大岡昇平のレビュー一覧
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読書会の課題本として読む。人肉食の本として名高いこの本、なんとなく敬遠して読んでいませんでした。今回は課題本のため仕方なく読みました。戦記文学ではあるものの、ほとんど敗走のシーンの記述。病院に入院を余儀なくされるも、病院も攻撃されて逃走ジャングルの中をさまよう歩く。たまに友軍一緒になったり1人になったりしながら最後に上に苦しんでいるところ人肉を猿の肉として与えられて生き延びると言う話であった。冒頭部分は作者大岡昇平が病院で田村と言う軍人に遭い、その話を田村本人に小説として書けと言って書いたと言う体裁をとっている。
自然の描写とフィリピンの風俗が少し出てきて、キリスト教や仏教も少し顔を出す。
戦 -
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ネタバレ実はもう少しジーナ おばさんとファブリス が露骨な恋愛のご関係になるのかと思いきやそこには至らず わりと精神的な結びつきの恋愛関係みたいなので終わりましたね
そしてどちらかというと牢獄看守の娘さんとしっかりできてしまいまして 最終的に 不倫関係の我が子を我が子として育てたいから死んだことにしちゃおうなんてやってるうちに子供が本当に死んじゃって お母さんも嘆き悲しんで死んじゃって 主人公もそのうち なくなりましたっていう そのたたみかけ はちょっとあの急な展開すぎるのではないかと思いまして 余韻がなかったなあ というところなんですが
まあ ここまでの全体からしていろんな要素が盛り込まれて 大 -
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高橋源一郎の「ぼくらの戦争なんだぜ」の中でかなりのウェイトで引用してあり、戦争を描いた著作として最も有名な作品とのことだったので、気になって読んでみた。
フィリピン・レイテ島での、敗残兵としての逃避行のほぼ一部始終が描かれている。最後は発狂して記憶喪失となり、戦後復員して精神病院で欠けた記憶を思い出すが、ふたたび発狂する。
飢えの末期において(御多分に洩れず)人肉食の葛藤に苦しむ主人公。 (理論を司る左脳支配下の)右手は剣で死体から肉を切り取ろうとし、それを(直感を司る右脳支配下の)左手が右手を握りしめて止める、という明解な、かつ究極的な人格分裂を起こす場面が静かに壮絶だった。この場面は有 -
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舞台は敗戦が濃厚となってきた第2次世界大戦末期。
田村という一兵卒がフィリピンレイテ島において、生死のはざまの中で島内を彷徨い続ける話である。
田村は結核を患い所属隊から追い出される。芋6本のみ持たされて。あとはなるようになれ(死ぬでもなんでも)というメッセージである。
実はこの作品、田村が戦後精神科入院中に、当時を回想しているものである。
それがわかるのは小説の最後の方なのだが。この視点が加わって、ぐっと理解が深まる。
田村の内省に関する記述がものすごく緻密かつ文学的に描かれていて圧倒される。
彷徨う中、発狂した将校を観察したり、極限状態で人肉を食すことに抗ってみたり、自ら行った殺人の罪 -
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人間はある境界を越えると何にでもなれるのだ。無限大の可能性を秘めている生き物なのだ。
それをこんな形で描かれるなんて思っていなかったので絶望して頭を抱えている。
孤独で在り続けることの到達点のひとつがこれとは思いたくない。
思いたくない、けれど。
人肉食という行為に目が行きがちだけど、何かをしたくて堪らないという強い衝動を私は「知っている」んだよね。剥き出しの欲望を目撃して怖くなったし居心地も悪くなった。
全体的に落ち込むことが多くて読むペース上げることができなかったけど無事に読み終われて良かった。
塚本晋也版の『野火』を観てるので猿の肉の正体は知っていたけどやっぱ「うっ」ってなったし、そ -
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塚本晋也による同名映画がとても良かったので、その流れで原作も読んでみた。戦争文学の代表的な作品で、筆者・大岡昇平の実体験が基になっている。太平洋戦争末期、敗戦色の濃いフィリピン戦線で結核を患った男が、必死に生きようともがく様が描かれる。男は極限状態の戦場で精神が疲弊し、飢えに苦しみ、「食人」という禁忌を犯すかどうかに揺れ始める。
何が罪で、何が罪ではないのか。戦場に正解などはない。たとえそれが生きるための仕方のない行為だったとしても、二度と取り返しのつかない不可逆的なものであることには変わりないし、それが絶対にいけないことだとも言いきれない。そもそも本当に悪いのは食人を行った人間なのだろうか -
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ネタバレ我深き淵より汝を呼べり。
社会から切り離された孤独と近代合理性の失敗である異常な戦時下での人間性の崩壊。絶対的な神の崩壊。
フィリピンで肺を病み隊から追放され、野戦病院からも追い出された主人公は行く当てもなく彷徨する。あるのは死へ向かう乾いた身勝手な自由。
山間の芋畑を見つけ飢えを満たすが、遠くに見える教会に心を惹かれ街に降りる決意をする。街は廃墟となっており野犬と死体の山だけだった。
教会に入り休んでいるとフィリピン人の男女と遭遇してしまい女を銃殺してしまう。街を離れ日本兵と行き合い仲間に加えてもらう。敵の銃撃を越えた先には死屍累々の敗残兵が道のそこここに倒れているという地獄だった。主 -
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ネタバレ先に塚本晋也監督の映画を見たので戦争描写のイメージが強かったが、小説を読んでより本来的な内容を味わうことができた。恐らく、この作品のテーマは12章「象徴」で語られている。
> あの快感を罪と感じた私の感情が正しいか、その感情を否定して、現世的感情の斜面に身を任せた成人の知恵が正しいか、そのいずれかである。(p59より引用)
飢えて人肉を食べようとする右手は後者で、それを制止する左手は前者になる。殺人は犯しながらも人肉食への衝動には極限まで抵抗するのも、少年時の性的習慣と同じく、それを罪と感じる快感があるからだろう。
戦争での人肉食という極端な場面で表現されているが、この葛藤は全ての人間が大