数年ぶりに通しで読み返した。
本作品全体に対する感想は既に書いているが、それとは別に日本海海戦の戦勝要因に絞って個人的なメモを記載。
論点の8割方は政略、戦略、戦術(それを支える技能含む)の3点に収斂する。
-政略の観点
国家として戦争の着地点を予め想定し用意していたかどうかという点、また戦争の
...続きを読む必然度合いの差が日露両国で大きく異なる。
講和をゴールとして定めて具体的なシナリオを描いていた日本に対して、ロシアはどこまで戦争を続けるのか、戦争をする理由は何か、明確でなかった。
また日本は国家存亡の危機を認識しており、生き残りをかけて戦争に臨んでいる一方、ロシアは国内の政情や帝国主義など様々な要素から戦争を求めており、結果として目的が不明確かつ戦争の必要性は相対的に低い。この差が政略の巧拙の差を生んでいる。
-戦略
この当時の海戦の常識と記述されている「海戦は軍艦同士の叩き合いの集合体」の考えのまま戦ったロシアと、寡兵であるが故に智慧を絞って艦隊運動に連動性や戦略的一貫性(七段の構えなど)を持たせた日本の差異が大きい。
また、そもそも大艦隊をバルト海から日本海へ回航させることでロシア側は大きなハンディキャップを負っているが、ロシア海軍全体としてそれへの適切な手当がなされていない。
-戦術/技能
海戦の決定打は結局のところ艦砲射撃による打撃だが、射撃に関する戦術と射撃の巧拙にも大きな差があった。
各砲台でバラバラに撃つのか、一軍艦の全砲台が統一指揮のもとで撃つのかという根本的な射撃法が命中率の差としてあらわれた。
また、有名な丁字戦法や乙字の艦隊運動に代表されるように、常に相手艦隊の頭をおさえるかたちを維持する企図を持ち続けたことと艦隊運動の巧さが、高い命中率と組み合わさることで日本側の一方的な成果に繋がっている。