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Posted by ブクログ
太平洋戦争後に"戦後派"と呼ばれる作家が登場しました。
その内、一般的に、戦争体験を通して感じたことや、その意味を論じる文学者たちを第一次戦後派と呼び、戦争体験如何に依らず、戦前の文士たちによって培われた小説技巧を昇華させ、新たな手法を取り入れることで優れた小説を生み出していった作家たちを第二次戦時派と呼びます。
大岡昇平氏は、第二次戦時派として真っ先に挙げられる作家だと思います。
本作『俘虜記』は、氏の戦争体験を元に書かれており、小説というよりも体験記に近い内容です。
ただ、他の戦争小説とは異なり、戦争の理不尽の中に置かれた人間の感情吐露などの批判や訴えかけを行っているものではなく、ユーモラスでシニカルな内容になっています。
文章は堅苦しくなく、読者に読んでもらうことを念頭に書いているような感じがありました。
今の大衆小説に通じるサービス精神のようなものが感じられ、そういったところが第二次戦時派として第一次と分けられる部分だと思います。
米軍俘虜(=捕虜)になった主人公・大岡が、俘虜収容所の様子を思うままに書いたような作品です。
大岡は比島のミンドロ島で作戦行動中、米軍兵士に捉えられ、俘虜として連行されます。
米軍の姿は大岡が先に見つけていたのですが、彼を撃たなかったことに関する心情描写がリアルで是非読んでいただきたい箇所です。
その後、マラリア治療のため野戦病院に入り、俘虜収容所で同じように連行された俘虜たちとの生活が描かれます。
そこでの生活は制限された食事、虐待に近い米軍兵士の扱い、病に冒されても治療はされず、生きたまま腐っていく仲間たちの姿が待っている、わけではなく、条約に基づいて丁重に扱われた、それなりに人間らしい日々が描かれるものとなっています。
戦争文学というと、生き地獄のような行軍や、銃弾行き交う凄まじい戦場を駆け巡る戦争ドラマを想像しますが、本作で描かれるのは、食事は残飯が出るほど与えられ、俘虜にも仕事を与えられ給金も発生し、芸術も培われや遊戯も行われる、想像していた戦争中とはちょっと違う内容です。
これはこれで一つの真実だと思いましたが、戦争が終了した後とはいえ、この内容を出版するのは大胆というか、当時、批判があったんだろうなと思いました。
ただ、切り取られた空間に押し込められた人々の本来の姿があぶり出されていて、文明批判のようなものを感じました。
また、作中の大岡は戦争に負けることはもはや自明であると途中で考えていて、天皇制に対する思いのようなものも書かれています。
そういった点で、広く一般的に読みやすい小説でありながら、これからの社会の旗振りを担おうとする、第二次戦後派の文学的傾向が感じられます。
俘虜になってから日本へ帰るまでの、大岡昇平が経験したタイトル通りの"俘虜記"が、装飾されずに淡々と詳細に書かれています。
結構厚く、通読には根気が必要と思いますが、戦争ものとして紛うこと無き名作です。
Posted by ブクログ
『野火』以来の大岡作品を読もうと思って本作をチョイスしたら、結果的に戦後70年にふさわしい読書となった。まずはこのタイミングで読めたことを喜びたい。さて、肝腎の内容についても、もちろん優れているのだが、なかでも白眉は冒頭の「捉まるまで」。著者が米兵と遭遇し、なぜ銃を撃たなかったかについて冷静に考察している。もちろんのちほど「潤色」した部分も多少はあるのだろうけど、戦時下の前線において、生死のはざまを前にして繰り広げられる「哲学」には、月並だが考えさせられるものがある。その他の部分も示唆的な内容に満ちていて、あまり注目されにくい俘虜というものの存在について、あるいはもっと広く日本人というものについて、そのすべてを浮き彫りにしている。負けたのもさもありなんという気がする。また、単なる文学としてのみならず、貴重な戦争の資料としても眼を瞠るべき部分は多い。捕虜の扱いはハーグ陸戦条約で明確に定められているが、そのことについて触れたくだりもあって、当時からすでにそのことが意識されていた――つまり、それに背く扱いがなされた場合は、意図的に条約を無視していた――ことがわかるし、また、いまだに論争のやまぬ「南京事件」についても、もちろんそれをメインに描いた小説ではないから多くは語られていないが、南京占領のさいに旧日本軍においてなにかしらの残虐な行為があったという記述もあり、この時期ですでにそういうウワサが広まっていたことを考えると、ネトウヨの一部にみられるような事実無根という主張は無理筋であることもわかる。わたしはふだんから歴史認識問題についてもある程度関心があるので、その点からいっても本作を読むことができてとてもよかったと思う。
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