大崎善生のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
無償の愛とはこの事なのか・・・
読み終えた瞬間、何かが心に住み着いている。
薄い愛でも深い愛でも厚い愛でも無い。 愛以上のもの・・・ 今の自分では言葉がない。 想いだけである。
人を想う気持ちと行動をどのようにつなげてゆくのか、言い現しようの無い気持ちである。
想いが、言えないからこそ小説で表現できるのか。
風景、色、匂いが、心に写っている。
自分に問いかける小説である。
ぜひ読んでもらいたい。
《本文より》
由香はどこへいってしまったのだろう。あの空のどこを捜しても、もう二度と見つけることはできないのだ。
「良ちゃん」
大空の彼方から声が聞こえたような気がした。
「頑張れ」
由香の声だった
僕は目を凝らして満天に星の輝く空を見上げた。
たとえ、二人が別れたとしても二人が愛しあっていたという事実が消えるわけではない。そうでしょ!
胸の中に別れ際に何度か口にした由香の言葉が蘇った。蕾として摘み取られてしまう自分の思い、
それを彼女自身が納得するための最後の叫びだったかもしれない。
どんなに厳しい条件にあるときでも僕は一握りの希望をもって彼女の側にいることができた。
由布子が最終的の力を振り絞り発露した優しさー。
それが、最終的に考えることができるようになっていた。
「甘えて、甘えて、甘えて」
そうゆう和子の頬を涙が伝っていく。
「どのくらい、甘えたかわからない。あのころはわからなかったけれど、
自分の人生で最高にしょうもない自分を、体を張って守ってくれた。
篠原さんあんたのことよ。」
「私が死んだら、この写真を一緒に焼いてください。」
「何これ!」
「東山ハイツって、私がはじめて一人暮らしをした部屋。」
「何もないじゃない。」
「ううん。 私には見えるの。」
「何が?」
「いいの。 それを私と一緒に焼いて」
「何が写っているの?」
「人の・・・。 人の優しさ。 思いやり。
私を守ろうとしてくれた、ただ一人の息吹が・・・。
そこに写っている。 私にはそれが見える。」 -
Posted by ブクログ
大崎善生を読むと小説の醍醐味は中身の内容だけではないことに気づかされる。
このロックンロールというなんの中身の無い小説が面白く感じるのは、1行1行の文章がとても緻密で、計算されていて、繊細で、優しくて、突き刺さるような言葉の集合体だから。
この小説の中でも語られていたが、
「なんでもいいからひとつのことを、正確で美しい、ということはつまり適切な言葉を使って表現する。その枝葉の積み重ねの先にある樹が小説なんだ。」「犬の交尾を正確に描いていても泣くね。」
とある。1つのことを洗練させる必要性。小説家でないがしろにしてはいけない要素。人にとっても何かを1つ正確に出来る人の方が、心を揺さぶるのだろう。
小説の書き方や出版者とのやり取りや執筆活動など、著者と重なり合うような自伝的な要素もいれたかったのだろう。でも嫌味がない。
中身はないけど、面白い。文節すべてを人生と照らし合わせる小説。でも中身があれば☆5つだろう。
作中名言
「僕に出来たことは無関心を装うことだった。社会通念から遠ざかる。尻尾をまく。耳をたたむ。夢や希望や反骨心といったものは全て危険だった。もちろん捨てた。
そうすると少しだけ心が軽くなった。」
「とにかく女性はヒステリーを起こす。
それはまるでバスの停留所のようだ。
世の中の女性は全て、そうゆう名前の停留所を勝手に作り上げていて、必ずそこに停車しなければいけないと考えている。
それは分かっているつもりだが、もしかしたらこの人に限って、そうゆう停留所を持っていないのではないかと幻想を抱くことがある。その大きな勘違いが、結局は新しい恋が始まるきっかけとなる。」
「きっとお互いを深く傷つけ合ったりすることのないように、ガラス玉を真ん中において付き合っていたのかも知れない。でもそれは何か違うのだという感覚ー。人間と人間が繋がるということは、ときとして物凄く動物的なことだという、理屈ではないとても皮膚的な感触。」 -
Posted by ブクログ
スワンソング、それは白鳥が死の間際に発するおそろしく美しい声のこと――。
救いのない内容に、涙なしには読めなかった。
自分の過去と重なってしまって、途中、苦しくて、苦しくてしょうがなかった。
普通に恋愛ができないなんて。
普通に恋愛を終わらせることができないなんて。
そう思いつつ、自分だってそうだったじゃん、と自嘲的な気持ちに。
「暗闇にいる由香に手を差し伸べることはもうできない、由香が一人で抜け出すしかない」
というくだりがあったけれど、これは絶対に違うと思った。
良がしなければいけなかったことは、由香に対して誠実に向き合うことだったと思う。
それをしないで逃げていながら、よくもまあこんなことが言えるねと、怒りに似た思いが湧くのを抑えられなかった。
壊れてしまうまで相手と向き合わないような男性は信じられない。
もちろん、男性だけでなく、女性もね。
でもそれは理想論であって、向き合ってくれる人なんてたかが知れている気がするのだけれど。
人間、誰だって強くない。
支えられることで、愛されることで、人は変われるものだと思う。
自分ではない誰かに存在を認められることで、人生がつなぎとめられる瞬間は確かにあるから。
でも、それを信じきってしまったら、失えなくなってしまう。
信じきれないわずかな疑念や、失うことへの恐怖の狭間で、動けなくなるまで足掻き続けるしかなくなるし、どこかで自分の足で歩き始めなくては、永遠に綱渡りをするしかない。
難しいね。
忘れていた痛みを少し思い出させてくれた小説だった。