冒頭の「捉まるまで」を読み、その余りにも緻密で分析的な文体...
まったく新鮮な感覚。
今までに読んだ小説とは明らかに違った文体で、どちらかと言えばノフィクションや思想書的な感じにも思えました。
大岡昇平さんは、大戦末期の昭和19年にフィリピン・ミンドロ島の戦地へ送られます。
そして米軍の俘虜
...続きを読むとなり、収容所で約一年間過ごすことになる...
本書はその収容所での体験記が大部分を占めていますが、そこでは私達がイメージする収容所の過酷さや悲惨さは殆んど無い。
俘虜には、十分過ぎる量の食事を与えられたために次第に肥えていき、喫煙しないものにも配給される煙草を賭博に用いたり、干しブドウから酒を密造したり米軍の物資を盗んで貯め込んだりしている。
そういった俘虜達の強かさや堕落した姿がリアルに描かれています。
読後、著者はいったい何を一番伝えたかったのだろう...
俘虜生活の実態?
戦争の悲惨さ?
軍隊の不条理?
通訳として米軍と俘虜の間に入った辛さ?
それらの事もあるのでしょうが、やはり一番は『俘虜という状態が彼らに与えたものが解放後もなお、彼らを支配しているのではないかという指摘』だと思います。
これはあとがきによれば俘虜収容所の事実をかりて、占領下の社会を諷刺するという意図もあったようである。
「我々にとって戦場には別に新しいものはなかったが、収容所にはたしかに新しいものがあった。第一周囲には柵があり中にはPXがあった。戦場から我々には何も残らなかったが、俘虜生活からは確かに残ったものがある。そのものは時々私に囁く。『お前は今でも俘虜ではないか』と」