大岡昇平のレビュー一覧

  • 野火

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    小説の中に書かれていることは基本的に虚構であって、したがってそれを読んだときに自分の中に生まれる感触も幻のようなものだと言えるでしょう。しかし、小説は人間が書いているものである以上、それが虚構であっても、人間の世界の現実に触れています。人間が人間の世界を描くのである以上、まったくの虚構ではあり得ません。それはむしろ、作者によって新たに構成された、生きることのリアルな感触を持った世界なのです。

    『野火』は、戦後書かれた「戦争文学」の代表的な作品。「敗北が決定的となったフィリピン戦線。食べるものなく極限状態におかれた田村一等兵は、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体にまで目を向ける――

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    2024年05月13日
  • 武蔵野夫人

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    戦後の時代背景に書かれている物語だが、変わらず現代でもある展開。
    結局、人とのかかわりはなにかのことでこ
    じれていってしまう。
    それがいつの世もドラマや小説の種になる。
    古い感じを乗り越えて、二組の夫婦を眺めてみて初めておもしろさがよりますと思う。

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    2022年06月08日
  • 俘虜記

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    ネタバレ

     戦争を内から見つめた文学。渦中にいた著者が見た、「戦争」とは。読み始めるのが少し怖かったけど、意外なことに、凄惨な描写はほとんどない。どこまでも冷静な筆致で、主に俘虜収容所で考察した日本社会、現代の文明に関する批評が書かれている。

     この本は、大きく捉まるまでと捉まったあとに分けることができる。
     捉まるまでの情景や心理描写は、戦場で紙とペンを持っていたわけではないだろうから、彼の記憶によってのみ書かれたものだ。しかし、その生々しさはズシンとくる。死につきまとわれると、人はどうなるのか。目の前の米兵を打たなかった心理。緊迫感を持ってページを繰り続けた。
     捉まったあと、つまり俘虜になってか

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    2017年09月20日
  • 俘虜記

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    ネタバレ

    また新たな視点で「戦争」についての示唆を得られた1冊。

    「米軍が俘虜に自国の兵士と同じ被服と食糧を与えたのは、必ずしも温情のみではない。それはルソー以来の人権の思想に基く赤十字の精神というものである。人権の自覚に薄い日本人がこれを理解しなかったのは当然といえば当然であるが、しかし俘虜の位置から見れば、赤十字の精神自体かなり人を当惑さすものがあるのは事実である」(p80)

    「天皇制の経済的基礎とか、人間天皇の笑顔とかいう高遠な問題は私にはわからないが、俘虜の生物学的感情から推せば、8月11日から14日まで四日間に、無意味に死んだ人達の霊にかけても、天皇の存在は有害である」(p323)

    「我

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    2017年08月07日
  • 中原中也詩集

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    「山羊の歌」には若者に特有のどこか気どった哀しさがあります。「在りし日の歌」は、子を亡くしたことへのストレートな哀しさが表出されています。
    中也の作品は多感な学生の必須アイテムみたいに思われていますが、むしろ逆に、幼子を持つ親にこそ訴えるものが目立ちます。
    頑是ない歌・月夜の浜辺・また来ん春・正午・春日狂想・夏の夜の博覧会はかなしからずや・初夏の夜に

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    2017年05月01日
  • ながい旅

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    B級戦犯となった岡田資の法廷闘争を描いたドキュメンタリー。岡田氏の思想や気概よりも、戦争のやりかたを法で定めることの是非、犯罪行為の有無を戦勝国が裁くことの是非など、根本的な問題を棚上げしておこなわれた極めて政治的な裁判の様子が良くわかる。またそれ以上に、戦争末期から戦後初期の日本国内の混乱状態や、タブーを抱えつつも民主的かつ公平な姿を示したい米国の苦悩が強く感じられる。

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    2016年08月30日
  • 恋愛論

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    かつて途中で読むのを断念した本。
    恋愛してしまった今、改めて読んでみると、なかなか勇気づけられることが諸所にあった。恋愛を楽しもうと前向きになるので、意外にも楽しめた。
    タイプ別あるあるや、恋愛のパターン、恋に落ちるまでの過程が冷静に、まるで科学のように説明されていく様子は歯切れが良い。ドライすぎることもなく、読み進めていくとだんだん、スタンダールは相当恋愛好きなんだな、と納得する。そして自分が少しスタンダールに影響されていることを知る。
    200年程前に書かれた本なのに、現代に十分通じる内容。人間て実はあまり進化していないんだなと思う。

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    2015年09月26日
  • 俘虜記

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    大岡昇平さんの小説はテレビドラマを見て読んだ「事件」以来かな。俘虜の心理を自ら分析してみせるくだりが秀逸です。俘虜となってから日本に帰るまでが描かれているのでけっして楽しい展開ではありませんが、戦時中の日本人の考え方など理解できました。

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    2015年07月18日
  • 俘虜記

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    『野火』以来の大岡作品を読もうと思って本作をチョイスしたら、結果的に戦後70年にふさわしい読書となった。まずはこのタイミングで読めたことを喜びたい。さて、肝腎の内容についても、もちろん優れているのだが、なかでも白眉は冒頭の「捉まるまで」。著者が米兵と遭遇し、なぜ銃を撃たなかったかについて冷静に考察している。もちろんのちほど「潤色」した部分も多少はあるのだろうけど、戦時下の前線において、生死のはざまを前にして繰り広げられる「哲学」には、月並だが考えさせられるものがある。その他の部分も示唆的な内容に満ちていて、あまり注目されにくい俘虜というものの存在について、あるいはもっと広く日本人というものにつ

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    2015年04月15日
  • パルムの僧院(上)

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    1796年、ナポレオンのイタリア進行に従軍した著者が、動乱の中で徐々にナポリの文化に平常心を見出して行くストーリー。

    ヨーロッパという地続きの感覚がザラザラと、世界史で習ったフレームに色合いを与えてくれるような一冊。

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    2014年08月19日
  • 俘虜記

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    著者がフィリピン・ミンドロ島で従軍し、収容所で日々を過ごした頃の記録。
    鋭い人間観察と心理描写。
    緊迫した塀の外とは裏腹にコミカルに描かれる収容所内部の様子。
    多彩な人物が織り成す一種の密室劇は純粋に面白く、ページをめくる手が止まらなかった。
    一小隊が飢えのあまりにフィリピン人を撃って喰おうとして、逆にアルミ缶をドンドン叩かれて集まった仲間にグルグル巻きにされて米軍に突き出されるシーンと、田辺哲学を信奉する学生との煙草の箱をめぐるやり取りが特に好き。
    あと自ら投降した兵士達のエピソードの数々。

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    2013年08月09日
  • 中原中也詩集

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    詩の端々から寂寥、孤独、喪失、死とかのイメージが感じられる。

    『汚れっちまった悲しみに』
    汚れちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる
    汚れちまった悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる
    汚れちまった悲しみに たとえば狐の皮衣
    汚れちまった悲しみは 小雪のかかってちぢこまる
    汚れちまった悲しみは なにのぞむなくねがうなく
    汚れちまった悲しみは 倦怠のうちに死を夢む
    汚れちまった悲しみに いたいたしくも怖気づき
    汚れちまった悲しみに なすところもなく日は暮れる

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    2010年11月11日
  • 俘虜記

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    久々にものすごく時間をかけて読みました。

    戦場での強姦に関する場面など(従軍看護婦なのに実際は従軍慰安婦という感じの、ということや)は正直吐き気がしましたが。

    うまく感想がいえません。こういう戦争モノを読むと何も言えません。

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    2010年08月01日
  • 恋愛論

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    スタンダールさんは天才過ぎて何が書いてあったのかわかりませんでした。ですが頭がよくなった気分にはなります。気分だけですけど。

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    2010年03月07日
  • 中原中也詩集

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    自分と向き合う苦しみ、心の叫びを、壊れそうではかなくて美しい言葉で綴っています。中也からランボーやヴェルレーヌを読むことに繋がった。10代の時にとても影響を受けました。

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    2010年02月11日
  • 中原中也詩集

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    高校生の頃、学生鞄にしのばせていた一冊。
    ぱらりと開いたページからたちのぼる、中也の世界。
    「月夜の晩にボタンがひとつ〜〜〜」
    逃避してたのかも。

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    2009年11月19日
  • 花影

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    『花影』の続きを、ラーメン屋で、頼んだ赤味噌ラーメン大盛りが出来上がるまで読んでいたら、まずい、落涙しそうになる。
    この小説は、誰にも見られない場所、そう、たとえば、風呂の中だとかで読むべきだった。
    体の底深い部分に振動がくる。
    反射的に体がビクンと痙攣する。
    いかん、いかん。

    葉子に似ている女を、具体的に知っているわけではない。
    葉子はそれ自体としては存在しない。
    葉子はむしろ、男の感覚器を通して描かれているフシがある。
    だから、自分の任意の経験が、容易に投影でき、追体験できる。
    ラーメン屋で、まざまざと別れた女の背中が見えるのは、つらいことだ。
    「はい、赤味噌大盛り」

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    2013年07月02日
  • 中原中也詩集

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     中原中也ほど豊かで創造的な言語感覚を持った詩人は、数えるほどしかいない。宮沢賢治と並び、萩原朔太郎を一段ぬけた、それほどすばらしい日本語の使い手であったからこそ実現できた、実験性と古典的リリシズムの見事な結合。

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    2009年10月04日
  • 中原中也詩集

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    悲しさから一歩引いてみてみると 少年のような無垢なる視点が愛おしい

    純粋であるが故の傷心に同情し そっと中也を抱きしめる

    かくなる我もまた都会の片隅で肩を震わせる一個の口惜しき人なり

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    2009年10月04日
  • 中原中也詩集

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    だいすき。以下memo…
    32p黄昏、50p港市の秋、64p盲目の秋、90p無題-幸福、130p憔悴、138pいのちの声、
    316p寒い夜の自我像、319p冷酷の歌、338p(吹く風を心の友と)、352p早春散歩

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    2009年10月04日