力をめぐる争いも熾烈でない。」
という言葉が印象的だった。
逆に、内戦が厳しいモガディシュでは
「"トラブル・イズ・マイビジネス"でトラブルを起こせば起こすだけ、カネが外から送られてくる。モガディシュはトラブル全般が基幹産業なのである。」
高野さんが現地に入り込み生活する中で知ることを共有してもらうことで、メディアではなかなか切り取られないリアルを少し知れた気がする。
明るくない内容もあるけど、高野さんの軽快な語り口調と愉快な登場人物のおかげで、すごく読みやすい。
毎度思うけど、高野さんの人物描写は面白おかしく魅力的に登場人物を描いていて、私が高野さんの著書を好きな理由の一つ。今回も「まじか?!」と思うエピソードもありつつ、魅力的なソマリアの人たちをたくさん知れてとてもおもしろかった。 -
Posted by ブクログ
日本が世界に誇る、と言っても過言ではないと個人的には思っているノンフィクション・ライターの高野秀行がその初期に記して高い評価を得たルポルタージュ。
なんと言ってもミャンマー北部、アヘンの密生地として知られる”ゴールデン・トライアングル”に潜入するという本書の面白さは、やはりその旅の中でのあまりにもスリリングな出来事の連続と、そんな中でも魅力的な現地の人々との邂逅にある。
かなりの作品数がありながらも、高野秀行の作品に駄作はなく、常に読者を驚かせてワクワクさせるような作品ばかりだが、本書もご多分に漏れず、次に何が起きるのかとワクワクしながらページを繰り続けた。 -
Posted by ブクログ
おもしろかった!
自分では知りえない世界を垣間見えた。
ときどき外国の方で、ルールを破ろうとする人がいる。例えば空港の荷物検査で、持ち込み禁止されたものを取り上げられて食い下がる人たちをテレビで見たことがある。彼らは自分の事情を延々と話し、情に訴えて説き伏せようとする。
理屈を訴えるならわかるけど、そんな事情話したってなにも変わらないのに、と彼らのことを思っていた。図々しいとさえ思っていた。
でもこの本で、公園での焼肉パーティーを怒られたスーダンの人たちの描写を読んで、ああそうか、と腑に落ちた。
「スーダンでは独裁政権がいろんなことを禁止したり強制したりするから、僕らの方も言い訳をしたり、あの手この手でピンチをくぐり抜けるのに慣れてるんだ」
ルールが正しくない可能性を知っていて、自分たちの権利を守らなきゃいけないから、主張するのか。
自分にはない発想だった…。