大岡昇平のレビュー一覧

  • パルムの僧院(下)
    長いこと宗教小説かと思っていたら全然違った。表紙の紹介文も違う。これは人としての幸福な生き方を考える人生哲学アドベンチャーラブストーリーなのだ。イタリア統一前の19世紀、小国パルマの貴族の息子ファブリスはナポレオンに憧れてワーテルローの戦いに紛れ込み参加しようとする。そこから始まる冒険、恋、政争…。...続きを読む
  • 野火
    卒論のテーマ。今まで戦争小説に興味があったために。
    神や狂気、人肉食といった多くの主題が内包される中で、しかしおそらくはエゴイズムに焦点を当てているだろうと思われる。
    文章は心理描写に力点を置いているわけでも美しい日本語でもないが、うまい日本語というか読みやすい
  • 野火
    俘虜記を読んだ時もそうだったが、戦時の比島、戦線離脱して彷徨う一人の兵隊の描きは、どうしても、作者自身の実体験を想起しながら読まされてしまう。極限状態に置かれて、生きる為に取らざるを得ない行為。意思の有無を自分自身確かめながら、本能か否か、飢えに襲われ、骨のみになる肉体同様、心も、剥き出しになるのだ...続きを読む
  • 野火
    これまで読むことがなかった戦争文学の代表的な作品。思っていたよりずっとスマートで読みやすい。
    文章がなめらかで映像的、自然描写は美しさすら感じる。著者の高い筆力があってこその技巧なのだろう。だからこその生々しさがある。敵との戦闘場面はほとんどないのにピンと張りつめた緊張感。極限の飢餓状態での人間の剥...続きを読む
  • 野火
    ◯とても面白い。
    ◯極限の精神状態における、生きることについての思索が、冷徹に貫かれている印象。ただ、後半になるにつれて、錯乱した状況を表すように、読解がかなり難しくなってくる。
    ◯そこまで分量のない小説ではあるが、読み終わった後に、自分が生きていることについてや、極限状態で事故を保ち続けることにつ...続きを読む
  • 野火
    この傑作の前に、
    塚本監督の『野火』を鑑賞していて、
    そのビビットなフィリピンの自然と、
    説明が少ないからこそ迫りくるリアリティに圧倒されていたが、
    原作を読んだらなんと内的な物語なのか!

    極限の状況に置かれたからこそ見いだされる、
    倫理性や人間性、そして宗教性。

    内省することでしか生き延びられ...続きを読む
  • 野火
    戦争をしらない人間は、半分は子供である」胸に刺さった…
    「どうせ、彼等は私もの言うことを理ないであろうが」無理…
    現地にいる兵士のような感覚になる。後半は、怒涛のように読んだ。
    死に直面した兵士の物語。淡々と兵士の感情を難しい文体で難しいが、短いのに内容は壮絶…食物の有難さ、こんなんで戦争に勝てない...続きを読む
  • 野火
    210頁余りですが、その何倍も濃い内容で、読むのに予想外に時間がかかりました。病気になり、本隊からも病院からも追い出された田村。熱帯の日差し、誘う植物、雨、身体から立ち上る水蒸気、いたるところに討ち捨てられた死体。そのなかで常に感じる神の存在。「帰らしてくれ」と言った兵士は、帰ることができたらどんな...続きを読む
  • 野火
    戦争文学といわれるけれども、本作で主人公たちが戦うのはもはや敵国ではなく、飢餓と、味方であるはずの者と、崩壊しかける自身の理性。全編を通して誠実で美しい文章。フィリピンの雄大な自然、荒廃した景色は目の前に拡がるよう。その風景の一部のようにして、主人公の内的うつろいもまた淡々と綴られる。簡潔な文章のな...続きを読む
  • 野火
    昔からいつ死んでもいいと思っていた。
    それは死ぬほどの恐怖を味わったことがないからでは?と反論する自分もいて、その度に、もし戦場に立たされたら自分がどうするか、ということをよく考える。

    できれば誰も殺したくはない。それを選び取れる強さが欲しい。
    身体が弱くて戦争に行かなかったじいちゃんに「もし戦争...続きを読む
  • 野火
    戦争という極限状態の中で狂わない人間はいないんだろうな。主人公の思想がどんどん狂っていく様が生々しく恐ろしかった。宗教的。
  • 花影
    フロベールの「ボヴァリー夫人」を彷彿とさせる葉子。
    最初から葉子の運命は決まっていた。なにせ葉子のモデルは自殺した作者の愛人なのだから。けれども、現実をそのまま流用するようなアホな作者ではない。むしろ、あまりにしたたかである。
    むろん、語り手は安易に葉子を理解できるとはそもそも思っていない。しかしど...続きを読む
  • 野火
    流されていく田村が、延々屁理屈(殺したのはこの銃のせいだ)をこねながら、状況的には堕ちていく。
    生きるか死ぬか、ではなく、死ぬことを前提としていたのに流されるままに生きてしまう、という展開の中で、
    人肉を食べること、だけでなく、その周辺に人が生きること、人間とは何か、といった思考が繰り広げられる。
    ...続きを読む
  • 野火
    おやつ食べながら読んでごめんなさいと心の中で田村に謝っていた。不可抗力で猿の肉だと言われて、人の肉を食べたことよりも、人殺しをしたことと食べていいよと言った男のこと、自分の肉なら自分のものだから食べたこと、神かもしれない何かがずっと見ていると言った田村。戦争はアメリカと戦っていたはずなのに、この『野...続きを読む
  • 俘虜記
     戦争を内から見つめた文学。渦中にいた著者が見た、「戦争」とは。読み始めるのが少し怖かったけど、意外なことに、凄惨な描写はほとんどない。どこまでも冷静な筆致で、主に俘虜収容所で考察した日本社会、現代の文明に関する批評が書かれている。

     この本は、大きく捉まるまでと捉まったあとに分けることができる。...続きを読む
  • 野火
    100分で名著で紹介あったので読んでみた。

    想像以上にシニカルな内容で
    戦争の恐ろしさを考えさせられてします。

    戦争は殺される恐怖はもちろんだが
    殺す罪悪感・生き延びるための苦しさなど
    すべてにおいて非人道的である。

    現在、北朝鮮の核問題もあり
    今一度、戦争というものに対して
    考える時期に来て...続きを読む
  • 俘虜記
    また新たな視点で「戦争」についての示唆を得られた1冊。

    「米軍が俘虜に自国の兵士と同じ被服と食糧を与えたのは、必ずしも温情のみではない。それはルソー以来の人権の思想に基く赤十字の精神というものである。人権の自覚に薄い日本人がこれを理解しなかったのは当然といえば当然であるが、しかし俘虜の位置から見れ...続きを読む
  • 野火
    戦争を取り扱った作品で本当に心に残るものは、過激な銃撃戦でも戦友の死でもなく、極限状態に人が何を考えていたか、日常に戻り、自分を振り返ってどうなるかを緻密に描いたものだと思う。

    本作は太平洋戦争中に、敗北が濃厚な戦況の元、フィリピンの島に置かれた男性が主人公となり、彼の生存が確定する描写は割と序盤...続きを読む
  • 中原中也詩集
    「山羊の歌」には若者に特有のどこか気どった哀しさがあります。「在りし日の歌」は、子を亡くしたことへのストレートな哀しさが表出されています。
    中也の作品は多感な学生の必須アイテムみたいに思われていますが、むしろ逆に、幼子を持つ親にこそ訴えるものが目立ちます。
    頑是ない歌・月夜の浜辺・また来ん春・正午・...続きを読む
  • ながい旅
    B級戦犯となった岡田資の法廷闘争を描いたドキュメンタリー。岡田氏の思想や気概よりも、戦争のやりかたを法で定めることの是非、犯罪行為の有無を戦勝国が裁くことの是非など、根本的な問題を棚上げしておこなわれた極めて政治的な裁判の様子が良くわかる。またそれ以上に、戦争末期から戦後初期の日本国内の混乱状態や、...続きを読む