殺人罪での服役経験を持つ前科者の店主が営む喫茶店という設定に惹かれて読み始めたが、思いの外あっさりとした出来栄え。著者の年齢を考えると、少々前時代的な色恋沙汰が多くを占めるのは致し方ない部分か。基本は人情モノなので、事の顛末にはグッとくるものの、短編ゆえの宿命か奥行きには欠ける。しかし、人生の悲哀を描く物語はこれくらいの簡素さが重たくなり過ぎず、尚且つ余韻を残し収束出来るので丁度良い気もする。作中、登場人物の心情描写を敢えてぼやかし、読者の判断に委ねる場面が幾つかあるが、これが功を奏しているとは言い難い。