大岡昇平のレビュー一覧

  • 野火
    もろに文学だった。

    極限状態に陥った人間が、生き残るためにカニバリズムに走る、もしくはそれを抑制するさまがありありと記されている。

    娯楽の一つとして小説を読んでいる自分にはかなり重いが、戦争における個人の極限状態が見事に描かれた読むべき作品。
  • 野火
    凄惨。テンポの良い読み味と、戦争の悲惨さと宗教観の織り交ぜ方が好き。
    締めの「神に栄えあれ」に続く文が読んでて気持ちいい名文。
  • 野火
    立ち昇る自然の生命力と、戦争の生々しさと、すべてが鮮明なイメージで記憶され、そこに十字架が浮かび上がるといった構図を忘れることができない。全体的に静謐で、無駄のない文体が印象的。
  • 武蔵野夫人
    スタンダールやラディゲのオタクによる,恋愛心理の分析の教科書。話の筋は通俗の域を出ないが,さまざまな自然描写や独白により上品な仕上がりとなっている。あまりに観念的で分析的な読み方を強要されるのが難ではあるが。
  • パルムの僧院(下)
    下巻(第二巻)は、主人公(ファブリス)と、恋人(クレリア)の恋愛劇を中心に、甥のファブリスへの献身的な愛情を注ぐジーナの策略に、公国内の政治的権謀術数が絡んで「これぞ小説の醍醐味」とも言うべきおもしろさを堪能できる。
  • 中原中也詩集
    朝ドラでも読まれていた中原中也の詩はなんだかんだで初めてで。

    触れる機会も増えればまた自分の中に落ちていくのだろうか。
  • 野火
    戦争風景の叙述と、哲学的死生観が混ざるが、死生観は難しい。悟りか諦めか暁光か。
    繰り返しの日常と、死へ向かう前進が対になるということはわかった。
    戦争が原因であり運命であった殺人と、人肉を食べないという主体的選択の差。そう思わないとやってられない窮地のロジックと言うのはあまりに外側から見ているからか...続きを読む
  • 野火
    「生命感というのは、いま行うことを無限に繰り返す予感」というフレーズが非常に印象に残った。
    自分が間もなく死にゆく身だと悟ったとき、日常の光景や世界はどう見えるのだろうか。
  • パルムの僧院(下)
    下巻に至って、いよいよファブリスとクレリアの純愛か、叔母のサンセヴェリーナ公爵夫人の盲愛・偏愛によるファブリスの不幸か、となります。

    貴族ファブリスは恋のつまらないさや当てで、旅芸人の男を殺してしまい、当時(17~18世紀)​のイタリア公国は「お手打ち」はおとがめなしなのだが、専制君子の大公の虫の...続きを読む
  • パルムの僧院(上)
    主人公のファブリス・ヴァルセラ・デル・ドンゴは北イタリア・パルム公国、デル・ドンゴ侯爵の二男にして、出生の秘密あり。

    時はナポレオンの遠征時代、フランス軍はミラノに入城、疲労困憊している軍中尉ロベールはデル・ドンゴ侯爵夫人の館に宿泊したというところから始まる。

    ミラノの郊外コモ湖のほとりグリアン...続きを読む
  • 野火
    太平洋戦争末期、敗戦色濃いフィリピン戦線。主人公田村は、結核を患い、所属している部隊から追われて、野戦病院へ向かう。そこでも、食糧・医療品不足から拒絶され、わずかな食糧と共にフィリピンの原野を彷徨う。
    極度の飢え、野火の広がる原野。怪我や病気で、死んでいく同胞。その極限の中、感じる神の存在。
    彼らは...続きを読む
  • 俘虜記
    戦争文学の傑作。
    戦争の最中に起きた筆者自身の心情や自分の行動を緻密に分析、客観視している。
     本書の特徴は筆者の冷静さである。感情的な言葉で表せられることが多い戦争の事実や心情を彼は冷静に見つめ直し、表現している。
     私のような戦争未経験者が戦争に触れるとき、"必ずしも"激しい怒りや悲しみを感じる...続きを読む
  • 野火
    「大岡昇平」が自らの戦争体験を基にした戦争小説『野火(のび)』を読みました。

    この季節になると太平洋戦争に関する作品を読みたくなります… 忘れてはいけない歴史ですもんね。

    -----story-------------
    敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて...続きを読む
  • 野火
    第二次世界大戦、フィリピンのレイテ島で敗走する日本兵をモデルにした大岡昇平の小説。

    地元民を不用意に殺したことよりも、人肉食の方に忌避を感じているが、それが正当なことであるのかが自分にとってこの小説のテーマになっている。すでに亡くなった人の肉体をいまだ生命があり生き延びる可能性がある人間が食するの...続きを読む
  • 野火
    後半に精神病院に入院した人間の手記であるということが明かされるので、どこまで本当の話だろうか。
    それまでの描写がリアルなだけに、「人を食うために殺そうと凶器を振るおうとした手を、もう片方の手が止める」という描写が急にありえないことに思えた。
    人間を食すことを止めたのが神の存在であるように書かれている...続きを読む
  • ながい旅
    この映画を見ていなければ
    この本は 読みきれなかったかも・・・・
    裁判の やり取りなどが 多くてちょと難解な 部分もありました。
    ノンフィクションのジャンルになるのでしょうか。
    だから すいすいとは読めませんでした。

    日本では 情報が手に入らず
    公判30年を経て 裁判記録が公開されて
    やっと入手し...続きを読む
  • 野火
    大岡昇平の代表作。フィリピン戦線の凄惨さ。病院前に座り込む負傷兵。カニバリズム。戦後精神病院へ入院している主人公…
  • 野火
    大岡昇平氏の二次戦中フィリピンでの従軍経験を元に書かれた戦争小説。
    大岡昇平の戦争小説と言えば『俘虜記』も有名ですが、本作はフィクションの色が強く、ある種の軽さがあった俘虜記とは違って凄惨な戦争が描かれています。
    戦争小説ではありますが、理不尽な軍隊生活、敵兵との戦闘、及び戦争の悲惨さを訴えた内容で...続きを読む
  • 俘虜記
    太平洋戦争後に"戦後派"と呼ばれる作家が登場しました。
    その内、一般的に、戦争体験を通して感じたことや、その意味を論じる文学者たちを第一次戦後派と呼び、戦争体験如何に依らず、戦前の文士たちによって培われた小説技巧を昇華させ、新たな手法を取り入れることで優れた小説を生み出していった作家たちを第二次戦時...続きを読む
  • 野火
    1952年作品。作品自体には私が中学時代から(50年近く前)読んでみたいと思っていました。ただ、刺激的な場面や人肉食などが怖くて読めずにいました。今回読んだきっかけは、今臨時職員として勤務している小学校の図書室で見つけたからです。小学生が読むには刺激的で時代も大きく違いますので理解不能な部分は多々あ...続きを読む