桜木紫乃のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
凍てつく北海道を舞台にした6話の短編。
どれも陰鬱としてラブストーリーなんてお気楽には言えないけれど、これは間違いなく愛の物語。
雲一つない空であっても、そこには黒く立ち込める雪雲しか見えない。そんな中で必死に生きて行こうとする主人公たちの諦めや足掻き、再出発が決して美しくはない人間くさいドラマで描かれている。
男性作家の場合…どうしても男性にとって理想の女性、こうあって欲しいという視点が否めない…男性作家さんごめんない。反して女性ならではの傷付く言葉や扱い、惨めさが現実味を帯びて胸を付く。
風土や環境はどうしたって変えられない。郷に入れば郷に従えと言うように従えないものは生きづらい。都会では気にならないことも話題のない田舎ではたちまち〝噂〟となる。
果てしない土地と海にある世間が小さく狭い町の中でおこる男と女の愛にまつわる葛藤。
以下、本文よりですが、ネタバレにはなっていないと思います。気になる方は読まれないでください。
文中より…
雪虫
好きとか嫌いじゃないんだよ。あんたの気持ちは執着なの。
霧繭
いい女ってのは一生かかっても主役にはなれないのよ。主役はいつだって愚かな女なの。覚えておいてね。
夏の稜線
「男を産むまで頑張ってもらわなくちゃ」
陣痛の痛みから開放されたとたんタキが言った。優しいおばさんは姑になり、温厚な夫は良い息子へと変わった。
海に帰る
こんなけりのつけかたしか思い浮かばない女の不器用さを憎んだ。
水の棺
視線が一瞬泳いだ。わずかにほっとした表情のあと、それを打ち消すようにうろたえ、目を逸らす。
氷平線
友江の話が少しも本当っぽく聞こえないのが、嘘をついていないせいだとは、十八の誠一郎にはまだわからなかった。
2021.6.1
今年の11冊目 -
Posted by ブクログ
エッセイを読んでから、まずはデビュー作へ。
男と女の関係を描いた文学を、これまであまり読んでこなかった。それよりも物語の題材の面白さが優っていた。
桜木さんの小説を読んで、小説に男女の関係を盛り込むことは、人が生きている部分の、全部を描いていただけなのでは・・・と思った。その描写はリアルであるが、ときには幻想的だ。それぞれの人が生きていく哀しみが透けて見えた。
北海道に暮らすようになったからだろうか、気候も、時間に移ろう景色の様子も、海霧や流氷のことも、ここに出てくる人たちも、リアルに迫ってくる。その分、入り込んでしまう。他の土地に暮らしていたら、また違う印象を持つのだろうか。私が読んだ北海道を舞台にした小説は、どこかもの悲しいものが多い。
ご近所さんからは、自慢話、苦労話、面白い話をたくさん聞いてきた。もちろん言えないことは聞いていないが、他言できない秘密や、事実はたくさんあっただろう。桜木さんに、傍で耳打ちされているような気がしてきた。 -
Posted by ブクログ
あと一つ手を伸ばし、幸せを掴もうとする人達の物語。
北海道の日本海側、昼は空と海、夜は月と星しかない小さい島の診療所の医師美和。まっすぐで奔放な美和、安楽死事件をおこし、離島に飛ばされてきた。ここでも島の男性と逢瀬を重ね村人の知るところとなっている。
連作短編で、友人医師鈴音、関わる人達と話は進む。
個人的には、亮太と詩織の「おでん」が好みだった。亮太は真面目でいい人だが、女性には縁が無い。偶然目の前に詩織が転がり込んでくる。別れたのか、と思える終わりかた。が後半の連作で結ばれたことがわかる。良かった。
全体に、思わぬ方向に明るく進んだ。暗さから明るさへイメージが逆転した感が強かった。
余命宣告された、医師鈴音。別れた夫に「一緒に居てほしい(また住もう)」と懇願するところは、正直微妙な気分になった。自分だったら、と考える。 -
Posted by ブクログ
なにか小説を読まねば……という焦りに駆られて本屋に赴き、タイトルを見た時「それ」ってなんだ?と思って手に取った一冊。結果、興味を持った点が物語を通じて明確に、かつ鮮やかに表現されていて楽しめた。
10~20代がメインの青春モノが好きな自分にとって、序盤の方は登場人物の年齢層からして大人向けというか好みではないかもしれないな~と思って読み進めていたけれど、中盤以降からスラスラと進めたのは作者の筆力に引っ張られたからだと思う。
ここでは内容を書かないけど、二次元を偏愛している自分にとっては笑っちゃうんだけど他人事じゃない共感ポイントを持った人物が途中で出てきて、その人を取り巻く物語を読んだ時に「これは見事な愛だ……」ってうっかり拍手しそうになってしまった。 -
Posted by ブクログ
誰でも大なり小なり隠しておきたい物事があるものだ。
「墓場までもっていく」つもりの秘め事は人の頭の中、あるいは心の中にのみ容れられ、封をされ、取り出されることなく朽ちるのを待つことになる。
棄てたくても棄てられず、ただ放置するしかないもの、あたかも宝箱の中身のように大切に保管されるもの、事象によってそれは様々だとは思うが、ゆっくり風化させるという向き合い方もあるようだ。
いずれにせよ記憶にのみ留め置くことを選択した場合、関わりのある人が死んだり、忘れてしまった場合はその事象は消え去ってしまう。
消えゆく記憶に向き合って、大切に思い出し、ただもちろん口外せずに、その消せない記憶に別れを告げていく。
しかし自身の出生の秘密が消えていくとき、それを受け入れることができる人は少ないかもしれない。
オホーツク海に接した道東という立地条件が今回の物語の舞台を唯一無二のものにしている。
スパイとか、密漁とか、どこか遠い世界の話のようだけど、北海道のこの地であればそんなこともあるのかもしれないなと思う。
様々な人の思惑が絡みあうサスペンスだが、最後は急速に収束した感があり、なんだかもったいなかったな。もう少し長く楽しめるような気もしたのだけれど。
とはいえ家族や人生の再生に主眼がある桜木紫乃の文章の魅力は存分に発揮されていた。
氏が繰り返しモチーフにしている書道や短歌がふんだんに織り込まれている。また、他の作品のあの人が殺された場所がちらりと出てきたりするのもおもしろい。
『硝子の葦』が好きな人にはおすすめしたい。
『無垢の領域』にも通じるところがある。
それにしてもタイトルが『風葬』とは。
この人は読者のツボに触れるのがよっぽどうまいように思う。 -
Posted by ブクログ
結末は終わりではなく、始まりである。
思えば、この作品においてはすべてがそうかもしれない。
何かが終わること、それは取りも直さず、何かの始まりとまったくの同義なのだ。
全体の作りとしては、上質な、けれどももどかしい、大人の恋愛である。
大人の恋愛と本来は相反するプラトニックな愛と交流が(途中までは)描かれている。それを浮き彫りにしているのが不倫という道ならぬ恋と、母親の介護、日の目を見ない才能という生々しいものだ。
終盤に入って、物語は急展開を迎えるが、それはそれまでにたくさんあったわだかまりの、一つの出口の塊なのかもしれない。
心理戦(といってよいのか、わからないが、幾人ものモノローグが語ること)が多く、12回の連続ドラマにしたらもしかしたら物足りないかもしれない。けれどもだからこその重厚な物語の造形であるように感じる。
桜木紫乃さんは生身の人間を描くのが上手だ。
それもある程度、自分自身に諦めているような、自分の弱さを知っている、けれども懸命に毎日を生きている、どうにかして前に進んでいる、どうしようもない人を描くのが上手だ。
角度によっては、誰もがそういう弱さや生々しさを抱えている。それを教えてくれる。
絶対的な悪なんてどこにもいないのと同じように、絶対的な善なんてものも、やっぱりない。
人は思惑を持って生きている。その思惑に自分を染めている人もいれば、その思惑に辟易し、けれどもそれにすがって生きていくしかない人もいる。
そしてやはり、道東に行きたい。