大岡昇平のレビュー一覧

  • 野火
    内容もさることながら、生きるということ、記憶、宗教、必然と任意と偶然という人生観に哲学的に向き合った骨太な小説である。

    安田や永松のカニバリズムの事実に明るみになっても、変に驚かないのは、読書にいよいよリアリティを突きつける。

    これから新旧映画版を見る。
  • ながい旅
    映画になった明日への遺言の原作ということで読んでみました。名古屋で空襲があったとき、不時着した米兵を処断した罪で戦犯となり、判決により絞首刑となった岡田中将について書かれています。裁判の様子が細かく、そして淡々と描かれています。
    戦犯から逃れようとした、罪が軽くなるようにしたという話は聞いたことがあ...続きを読む
  • 俘虜記
    戦争に関する著書は、ノンフィクション、小説問わず数多くある。特に第二次世界大戦(太平洋戦争)に関する本は、星の数ほどあるだろう。その戦争の意義や勝敗の意味、その後の社会に与えた影響を分析する著作も枚挙にいとまがない。では、それらの著作の中で、戦争の最中に敵軍の俘虜となり、虜囚として過ごした日々を克明...続きを読む
  • 俘虜記
    ◯俘虜の時代の生活を通して、当時の日本社会を風刺、と解説にあるが、俘虜の生活自体が風刺を意図としたフィクションなのかと考えた。
    ◯しかし、およそフィクションとは思えず、といって著者の実体験を基にした、記憶を思い起こした記録と考えても、想像していた俘虜の生活とは異なるものであることに驚かされた。
    ◯俘...続きを読む
  • 中原中也詩集
    好きだったのは、
    サーカス、汚れつちまつた悲しみに、湖上、また来ん春、春日狂想、山羊の歌の無題が特に好きだった。
  • 俘虜記
    長い…とにかく長かった。
    それに加えて記録を語るのが敗戦色濃厚となった頃にかき集められた年嵩のいった補充兵なのだから軍隊特有の昂りも荒ぶりもなくまるで傍観者のような目線であり読んでいても退屈極まりない。
    個人的には「捉まるまで」だけで十分だと思うのだが当時の生きた資料として、そして識者の眼で見詰めた...続きを読む
  • ながい旅
    第二次大戦中に 無差別爆撃をした米軍パイロットを捕虜としてでなく、戦犯容疑者として扱ったことの妥当性について、法廷で闘った陸軍中将 岡田資を描いたノンフィクション

    著者の命題は「なぜ 組織(東海軍)の名誉と 部下の命を 守るために、不条理な状況下でも 自決せず、冷静に 法廷で闘い抜いたのか」ではな...続きを読む
  • 大岡昇平
    武蔵野夫人が面白かった。単なるメロドラマになりがちな筋には違いないのだけれど、そうならず、かえって主人公の成長さえ覗わせるような教養小説的な感じすら与えるところがすごいと思う。
  • パルムの僧院(下)
    下巻から面白くなった。不幸を知らずバカだった主人公は、望みが叶わずに苦しむことで成長…は多分していない。相変わらず自分のことだけ。
    おばさんの公爵夫人と恋人の伯爵が良い脇役だけど、主人公カップルは幼稚な印象。
  • 俘虜記
     太平洋戦争末期、南方で俘虜となった日本軍兵士たちの歪んだ心理状態をつぶさに書いている。

     大岡昇平の著書を読んだことがなかったので、彼の作品の中からこの「俘虜記」を選んでみた。暗号手として任務についていた由である。とにかく大岡氏の学識の豊富さには驚いた。特に外国文学には精通しているようだ。当時一...続きを読む
  • 俘虜記
    収容所における俘虜の営みを冷徹な目で観察し、その観察が思考を支えている。また、装飾を排した硬質の文体が観察という行為には相応しい。著者は日本の新聞社が在外俘虜のために作った四つ切版の新聞で「我々は今度の戦争が「敗戦」したのではなく「終戦」したのであり、その結果日本に上陸した外国の軍隊が「占領軍」では...続きを読む
  • パルムの僧院(下)
    下巻に入ってやっと運命の女性クレリアと巡り会う主人公ファブリス。その恋は成就することなく囚われの身となるが。フランス人であるスタンダールがルネサンス期のイタリアを舞台にして、なぜこの作品を書いたのか。よく分からないまま物語は終焉を迎える。なんだろう。その時代、宮廷政治という奇怪な状況、その中での純愛...続きを読む
  • 俘虜記
    とても客観的に戦争、そして俘虜というものを論じている一冊。生と死の間で、ここまで冷静に客観的に自分を見つめていることに驚いた。
    そして、さらに著者が俘虜と言う立場に置かれてからの人間観察。目上の者に阿諛し、目下の者にはえらそうに振舞う人。男ばかりの収容所で女形を演じるようになった俘虜。米雑誌を見てい...続きを読む
  • 中原中也詩集
    中原中也には希望がない。読むんじゃなかった。太宰のような、照れ由来の諧謔もない。このふたり、犬猿の仲だったようで。もっとも、太宰はへらへらしてたんだと思う。同時代の詩人として、感じていることは同じだったと思う。中原が「もうだめだ、悲しい」という諦めの詩を書くところを、太宰は「それは桃の花のようだ」と...続きを読む
  • パルムの僧院(上)
    正直、前半は退屈だった。以前に読んだ赤と黒がよかったので我慢して読んでいると、後半から急に面白くなってきた。
    会いたくても会えない苦しさが伝わってくる。
    しかし、無神論の自分としては盲信による無駄な苦しみとしか感じられず、いかにキリスト教というものが、人を不幸にしてきたかをもあらためて感じてしまった...続きを読む
  • 俘虜記
    冒頭の「捉まるまで」を読み、その余りにも緻密で分析的な文体...
    まったく新鮮な感覚。

    今までに読んだ小説とは明らかに違った文体で、どちらかと言えばノフィクションや思想書的な感じにも思えました。

    大岡昇平さんは、大戦末期の昭和19年にフィリピン・ミンドロ島の戦地へ送られます。

    そして米軍の俘虜...続きを読む
  • 俘虜記
     著者の太平洋戦争従軍中の体験である、マラリアに罹り倒れていた所を米兵に囚われ俘虜収容所に送還されて終戦・帰国を迎えるまでの一連を記した自伝的小説。
     冒頭の「なぜ自分は米兵を殺さなかったか」という問いを、安易なヒューマニズムに帰着させることなく鋭利なまでに自己の内面を掘り下げていく叙述も凄いのだけ...続きを読む
  • 俘虜記
    前半と後半で違う人が書いたように雰囲気が違っている。

    前半は俘虜になるまでの戦闘と慣れない俘虜生活。
    一文一文に無駄なく意味が込められ、とても男性的な、硬質の文章であった。

    後半は慣れ切った俘虜生活から帰国まで。
    なんというか長過ぎる林間学校のようである。
    俘虜達がユーモラスに描かれている。
    ...続きを読む
  • ながい旅
    米軍捕虜を処刑したとして、B級戦犯として裁かれた岡田資中将の裁判記録。
    岡田中将は「法戦」と称し、部下の責任も一身に背負いつつ、米国の戦争犯罪をも明らかにしようと裁判において戦い続けた人物であるが、その思索の深さ、思考の明快さ、そして信念を曲げない姿に感銘を受けた。
    同じく東京裁判で責任を一身に背負...続きを読む
  • 俘虜記
    結構読むのに時間がかかった。割と好きな文体だと感じた。全く未知の世界について描かれていて、ある意味SFよりも非現実的に思えた。