大崎善生のレビュー一覧
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現代日本の作家である大崎善生(1957-2024)による作品。2001年。本書を読み終えてから、作者がすでに他界していることを知った。
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いまの自分というのは、これまでに出会ってきたいろんな人たちや文物たちや体験たちといった諸々からなるモザイク画のようなものではないか。自分の中にいろんな誰かたちが生きているだけではなくて、自分もいろんな誰かたちの中に生きていて、そうやって自分と誰かたちとは互いに浸透しあっている。「一度出会った人間は二度と別れることはできない」というのは、なるほどそうだと思う。
それは必ずしも思い出だとか記憶だとかということではない。忘れてしまったからといって、すでに深 -
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幼少の頃から重い病を背負い、残された時間と競うように愚直にそして無邪気に将棋に向き合い、29年という短い生涯を駆け抜けた村山聖。時は命なり。
ただ漫然と生きている自分を省みて、色々と感じさせられる一冊。
父親が寄せた後書きに綴られた、村山聖本人の言葉が胸に沁みた。
「人間は悲しみ、苦しむために生まれた。それが人間の宿命であり、幸せだ。僕は、死んでも、もう一度人間に生まれたい。」
「人間は常に主観的で、自分自身の痛みでしか他人の痛みを理解できません。ですから体に障害があったり重い病気の人の気持ちを真に理解することはありません。哀れみも同情もありません。常に対等という意識です。・・・ネフローゼと -
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Super8さんの本棚から
羽生善治さんと同時期に、ともに将棋界を牽引した村山聖さんの短い生涯を綴った作品。
「20歳になれてうれしいです。
20歳になれるなんて思っていませんでしたから」
5歳の時にネフローゼと診断された時から、常に病と、そして死と隣り合わせの生活をしいられてきた聖。
将棋で強くなりたい。そして勝ちたい。
その純粋な気持ちだけが聖を支えてきました。
最後の最後まで病気に耐え抜いた生きかたと、将棋への情熱が心をうちます。
お父さんお母さんの献身的な愛も聖を支えます。
家族の絆は最強です。
名人への執念。
最期まで貫いたと思います。
将棋の知識が少しでもあればもっと深 -
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audible92冊目。
今まで何度も書店で手に取ってきたのに、ずっと後回しにしてきて、ようやく読めました。
読もうと思っていたきっかけさえ忘れていたのですが、たぶん、松山ケンイチ主演で映画化されて…だったような。
天才棋士といえば藤井さんの活躍がめざましいですが、元祖は羽生さん、のイメージでした。
が、羽生さんと同世代にもう1人、こんなにも素晴らしい棋士がいらしたのですね。
どうして知らなかったのだろう…
将棋界に入ってからもかなり病気に苦しめられていましたが、ただ、闘病生活があったからこそ将棋に出会い、とことん将棋と向き合えたともいえるのですよね。
そこがなんとも、複雑です。
大崎 -
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ネタバレ大崎善生さんの小説『アジアンタムブルー』。
大崎さんの代表作だと私は思います。
主人公・山崎隆二と恋人・続木葉子との出会いから別れ、そして彼女の死後の再生までを描いています。
山崎隆二は、東急百貨店の屋上で1人過ごしていた。そこで中川宏美という女性と出会い、過去を話しだす。宏美は、夫が宏美の友人の女性とともに電車に飛び込んだという。
隆二も色々なことを思いだす。
友人に万引きに巻き込まれ、デパートのガードマンに叩きのめされたこと。高校生のときの美術部の先輩である美津子との情事のこと。ヌードモデルとして職場に来て、泣いてしまって脱げなかったモデルのユリのこと…。
山崎隆二はアダルト雑誌の編集 -
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ネタバレ大崎善生さんの『ロックンロール』
主人公の作家の植村は、第2作目の小説執筆のため、パリ近郊のポートオルレアンのホテルに滞在しています。そもそも彼は、熱帯魚の雑誌の編集長をしていたが、高井という編集者が彼を訪れ、口説き落とし、小説家にしたのだ。植村のデビュー作は評価が高かったが、2作目の筆が遅い。そのため、ヨーロッパに来訪し、小説を書くことにしていた。しかし、それでも筆が進まず、焦燥感に苛まれる日々を送っている。
植村は、彼宛に送られてきたCDをふと思いだす。ジョージハリスンの『All things must pass』。送り主の名前に心当たりはない。
ではあるが、20歳の頃、ジョンレノンが亡 -
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山崎はいつも、過去を思い出している。
パイロットフィッシュは循環する水の中で、新しい生態系を作る。
過去を思い出し、過去の中で生き、要らないものを捨てていくのではなく、すべてを蓄積していく。
もう思い出すこともなくなった過去でさえも、ため込んで、山崎という人間が出来ている。
そこから逃げ出すことはできない。
逃げ出す時は、死ぬ時だ。
新しい生態系を作り終えて、不要になったパイロットフィッシュが捨てられるように。
目に見えない糸で織られているかのように、すべての事象が繋がっているのかもしれない。
不要だった過去は一つもない。
だから人間は生き、傷付きながらセックスをするのだろうか。